中高生でも5分で分かる、「ロシア軍から軍服を受け取る北朝鮮兵の動画」が証拠にならない理由
2024年10月から日本を含めた西洋諸国の大手メディアは、「北朝鮮が同盟相手のロシアを助けようとしてウクライナと戦うために軍隊を派遣している」というウクライナの主張に関するニュースを一斉に流し始めました。
これらの「主張」にはそれを裏付ける証拠はまったく提示されていないのですが、ほとんどの日本人はそれをまるで疑いもせず、根拠のないその主張内容を頭から事実として信じているようです。
ただし、その「証拠」としていくつかの映像が挙げられることがあります。映像の力は強力で、ほとんどの人は映像を見せられただけで「確かな証拠だ」と思うようです。
今回はその中で最も知られている、「北朝鮮の兵士達が並んでロシア軍から軍服を受け取る光景」とされているものの行間を少し読んでみましょう。この映像には少し見ただけでおかしなところがいくつもあります。
どうなる? 北朝鮮の大規模派兵 動き出したロ朝〝軍事同盟〟 のねらいとは? | NHK「時論公論」
・まず、この映像はいつ撮影されたものか分かりません。
・次に、この映像はどこで撮影されたものか分かりません。
いつどこで撮影されたのかはウクライナ側がそう「主張」しているだけで、これを第三者が独自に検証する方法はありませんし、本当かどうかは映像からは判断できません。
・軍服を受け取っている人たちは確かに東アジア系の外見をしているようですが、それだけでは北朝鮮の兵士だとは判断できません。
・また、おそらく日本人の大部分は知らないと思われますが、ロシアは多民族国家で、東アジア系の人も大勢います。ウクライナや韓国の情報源は、ブリヤート人(モンゴル系)、トゥバ人(テュルク族系)、ヤクート人(テュルク族系)、高麗人(朝鮮民族。ロシア極東原住民)等を北朝鮮人であると紹介することがありますが、これらはすべて、ロシア連邦に住んでいる人たちです。ですから映像に映っている東アジア人は北朝鮮人ではなく、完全にロシア国籍である可能性もあります。つまりこの映像は、外国軍は関係のない、完全にロシア軍だけの様子を映したものかもしれないのです。
・それにこの映像は明らかに内部の人間がその場にいて撮影したものであると分かります。もちろん衛星画像ではありませんし、遠隔操作の隠しカメラなどの映像とも思われません。この映像は「ウクライナ当局」が公開したということになっていますが(正確にはウクライナの諜報機関である戦略コミュニケーション・諜報セキュリティ・センターがSNSに公開)、ウクライナはどうやってこの映像を入手したのでしょう? これが本当にロシア軍の訓練場内部の様子だとしたら、ウクライナはスパイを潜りこませているのでしょうか、それともロシア軍か北朝鮮軍の内部に情報提供者がいるのでしょうか。
この映像が流出したことは当然ロシア軍も把握しているでしょうから、当然、彼等は犯人探しをするでしょう。そしてそのスパイなり情報提供者なりが捕まれば、その人は今後活動ができなくなります。また運よく捕まらなかったとしても(誰が撮影しているのかはすぐ分かりそうなものなので、逮捕されないというのはありそうにないと私は思いますが)、警備がより一層厳重になるでしょうから、活動がやりにくくなるはずです。
この映像は上で説明したように、北朝鮮がウクライナと戦うために兵を派遣している証拠としては大変お粗末なものですが、スパイまたは情報提供者はこの程度のもののために、今後の一切の活動を犠牲にしたというのでしょうか? 他にもっと大事な仕事は控えていないのでしょうか?
以上の点をまとめると、公開された映像は、「ロシア軍から軍服を受け取る北朝鮮兵士たちの光景だ」と言われてみればそのような光景を映したもののようにも見えますが、実はまったく違う場面を映したものかもしれません。映像から得られる情報だけでは、その説明が本当なのか嘘なのかは、第三者は判断できません。
ですからこの説明を受け入れるかどうかは、最終的には、そのように主張した人———この場合はウクライナ軍諜報部ですが、その人たちを信じるかどうか、その人たちが信頼できる情報源であると判断するかどうかにかかっています。さて、ウクライナ軍諜報部というのは信頼できる情報源なのでしょうか?
(ここでは深く立ち入りませんが、戦争を自分たちに有利に進めるための嘘を流すのは、彼等の任務の一部です。これは「心理戦」「情報戦」などと言われる古くからの戦い方ですが、NATOは近年「認知戦」という考え方を提唱していて、人の心は、陸海空、それに宇宙とサイバースペースに続く新たな戦場であると規定しています。偽情報を流すのは認知戦の戦い方のひとつですが、つまり嘘を吐くのは戦争の一部であるとNATOは考えているのです。)
ここでひとつタネ明かしをさせてもらうと、この映像は実は北朝鮮軍を写したものではなく、ラオスとロシアが毎年行っている軍事演習の様子なのではないかという指摘がなされています。公開されている映像には軍服を渡している場面までは映っていないので直接比較して確認することはできないのですが、ラオス兵が被る帽子は、映像に映っている帽子と確かによく似ているように私には見えます。
これを北朝鮮軍兵士が被ると言われている帽子と比べてみましょう。興味のある人は、自分で検索して北朝鮮兵の被っている帽子にこのタイプのものがあるかどうか、探してみるのも面白いかも知れません。ちなみに、私は見つけることができませんでした。………さて、あなたはどう思いますか?
「北朝鮮が同盟相手のロシアを助けようとしてウクライナと戦うために軍隊を派遣している」というニュースがフェイクニュース、つまり偽情報、嘘であると信じるべき根拠は他にもいくつかあるのですが、ここでは映像ひとつだけを見てもこれだけのことが分かる———というより、分からないのだ、というお話をさせていただきました。
私の話に納得がいかない、信じられない、という方がいてもかまいません。信じてもらうのがこの話の趣旨ではないのですから。ただ、納得がいかない人は、この話のどこに納得がいかないのか、なぜ信じられないのか、ということを、必ず言葉で、文章にして説明してみるように心がけてみてください。よく分からないが何となく反対だ、ではダメです。物事を筋道立てて論理的に考えるには、考えを言葉に直す必要があります。自分の考えの合理的な根拠を言葉にして他の人に伝えることができなければ、きちんと考えていることにはなりません。そして論理的に物事を考えることができなければ、大きな嘘はいつまでたっても自力で見抜けるようにはなりません(推理小説を読むのと同じです。ここまで辛抱して読んでくださった方であれば、そんなに難しいことではないと私は信じています)。
自分の頭で考えない無責任でみっともない大人にはならないように気をつけてください、というのが、私がここで一番に言いたかったことです。他はすべて二次的なことです。
これらの「主張」にはそれを裏付ける証拠はまったく提示されていないのですが、ほとんどの日本人はそれをまるで疑いもせず、根拠のないその主張内容を頭から事実として信じているようです。
ただし、その「証拠」としていくつかの映像が挙げられることがあります。映像の力は強力で、ほとんどの人は映像を見せられただけで「確かな証拠だ」と思うようです。
今回はその中で最も知られている、「北朝鮮の兵士達が並んでロシア軍から軍服を受け取る光景」とされているものの行間を少し読んでみましょう。この映像には少し見ただけでおかしなところがいくつもあります。
どうなる? 北朝鮮の大規模派兵 動き出したロ朝〝軍事同盟〟 のねらいとは? | NHK「時論公論」
・まず、この映像はいつ撮影されたものか分かりません。
・次に、この映像はどこで撮影されたものか分かりません。
いつどこで撮影されたのかはウクライナ側がそう「主張」しているだけで、これを第三者が独自に検証する方法はありませんし、本当かどうかは映像からは判断できません。
・軍服を受け取っている人たちは確かに東アジア系の外見をしているようですが、それだけでは北朝鮮の兵士だとは判断できません。
・また、おそらく日本人の大部分は知らないと思われますが、ロシアは多民族国家で、東アジア系の人も大勢います。ウクライナや韓国の情報源は、ブリヤート人(モンゴル系)、トゥバ人(テュルク族系)、ヤクート人(テュルク族系)、高麗人(朝鮮民族。ロシア極東原住民)等を北朝鮮人であると紹介することがありますが、これらはすべて、ロシア連邦に住んでいる人たちです。ですから映像に映っている東アジア人は北朝鮮人ではなく、完全にロシア国籍である可能性もあります。つまりこの映像は、外国軍は関係のない、完全にロシア軍だけの様子を映したものかもしれないのです。
・それにこの映像は明らかに内部の人間がその場にいて撮影したものであると分かります。もちろん衛星画像ではありませんし、遠隔操作の隠しカメラなどの映像とも思われません。この映像は「ウクライナ当局」が公開したということになっていますが(正確にはウクライナの諜報機関である戦略コミュニケーション・諜報セキュリティ・センターがSNSに公開)、ウクライナはどうやってこの映像を入手したのでしょう? これが本当にロシア軍の訓練場内部の様子だとしたら、ウクライナはスパイを潜りこませているのでしょうか、それともロシア軍か北朝鮮軍の内部に情報提供者がいるのでしょうか。
この映像が流出したことは当然ロシア軍も把握しているでしょうから、当然、彼等は犯人探しをするでしょう。そしてそのスパイなり情報提供者なりが捕まれば、その人は今後活動ができなくなります。また運よく捕まらなかったとしても(誰が撮影しているのかはすぐ分かりそうなものなので、逮捕されないというのはありそうにないと私は思いますが)、警備がより一層厳重になるでしょうから、活動がやりにくくなるはずです。
この映像は上で説明したように、北朝鮮がウクライナと戦うために兵を派遣している証拠としては大変お粗末なものですが、スパイまたは情報提供者はこの程度のもののために、今後の一切の活動を犠牲にしたというのでしょうか? 他にもっと大事な仕事は控えていないのでしょうか?
以上の点をまとめると、公開された映像は、「ロシア軍から軍服を受け取る北朝鮮兵士たちの光景だ」と言われてみればそのような光景を映したもののようにも見えますが、実はまったく違う場面を映したものかもしれません。映像から得られる情報だけでは、その説明が本当なのか嘘なのかは、第三者は判断できません。
ですからこの説明を受け入れるかどうかは、最終的には、そのように主張した人———この場合はウクライナ軍諜報部ですが、その人たちを信じるかどうか、その人たちが信頼できる情報源であると判断するかどうかにかかっています。さて、ウクライナ軍諜報部というのは信頼できる情報源なのでしょうか?
(ここでは深く立ち入りませんが、戦争を自分たちに有利に進めるための嘘を流すのは、彼等の任務の一部です。これは「心理戦」「情報戦」などと言われる古くからの戦い方ですが、NATOは近年「認知戦」という考え方を提唱していて、人の心は、陸海空、それに宇宙とサイバースペースに続く新たな戦場であると規定しています。偽情報を流すのは認知戦の戦い方のひとつですが、つまり嘘を吐くのは戦争の一部であるとNATOは考えているのです。)
ここでひとつタネ明かしをさせてもらうと、この映像は実は北朝鮮軍を写したものではなく、ラオスとロシアが毎年行っている軍事演習の様子なのではないかという指摘がなされています。公開されている映像には軍服を渡している場面までは映っていないので直接比較して確認することはできないのですが、ラオス兵が被る帽子は、映像に映っている帽子と確かによく似ているように私には見えます。
これを北朝鮮軍兵士が被ると言われている帽子と比べてみましょう。興味のある人は、自分で検索して北朝鮮兵の被っている帽子にこのタイプのものがあるかどうか、探してみるのも面白いかも知れません。ちなみに、私は見つけることができませんでした。………さて、あなたはどう思いますか?
「北朝鮮が同盟相手のロシアを助けようとしてウクライナと戦うために軍隊を派遣している」というニュースがフェイクニュース、つまり偽情報、嘘であると信じるべき根拠は他にもいくつかあるのですが、ここでは映像ひとつだけを見てもこれだけのことが分かる———というより、分からないのだ、というお話をさせていただきました。
私の話に納得がいかない、信じられない、という方がいてもかまいません。信じてもらうのがこの話の趣旨ではないのですから。ただ、納得がいかない人は、この話のどこに納得がいかないのか、なぜ信じられないのか、ということを、必ず言葉で、文章にして説明してみるように心がけてみてください。よく分からないが何となく反対だ、ではダメです。物事を筋道立てて論理的に考えるには、考えを言葉に直す必要があります。自分の考えの合理的な根拠を言葉にして他の人に伝えることができなければ、きちんと考えていることにはなりません。そして論理的に物事を考えることができなければ、大きな嘘はいつまでたっても自力で見抜けるようにはなりません(推理小説を読むのと同じです。ここまで辛抱して読んでくださった方であれば、そんなに難しいことではないと私は信じています)。
自分の頭で考えない無責任でみっともない大人にはならないように気をつけてください、というのが、私がここで一番に言いたかったことです。他はすべて二次的なことです。
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