BRICSに対するトランプの脅しは誤った前提に基付いている(抄訳)
2024/12/02のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。トランプはBRICSの新通貨やドルの代替通貨について脅しを掛けたが、ロシアは米国の制裁の所為で必要に迫られて脱ドル化を進めただけだ。
Trump’s Threats Against BRICS Are Based On False Premises
BRICSは脱ドル化を目指している訳ではない
2024/12/01、トランプはBRICS の新通貨創設を手伝うか、ドルに代わる通貨を支持するBRICS加盟国に、100%の関税を課してやると脅した。
これはロシアが BRICS 議長国を務めた過去1年間に、BRICSが新通貨を計画しているとの報道が為されて来たことに対する反応だった。代替メディアではこの件に関して希望的観測を煽る主張が相次いだが、前回のBRICS首脳会議では具体的な成果は何も得られなかった。
BRICS の最も熱心な支持者も最も熱心な批判者も、BRICS内に新しい通貨が間も無く登場してドルに代わることなど無いと云うことを認めることが出来ない。
彼等が自国通貨をより頻繁に使用しているのは事実だが、これはロシアの特別軍事作戦後に課された米国の一方的な制裁を回避する必要が有ったからだ。ロシアは依然としてエネルギーと農業分野での超大国だ。従ってその貿易相手国は、自国の利益を損なわずに米国の要求に従うことは出来ない。
プーチンは9月の東方経済フォーラムでこう明言している。
「我々は脱ドル化政策は行っていません。我々はドルでの決済を放棄した訳ではありません。彼等が我々にそうした決済を拒否したのです。我々は単に他の選択肢を探さざるを得なかった。これが全てです。………彼等は何故この様に振る舞うのでしょうか? 彼等は恐らく、ここで全てが崩壊することを期待していたのです。だからこそ彼等は、我々が米ドルを使えないようにしたのです。」
その1ヵ月後、BRICSのジャーナリスト達との会合でプーチンはこう付け加えた。
「(米国は)ロシアとの関係を破壊し、絶えず制裁を課して来ましたが、これは最終的に米国と米ドルに否定的影響を及ぼしています。米国が政治的な理由から国際決済の普遍的な単位としての米ドルの使用を制限しているので、全世界が米ドルを使うべきかどうかを検討し始めたのです。誰もがこのことを考え始め、決済と外貨準備の両方で、米ドルの使用量はゆっくりと少しずつ減少しています。」
ヴァルダイ国際討論クラブではこの問題について更に掘り下げている。
「これは米国の金融当局の酷い過ちだと思います。何故なら、今日の米国の強さはドルの上に築かれているからです。それなのに、彼等は自らの権力の土台を断ち切ろうとしている。
私にはドルは神聖な牛の様なもので、決して乱してはならないものだと思われました。ですが彼等はドルを自分達の手に取って、本質的にはその角を切り落とし、その世話を止め、その代わりに考え無しに利用しています。………我々は戦いを挑んでいる訳ではないし、我々の提案はドルに反対している訳ではありません。」
ここから明らかな様に、プーチンはドルを嫌っている訳ではない。実際には寧ろ使い勝手の良いこの通貨を再び使える様にしたいと望んでいる。だが米国の制裁の所為で、脱ドル化と代替金融手段を模索せざるを得なくなったのだ。
BRICSの味方も敵も、それぞれ正反対のイデオロギー的理由から現実とは全く違う描写を行っている。トランプはこれに引き摺られて、BRICS諸国に対して脅しを掛けたのだ。
トランプが脱ドル化傾向を止めるには
脱ドル化の傾向は現実に存在するし、2022年以来加速しているが、ドルの支配に挑むには程遠いし、これまで達成されたことの多くは、現実的に言って反転または減速することが可能だ。
トランプがしなければならないのは、これらの制裁を解除することだけだが、一方的に解除するとは先ず考えられないし、一度に解除するなど尚更有り得ない。彼は先にロシアから何かを受け取りたいだろうが、ロシアはそれを提供することが出来ないかも知れない。そこでトランプはジレンマに陥っている。
脱ドル化の傾向は、米国の一極覇権を維持する柱の1本に潜在的な脅威を与えている。これが直ぐに実を結ぶことは無いだろうが、軽視したり無視したりすれば、長期的には破滅的な結果に繋がるかも知れない。
また、制裁解除と云う解決策は言うのは簡単だが、国内外の圧力を考えると、現状では政治的に実現不能だ。
トランプの観点から見ると、ドルはこれで大いに恩恵を受ける筈なのだが、見返り無しにプーチンの要求に屈したと云う見方が広がれば、トランプの個人的評判と米国の国際的評判が大きく損なわれるかも知れない。
これと同様、トランプの方から要求するかも知れない譲歩は、プーチンにとっては政治的に実現不可能かも知れない(例えばウクライナが領有権を主張する領土の全てから自軍を撤退させる等)。
実現可能な解決策
従って、妥協点を見出すことが必要となる。
ひとつの可能性は、ノルドストリーム・プロジェクトが競売に出された場合、米国人投資家が落札するのを許すことだ。これは制裁の一部解除に繋がるかも知れない。
若し米国が、ロシアのエネルギーを購入する際にドルを使用する企業に対して二次制裁で脅すことを止め、ロシアをSWIFTに復帰させれば、中国とインドは戦前の現状に戻る可能性が高い。両国は割引価格でロシア産石油を大量購入することで、グローバルな脱ドル化を牽引している。その支払いはSWIFTを回避して送金される自国通貨で行われて来たので、彼等のビジネスが「通常通り」に戻れば、米国の利益が促進されることになる。
但しその他の制裁は引き続き適用され、最終的に合意される停戦・休戦・和平協定の遵守に応じて段階的に解除されるだけだろう。また押収されたロシアの国外資産もその儘だろう。
世界中で失われたドルへの信頼を全て回復することは不可能だろうが、トランプに政治的意志が有れば、段階的制裁解除によって脱ドル化を減速させることは可能だろう。先ずノルドストリームを通じてロシアのエネルギーをドイツに送って逼迫したドイツ経済に息を吐かせ、次にドルとSWIFTを使用した全ての国によるロシア産エネルギー購入に対して制裁を解除すれば、大いに効果を上げられるだろう。
だが何もしなければ、トランプは脱ドル化の傾向が齎す課題に直面することになる。
BRICSの新通貨は発表されそうにないし、加盟国の通貨が近い内にドルに取って代わることも有りそうにないが、グローバル・マジョリティの国々の間で自国通貨や非SWIFTプラットフォームを使った貿易が増えると、最終的にはドルに問題が生じるだろう。
従って米国にとってはこの傾向を抑制するのが得策だ。ロシアに対する主な制裁を解除することでそれは実現出来る。
Trump’s Threats Against BRICS Are Based On False Premises
BRICSは脱ドル化を目指している訳ではない
2024/12/01、トランプはBRICS の新通貨創設を手伝うか、ドルに代わる通貨を支持するBRICS加盟国に、100%の関税を課してやると脅した。
— Donald J. Trump Posts From His Truth Social (@TrumpDailyPosts) November 30, 2024
これはロシアが BRICS 議長国を務めた過去1年間に、BRICSが新通貨を計画しているとの報道が為されて来たことに対する反応だった。代替メディアではこの件に関して希望的観測を煽る主張が相次いだが、前回のBRICS首脳会議では具体的な成果は何も得られなかった。
BRICS の最も熱心な支持者も最も熱心な批判者も、BRICS内に新しい通貨が間も無く登場してドルに代わることなど無いと云うことを認めることが出来ない。
彼等が自国通貨をより頻繁に使用しているのは事実だが、これはロシアの特別軍事作戦後に課された米国の一方的な制裁を回避する必要が有ったからだ。ロシアは依然としてエネルギーと農業分野での超大国だ。従ってその貿易相手国は、自国の利益を損なわずに米国の要求に従うことは出来ない。
プーチンは9月の東方経済フォーラムでこう明言している。
「我々は脱ドル化政策は行っていません。我々はドルでの決済を放棄した訳ではありません。彼等が我々にそうした決済を拒否したのです。我々は単に他の選択肢を探さざるを得なかった。これが全てです。………彼等は何故この様に振る舞うのでしょうか? 彼等は恐らく、ここで全てが崩壊することを期待していたのです。だからこそ彼等は、我々が米ドルを使えないようにしたのです。」
その1ヵ月後、BRICSのジャーナリスト達との会合でプーチンはこう付け加えた。
「(米国は)ロシアとの関係を破壊し、絶えず制裁を課して来ましたが、これは最終的に米国と米ドルに否定的影響を及ぼしています。米国が政治的な理由から国際決済の普遍的な単位としての米ドルの使用を制限しているので、全世界が米ドルを使うべきかどうかを検討し始めたのです。誰もがこのことを考え始め、決済と外貨準備の両方で、米ドルの使用量はゆっくりと少しずつ減少しています。」
ヴァルダイ国際討論クラブではこの問題について更に掘り下げている。
「これは米国の金融当局の酷い過ちだと思います。何故なら、今日の米国の強さはドルの上に築かれているからです。それなのに、彼等は自らの権力の土台を断ち切ろうとしている。
私にはドルは神聖な牛の様なもので、決して乱してはならないものだと思われました。ですが彼等はドルを自分達の手に取って、本質的にはその角を切り落とし、その世話を止め、その代わりに考え無しに利用しています。………我々は戦いを挑んでいる訳ではないし、我々の提案はドルに反対している訳ではありません。」
ここから明らかな様に、プーチンはドルを嫌っている訳ではない。実際には寧ろ使い勝手の良いこの通貨を再び使える様にしたいと望んでいる。だが米国の制裁の所為で、脱ドル化と代替金融手段を模索せざるを得なくなったのだ。
BRICSの味方も敵も、それぞれ正反対のイデオロギー的理由から現実とは全く違う描写を行っている。トランプはこれに引き摺られて、BRICS諸国に対して脅しを掛けたのだ。
トランプが脱ドル化傾向を止めるには
脱ドル化の傾向は現実に存在するし、2022年以来加速しているが、ドルの支配に挑むには程遠いし、これまで達成されたことの多くは、現実的に言って反転または減速することが可能だ。
トランプがしなければならないのは、これらの制裁を解除することだけだが、一方的に解除するとは先ず考えられないし、一度に解除するなど尚更有り得ない。彼は先にロシアから何かを受け取りたいだろうが、ロシアはそれを提供することが出来ないかも知れない。そこでトランプはジレンマに陥っている。
脱ドル化の傾向は、米国の一極覇権を維持する柱の1本に潜在的な脅威を与えている。これが直ぐに実を結ぶことは無いだろうが、軽視したり無視したりすれば、長期的には破滅的な結果に繋がるかも知れない。
また、制裁解除と云う解決策は言うのは簡単だが、国内外の圧力を考えると、現状では政治的に実現不能だ。
トランプの観点から見ると、ドルはこれで大いに恩恵を受ける筈なのだが、見返り無しにプーチンの要求に屈したと云う見方が広がれば、トランプの個人的評判と米国の国際的評判が大きく損なわれるかも知れない。
これと同様、トランプの方から要求するかも知れない譲歩は、プーチンにとっては政治的に実現不可能かも知れない(例えばウクライナが領有権を主張する領土の全てから自軍を撤退させる等)。
実現可能な解決策
従って、妥協点を見出すことが必要となる。
ひとつの可能性は、ノルドストリーム・プロジェクトが競売に出された場合、米国人投資家が落札するのを許すことだ。これは制裁の一部解除に繋がるかも知れない。
若し米国が、ロシアのエネルギーを購入する際にドルを使用する企業に対して二次制裁で脅すことを止め、ロシアをSWIFTに復帰させれば、中国とインドは戦前の現状に戻る可能性が高い。両国は割引価格でロシア産石油を大量購入することで、グローバルな脱ドル化を牽引している。その支払いはSWIFTを回避して送金される自国通貨で行われて来たので、彼等のビジネスが「通常通り」に戻れば、米国の利益が促進されることになる。
但しその他の制裁は引き続き適用され、最終的に合意される停戦・休戦・和平協定の遵守に応じて段階的に解除されるだけだろう。また押収されたロシアの国外資産もその儘だろう。
世界中で失われたドルへの信頼を全て回復することは不可能だろうが、トランプに政治的意志が有れば、段階的制裁解除によって脱ドル化を減速させることは可能だろう。先ずノルドストリームを通じてロシアのエネルギーをドイツに送って逼迫したドイツ経済に息を吐かせ、次にドルとSWIFTを使用した全ての国によるロシア産エネルギー購入に対して制裁を解除すれば、大いに効果を上げられるだろう。
だが何もしなければ、トランプは脱ドル化の傾向が齎す課題に直面することになる。
BRICSの新通貨は発表されそうにないし、加盟国の通貨が近い内にドルに取って代わることも有りそうにないが、グローバル・マジョリティの国々の間で自国通貨や非SWIFTプラットフォームを使った貿易が増えると、最終的にはドルに問題が生じるだろう。
従って米国にとってはこの傾向を抑制するのが得策だ。ロシアに対する主な制裁を解除することでそれは実現出来る。
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