遠い昔、あるいは未来の、時空のねじれが作り出した奇妙な惑星メロディアスには、他のどの星にも見られない、驚くべき生命体が存在していました。
その星の首都、音響都市リズミカスの中心部にそびえ立つ、巨大な音響植物の森シンフォニアの奥深く、誰も立ち入らない静寂の谷に、この物語の主役たちは生息していました。
オティンパニオンと呼ばれる生物は、その名の通り、まるでティンパニのような形状をしていました。
彼らの体は光沢のある金属質の外骨格で覆われ、背面全体がピンと張った皮膜で構成されていました。
この皮膜は、微細な空気の振動や、彼らが発する感情の波によって自動的に伸縮し、深みのある、荘厳な低音を響かせます。
オティンパニオンは群れで生活し、個体ごとに固有の音域を持っていました。
最も小さな個体はピッコロ・オティンパと呼ばれ、軽快で高いリズムを刻み、最も巨大なバス・オティンパは、地殻をも揺るがすような重厚な和音を担当しました。
彼らのコミュニケーションはすべて叩くこと、つまり共鳴によって行われ、群れ全体が常に一つの巨大なオーケストラを形成していたのです。
喜びは力強いファンファーレとなり、悲しみは深い、沈黙を伴うレクイエムとなりました。
一方、ズッポンと呼ばれる生物は、オティンパニオンとは対照的な存在でした。
彼らはメロディアス星に古くから生息するゾウガメに似た形態を持っていましたが、その甲羅はただの防御壁ではありませんでした。
古代の宇宙金属カームニウムでできたその甲羅は、外部からのあらゆる音波、振動、さらには思考のノイズまでもを完全に吸収し、内部に閉じ込める性質を持っていました。
ズッポンはほとんど動かず、音を出さず、永遠の静寂の中に身を置いていました。
しかし、彼らの役割は単なる静寂の守り手ではありませんでした。ズッポンの甲羅の内部には、吸収された音が微細な光の粒へと変換され、まるで宇宙の星々のように瞬いていました。
彼らは、リズミカス星の全ての音の歴史、過去のメロディ、失われた歌、そして未来に奏でられるべき音の可能性を、その甲羅の中にアーカイブしていたのです。
この全く異なる二つの種族が出会った時、最初は戸惑いと衝突が起こりました。
ズッポンはオティンパニオンの絶え間ない騒音に耐えかね、その甲羅にひきこもり、音を吸収し続けました。
宇宙をさまよう無音の虚空と呼ばれるエネルギー体がリズミカスを覆い、全ての音を奪い去り始めたのです。
オティンパニオンたちの鼓動が止まりかけ、彼らの存在そのものが消えようとしていました。
その時、一匹の老いたズッポンが、甲羅をゆっくりと開きました。吸収され、光の粒となった過去の音が、無音の虚空へと解き放たれました。
それは単なる音ではありませんでした。それは、リズミカスの歴史そのもの、祖先の愛の歌、勝利の行進、そして希望のささやきでした。
この光の音を見たオティンパニオンたちは、失いかけていたリズムを取り戻しました。
彼らは一斉に太鼓の皮膜を叩き、ズッポンから放出された歴史の光と、自分たちの生の鼓動とを融合させました。
ズッポンが静寂の中に秘めていた記憶のメロディと、オティンパニオンが虚空へと打ち鳴らす現在のリズムが一つになった瞬間、それは壮大な協奏曲となりました。
彼らの音波は無音の虚空を打ち破り、メロディアス星に再び色彩と活力を取り戻させたのです。
この出来事以来、オティンパニオンズッポンは、宇宙の調律師として語り継がれるようになりました。
彼らは群れを組み、オティンパニオンが奏でる熱情的なリズムを、ズッポンが静寂の甲羅で鎮め、完璧な和音へと昇華させます。
動と静、音と無、過去と現在。この二つの存在が共存することで、メロディアス星は永遠に美しいハーモニーを奏で続けることができるようになりました。