文化・芸術

August 10, 2009

「また逢う日まで」

■ 60年前に制作された『また逢う日まで 』という映画がある。ロマン・ロランの『ピエールとリュース』を翻案した作品である。主演した岡田英次さんと久我美子さんのガラス越しのキス・シーンが、まことに印象的な作品である。それは、日本映画史において最高の名シーンとされているけれども、むべなるかなである。
 久我美子さんは、旧侯爵家の令嬢である。こういう正真正銘の令嬢が、「河原乞食」の世界に入ったことにこそ、戦後という時代の特色がある。芸能界が「河原乞食」の業とみなされなくなるまで、久我さん以降の世代の努力があったと思うけれども、そうしたことを忘れた輩が最近、多くないであろうか。米国のように、「俳優組合」というものでも作って、そこのメンバーでなければ芸能活動が出来ないようにしたら、どうであろうか。薬物などの触法行為を犯せば、即、メンバー・ライセンス剥奪と相成る。「無頼は芸の肥やし」などと甘やかすわけにもいくまい。
 たかが芸能ネタと切り捨てるのも簡単だが、彼らの仕事は、日本の「ソフト・パワー」の一端を成している。「のりぴー」逮捕が東亜細亜諸国に驚きを以って受け止められたのは、日本の「声望」には確かにダメージを与えた。そういう視点で、此度の騒動をながめる必要があるのではないか。
 さて、『また逢う日まで』は、「自由」、「平和」を終生、考究したロマン・ロランの作品の翻案だけあって、「反戦」のメッセージがストレートに伝わってくる作品である。雪斎は、中学生くらいの頃、これを初めて観た。漫画『はだしのゲン』は、おぞましい印象しか持たなかったが、この映画には、「戦争は理不尽だ」という思いがした。

  

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August 08, 2009

佳人薄命

■ 大原麗子さんが亡くなられた。
 雪斎の世代にとっては、「子供の頃に見た綺麗なお姉さん」の代表的な女優である。
 忘れられないのは、NHK大河ドラマ『獅子の時代』で、パリの風景に溶け込んだ彼女の芸者姿である。
 当時、「NHKの顔」だった磯村尚徳さんは、「これこそ、ラ・ジャポネーズだ」と絶賛したそうである。
 確かに、そういう雰囲気を持つ女優であった。

 そこで、「のりぴー」容疑者のことである。
 「のりぴー」に「容疑者」という肩書きは、かなり違和感がある。
 NHKの昼のニュースのトップ項目で伝えられたのには、少々、驚いた。夕方のニュースも、そうであった。
 「のりぴー」が、それほど影響力のある芸能人であったというのは、雪斎は知らなかった。

 因みに、「のりぴー」騒動に隠れた形になったけれども、変死した銀座のホステスとともに合成麻薬を打って御用になった若い俳優のことは、どうなったのか。こちらのほうが事件の質としては、死人が出ているだけに大事のような気がするのだが…。ところで、変死した銀座ホステスというのは、大層な美人だったそうである。

 「所詮、河原乞食の世界の話だろう…」。
 そういう反応を聞いた。
 スポーツ選手にドーピング検査をやるのとと同時に、芸能人には抜き打ち「麻薬」査察をやればいいという話も聞いた。こういう悪徳を根絶できないようでは、日本の芸能界もまた、「河原乞食」と蔑まれた時代に戻るのであろう。「それでいいのか…」と思う。

 ところで、大原さんにせよ、「のりぴー」にせよ、銀座ホステスにせよ、こういうのは、どれも、「佳人薄命」の事例なのであろう。
 「佳人薄命」というのは、「うつくしい女性には、ろくな運命が回ってこない」という意味においてである。
 大原さんについては、書くまでもない。
 「のりぴー」も、旦那に影響されたという側面があるのであろう。
 銀座ホステスの周囲にも、逮捕された若手俳優を含め、筋のよくない連中が群がったということか。

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June 09, 2009

「現代の検校」

■ 宮城道雄という人物がいる、
 正月に流れる箏曲『春の海』の作曲者として知られる。
 幼少時に失明した人物である。
 ところで、日本では、古来、視覚障害者には、座頭、匂当、検校という官職が与えられた。
 中でも、最高位の検校になるためには、箏曲、三味線などを極めなけばならなかったわけである。
 江戸・寛永年間に活躍した八橋検校は、箏曲の発展を劇的に進めた。 
 故に、日本では、視覚障害者にして音楽家というのは、長い伝統を持った職業なのである。
 宮城道雄は、そうした伝統を継いだ人物であったといえようう。
 そういえば、『風雪ながれ旅』のモデルとされる津軽三味線奏者、高橋竹山も、そうした人物であった。

 ところで、昨日、「快挙」ガ伝えられた、

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November 12, 2008

ロイヤル・コンセルトヘボウの響き

■ 昨日夕刻以降、サントリー・ホールで、「マリス・ヤンソンス&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」のコンサートに出かける。
 プログラムは。以下の通りであった。
① ブラームス      交響曲 第三番
② ムソルグスキー   組曲「展覧会の絵」
アンコール
③ ブラームス      ハンガリー舞曲、第一番
④ グリーグ       組曲「ペール・ギュント」より、山の魔王の宮殿にて

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January 03, 2008

芸術に浸る新春

■ 昨日、昨年正月に続いて東京銀座・歌舞伎座で歌舞伎を観る。
 松本幸四郎さんと市川染五郎さんの父子競演による「連獅子」、市川團十郎さんの「助六」というのは、かなり貴重なプログラムであったような気がする。プログラムとしては、昨年よりも満足度は高かった。
 ところで、歌舞伎座は、エレベーターを設置しないのであろうか。建物自体が古いという事情は承知するにせよ、海外にも知られる日本の伝統文化の殿堂としては、あまりにも「しょぼい」気がする。

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December 25, 2007

クリスマス・イブの「第九」

■ 今年も残すところ一週間である。拙ブログも,あと一、二度、エントリーを書いて「御用納め」である。

■ 毎年、クリスマス・イブの夜に、『第九』を聴いて、崇高な人類愛の世界に漬かるのを恒例行事するようになってから、だいぶ、時間がたっている。普段、「利益」と「権力」にまつわる話で頭が占められているので、こういうときだけは、「浄化」された気分になってみる。
 今年の『第九』は、次のものを聴いた。
 ●・ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 op.125『合唱
 エリザベート・シュワルツコップ(S)
 エリザベート・ヘンゲン(A)
 ハンス・ホップ(T)
 オットー・エーデルマン(B)
 バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(指揮)
 録音:1951年7月29日、バイロイト

 数ある「バイロイトの第九」の最新の復刻CDである。これは凄かった。


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September 22, 2007

「今夜の一枚」特別編

■ 「今夜の一枚」の特別編である。
 ● 「コンドルは飛んで行く」三種
①  ルイス・デラカイエ 『アンデスの風』
 / ケーナフルートの音色を初めて聴いた。これは、かなり驚く。
② ウェイウェイ・ウー 『LOVER’S TEARS』
 / 二胡による「コンドル」の演奏である。ウェイウェイ・ウーさんは、雪斎にとっては一番の「お気に入り」の二胡奏者である。「コンドル」は、味わい深いけれども、このアルバムの「肝」は、「夜来香」なのであろうと思う。
③  ポール・デズモンド 『 Bridge Over Troubled Water: 明日に架ける橋』
 / クール・ジャズの第一人者であるポール・デズモンドのサックスによる「コンドル」は、やはり「アンデス」を飛んでいない。

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June 10, 2007

「正統」を継ぐ才能

■ 最近、かなり集中的に聴き出したのが、ゲルハルト・オピッツの演奏である。手始めは、次の二つのアルバムであった。
 □ 「ベートーヴェン ピアノ協奏曲全集}
・ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op.15
・ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 op.19
・ピアノ協奏曲第3番ハ短調 op.37
・ピアノ協奏曲第4番ト長調 op.58
・ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 op.73「皇帝」
・ピアノ協奏曲ニ長調 op.61(作曲者によるヴァイオリン協奏曲からの編曲版)
 ゲルハルト・オピッツ(p)
 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
 マレク・ヤノフスキ(指揮)

 □ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集VOL.1
・ピアノ・ソナタ第5番ハ短調
・ピアノ・ソナタ第6番ヘ長調
・ピアノ・ソナタ第7番ニ長調
・ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」
ゲルハルト・オピッツ(P) 

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June 06, 2007

ブラームスはお好き?

■ 雪斎が割合、頻繁に聴くのが、 ヨハネス・ブラームスの「交響曲第1番ハ短調作品68」である。
 ブラームスは、ベートーヴェンの九つの交響曲を意識した故に、自作の交響曲の発表に慎重な構えを崩さず、最初の交響曲は、着想から完成までに二十一年の歳月を要した。交響曲第一番は、交響詩のような新たな作曲形式が登場する時勢の中で、ベートーヴェン以来の交響曲の系譜の正統を歩んだ作品として世に受け容れられ、「ベートーヴェンの第10交響曲」と呼ばれた。ブラームスは、そうした姿勢の故に、「保守派」と呼ばれた。
 どの世界でも、偉大な先達がいれば、それを意識するのは、当然である。ブラームスは、ベートーヴェンの系譜に連なりたいと願った。その気分は、雪斎には、非常によく理解できる。雪斎も、日本では、吉野作造や清沢洌の系譜に連なりたいと思っているし、海外ではレイモン・アロンやジョージ・ケナンといった知識人の影響の下にある。そうした自分の「位置」を自覚することが、知識人として道を踏み外さないための作法であろうと思う。
 「ブラ1」は、下の七種の演奏が雪斎の「お気に入り」である。
① オイゲン・ヨッフム/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
② クルト・ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデン
③ ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団
④ リッカルド・シャイ-/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
⑤ エドゥアルト・ファン・べイヌム/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
⑥ カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
⑦ ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
 只今、聴いているのは、②であるけれども、聴く頻度からすれば、③、④、⑤が多い。やはり、「コンセルトへボウ」の音が好きだということであろうか。それにしても、雪斎も、自らの「ブラ1」を書いてみたいと思う。精進しなければならない。

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March 25, 2007

日曜日、午後三時

■ 日曜の音楽である。
① 「ベートーヴェン  交響曲全集」から、「第三番」
   (リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)
② 「ブラームス 交響曲全集」から、「第一番」
   (リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)
③ 「ドヴォルザーク 交響曲第9番ホ短調 Op.95『新世界より』」
   (マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)
 数多あるオーケストラの中でも、「ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団」は、雪斎の好みに合ったオーケストラである。色々な表現の仕方があると思うけれども、コンセルトへボウの音色は、誠に「シルキー」 な印象がある。

■ 午前中、能登半島沖で地震発生のようである。石川・輪島で震度6強だそうである。雪斎は、「震度5」レベルの地震では驚かないけれども、「震度6強」と聞けば「おいおい…」と思う。「地震・雷・火事・親父」。この現実は、いまも変わらない。

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