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エチオピアが紅海に独自の港を欲しがっている件について、よくある質問(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。エチオピアが紅海に独自の港を欲しがっている件について、それが平和的、合法的、合理的、プラグマティックなものであり、地域の利益に適うものであり、戦闘的、違法、非論理的、理想主義的、ゼロサム的なものではないことを、Q&A形式で説明する。




 2023/10/15、エチオピアのアビィ・アハメド首相は紅海に自国の港を再獲得したいと云う長年の希望を表明したが、これは彼の意図に関する多くのフェイクニュースを引き起こした。ここではこの問題に関してよく寄せられる質問に回答し、アビィ氏の言っていることが平和的、合法的、合理的、プラグマティックなものであり、地域の利益に適うものであり、戦闘的、違法、非論理的、理想主義的、ゼロサム的なものではないことを示そうと思う。



 ・そもそも何故エチオピアは内陸国なんですか?

 エチオピアは、30年に及ぶ分離主義紛争の後、沿岸のエリトリア州が1993年に投票で独立してから内陸国となった。エリトリアは1952〜62年の短い間、国連決議によって旧エチオピア帝国に併合されていた。それ以前はイタリアとオスマン帝国によって統治されていたが、エリトリアとエチオピアは常に社会文化的、経済的、歴史的に非常に密接な関係を共有して来た。

 ・内陸国のエチオピアはどうやって世界の国々と貿易しているんですか?

 エチオピアの国際貿易の95%は隣国ジブチのジブチ港を経由している。中国はこの状況を改善する為にジブチ-アディスアベバ鉄道を計説した。エチオピアは以前は世界で最も急速に成長している経済国のひとつだったのだが、COVID-19パンデミック、北部紛争NATOとロシアの代理戦争深刻な旱魃に起因する財政的圧力により、債権者達債務返済を猶予するに至った。

 ・既にジブチ港を使用しているのに、何故エチオピアは独自の港が欲しいんですか?

 エチオピアがジブチに支払う港湾使用料は、推定年間20億ドル。これは2023〜24年の予算(約147億ドル)の約13.6%に相当する。現在の財政圧力を考えるとこの負担は大きい。エチオピアの長期的な安定の為には、これらの条件を再交渉したり、別の港へのアクセスを確保することが必要だ。

 ・エチオピアが直面している安定の為の課題とは?

 国内紛争も問題だが、国連は、エチオピアが2017〜50年に人口増加が集中する9ヵ国のひとつになると予測している。現在の人口は既に約1億2,000万人。これが2030年までには1億5,000万人に、2050年までには2億人に達すると予想されている。経済成長がそれに見合った規模にならなければ、大規模な国外流出や国内紛争が起こって、アフリカの角地域が不安定化するかも知れない。

 ・独自の海港を再獲得することは、これらの課題の緩和にどう役に立つんですか?

 紅海の港への完全且つ無制限のアクセスを再び獲得すれば、財政的負担は直ちに軽減され、パンデミック前よりも更に目覚ましい経済発展が可能になるだろう。それにより更に多くの雇用、開発、支援プログラムが実施され、大規模な国外脱出や更なる国内紛争が回避出来るかも知れない。これは地域の安定にとってもプラスになる。

 ・ジブチの港の代わるものとは?

 ジブチ港の使用条件を再交渉したり、タジュラの様なジブチの別の港へのアクセスを確保するか、さもなければ隣国のエリトリアやソマリアのソマリランド地域(独立を宣言している)と交渉する可能性が考えられる。エリトリアはエチオピアが自国の領土内に海軍基地を開くことを認めていないので交渉は出来ないが、ソマリランドと防衛協定を結ぼうとした場合、ソマリアが国連に苦情を申し立ててトラブルになる可能性が有る。

 ・エチオピアは何故海軍を再建したいんですか?

 エチオピアの安定は、肥料と燃料の海上物流の安全確保に掛かっているが、世界の重要な地政学的拠点である紅海の安全は、常に大国間のゲームによって掻き乱される可能性が有る。安全保障の為に隣国に依存したい国は存在しないし、エチオピアにはその為の経済的余裕も無い。そして大国がその依存した隣国を通じて脅迫を仕掛けて来るリスクも有る。

 ・エチオピアには近隣諸国と海軍基地について交渉する権利は有るんですか?
 
 どの国も他国と何かを交渉する主権的権利を持っている。そうした取引が不道徳になるのは、第三者の正当な利益を侵害する場合だけだ。ジブチは既に米中その他対立する新冷戦陣営の基地を自国内に受け入れている。エチオピアが同様の交渉をしたからと言って、それは前例の無いものでも、違法でも、不道徳でもない。寧ろその逆で、これは地域を安定させることに繋がるだろう。

 ・ジブチは何故エチオピアとそうした軍事協定をまだ交渉していないんですか?

 小国はよく、隣の大国の悪意を疑うものだが、ジブチとエチオピアの場合もそうだ。ジブチはまたエチオピアの貿易を自国が独占している状況を活用したいとも思っている。但し安全保障上のジレンマは地域の責任有る利害関係者達が保証すれば解決出来るかも知れないし、それによって有利な投資機会が手に入れば、エチオピアからの港湾使用料が減っても、それを補える可能性が有る。

 ・紅海地域の「責任有る利害関係者達」って誰ですか?

 この地域に既に軍事基地を持っている国々(ジブチの6ヵ国、イエメンのUAE)がこの場合の責任有る利害関係者と見做すことが出来る。また、エチオピアを排除している航海評議会の沿岸諸国メンバーや、紅海と通って貿易を行っている他の地域の国々にしても、この地域の安定は重要なので、その中の幾つかは安全保障をジブチにまで拡大するかも知れない。

 ・ジブチの港湾使用料の損失を補える、どんな有利な投資機会が有るんですか?

 エチオピアは既に、軍事を含む完全且つ無制限のアクセスと引き換えに、グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム(GERD)、エチオピア航空(アフリカ大陸最大の航空会社)、エチオ・テレコム、そして恐らく他のメガプロジェクトや企業の大口株式を提供している。ジブチはまた、ロシアが建設する南スーダンからの石油パイプラインの終点になる可能性も有るし、その場合ロシアもまたそこで営業する資源企業の株式を提供する可能性が有る。

 ・何故ジブチは港湾使用料の代わりに有利な投資機会に関心を持つんですか?

 IMFの公式統計では、ジブチがエチオピアから受け取る商業港使用料は推定20億ドルで、今年のGDP38億7,000万ドルの半分以上を占めている。エチオピアがソマリランドと経済・軍事協定を結んでしまえば、これが失われてしまうことになる。だからこそ、エチオピア等と投資協定を結んでこのシナリオを回避しておくことが、ジブチにとっては利益となる。ロシアの場合は、石油と小麦を特権価格で販売してくれるかも知れない。

 ・エチオピアは何故まだ紅海評議会のメンバーではないのでしょうか?

 エジプトが反対している。エジプトはエチオピアを封じ込めたいと考えており、その為にGERDに関してエチオピアを非難して来た(これは09/10に完全に嘘であったことが明らかになった)。紅海地域に於けるエジプトの歴史的存在感は、1965年のサウジとの土地交換によって海岸線の大部分を失ったヨルダンよりも遙かに大きい。

 ・他にどの国がエチオピアの動きに反対しているのですか?

 2022年11月の敵対行為停止協定(COHA)によって北部紛争が終結して以来、エチオピアとエリトリアの関係は悪化する様になった。エリトリアは最早エチオピアを信頼していないので、エチオピアを封じ込めようとしているのかも知れない。その為に紅海評議会加盟に反対するだけでなく、場合によっては反国家勢力に武器/資金/政治的支援を提供するかも知れない。

 ・エチオピアの紅海港に関する論争によって、一体何が明らかになるのでしょうか?

 地域の安全保障のジレンマ、エチオピアを封じ込めたいと云うエジプトの執念、エチオピアの意図に関する誤解やフェイクニュースが広まっている理由が明らかになる。最近ではエリトリアの活動家やその外国の同盟者達が、この問題を解決する為の平和的提案を、ジブチに関するものであるにも関わらずエリトリアに関するものだと意図的に誤解して「戦争挑発」だと誤って広めている。

 ・エジプト(と恐らくエリトリア)は、エチオピアの努力を何処まで止めようとするでしょうか?

 エジプトもエリトリアも、エチオピアが平和的に港を獲得することを阻止する為に戦争に訴えることまではやらないだろう。彼等に出来るのは精々、紅海評議会への加盟を阻止し、それに対して情報戦を仕掛けることだけだ。但し、両国ともエチオピア内の反国家勢力を支援すると云う、以前の政策を復活させる可能性は有る。

 ・この問題を巡って地域戦争が勃発するでしょうか?

 エチオピアのアビィ首相は平和的意図を再確認しているので、エチオピアから紛争を仕掛ける可能性は無い。紛争が起こるとしたら、恐らく地政学的なゲームの一環として、沿岸諸国がエジプトまたは大国の命令によって挑発を行った場合か、或いは物流が途絶えてエチオピアが危機に陥った場合だろう。



まとめ

 以上で証明された様に、エチオピアの政策は平和的、合法的、合理的、プラグマティックなものであり、地域の利益に適うものであり、戦闘的、違法、非論理的、理想主義的、ゼロサム的なものではない。

 但しこの問題については偽情報が氾濫しているので、混乱した読者が居たとしても無理は無い。証拠は明らかになっているので、これについてSNS上で誤った情報を拡散している者は、荒らしか偽情報工作員のどちらかだ。

 この情報戦は、活動家だけでなく、恐らくエジプトやエリトリア等の国家主体によっても行われており、これまで以上に激化している。従って誰もが気を付け、読むもの全てについて確認を取る必要が有る。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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