「粉飾」とはなんだったのか:特捜が普通の市民をターゲットにする恐怖

モノトーンの大きなゴシック体の「粉飾」という文字が、目に飛び込んでくる。
インパクトのあるタイトルとデザインである。
そして、グレーで、「特捜に狙われた元銀行員の告白」というサブタイトルが浮き上がっている。
元検事が自ら冤罪を作ったことを告白した「検事失格」、陸山会事件をめぐっての田代虚偽報告諸問題についての検察の対応の救いの無さを対談という形で白日に晒した「検察崩壊」に続いて毎日新聞社から出た、検察シリーズの第三弾がコレ、ということだろうか。
ある、中小企業と共に歩み救おうと奮闘する良心的な経営コンサルタントと、懸命に経営を黒字化しようとしている熱心な経営者が、検察の、まさに「見栄」のために、罪に落とされるその経過が生々しく描かれている。
じつは、この事件は、すでに拙ブログでもご紹介した「四〇〇万企業が哭いている ドキュメント検察が会社を踏み潰した日」(講談社)で描かれている、会社社長とコンサルタントが逮捕された、検察のでっち上げに近い「粉飾詐欺事件」と同じテーマなのだが、そこは、当事者として、寝耳に水のように特捜に呼び出され、検察ストーリーとメディアへのリークのもと、根も葉もない「悪徳コンサルタント」に仕立て上げられ、さらに、そのような状態で、実刑判決を受けつつ、最高裁に最後の望みを託して控訴審を闘う当事者である佐藤真言氏の語る物語は、まさに、背筋が凍るような怖ろしさがある。
大物政治家や大企業の経営者でもない、長引く不況の中で喘ぎながら日本経済を支えている中小企業の経営者。それを支えようと経営改善をアドバイスしてきただけの人が、どこにも被害者がいないにもかかわらず、検察のストーリーの中で「大悪党」に仕立て上げられていく恐怖が、そこにあるのである。
そして、言うまでもなく、それはそれだけでは終わらない。逮捕され、起訴され、有罪実刑とされ、収監され、人生を破壊されてしまうのである。
まさに、検察官の「見栄」と、裁判官の「怠慢」のために。
これを読んで、日本の司法に、素直に正義を信じられる人はもういなくなるかもしれない。しかし、残念なことに、私たちが生きているのは、その現実なのである。そして、であるからこそ、特捜が、「普通の市民に刃を向けた」この一冊は、必読とも言える。
この書の出る少し前、佐藤氏と共に逮捕された朝倉亨さんの最高裁への控訴が棄却され、実刑が確定した。
これ迄 興味もなく無縁だった世界を初めて見聞し、また 自ら体験した視点から朝倉氏から頂いた棄却を知らせるメールにあった、この一文は重く、痛い。
「私は この国の刑事司法を 一切信用致しません」
見栄と怠慢のために、人間の人生を(時には国の運命までをも)狂わせる怖ろしさを、彼らは、一体、どうすれば理解できるのだろうか。
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