ビーチサンダル。
- 2021/10/05
- 20:23

ふざけていると、あたしのお気に入りのひまわりの絵が描いてあるビーチサンダルが脱げて、流された。あたしは、川をかき分け、ビーチサンダルを追いかけた。
川の先には、小さな滝があった。みんなが「Tちゃん、行くな! 危ない!!」と叫んだ。それでも、お気に入りのものが流されていくのがイヤだったあたしは、必死で追いかけた。
どうにか一つ、ビーチサンダルを捕まえた。残る一つも捕まえようと、滝があることも忘れて、川をかき分けた。
あと一歩で滝に落ちる寸前、母の兄弟の三番目の叔父が追いかけてきて、あたしを抱きかかえた。危機一髪だった。
あたしの手には、奇跡的にもう一つのビーチサンダルも捕まえていた。
あたしは、罰として、父に車に“監禁”された。どのドアも内側からは開かなかった。いとこたちが遊ぶ声が聞こえるのに、車から出られないので、泣いた。
しばらくして、父がきれいなアゲハチョウを捕まえてきて、車の中に放った。何も言わずに立ち去ったので、まだ怒ってるのかどうかわからなかった。
狭い車の中で、きれいに舞うアゲハチョウ。あたしは、見とれて、車から出られないことを忘れた。
その日から、「Tちゃんは、強情なところがあるねぇ」と親戚の大人たちに笑われた。ひまわりのビーチサンダルは、その後も、大事に履いた。
強情。意味は、意地が強く、一度こうと決めたら、それを守り通すこと。あんなに父に反対されたのに、あたしはライター&編集者になった。三つ子の魂百まで。
父はあれだけ反対したのに、あたしが記事を書いたり、本を編集したりすると、ご近所に見せて回った。誇りに思ってくれたのだろう。