檀にはじまり檀におわる
十数年前、たまたま手にした一冊の文庫本が、私の人生を変えました。
檀 一雄の、檀流クッキングです。
ページをめくる度、脳へヒリヒリ伝わる食材への愛、調理への情熱・・・
「檀の言うことを聞け」
この一説で、私は虜になったのです。
今こうして料理と向き合えるのは、まぎれもない檀さんの『檀流クッキング』がこの世に存在したからです。
そもそも料理のレシピが嫌いだ
- Aを合わせる
- 鍋に油を引き、タマネギを炒めて色づいたらAを加える
- 器に盛り、Bをたらして刻み海苔を散らす
こんなレシピが大嫌いだったんです、いや今も嫌いです。
「オマエはロボか!」と。 人が作って人が食べるものです料理って。 なのにこんな冷たい表現の、大さじ1やらカロリーナンボとかいう、あたかも味は数値化できるものである、というような無味無臭の「ただ料理を構成する情報だけを記す」的なやり方に呆れていたんです。 ええ、まったくソソりません。
もちろん料理本の類は一切読むことはありませんでした。 池波正太郎、邱永漢、下母沢寛に草野心平・・・過去の偉大な文人の食に関する記述を眺めては、「こうあるべきだよなあ」と何度もページがすり切れるほど読み返していたのです。
そこに出会った檀流はスゴかったですよ。
なければないで構わない。 でも、あればステキだ。
これですこれ、料理とはつまり、これなんです!
「レシピサイトを作ってみよう」と思いついたのも、檀さんの料理の伝え方に憧れたからなんです。
完本 檀流クッキング
今回の一冊は、三日前にツイッターで masuda minoru さんに教えていただきましてね(ありがとうございました)、
@yes_oi オイさん、この本ご存知でしたか?3月末刊行のものを昨日入手しましたが、従来の文庫版に漏れていた新聞連載時の第二部64編のレシピが掲載されており大変面白いです。 https://t.co/mwIR1fvgsi
— masuda minoru (@mimimasumasu) 2016年4月17日
文庫本未掲載の第二部64編を集録という夢のような話に即購入したのでした。
本では檀さんのご長男である太郎さんと奥様、晴子さんが檀流を完全再現しておられます。 全451ページに及ぶボリュームに、まずは文庫に収録されている第一部の著述が。
そして次に第二部である幻の64品が、最後に美しいカラー写真のついたレシピ集、という構成になっています。
もちろん第二部64編から読みはじめました。
うーんたまらんです! どこもかしこも、当たり前ですけど一雄節であります。 一通り目を通したところ、特にラーメンのくだりを読んでいると「ですよね、やっぱり檀さんそう作りますよねー!!」と、ひとりヒザをバンバン何回も叩いてしまいました、必読です。
過去にこんな話があった
実はぷちぐる本の出る二年ほど前に、出版のお誘いを某社よりいただいた事がありました。
「檀流クッキング完全再現を本にしませんか?」
と。
たいへん光栄な事ですから、もちろん了承しましたが、続いて出版社が太郎さんへその旨をお伺いしたところ、
「檀流クッキングを完全再現して本にする話がありますのでご遠慮を」という事であり、本件はここまで、となったのでした。
今回の完本の冒頭に、太郎さんの言葉がございまして、そちらを一部引用させていただきます。
十年ほど前からインターネットの普及が進み、料理好きの方々が果敢に檀流クッキングに挑戦、その料理をブログに掲載されている。 が、どこかが違うぞ、というのが僕の正直な感想。 「檀流クッキング」には、正確なレシピは存在しない。 だから、読者の方々が思われるままに料理をされることは自由。 そうしたコンセプトが、檀流クッキングの真髄でもある筈だから・・・・・・。
そんな時、ある出版社から連絡が入り、読者がネットに流した「檀流クッキング」を本にしたいという申し出があった。 丁度この頃、チチの本を僕達夫婦の手で再現をしてみようかという会話を交わしていたし、集英社から再挑戦のお話があったので、丁寧にお断りをした次第。
たぶんこの事なのかなあと、思いました。
いずれにしろ、今回の64編は、私にとって新たな宝となりました。 手許の檀流クッキング同様、醤油のシミをいくつもこしらえながら、ボロボロになるまで読み返し、人生の糧とさせていただきます。
檀さん、おめでとうございます!! そして今後とも、どうぞよろしくお願いします。
重厚な製本、檀さんもきっと大喜びされているでしょうね。