11日、『東京新聞』に「北朝鮮拉致 国主導示す 工作員養成の内部文書入手」という記事が掲載され、その文書の写真が掲載された。
「金正日主義対外情報学」という「対外秘密」に指定された文書ということである。まず、文書のタイトルに使われている「金正日主義」という言葉が引っかかる。金正日時代、私は一次資料を用いた北朝鮮研究はしていなかったので正確性に欠けるが、当時、「金正日主義」という用語は存在したのだろうか。「金日成主義」という用語は使われていたが、「金正日主義」という用語は二次資料の中では見た記憶がない。金正恩時代になって登場した「金正日愛国主義」、「金日成-金正日主義」などの言葉はあるが、金正日時代に自らの名前を「主義」とした用語が存在したとは考えにくい。もちろん、工作員養成機関で秘密裏に使われた可能性はあるものの、思想に関わる重要な用語、しかも「最高尊厳のお名前」をかぶせた用語まで作成するとは考えにくい。そのようなことからして、この「文書」は、「金正日愛国主義」、「金日成-金正日主義」という「主義」が金正恩時代に使い始められてから捏造されたのではないかと疑われる。
もう一つは、『東京新聞』では「『拉致』など工作にかかわるいくつかの言葉は、北朝鮮の発音ではなく、韓国の発音に基づいて表記されるなど、工作員の主要な活動領域である韓国の実情に合わせて訓練されていたこともうかがわれる」と分析している、韓国式発音表記の問題である。「南朝鮮」発を装った偽装文書ならまだしも、北朝鮮国内で使われている文書の中、工作活動の実戦訓練と関わりのない部分で、韓国式の発音表記をする必要はない。新聞に掲載された写真では確認できないが、もし金日成あるいは金正日の「お言葉」の中で韓国式発音表記がされているとすれば、made in South Koreaの文書、しかも低質な捏造文書の可能性が相当に高まる。というのは、北朝鮮では「指導者」の言葉を勝手に変更する、ましてや「南朝鮮式」の表記に変更することなど、訓練のためであったとしても、許されないと考えられるからである。
『東京新聞』が、「356ページ」の文書をしっかり読み込んだ上で報道しているのかは疑わしいが、どこかでチープな捏造文書を掴まされたのではないだろうか。
『東京新聞』、「北朝鮮拉致 国主導示す 工作員養成の内部文書入手」、http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015111190070314.html
私も記事を東京新聞電子版で見ましたが,やはり表記について違和感を持ちました。確かにフォントは北で使われるような使い分けはされています。しかし,[료해]は北表記なのになぜ「拉致」は南表記なのか,とか,分かち書きの原則が北朝鮮の正書法でない部分が見られます。よって,かなりこの文書が出所が怪しいと思った次第です。
コメントありがとうございます。「료해」は北朝鮮表記ですね。これ、<< >>に囲まれた部分ですから、金正日の「お言葉」だと思います。だとすると、むしろ私の主張が弱まるかもしれませんね。また、分かち書きに関しては、「알수 있습니다」などと北朝鮮表記になっている部分も写真に見られます。ご指摘からは、むしろ私の主張がぐらついているような気がしました。
> 私も記事を東京新聞電子版で見ましたが,やはり表記について違和感を持ちました。確かにフォントは北で使われるような使い分けはされています。しかし,[료해]は北表記なのになぜ「拉致」は南表記なのか,とか,分かち書きの原則が北朝鮮の正書法でない部分が見られます。よって,かなりこの文書が出所が怪しいと思った次第です。
お世話になります。
この文書はニュースソースが不明瞭ですね。
いつものように「朝鮮労働党関係者」となっているところがガセ臭い。
だとしたら、それを流した者の意図はどの辺にあるのかというのが気になります。
特殊部隊の訓練は、日常生活に至るまで敵国語でやるというのはどこの国でもあまり珍しくないので、たいして気になりませんが。
これが本物であれガセであれ、意義として大きいのは、記事にもある通り「小泉純一郎首相との会談で、「八〇年代初めまで特殊機関の一部が妄動主義に走って」拉致を行ったと釈明した」時点では、北朝鮮はすでに拉致をしておらず、今後もしないと多くの日本人が勘違いしてしまっていたことに気づかせた点でしょう。
世界最大の不正規戦組織であり、かつてのパルチザン精神を今も継承する北朝鮮がそれをやめるはずもなく、金正恩もまたそれを継承していると注意喚起した点では評価できます。
金正日の「釈明」は「軍事目的達成に力を入れ過ぎ、政治的配慮を怠った」と私は解釈しています。別に詫びたわけでも言い訳したわけでもなく、一部の無能な部下がヘマしただけと平然と言ってのけたにすぎません。
これは祖国解放戦争時のゲリラ戦の反省でもあるはずなのですが、「金正日主義」という呼び方があるとすれば、「釈明」までしなければならなかったそれまでのスタイルの工作活動を教訓とした新スタイルの工作活動のことを指すのではないかとも思えます。
この記事は、金正恩が思想、精神教育をより強化した目的は何かという答えの一つであり、警鐘でもあると思えます。
以上の点から、拉致被害者が北朝鮮の「反省の気持ち」によって帰国させてもらえるのでは決してないということを認識しなければならないと思います。
>「金正日主義」という用語
マルクス、エンゲルスは自身の思想をマルクス主義などとは言わず、あくまでも科学的共産主義ですね。レーニンも同じですが彼のライバル達が、「あんなのはマルクス主義じゃないレーニン主義だ」と批判していたのをスターリンが逆手にとってレーニン主義と定義したわけです。
更に革命の中心がヨーロッパからアジアへと移動すると中国は毛沢東の主張を「毛沢東思想」とし、まあ英語にすれば主義も思想も同じイズムでしょうが、その使い分けで対外的にはローカル性を強調し、内的には逆に主義より上の指導理念として漢字の国ならではの使い分けをしたのです。
主体思想、先軍思想もその流れですが正恩はそれをマルクス、レーニンと同列の○×主義に戻してしまったということです。
この文書の作成者さんは、その辺りの妙が判らないのでしょう。
リアルさを演出したいならば「先軍思想における対外情報学」とすべきでした。
コメントありがとうございます。「金正日が謝罪した」というのは、あくまでも日本側の解釈ですから、その実態は分かりません。かつて拙ブログで全訳した「盧武鉉-金正日会議録」のような、発言が逐一記録されているものが公開されれば、それに基づいた分析はできますが、確認すらしていませんが、そのようなものは公開されていないと思います(あったとしても、当分「秘密」扱いでしょうね)。
仮にガセだとして、流した者の意図は金儲けに尽きると思います。「made in South Korea」と書きましたが、made in Chinaの可能性が高いかもしれません。しかも、それなりの情報を持っている脱北者と通じた朝鮮族が、日本のメディアが飛びつくように味付けした資料をでっち上げたなどという推測もできます。北朝鮮にとっては日本をじらし続けるのに逆効果の資料、日本にとってはかつての自民党政権、さらには現在進行中の拉致問題解決方針の見直しに繋がる、あるいは間違いを認めなければならない「根拠」とされる可能性がある資料ですから、持っていても見せたくはないはずです。韓国は無関係、中国も無関係、米国の謀略の可能性は少しはありますが、そうだとしてもお粗末すぎます。そうすると、やはり「金儲け」なのではと考えてしまいます。
> お世話になります。
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> この文書はニュースソースが不明瞭ですね。
> いつものように「朝鮮労働党関係者」となっているところがガセ臭い。
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> だとしたら、それを流した者の意図はどの辺にあるのかというのが気になります。
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> 特殊部隊の訓練は、日常生活に至るまで敵国語でやるというのはどこの国でもあまり珍しくないので、たいして気になりませんが。
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> これが本物であれガセであれ、意義として大きいのは、記事にもある通り「小泉純一郎首相との会談で、「八〇年代初めまで特殊機関の一部が妄動主義に走って」拉致を行ったと釈明した」時点では、北朝鮮はすでに拉致をしておらず、今後もしないと多くの日本人が勘違いしてしまっていたことに気づかせた点でしょう。
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> 世界最大の不正規戦組織であり、かつてのパルチザン精神を今も継承する北朝鮮がそれをやめるはずもなく、金正恩もまたそれを継承していると注意喚起した点では評価できます。
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> 金正日の「釈明」は「軍事目的達成に力を入れ過ぎ、政治的配慮を怠った」と私は解釈しています。別に詫びたわけでも言い訳したわけでもなく、一部の無能な部下がヘマしただけと平然と言ってのけたにすぎません。
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> これは祖国解放戦争時のゲリラ戦の反省でもあるはずなのですが、「金正日主義」という呼び方があるとすれば、「釈明」までしなければならなかったそれまでのスタイルの工作活動を教訓とした新スタイルの工作活動のことを指すのではないかとも思えます。
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> この記事は、金正恩が思想、精神教育をより強化した目的は何かという答えの一つであり、警鐘でもあると思えます。
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> 以上の点から、拉致被害者が北朝鮮の「反省の気持ち」によって帰国させてもらえるのでは決してないということを認識しなければならないと思います。
コメントありがとうございます。「先軍思想における対外情報学」、「先軍思想対外情報学」、「先軍対外情報学」などであれば、お説の通り、適切な「演出」だと思います(私は、「先軍対外情報学」が一番それらしいと思います。「対外情報」という言い回しももう少し何とかしたいところですが・・・)。「金正日」という人名で釣りたかったのかもしれません。別の方へのお返事に書いたのですが、この辺りのチープな「演出」もmade in Chinaの推測根拠になりますね。
> >「金正日主義」という用語
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> マルクス、エンゲルスは自身の思想をマルクス主義などとは言わず、あくまでも科学的共産主義ですね。レーニンも同じですが彼のライバル達が、「あんなのはマルクス主義じゃないレーニン主義だ」と批判していたのをスターリンが逆手にとってレーニン主義と定義したわけです。
>
> 更に革命の中心がヨーロッパからアジアへと移動すると中国は毛沢東の主張を「毛沢東思想」とし、まあ英語にすれば主義も思想も同じイズムでしょうが、その使い分けで対外的にはローカル性を強調し、内的には逆に主義より上の指導理念として漢字の国ならではの使い分けをしたのです。
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> 主体思想、先軍思想もその流れですが正恩はそれをマルクス、レーニンと同列の○×主義に戻してしまったということです。
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> この文書の作成者さんは、その辺りの妙が判らないのでしょう。
> リアルさを演出したいならば「先軍思想における対外情報学」とすべきでした。