ベレゾフスキーの弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番
作曲者 : BEETHOVEN, Ludwig van 1770-1827 独
曲名  : ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 Op.15 (1794-95)
演奏者 : ボリス・ベレゾフスキー(pf), トマス・ダウスゴー指揮 スウェーデン室内管弦楽団
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ベレゾフスキーの弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番_c0042908_937883.jpg1990年のチャイコフスキー・コンクールは、私のはじめての海外旅行となったが、あの時ピアノ部門で優勝をさらったのはモスクワ音楽院に学ぶベレゾフスキーであった。第一次から彼の人気は凄いものであったけれど、私にはちょっと直裁すぎて音楽の陰影というか、奥行きが足りないように思えてならず、優勝という結果にどうのこうの言う気はないけれど、ちょっと不満を感じたことも事実であった。
審査員長はタチアナ・ニコラーエワで、我が国の中村紘子氏や園田高弘氏もいた。
コンクール直後はいくつか録音も出ていて、それなりに注目を集めた彼も、五年もすると第一線から消えてしまい、あまり消息を聞かなくなってしまった。メジャー・レーベルと契約しなかったためかも知れないし、有能なマーケティングを行うスタッフと巡り会えなかったからかも知れない。「その程度の実力だったのだ」という意見には私は賛同しない。実力以上の人気を得ている(誰とは言わないが)演奏家も居れば、実力を正当に評価されない本格派の演奏家も居るからで、かなり理不尽だなぁと思うこともあるからである。

さて、長い前置きを書いたのには、このベレゾフスキーの弾いたベートーヴェンのピアノ協奏曲の出来映えの素晴らしさに、彼がこの二十年たらずの年月の中でどう進化して来たのか、思いを巡らせたからだ。
オケの力強いがやや平面的な肩怒らせたような表現にはちょっと閉口してしまうけれど、ピアノの陰影に満ちた演奏には心から満足した。
タッチの美しさはコンクールの時からとても印象的であったけれど、この録音でもそれは健在だった。昔、モノラル時代にEMIにギレリスが入れたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集があったけれど、あれをステレオにしたらこんなピアノだったのではと、ちょっと思ったりもする。
持って回った言い方で申し訳ない。ただただ良い演奏なのだ。オケには多少の違和感を感じもするが、アンサンブルに問題があるわけでもないが、私とは随分違った感じ方というか解釈のベートーヴェンであるとだけ申し上げておこう。
だから良いと思ったのはピアノに関してだけ…。どんな部分も神経が通い、血が流れ、美しいプロポーションが保たれている。こんな魅力的なベートーヴェンの第1番はそうあるものではない。
ベレゾフスキーは私の知らない間に素晴らしく進化していたのだ。
by Schweizer_Musik | 2008-09-20 09:37 | ナクソスのHPで聞いた録音
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