父の日は遠い空からやって来る。
父の日は母の日に比べるとその存在感が若干薄いような気がしますが、父の働く姿を子どもはあまり見かける機会が少ないため、父親が外でどんな仕事をしているのか、それは日常の親子の会話の中でしか知ることは出来ないかも知れません。プレゼントももちろん大切ですが、それ以上に会話は重要です。
私と父に関しては過去に何度か書き綴って来ましたので想像は付くと思いますが、これから話す内容は私自身も割と最近になって知りました。私と父が一緒に生活した時間は非常に短かいものでした。その中心は小学生時代に凝縮されています。アルコール依存症で酒が切れると手が振るえ、字を書くとミミズ状態でした。最初に届いた葉書が府中刑務所からでしたが、その葉書には酒を止め、一生懸命働き、美味しい物を沢山食べさせてやると書いてありました。もちろん私はそれが本当だったらどんなに幸福だったろうと思っていましたが、それが叶う筈もありませんでした。
父は酔うと人格が変わってしまい、鬼のような形相になり襲いかかってきます。それも私だけに対してでした。よそ様に手を出すような事(ヤクザ同士の喧嘩以外)はありませんでした。私の喧嘩相手は一番身近な父でしたが、狂った父をとり抑える事など子どもには到底無理。殴られ蹴られしますが、私なりに抵抗はしました。
父は酔っている時の自分を何も覚えていません。顔に痣を作って学校へ行くと、クラスメートや担任が尋ねてきます。「神戸君その傷どうしたの?」私は正直に答えず「転んだ」と答えます。常にその繰り返しでしたが、いずれ父の行動は学校中に知れ渡る事となりました。そんな私を不憫に思った担任が養子に欲しいと相談があった時はかなり驚きましたが、私はきっぱりと断りました。何故なら私には父親がいるからです。私の心臓病が悪化したのも責任は父にありました。もっと早く医者に診せていればそれほど酷くはならなかったでしょう。酒を飲んでいない時の父は非常に優しく、またお人よしでした。人からの頼まれ事は断ったことがありません。その為、不本意な結果を招き手錠を掛けられたりと、父自身もまた波乱の人生を送り41年前、42歳の若さでこの世を去りました。
人は死ぬと生前一番慕っていた人の所に魂となって現れると言われています。私は一回目の手術を19歳で受けました。父が亡くなって一年が経とうとしていた時です。かなり以前に短編小説「冬の蛍」を記事にしましたが、あの作品は半分ノンフィクションです。重度の心臓病を抱えた少年と父親の物語ですが、少年に付き添っていた父は既にこの世の者ではなかった…。少年が一番欲しがっていた「蛍」をプレゼントしてあの世に帰っていく父。そして奇蹟が少年の身に起こる。手術の支度を一人で整え、ペーパーバックに必要な物を詰め込み、静岡市立病院の門をくぐりました。春の穏やかな日差しに包まれた病室が、静かに私を迎え入れてくれます。6人部屋の一番窓際のベッドが私の仮の宿。暫くここで過ごす事への恐怖感はまったくありませんでした。心臓の手術を受ける少年にしては妙に落ち着いて見えた事でしょう。
そして検査に追われる日々が続きました。そして正にこの時、故郷の藤枝である事件が起こっていたのです。亡き父が私に親らしい事を何一つしなかった事は誰もが知るところでしたが、そんな父の愛情が実は非常に力強いものだったと知ったのです。
藤枝に住む親戚の伯母にその夜異変が起こったのです。なんと父の霊が現れ、伯母に「俊樹が心臓の手術を受けるため入院しているから早く行ってやってくれ」と伯母に頼んだのです。それは毎晩続き、そして日ごとに布団の上に覆い被さって来、伯母は金縛りに合い、身動きが取れない状態になりました。あまりにもしつこいので「そんなに何度も出てくるなら行ってやらないよ」と父に向かって怒鳴ったそうです。するとその次の晩から父は現れなくなったそうです。それまで私は父が自分を本当に愛していたのか心の奥では不信が募っていましたが、この話しで私は鳥肌が立ち、父の愛情が死してもなお別な形で現れたのだと知った時、大きな愛に包まれている自分を知ったのです。窮地に立たされている時、父はこの広い空のどこかで見守ってくれている事でしょう。脳梗塞から奇跡の復活を果たしたのも父のお陰だったかも知れません。
父の日に何もプレゼントが出来なかった私ですが、私を活かしてくれた父は、やはりどんな言われ方をしても私にとっては偉大な存在です。ありがとう、親父。天国の酒は美味しいですか。酔っ払って天使を追い掛け回す父の姿が見えてくるようです。
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