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中国が米国に対抗する戦略を、キショル・マブバニが説明(抄訳)

2024/09/20に投稿された、キショル・マブバニ氏のセッションに於ける説明の抄訳。中国は米国よりも遙かに健全で平和的で建設的な方法で米国に対抗しようとしている。

 マブバニ氏はシンガポールの外交官で、国連安保理の議長も務めたことが有る。アジアの台頭について色々面白い本を書いているが、この文脈では『中国は勝ったのか?(Has China Won?)』と云う、反中主義者が聞いたらヒステリーを起こしそうな本が特に推奨対象。勿論、もっと詳しく知りたい人はそちらの本を当たって頂きたい(今後邦訳が出るかどうかは私は知らないが、個人的にはお薦めだ)。

 軍事的・経済的・政治的な暴力や脅迫に基付くアメリカ帝国の恐怖政治と、貿易と開発に基付く中国の協力体制と、世界の他の国々にとってどちらがより好ましいものかについては、今更言うまでも無い様に私には思える。日本人もいい加減「脱亜入欧」のコンプレックス満載の迷妄から覚めるべきではないのか。執拗に中国を貶めたがるメンタリティがネトウヨのみならず左派や一般市民にまで広がっている背後には、名誉白人として、東アジアの中堅国としての自らの歴史と属国としての現状を否認しようとする歪な心理的メカニズムが働いている様に思えてならない。醜悪な点を心理的にアウトソーシングしてみたところで自分達の問題が解決出来る訳ではないのだから、日本人は米国も中国も、自国と同じ対等の国として相対視出来る様にならなければ、これからの多極化時代は到底理解出来る様にはならないだろう。
Kishore Mahbubani REVEALS China's Strategy to Counter the US




 何故米国はあれ程までにソ連を打ち負かすことに成功したのか?———世界中の他のどの国より、ソ連崩壊を熱心に研究している国が有る———中国だ。何故なら中国は、米国は中国を第二のソ連にすることが夢であることを知っているからだ。

 では中国はどうやって崩壊を防ぐのか?



 1)内側から強くする

 ソ連は外圧によって崩壊した訳ではない。内部の弱さによって崩壊したのだ。従って中国は生き残りたかったら、とても強いダイナミックな経済と、強いダイナミックな社会を持たなくてはならない。

 米国の著名な思想家ジョージ・ケナンは1949年にこう言ったことが有る:最終的に米国とソ連の競争の結果は、軍事力に懸かっている訳ではない、それはどちらの社会の方がより強い精神的な活力を手に入れるかどうかに懸かっている、と。米国はソ連よりもずっとダイナミックな社会を持っていた。だから米国は繁栄し、ソ連は崩壊した。

 だから中国は第一の優先事項は経済を強くし、社会を強くすることであると理解している。だからこそ彼等は大規模に人々に教育を施し、経済を成長させている。中国は第二のソ連にはならない。



 2)封じ込めに先んじる

 米国はソ連封じ込めを成功させた。ソ連の近隣諸国を至る所で封じ込め政策に参加させることが出来たからだ———西欧、日本、ROK………。

 だから中国は封じ込め政策に対して先制攻撃を開始した。近隣諸国が中国経済に依存するように仕向けたのだ。

 例えばASEANは元々1967/08/08に親アメリカ的な組織として発足した。当時はソ連も中国もこれを非難した。実際ASEANは親アメリカ、親西洋の組織だったからだ。

 だが驚くべきなのは、我々は米国、EU、オーストラリア、日本等々と長い間対話を続けて来たにも関わらず、西洋の友好諸国のどれひとつとして、ASEANに自由貿易協定を提案しなかったと云うことだ。

 ASEANに自由貿易協定を提案した最初の国は中国だった。2001年のことだ。中国とASEANの協定のインパクトは絶大だった。当時ASEANと米国との貿易は1,350億ドル。中国との貿易は400億ドルに過ぎなかった。つまり米国との貿易は中国との貿易の3.5倍だった。だが2022年までに米国との貿易は4,550億ドル、3倍以上に増加したものの、中国との貿易は9,750億ドル、約1兆ドルにまで増加した。これは世界最大の貿易関係だ。

 だからASEANは中国封じ込め政策に参加出来る訳が無い。最大の貿易相手国に対してそんなことをするのはクレイジーだ。

 これは中国の戦略の一部だ。



 3)一帯一路

 世界中にインフラを建設する一帯一路を御存知だろう。その意味するところは何だろうか?

 世界中の国が「おい、このインフラはいいじゃないか。中国の速い列車が欲しい。中国の高速道路が欲しい」と言っている。そんな状況で一体誰が中国封じ込めに参加しようとするだろうか? 誰もやらない。だからこれは大戦略として上手く行くのだ。



 だが同時に、中国は米国に大いに敬意を払ってもいる。彼等は米国が大国、並外れた大国であることも理解している。だからこうした戦略が有ったとしても、中国は米国が最終的に何が出来るかについて、過小評価することは出来ない。

 中国がもっと大きくなれば、それを止めるのはもっと難しくなる。

 中国人は長期的な製造戦略を生み出した点で、非常に独創的であったことは確かだ。中国の製造能力は今や世界の他の国々にとって必要不可欠になっている。あなたのキッチンの戸棚でも何処でもいい、何かの製品を取り出して、その部品のどれだけが中国製かを確かめてみるといい。チェックしてみるだけで、きっとびっくりする。これは偶然ではない。中国は自国の製造部門に対する深い依存状態を作り出したいのだ。

 10年前でも5年前でもいい、中国が自動車製造競争に参加出来るかどうか、誰かに訊いてみたとしよう。ドイツや日本やROKや米国の方が遙かに先んじていた。だが今日、中国は一から始めて電気自動車(EV)産業を作り上げた。世界中の自動車メーカーがこれに戦々恐々としている。中国のEVの製造エコシステムは余りに素晴らしいからだ。イーロン・マスクも最初はこれを軽視していたが、今ではそんなことはしたくても出来ない。

 この中国からの挑戦は偶々出て来たものだろうか? 無論違う。これは長期戦略の一部だ。今から5年もすれば、世界中で中国のEVを目にすることになるだろう。
 
 世界が変容するにつれて、世界はもっと中国に依存する様になる。それと同時に米国の選択肢はどんどん狭められて行く。当然の成り行きだ。だからこそワシントンCDには焦りの感情が広がっている。著名な人達がトランプを急かして「急げ急げ、早く動かなければ」と言っている。彼等の焦りは切実なものだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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