ハロウィーンとメキシコの死者の日
日本でも10月の末になると、そこらじゅうで、かぼちゃの飾りをつけたり、かぼちゃのお菓子や料理メニューが紹介されるようになってきています。
米国のハロウィーンでのかぼちゃって、あくまで飾り物で、あれ、食べるわけではないんですけどね。
ちなみに、日本のかぼちゃはpampkinではなくて、squash。日本のスーパーで売られているのは、けっこう、メキシコ産のかぼちゃだったりします。まあ、かぼちゃの原産はメキシコなんで不思議というほどではないのですが、ただ、メキシコに行くと、少なくとも私が半分住んでいるメキシコシティでは、この日本風の中が黄色くて甘みのあるかぼちゃって売ってるの見たことないんですよね。少なくともあまり一般的ではない。あれって、日本向けに作って輸出しているんでしょうかね。
で、この時期、正確には、11月の最初の2日、メキシコでも死者の日(Dia de los muertos)を祝います。米国のハロウィーンは、ケルトの祭りに起源があるとされているキリスト教の祭りですが、メキシコの死者の日は、マヤやアステカの祭りに起源があるものです。
今年はコロナのせいで、あまり大々的にはやらないようですが、毎年、この時期になると、メキシコでは、墓地はもちろん、憲法広場や街の小広場、公園、それに公共や半公共のスペースには、オフレンダと呼ばれる死者の日の飾りつけが華やかに行われます。メキシコ人にとっては、クリスマスに匹敵する大イベントなのでして、10月に入ろうものなら、死者の日の飾り付けグッズがそこここに並び、皆さん、ご家庭でも凝った飾り付けをする方多数。
オレンジ色のマリーゴールドと紫色の乾燥花。お香。ひらひらした色とりどりの切り絵(パペル・ピカード)は、中国の切り絵がメキシコ化したもの。そして、髑髏のお人形やお菓子。たくさんの蝋燭。パン・デ・ムエルト(死者のパン)と呼ばれる砂糖をまぶしたさくさくの菓子パンを並べます。
私の家のあるコヨアカンの広場などでは、ポソーレ(大粒とうもろこしのシチュー)やタマル(トウモロコシ粉のチマキ)の屋台も建ち並び、本来なら、この期間は、すっかりお祭り気分。チョコレート(メキシコ原産のカカオ豆を石臼ですりつぶしてスパイスを利かせたメキシコ風で、ものすごく香り高い)やアトーレ(アーモンドの熱い飲み物)などのメキシコの伝統的な飲み物も売られます。
カトリーナという立派な名前まである、羽根帽子で着飾ったエレガントな骸骨の貴婦人の扮装をした人たちも、街角に現れます。
米国のハロウィーンの仮装の悪魔とか魔女とか果てはゾンビみたいなのではなくて、骸骨の顔をしているけれど、優美な貴婦人や紳士です。
メキシコでは、死はけっして恐ろしいものでも呪わしいものではなく、生の延長。というより、より良き別の世界へのいざない、という発想がそこにあるからです。
そういえば、2年ほど前に日本でもヒットしたディズニー・ピクサーの映画「リメンバー・ミー」(原題 Coco)も、まさにメキシコの死者の日の出来事をテーマにした映画でしたね。
で、コロナのせいでメキシコに行けない私は、そのせいもあって、メキシコ料理がむしょうに食べたくて仕方なくなったわけ。
というわけで、昨日は、お客さんも招いて、メキシコ料理三昧といきました。
ご存知ない人も多いですが、メキシコ料理って、和食より先にユネスコの世界文化遺産に認定されています。アステカやマヤの古代文明の頃からの先住民のスパイス文化に、植民化したスペインの料理、さらに一時、ナポレオン三世時代のフランスに侵略されたので、そのときにフランス料理も入ってきています。その複雑なミクスチュアがメキシコ料理の肝です。
残念ながら、日本でメキシコ料理として紹介されているのは、その大半が、本物のメキシコ料理ではなく、テックス・メックスと言われる米国人向けのメキシコ料理。なんというか寿司界におけるカリフォルニアロールみたいな存在です。本場のメキシコには、ひき肉で作ったタコスの具とか、チリコンカンなんてありませんからね。
問題は、本場風のメキシコ料理を再現するには、日本で食材やスパイスが入手困難であることです。幸い、香草のシラントロ(パクチー)はブームのおかげで、どこのスーパーでも売られるようになったのはありがたいのですが、それ以外のスパイスがねえ。
で、ちょうど、開店当初からのお付き合いの下北沢のメキシコ料理店の「テピート」さんが、冷凍料理の宅配を始められたというので、お試しです。
ここの久美ママは、もともと懐石料理の料理人でいらしたところを、ドラマみたいな大恋愛の末、ゴールインしたメキシコ人の夫君のお母上に教わった家庭の味から初めて、いまや本格的なメキシコ料理店のオーナシェフをなさっている方です。
もっとも、お取り寄せのレンチンだけでは芸がないので、自分でも、スーパーで手に入る材料で少し作ってみました。
まず、メキシコでは超定番のコンソメ・デ・ポージョ (consome de pollo) 。
テピート本店では、ちゃんと鶏ガラを一晩煮込んで作っていらっしゃるそうですが、久美ママに教えてもらったご家庭用の驚きのやり方は、手羽先を使うというもの。
いや、これだと簡単に手に入るし、ご家庭でも少量でもすぐ美味しく作れるんですよ。
鶏の手羽先と、月桂樹の葉、パクチーの茎と根のところを、水からゆっくり煮出します。それに、1.5cmぐらいの角切りにした、にんじん、ズッキーニ、じゃがいも、手に入れば、はやとうり(これ、メキシコではチャヨーテといってよく食べられます)、お米を大さじ一杯を入れて、15分から20分ぐらい。コツは、煮立てないこと。アクをすくって、味付けは塩と胡椒だけでも、手羽先とパクチーの根から、すごく美味しい出汁が出ています。
この出来上がったスープに、生の粗みじんにした玉ねぎ、みじん切りのパクチーの葉、指で少し潰して香りを立てたオレガノ、好みでライム汁(またはレモン)を少し絞って入れて食べるのが、メキシコ風。薄切りにしたアボカドを仕上げに入れても結構です。
それからワカモレ(guacamole)。 完熟のアボカドをスプーンかフォークで潰し(私は、グレープフルーツ用のぎざぎざのあるスプーンで潰します)、少し粗めのみじん切りの玉葱、パクチー、トマトを混ぜ、塩胡椒オレガノ少々に、ライム汁かレモン汁を混ぜます。辛いのが平気なら、ハラペーニョのみじん切りも入れます。これね、パンに塗っても美味しいよ。
もう一点、ピリ辛のフレッシュなサルサ。完熟トマト、玉ねぎ、にんにく、パクチーの粗みじんと、ハラペーニョ(生だとベストですが日本では入手困難ですので、輸入食料品店で売ってる缶詰で)のみじん切りに、サラダ油とライムかレモン汁(なければリンゴ酢)、塩を適宜混ぜるだけ。辛いのがだめな人はハラペーニョなしでもおいしいですし、メキシコ料理以外にも合います。
(どれもパクチー使うので、パクチーを一束買って余ったときなどに、ぜひお試しください)
と、ほぼスーパーの食材で、ぱぱっとできてしまうサブメニューを揃えたうえで、開封の儀を行い、温めてお出ししたのが、まさに本格料理。
まず、テピートさん謹製の「ティンガ・デ・ポージョ(tinga de pollo)」。
茹でて割いた鳥の胸肉をチリ・チポトレの入ったトマトソースで煮込んだものです。チリ・チポトレで煮込んだといっても、全然辛くありません。普通のトマトソースでは出ない独特の旨味とコクがあって本当に美味しい、まさに本場のタコスの定番の具です。メキシコ風の鳥のだしで炊いたお米と、メキシコ風の煮豆、トルティージャもついているので、これ一品で完璧に、メキシコ。
それから、豚肉をオレンジソースで煮込んだ、タコス・デ・カルニータス (tacos de carnitas)、メキシコ東部ユカタン地方の伝統料理コチニータ・ピビル (cochini-ta pibil) は、オレンジとライムでマリネした豚肉の塊を、アチョーテの種のペーストなどをスパイスに使って、バナナの葉で包み、蒸し煮にするもので、大鍋で一昼夜かけて煮込むのだとか。 このあたりのものが日本で食べられるというのは、けっこう感動します。
それから、アロス・コン・マリスコス(arroz con mariscos)。立派なエビがどんと乗っていて海老の出汁が効いています。ただ、スペインのパエジャと違って、リゾット風、ごはんかなりやわらかめなので、多少好みが分かれるかもしれません。
正直、思っていたより、分量があったので、お客さん含め、おなかいっぱいになりました。ご馳走様。
( 文中の死者の日の写真は、音楽写真家の岡部好さんの作品から。骸骨の貴婦人の絵は、ホセ・グァダルーペ・ポサーダの版画から。それぞれクリックで拡大してご覧いただけます。なお、料理の写真がひとつもないのは、撮るの忘れて食べちゃったからです)
米国のハロウィーンでのかぼちゃって、あくまで飾り物で、あれ、食べるわけではないんですけどね。
ちなみに、日本のかぼちゃはpampkinではなくて、squash。日本のスーパーで売られているのは、けっこう、メキシコ産のかぼちゃだったりします。まあ、かぼちゃの原産はメキシコなんで不思議というほどではないのですが、ただ、メキシコに行くと、少なくとも私が半分住んでいるメキシコシティでは、この日本風の中が黄色くて甘みのあるかぼちゃって売ってるの見たことないんですよね。少なくともあまり一般的ではない。あれって、日本向けに作って輸出しているんでしょうかね。
で、この時期、正確には、11月の最初の2日、メキシコでも死者の日(Dia de los muertos)を祝います。米国のハロウィーンは、ケルトの祭りに起源があるとされているキリスト教の祭りですが、メキシコの死者の日は、マヤやアステカの祭りに起源があるものです。
今年はコロナのせいで、あまり大々的にはやらないようですが、毎年、この時期になると、メキシコでは、墓地はもちろん、憲法広場や街の小広場、公園、それに公共や半公共のスペースには、オフレンダと呼ばれる死者の日の飾りつけが華やかに行われます。メキシコ人にとっては、クリスマスに匹敵する大イベントなのでして、10月に入ろうものなら、死者の日の飾り付けグッズがそこここに並び、皆さん、ご家庭でも凝った飾り付けをする方多数。
オレンジ色のマリーゴールドと紫色の乾燥花。お香。ひらひらした色とりどりの切り絵(パペル・ピカード)は、中国の切り絵がメキシコ化したもの。そして、髑髏のお人形やお菓子。たくさんの蝋燭。パン・デ・ムエルト(死者のパン)と呼ばれる砂糖をまぶしたさくさくの菓子パンを並べます。
私の家のあるコヨアカンの広場などでは、ポソーレ(大粒とうもろこしのシチュー)やタマル(トウモロコシ粉のチマキ)の屋台も建ち並び、本来なら、この期間は、すっかりお祭り気分。チョコレート(メキシコ原産のカカオ豆を石臼ですりつぶしてスパイスを利かせたメキシコ風で、ものすごく香り高い)やアトーレ(アーモンドの熱い飲み物)などのメキシコの伝統的な飲み物も売られます。
カトリーナという立派な名前まである、羽根帽子で着飾ったエレガントな骸骨の貴婦人の扮装をした人たちも、街角に現れます。
米国のハロウィーンの仮装の悪魔とか魔女とか果てはゾンビみたいなのではなくて、骸骨の顔をしているけれど、優美な貴婦人や紳士です。
メキシコでは、死はけっして恐ろしいものでも呪わしいものではなく、生の延長。というより、より良き別の世界へのいざない、という発想がそこにあるからです。
そういえば、2年ほど前に日本でもヒットしたディズニー・ピクサーの映画「リメンバー・ミー」(原題 Coco)も、まさにメキシコの死者の日の出来事をテーマにした映画でしたね。
で、コロナのせいでメキシコに行けない私は、そのせいもあって、メキシコ料理がむしょうに食べたくて仕方なくなったわけ。
というわけで、昨日は、お客さんも招いて、メキシコ料理三昧といきました。
ご存知ない人も多いですが、メキシコ料理って、和食より先にユネスコの世界文化遺産に認定されています。アステカやマヤの古代文明の頃からの先住民のスパイス文化に、植民化したスペインの料理、さらに一時、ナポレオン三世時代のフランスに侵略されたので、そのときにフランス料理も入ってきています。その複雑なミクスチュアがメキシコ料理の肝です。
残念ながら、日本でメキシコ料理として紹介されているのは、その大半が、本物のメキシコ料理ではなく、テックス・メックスと言われる米国人向けのメキシコ料理。なんというか寿司界におけるカリフォルニアロールみたいな存在です。本場のメキシコには、ひき肉で作ったタコスの具とか、チリコンカンなんてありませんからね。
問題は、本場風のメキシコ料理を再現するには、日本で食材やスパイスが入手困難であることです。幸い、香草のシラントロ(パクチー)はブームのおかげで、どこのスーパーでも売られるようになったのはありがたいのですが、それ以外のスパイスがねえ。
で、ちょうど、開店当初からのお付き合いの下北沢のメキシコ料理店の「テピート」さんが、冷凍料理の宅配を始められたというので、お試しです。
ここの久美ママは、もともと懐石料理の料理人でいらしたところを、ドラマみたいな大恋愛の末、ゴールインしたメキシコ人の夫君のお母上に教わった家庭の味から初めて、いまや本格的なメキシコ料理店のオーナシェフをなさっている方です。
もっとも、お取り寄せのレンチンだけでは芸がないので、自分でも、スーパーで手に入る材料で少し作ってみました。
まず、メキシコでは超定番のコンソメ・デ・ポージョ (consome de pollo) 。
テピート本店では、ちゃんと鶏ガラを一晩煮込んで作っていらっしゃるそうですが、久美ママに教えてもらったご家庭用の驚きのやり方は、手羽先を使うというもの。
いや、これだと簡単に手に入るし、ご家庭でも少量でもすぐ美味しく作れるんですよ。
鶏の手羽先と、月桂樹の葉、パクチーの茎と根のところを、水からゆっくり煮出します。それに、1.5cmぐらいの角切りにした、にんじん、ズッキーニ、じゃがいも、手に入れば、はやとうり(これ、メキシコではチャヨーテといってよく食べられます)、お米を大さじ一杯を入れて、15分から20分ぐらい。コツは、煮立てないこと。アクをすくって、味付けは塩と胡椒だけでも、手羽先とパクチーの根から、すごく美味しい出汁が出ています。
この出来上がったスープに、生の粗みじんにした玉ねぎ、みじん切りのパクチーの葉、指で少し潰して香りを立てたオレガノ、好みでライム汁(またはレモン)を少し絞って入れて食べるのが、メキシコ風。薄切りにしたアボカドを仕上げに入れても結構です。
それからワカモレ(guacamole)。 完熟のアボカドをスプーンかフォークで潰し(私は、グレープフルーツ用のぎざぎざのあるスプーンで潰します)、少し粗めのみじん切りの玉葱、パクチー、トマトを混ぜ、塩胡椒オレガノ少々に、ライム汁かレモン汁を混ぜます。辛いのが平気なら、ハラペーニョのみじん切りも入れます。これね、パンに塗っても美味しいよ。
もう一点、ピリ辛のフレッシュなサルサ。完熟トマト、玉ねぎ、にんにく、パクチーの粗みじんと、ハラペーニョ(生だとベストですが日本では入手困難ですので、輸入食料品店で売ってる缶詰で)のみじん切りに、サラダ油とライムかレモン汁(なければリンゴ酢)、塩を適宜混ぜるだけ。辛いのがだめな人はハラペーニョなしでもおいしいですし、メキシコ料理以外にも合います。
(どれもパクチー使うので、パクチーを一束買って余ったときなどに、ぜひお試しください)
と、ほぼスーパーの食材で、ぱぱっとできてしまうサブメニューを揃えたうえで、開封の儀を行い、温めてお出ししたのが、まさに本格料理。
まず、テピートさん謹製の「ティンガ・デ・ポージョ(tinga de pollo)」。
茹でて割いた鳥の胸肉をチリ・チポトレの入ったトマトソースで煮込んだものです。チリ・チポトレで煮込んだといっても、全然辛くありません。普通のトマトソースでは出ない独特の旨味とコクがあって本当に美味しい、まさに本場のタコスの定番の具です。メキシコ風の鳥のだしで炊いたお米と、メキシコ風の煮豆、トルティージャもついているので、これ一品で完璧に、メキシコ。
それから、豚肉をオレンジソースで煮込んだ、タコス・デ・カルニータス (tacos de carnitas)、メキシコ東部ユカタン地方の伝統料理コチニータ・ピビル (cochini-ta pibil) は、オレンジとライムでマリネした豚肉の塊を、アチョーテの種のペーストなどをスパイスに使って、バナナの葉で包み、蒸し煮にするもので、大鍋で一昼夜かけて煮込むのだとか。 このあたりのものが日本で食べられるというのは、けっこう感動します。
それから、アロス・コン・マリスコス(arroz con mariscos)。立派なエビがどんと乗っていて海老の出汁が効いています。ただ、スペインのパエジャと違って、リゾット風、ごはんかなりやわらかめなので、多少好みが分かれるかもしれません。
正直、思っていたより、分量があったので、お客さん含め、おなかいっぱいになりました。ご馳走様。
( 文中の死者の日の写真は、音楽写真家の岡部好さんの作品から。骸骨の貴婦人の絵は、ホセ・グァダルーペ・ポサーダの版画から。それぞれクリックで拡大してご覧いただけます。なお、料理の写真がひとつもないのは、撮るの忘れて食べちゃったからです)