金融多極化のインド・モデルは、グローバル・サウスにとって極めて重要だ(抄訳)
2024/12/17のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。インドは脱ドル化を目指していない。米国がドルを兵器化した為ドル離れの傾向は続くだろうが、それでもブラックスワン的出来事でも起こらない限り、ドルは恐らく世界の準備通貨であり続けるだろう。根本的な変化は直ぐには起こらないと予想される。
The Indian Model Of Financial Multipolarity Is The Most Relevant For The Global South
インドは脱ドル化を目指していない
2024/12/14、インドのジャイシャンカール外相はこう発言した。
「インドは脱ドル化に賛成したことは有りません。今のところ、BRICS通貨を持つと云う提案は有りません。BRICSは金融取引について議論はしていますが、米国は最大の貿易相手国であり、我々は脱ドル化には全く興味は有りません。」
脱ドル化の実態
これは脱ドル化へ向かう国へは100%の関税を課してやるとトランプが脅迫したことを受けての発言だった。この件をまだフォローしていない人の為に、3つの背景解説記事を紹介しておく。
・2024/09/06:BRICSに加盟するしないは実はそれ程大きな問題ではない(抄訳)
・11/01:最新のBRICS首脳会議はそもそも何か具体的な意義の有る成果を達成したのか?(抄訳)
・12/02:BRICSに対するトランプの脅しは誤った前提に基付いている(抄訳)
簡単に言うと、BRICSは拘束力の無い自発的な集まりだ。最新の首脳会議でも何の成果も出なかったことがこれを裏付けている。
インドは2030年までに世界第3位の経済大国になると予想されており、その為には米国の投資が流入し続け、巨大な米国市場へのアクセスが維持される必要が有る。
しかし同時に、インドはルピーの国際化も望んでいる。これはそれ自体では脱ドル化ではなく、プラグマティックな一種の保険なので、トランプは狼狽える必要は無い。
トランプ政権は恐らく史上最もインド寄りの政権になるだろうから、どの道インドに対する制裁はやりたがらないだろう。
何故インドはお手本なのか
インドのやり方は、他のグローバル・サウス諸国が見習うべきモデルだ。米国から巨額の関税を課せられる余裕の有る国は殆ど無いし、制裁については言うまでも無い。殆どの国は、目先の経済的利益を犠牲にしてイデオロギー上の理由で米国との関係を断つ気は無い。一か八かやってみたとしても、結局は他の誰か———つまり中国に依存することになる。
従ってこの政策は主権を犠牲にするものではあるが、逆説的に主権を強化してもいるのだ。
ドル制度に閉じ込められた儘でいることと、自らを解放しようとした後で米国の怒りを買うこととの間の中間点は、自国の通貨の使用を徐々に増やすことだ。
これと並行して、非西洋(例えば中国やBRICS)のプラットフォームにアクセスすることは役に立つだろうが、これらは西洋の代わりになる訳ではない。目標は通貨とプラットフォームを多角化することであって、或る依存関係を別の依存関係に置き換えることではない。それに実装には時間が掛かる。
グローバル金融システムを完全に変革する様なブラックスワン的出来事でも起こらない限り、ドルは恐らく世界の準備通貨であり続けるだろうし、中国が所謂「ペトロユアン(petroyuan。石油の基本取引通貨としての人民元)」を発表しようとすれば、それを使おうとするサプライヤーや顧客達は、トランプの怒りに直面することになるだろう。従ってこれは中期的には期待外れになる可能性が高い。
トランプ政権下の米国が脱ドル化の傾向を抑制し、中国への対抗措置を制度化すれば、当然人民元の国際化に悪影響を与えるだろう。二国間貿易取引で人民元がもっと使われるようになるかも知れないが、米国の大戦略目標は、ドルがエネルギー取引で選ばれる通貨であり続けることだ。
またロシアがエネルギー取引で行った様にルーブルを国際化することは、ドルにとって全く脅威ではない。これは他国がロシアのエネルギー製品を購入する際にドルを使用することを米国が禁止した為に起こった訳だが、米国がこれらの制裁を削減・解除すれば、この傾向は逆転するかも知れない。
結局のところ、古い商売秩序に戻る方が誰にとっても非常に都合が良い。但し2022年以降に米国が金融システムの兵器化を加速させたことで、ドルを回避する傾向は続くだろうが。
「政治的に正しくない」様に聞こえるかも知れないが、中国は、公式には西洋の対ロシア制裁を覇権的だと批判しているにも関わらず、これらの制裁の一部に従っている(中国に拠点を置くBRICS銀行とSCO銀行はロシアの送金を許しておらず、決済問題を引き起こしている)。
脱ドル化を進めた国は中国に依存することになるが、中国が支えてくれると云う保証は無い。従ってどの国にとっても急進的な脱ドル化政策を進めるのは賢明とは言えない。
実際のところ、中国と西洋はの複雑な相互依存関係に在るので、中国の金融政策立案能力には大きな制限が設けられている。
この観察は、脱ドル化を目指す国々に自主的な抑制を促すかも知れない。
だがインドの様な責任有る国は完全に旧体制に戻ることを佳しとしないだろうから、自国通貨の使用増加と代替プラットフォームの利用は今後も続くだろう。
脱ドル化の傾向が管理可能な範囲に留まり、トランプが全力でこれに対抗するなら、根本的な変化は直ぐには起こらないだろう。全て漸進的なペースで進むだろうが、現時点では西洋にとってもグローバル・サウスにとってもそれが最善だ。
The Indian Model Of Financial Multipolarity Is The Most Relevant For The Global South
インドは脱ドル化を目指していない
2024/12/14、インドのジャイシャンカール外相はこう発言した。
「インドは脱ドル化に賛成したことは有りません。今のところ、BRICS通貨を持つと云う提案は有りません。BRICSは金融取引について議論はしていますが、米国は最大の貿易相手国であり、我々は脱ドル化には全く興味は有りません。」
脱ドル化の実態
これは脱ドル化へ向かう国へは100%の関税を課してやるとトランプが脅迫したことを受けての発言だった。この件をまだフォローしていない人の為に、3つの背景解説記事を紹介しておく。
・2024/09/06:BRICSに加盟するしないは実はそれ程大きな問題ではない(抄訳)
・11/01:最新のBRICS首脳会議はそもそも何か具体的な意義の有る成果を達成したのか?(抄訳)
・12/02:BRICSに対するトランプの脅しは誤った前提に基付いている(抄訳)
簡単に言うと、BRICSは拘束力の無い自発的な集まりだ。最新の首脳会議でも何の成果も出なかったことがこれを裏付けている。
インドは2030年までに世界第3位の経済大国になると予想されており、その為には米国の投資が流入し続け、巨大な米国市場へのアクセスが維持される必要が有る。
しかし同時に、インドはルピーの国際化も望んでいる。これはそれ自体では脱ドル化ではなく、プラグマティックな一種の保険なので、トランプは狼狽える必要は無い。
トランプ政権は恐らく史上最もインド寄りの政権になるだろうから、どの道インドに対する制裁はやりたがらないだろう。
何故インドはお手本なのか
インドのやり方は、他のグローバル・サウス諸国が見習うべきモデルだ。米国から巨額の関税を課せられる余裕の有る国は殆ど無いし、制裁については言うまでも無い。殆どの国は、目先の経済的利益を犠牲にしてイデオロギー上の理由で米国との関係を断つ気は無い。一か八かやってみたとしても、結局は他の誰か———つまり中国に依存することになる。
従ってこの政策は主権を犠牲にするものではあるが、逆説的に主権を強化してもいるのだ。
ドル制度に閉じ込められた儘でいることと、自らを解放しようとした後で米国の怒りを買うこととの間の中間点は、自国の通貨の使用を徐々に増やすことだ。
これと並行して、非西洋(例えば中国やBRICS)のプラットフォームにアクセスすることは役に立つだろうが、これらは西洋の代わりになる訳ではない。目標は通貨とプラットフォームを多角化することであって、或る依存関係を別の依存関係に置き換えることではない。それに実装には時間が掛かる。
グローバル金融システムを完全に変革する様なブラックスワン的出来事でも起こらない限り、ドルは恐らく世界の準備通貨であり続けるだろうし、中国が所謂「ペトロユアン(petroyuan。石油の基本取引通貨としての人民元)」を発表しようとすれば、それを使おうとするサプライヤーや顧客達は、トランプの怒りに直面することになるだろう。従ってこれは中期的には期待外れになる可能性が高い。
トランプ政権下の米国が脱ドル化の傾向を抑制し、中国への対抗措置を制度化すれば、当然人民元の国際化に悪影響を与えるだろう。二国間貿易取引で人民元がもっと使われるようになるかも知れないが、米国の大戦略目標は、ドルがエネルギー取引で選ばれる通貨であり続けることだ。
またロシアがエネルギー取引で行った様にルーブルを国際化することは、ドルにとって全く脅威ではない。これは他国がロシアのエネルギー製品を購入する際にドルを使用することを米国が禁止した為に起こった訳だが、米国がこれらの制裁を削減・解除すれば、この傾向は逆転するかも知れない。
結局のところ、古い商売秩序に戻る方が誰にとっても非常に都合が良い。但し2022年以降に米国が金融システムの兵器化を加速させたことで、ドルを回避する傾向は続くだろうが。
「政治的に正しくない」様に聞こえるかも知れないが、中国は、公式には西洋の対ロシア制裁を覇権的だと批判しているにも関わらず、これらの制裁の一部に従っている(中国に拠点を置くBRICS銀行とSCO銀行はロシアの送金を許しておらず、決済問題を引き起こしている)。
脱ドル化を進めた国は中国に依存することになるが、中国が支えてくれると云う保証は無い。従ってどの国にとっても急進的な脱ドル化政策を進めるのは賢明とは言えない。
実際のところ、中国と西洋はの複雑な相互依存関係に在るので、中国の金融政策立案能力には大きな制限が設けられている。
この観察は、脱ドル化を目指す国々に自主的な抑制を促すかも知れない。
だがインドの様な責任有る国は完全に旧体制に戻ることを佳しとしないだろうから、自国通貨の使用増加と代替プラットフォームの利用は今後も続くだろう。
脱ドル化の傾向が管理可能な範囲に留まり、トランプが全力でこれに対抗するなら、根本的な変化は直ぐには起こらないだろう。全て漸進的なペースで進むだろうが、現時点では西洋にとってもグローバル・サウスにとってもそれが最善だ。
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