ウクライナに西洋/NATOの平和維持軍を派遣すると云うトランプの計画に対する10の障害(抄訳)
2024/11/10のアンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。トランプは米国抜きの西洋/NATOで平和維持軍を組織させてウクライナに駐留させる計画だと報じられているが、これは様々な理由から実現が難しい。
10 Obstacles To Trump’s Reported Plan For Western/NATO Peacekeepers In Ukraine
https://korybko.substack.com/p/10-obstacles-to-trumps-reported-plan
2024/11/06、ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプがウクライナ紛争を凍結する為に、米国抜きで西洋とNATOの平和維持軍を組織する計画だと報じた。これにより、「ロシアがウクライナ紛争で最大限の目標を達成する為の刻限は刻々と迫っている」と評価した。
このシナリオを相殺するには、ロシアが自らの条件で紛争を終わらせるのに十分なまでにこれを遅らせるか、トランプの計画を完全に覆すかの、何れかの方法が有る。
1)欧州人はロシアとの直接的物理的エスカレーションを恐れている
フランスは今年初めに紛争への正規介入について強気の発言をし、ポーランドもその後参戦の可能性を否定しなかったが、これはロシアとの直接的物理的エスカレーションに対する欧州の恐れを覆い隠している。
トランプが欧州に自らの安全を危険に曝してこの計画を実行させるには、彼等とNATO全体に対する米国の影響力を巧みに利用しなければならないだろうが、これが裏目に出て、第3次世界大戦を引き起こしてしまうかも知れない。
2)鍵となるポーランドの世論は強く反対している
西洋/NATOの平和維持軍計画はポーランドを抜きにしては考えられないが、夏の世論調査ではポーランド人の69%が、如何なる形であれ自軍をウクライナに派遣することに反対していることが示された。
しかもポーランドとウクライナの相互不信は悪化しているので、派兵は益々困難になっている。
またポーランド人は、自分達がまた西洋にいい様に利用されて使い捨てられるのではないかと恐れている。
3)トランプはNATO憲章第5条に関する以前の発言で信用を落としている
トランプは2月に、米国は自国のGDPの2%以上を防衛に費やしていないNATO加盟国を守らないと宣言して、同盟間での信用を落としている。計画を実行に移すには、この信頼を取り戻す必要が有る。何しろ彼は次の様な脅迫まで行ったのだ。
「私は(ロシアに)、連中がやりたいことを何でもやらせるつもりだ。」
今や殆どのNATO加盟国が、GDPの2%以上を防衛費に充てると云う目標を達成しているが、彼等はトランプが更なる条件を持ち出して来るのではないかと恐れている。
4)ロシアがNATO軍を攻撃した時にトランプが具体的に何をするかは不明
トランプはまたNATO諸国に対し、若しロシアがNATO軍を攻撃した場合の米国の対応が、第5条の約束を果たしつつ、第3次世界大戦に発展するかも知れないエスカレーションを回避するものであると納得させなければならない。
また自分が最後までやり遂げ、後退しないことを確信させなければならない。
更にはこのことをロシア側にもはっきり伝え、ロシアを抑止しなければならない。
これらのどれについても不首尾に終わる可能性が有る。
5)NATOはロシアとの長期に亘る非核の熱い戦争の準備が出来ていない
直接物理的交戦が行われた場合にロシアと米国のどちらも核兵器に訴えない、と云うのは極めて有りそうにないシナリオだが、その場合でも、NATOはロシアとの長期に亘る非核の熱い戦争を戦う準備が出来ていない。
NATOは「兵站競争」では圧倒的にロシアに負けており、これの輸送面を容易にする為の「軍事シェンゲン」については、前回のNATO首脳会議では何の進展も無かった。そしてNATOは自分達を守る為に必要な防空能力の5%しか持っていない。
従ってNATOは最終的にロシアに負けるかも知れない。
6)外部の仲介により平和維持活動が縮小されるかも知れない
ハンガリーとインドはロシアと米国の両方と良好な関係を結んでいるので、両国が独自に或いは共同で仲介して、平和維持活動の規模を縮小させられるかも知れない。
その結果、西洋軍がドニエプル川の西側に展開し、ウクライナが東部でまだ保有している全ての重火器を非軍事化し、ロシアが接触線を凍結することに合意することになるかも知れない。
こうしたシナリオは3月にも論じた。これは可能性は低いが、有り得ないことではない。
7)慎重な欧州人は、損失を切り捨てた方が良いと賭けるかも知れない
上記6つのポイントから、慎重な欧州人は損失を切り捨てて、ウクライナでの平和維持活動に参加するリスクを負うこと無く、全てを成り行きに任せた方が良いと賭けるかも知れない。
若し西洋がロシアに最大限の勝利を許せば、それは前例の無い敗北となるだろうが、増大する疲労と、うっかり第3次世界大戦を引き起こして敗北するのではないかと云う恐怖が、このシナリオを招き寄せる可能性が有る。
8)トランプ再就任前にキューバ危機の様な瀬戸際危機が勃発するかも知れない
米国の「ディープ・ステート(常設の軍・諜報・外交官僚機構)」のタカ派やゼレンスキーが、トランプがウクライナを「売り払う(と彼等が考える)こと」を阻止する為に、彼の再就任前に、ロシアとの緊張を大きくエスカレートさせる、と云うシナリオも考えられる。
若しそうなれば、トランプは事態の行方に影響を与える力を失う。第3次世界大戦であろうと、(恐らく不公平な)和平協定であろうと、彼にはそれを引き継ぐしか選択肢が無い。
9)それまでにロシアが最大限の勝利を収める可能性も有る
トランプが再就任する1月中旬までに前線が崩壊し、ロシアが最大限の勝利を収めようとした場合、それに対してNATOが正規介入するだろうから、このシナリオは起こりそうにない。
だが何等かの理由で介入が起こらない場合も有るので、その場合、トランプが構想する平和維持活動は必要無くなるだろう。
10)西アジア戦争が悪化し、トランプの当面の優先事項となるかも知れない
西アジア戦争が悪化し、大統領に復帰したトランプの当面の優先事項となるかどうかは誰にも分からない。だがイスラエルとイランがそれぞれの利益を後回しにして正にこのシナリオを企てているのではないか、と云う説得力の有る議論が成り立つ。
つまりイスラエルは米国を誘い出してイランを徹底的に破壊したいのかも知れないし、イランはトランプのソレイマニ暗殺への報復として、西アジアに於ける米国の利益に壊滅的な打撃を与えたいのかも知れない。
結論
この課題の巨大さを考えると、トランプはウクライナで西洋/NATOの平和維持軍を組織すると云う計画を実行出来ないかも知れない。西アジア戦争に米国が直接関与すれば話は別かも知れないが、彼がそうするとは思えない。
望むものが手に入らなければ、彼はロシアもNATOも脅迫すると云う手に訴えるか知れないが、そうした心理戦は効果が無いかも知れない。その場合、彼は諦めて先へ進み、西洋の前例の無い敗北をバイデンの所為にするかも知れない。
10 Obstacles To Trump’s Reported Plan For Western/NATO Peacekeepers In Ukraine
https://korybko.substack.com/p/10-obstacles-to-trumps-reported-plan
2024/11/06、ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプがウクライナ紛争を凍結する為に、米国抜きで西洋とNATOの平和維持軍を組織する計画だと報じた。これにより、「ロシアがウクライナ紛争で最大限の目標を達成する為の刻限は刻々と迫っている」と評価した。
このシナリオを相殺するには、ロシアが自らの条件で紛争を終わらせるのに十分なまでにこれを遅らせるか、トランプの計画を完全に覆すかの、何れかの方法が有る。
1)欧州人はロシアとの直接的物理的エスカレーションを恐れている
フランスは今年初めに紛争への正規介入について強気の発言をし、ポーランドもその後参戦の可能性を否定しなかったが、これはロシアとの直接的物理的エスカレーションに対する欧州の恐れを覆い隠している。
トランプが欧州に自らの安全を危険に曝してこの計画を実行させるには、彼等とNATO全体に対する米国の影響力を巧みに利用しなければならないだろうが、これが裏目に出て、第3次世界大戦を引き起こしてしまうかも知れない。
2)鍵となるポーランドの世論は強く反対している
西洋/NATOの平和維持軍計画はポーランドを抜きにしては考えられないが、夏の世論調査ではポーランド人の69%が、如何なる形であれ自軍をウクライナに派遣することに反対していることが示された。
しかもポーランドとウクライナの相互不信は悪化しているので、派兵は益々困難になっている。
またポーランド人は、自分達がまた西洋にいい様に利用されて使い捨てられるのではないかと恐れている。
3)トランプはNATO憲章第5条に関する以前の発言で信用を落としている
トランプは2月に、米国は自国のGDPの2%以上を防衛に費やしていないNATO加盟国を守らないと宣言して、同盟間での信用を落としている。計画を実行に移すには、この信頼を取り戻す必要が有る。何しろ彼は次の様な脅迫まで行ったのだ。
「私は(ロシアに)、連中がやりたいことを何でもやらせるつもりだ。」
今や殆どのNATO加盟国が、GDPの2%以上を防衛費に充てると云う目標を達成しているが、彼等はトランプが更なる条件を持ち出して来るのではないかと恐れている。
4)ロシアがNATO軍を攻撃した時にトランプが具体的に何をするかは不明
トランプはまたNATO諸国に対し、若しロシアがNATO軍を攻撃した場合の米国の対応が、第5条の約束を果たしつつ、第3次世界大戦に発展するかも知れないエスカレーションを回避するものであると納得させなければならない。
また自分が最後までやり遂げ、後退しないことを確信させなければならない。
更にはこのことをロシア側にもはっきり伝え、ロシアを抑止しなければならない。
これらのどれについても不首尾に終わる可能性が有る。
5)NATOはロシアとの長期に亘る非核の熱い戦争の準備が出来ていない
直接物理的交戦が行われた場合にロシアと米国のどちらも核兵器に訴えない、と云うのは極めて有りそうにないシナリオだが、その場合でも、NATOはロシアとの長期に亘る非核の熱い戦争を戦う準備が出来ていない。
NATOは「兵站競争」では圧倒的にロシアに負けており、これの輸送面を容易にする為の「軍事シェンゲン」については、前回のNATO首脳会議では何の進展も無かった。そしてNATOは自分達を守る為に必要な防空能力の5%しか持っていない。
従ってNATOは最終的にロシアに負けるかも知れない。
6)外部の仲介により平和維持活動が縮小されるかも知れない
ハンガリーとインドはロシアと米国の両方と良好な関係を結んでいるので、両国が独自に或いは共同で仲介して、平和維持活動の規模を縮小させられるかも知れない。
その結果、西洋軍がドニエプル川の西側に展開し、ウクライナが東部でまだ保有している全ての重火器を非軍事化し、ロシアが接触線を凍結することに合意することになるかも知れない。
こうしたシナリオは3月にも論じた。これは可能性は低いが、有り得ないことではない。
7)慎重な欧州人は、損失を切り捨てた方が良いと賭けるかも知れない
上記6つのポイントから、慎重な欧州人は損失を切り捨てて、ウクライナでの平和維持活動に参加するリスクを負うこと無く、全てを成り行きに任せた方が良いと賭けるかも知れない。
若し西洋がロシアに最大限の勝利を許せば、それは前例の無い敗北となるだろうが、増大する疲労と、うっかり第3次世界大戦を引き起こして敗北するのではないかと云う恐怖が、このシナリオを招き寄せる可能性が有る。
8)トランプ再就任前にキューバ危機の様な瀬戸際危機が勃発するかも知れない
米国の「ディープ・ステート(常設の軍・諜報・外交官僚機構)」のタカ派やゼレンスキーが、トランプがウクライナを「売り払う(と彼等が考える)こと」を阻止する為に、彼の再就任前に、ロシアとの緊張を大きくエスカレートさせる、と云うシナリオも考えられる。
若しそうなれば、トランプは事態の行方に影響を与える力を失う。第3次世界大戦であろうと、(恐らく不公平な)和平協定であろうと、彼にはそれを引き継ぐしか選択肢が無い。
9)それまでにロシアが最大限の勝利を収める可能性も有る
トランプが再就任する1月中旬までに前線が崩壊し、ロシアが最大限の勝利を収めようとした場合、それに対してNATOが正規介入するだろうから、このシナリオは起こりそうにない。
だが何等かの理由で介入が起こらない場合も有るので、その場合、トランプが構想する平和維持活動は必要無くなるだろう。
10)西アジア戦争が悪化し、トランプの当面の優先事項となるかも知れない
西アジア戦争が悪化し、大統領に復帰したトランプの当面の優先事項となるかどうかは誰にも分からない。だがイスラエルとイランがそれぞれの利益を後回しにして正にこのシナリオを企てているのではないか、と云う説得力の有る議論が成り立つ。
つまりイスラエルは米国を誘い出してイランを徹底的に破壊したいのかも知れないし、イランはトランプのソレイマニ暗殺への報復として、西アジアに於ける米国の利益に壊滅的な打撃を与えたいのかも知れない。
結論
この課題の巨大さを考えると、トランプはウクライナで西洋/NATOの平和維持軍を組織すると云う計画を実行出来ないかも知れない。西アジア戦争に米国が直接関与すれば話は別かも知れないが、彼がそうするとは思えない。
望むものが手に入らなければ、彼はロシアもNATOも脅迫すると云う手に訴えるか知れないが、そうした心理戦は効果が無いかも知れない。その場合、彼は諦めて先へ進み、西洋の前例の無い敗北をバイデンの所為にするかも知れない。
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