disappointedの用法
- 2014/01/31
- 23:59
昨年暮れの安倍首相の靖国神社参拝について、まず在日米大使館が、そして米国務省が「失望した(disappointed)」と声明を出したことはずいぶん議論の的となった。日米関係の中では異例の表現だったので、この「失望」がどの程度の「失望」か、米国が同盟国に対して発する表現として、どのような意味を持つのか、注目された。中東問題を観測している私にとっては、「よく聞いたことがあるな」という表現である。イスラエルの入植地拡...
Al Monitorで読む中東
- 2014/01/30
- 23:59
中東情勢について、ニュースとその「読み方」を知るのに便利なのが、『Al-Monitor』。タイムリーに中東の新聞の論説の翻訳や、代表的な知識人や専門家のオリジナル原稿が載る。現地のメディアと欧米メディアとの中間ぐらいの線を行っている。例えばエジプトの最新情勢と、チュニジアとの比較論。このブログの過去のエントリ【これとかこれ】を読んでいた人にとっては、そんなに目新しくはないかもしれないが、これ以外にもイランや...
超大国の店じまい? オバマ大統領の一般教書演説2014
- 2014/01/29
- 19:11
今年のオバマ大統領の一般教書演説(1月28日)、録画しておいて見ました。全文ももう出ている。一般教書演説は、アメリカらしく空元気かと疑うほどに大統領の口調も会場の反応もハイなことが多いのだが、今回はこれまでになく淋しい心象風景が伝わってきた。黄昏の超大国。予想通り、ひたすら内政問題に終始した。外交は最後の方にちょっとだけおざなりに。アジア・太平洋地域については特に少なく、具体的なことは何もなし。アジ...
レクサスと日本外交
- 2014/01/29
- 01:56
苦し紛れに即興的に作った造語「LEXUS-A」が、一人歩き、とまではいかないが、おそるおそるお散歩中、ぐらいか。1月26日の『東京新聞』で、木村太郎さんが連載「太郎の国際通信」に寄稿した「元米同盟国連盟が拡大中」というコラムで引用してくださいました。冒頭の部分をご紹介します。「LEXUS-A(レクサスーA)という言葉に出合った。といってもトヨタ製の乗用車のことではない。League of EX US Alliesの頭文字をとったもので...
エジプトは「ちょっといい加減なファシズム」に邁進中
- 2014/01/28
- 01:14
チュニジアで憲法が成立して湧き立っているのに対して、同日同刻、エジプトは軍人大統領推戴に向けてまっしぐら。予想されていた通り、1月26日のマンスール暫定大統領のテレビ演説では、移行期の工程表を変更して、議会選挙ではなく大統領選挙を先に実施すると発表。これで、軍人出身者が出馬し、対抗馬を実質上許さずに、少しでも反対を唱える人たちはデモ禁止法や法廷侮辱罪で投獄して当選し、大統領は議会の制約なく独裁権限...
答え合わせ(1)チュニジア立憲プロセス成功の理由
- 2014/01/27
- 22:50
中東・イスラーム学のブログを始めてみて10日ぐらいしかたっていないけど、ほかの同様のブログでは何を言っているのかが気になってきた。まずチェックしたいのは、ファン・コール先生(ミシガン大学教授)のブログ「Informed Comment」。英語圏の中東情勢ブログの最高峰。誰も追随できない。エントリ数がすごく多い。重要なニュースへのリンクが早い。コール先生のお友達の優秀な学者のコメンタリーや論文なども即座にリンクされ...
チュニジアで新憲法制定 組閣も
- 2014/01/27
- 22:12
1月26日深夜、チュニジアの立憲議会が新憲法案を可決。信任投票の必要はなく、そのまま制定へ。149か条からなる新憲法。ジュムア新首相も組閣名簿をマルズーキー大統領に提出。こちらは議会で承認されるかどうかまだ分からない。内務大臣の再任をめぐって、世俗派がイスラーム主義派を突き上げるという構図。チュニジアの立憲プロセスの重要性については集中的に書いてきたので、改めて列挙します。「チュニジアではなぜうま...
エジプト軍ヘリ撃墜で「地対空ミサイル使用」の恐怖
- 2014/01/27
- 19:43
エジプトがまた一歩、局地的・低強度ながら「内戦」に近づいている。その画期と言えるのが、1月25日のシナイ半島北部シャイフ・ズワイドでの軍ヘリコプター撃墜だ。当初はエジプト政府当局は機器の故障が原因としていたが、実際には撃墜されたことが明らかになった。1月24日のカイロ警察本部はじめとした4ヵ所の爆破テロで犯行声明を出したアンサール・バイト・マクディス(聖地エルサレムの守護者)が、軍ヘリ撃墜について...
革命のクライマックスとしての憲法制定について:アレントを手掛かりに
- 2014/01/26
- 22:25
チュニジアの立憲プロセスに関して補足。そもそも、「革命」の成果の確定としての「憲法制定」の重要性、というものが日本ではきちんと理解されていないのかもしれない。だからチュニジアでの成果について、日本と欧米とでここまで報道が異なるのかもしれない。「革命」の最重要部分としての立憲政治については、ウェブ上で論説を書いたことがある。池内恵「「アラブの春」は今どうなっているのか?――「自由の創設」の道のりを辿る...
チュニジアではなぜうまくいって、エジプトではなぜうまくいかないのか
- 2014/01/26
- 22:06
それにしても日本ではなぜチュニジアの動きが報じられないのだろう。エジプトで2011年1月25日に始まった大規模デモを起点にして、現在の情勢が「アラブの春から3年」という切り口で報じられることが多いので、1月26日の日曜日の各局のニュース番組を見てみた。すると、チュニジアで今まさに起っている、欧米メディアでは伝えられている重要な動きが、まったく取り上げられていなかった。ここは日本のメディア関係者の限界。物事を...
エジプト情勢の今後の見通し
- 2014/01/25
- 23:19
1月24日のテロは、今後のエジプトの政治の展開にどう影響を及ぼすだろうか。(1)軍・警察が「対テロ戦争」を標榜し、軍主導の政権へのいっそうの翼賛を国民に呼びかける。(2)スィースィー国防相が軍籍を離脱し「文民」と称して大統領選挙に立候補。反対勢力を排除し、圧倒的な得票率で当選(ただし投票率は低い。賛成票と棄権のみ、という状況で、選挙による体制正当化の効果が薄れる)(3)カイロなど都市部を中心に中間層...
テロとムスリム同胞団の関係
- 2014/01/25
- 20:30
カイロの警察本部への爆破テロについて、多くの報道が出ている【爆発の瞬間】【エジプトに関して質が高い英語メディアはこれ】。軍・警察への翼賛体制となっているエジプトでは、今回のテロも「ムスリム同胞団の仕業だ」という議論が活発に行われるだろうが、これは疑わしい。少なくともエジプトが今抱えている政治問題を正確に反映していない。まず、ムスリム同胞団は、幹部が中枢から末端組織までほぼくまなく逮捕され投獄されて...
エジプト・カイロ警察本部への大規模なテロ(1月24日)
- 2014/01/25
- 19:14
エジプトでは昨日1月24日、複数の大規模な爆弾テロがあった。最も重要なのは、カイロ警察本部の爆破。写真を見る限り、これはもう局地的な「内戦」「軍事攻撃」に近い規模になっているのではないかと思われる。タハリール広場に近い内務省のビルは、近くの通りをブロックで封鎖して近づけないようにしてあるので、犯人側は、警察本部を標的にしたようだ。エジプトの治安の総本山が、道路に面した部分だけとはいえ、大破するような...
チュニジアとエジプトの論戦@ダボス会議
- 2014/01/25
- 17:20
チュニジアはエジプトを「反面教師にしている」という話。チュニジアのイスラーム主義系与党ナハダ党の最高指導者ラーシド・ガンヌーシー氏がダボス会議のパネルでエジプトの元外相・元アラブ連盟事務総長で、クーデタ後の新憲法制定のための「50人委員会」の議長となって、旧体制派の先鋒のようになっているアムル・ムーサ氏を批判。ダボス会議の会議の英語のホームページではとっさに検索しても出てこないので(アラビア語とフラ...
チュニジアではなぜ移行期プロセスがうまくいっているのか
- 2014/01/25
- 16:30
日本では誰も注目していないようだけど、1月23日に、「元祖アラブの春」のチュニジアでは立憲議会が憲法草案を確定した。あとは全文について改めて立憲議会で採決するのみ。早ければ26日にも行われるのではないか。Constitution Passes Milestone, Final Vote Expected in Days, Tunisia-Live, 23 January長い困難な道のりでしたが、よくここまできました。エジプトで去年6月30日の反ムスリム同胞団デモと、7月3日のクーデタで、選...
本日(1月24日)夜9時からのNHKニュースウオッチ9にコメント
- 2014/01/24
- 12:49
本日(1月24日)午後9時からのNHKニュースウオッチ9の中で録画コメントが放映される予定です(収録済み)。テーマは「エジプト革命3年で」。私は今日午後早めからオフ。東京近郊某所に引きこもり、締切ぎりぎりの論文にうなされながら息抜きをいたします。...
シリア問題をめぐるジュネーブⅡ会議でテロリズムが論点に
- 2014/01/23
- 21:26
1月22日から、スイスのモントルーで、シリア問題をめぐる「ジュネーブⅡ会議」が開かれている。これについては『フォーサイト』に分析を寄稿したのだけど、その一部を下記に。アサド政権は何年かかったとしても軍事的に勝利しようとしているため、ジュネーブⅡでまともに話し合う気はない。もっぱら「反体制勢力はアル=カーイダ系のテロリストだ」というプロパガンダで、欧米の介入を阻止しようと考えているようだ。実際これは効果...
トルコはもう「三丁目の夕日」じゃないよ
- 2014/01/22
- 17:17
都市部の世俗派を中心にした反政府デモに続いて、今度は政権内の汚職と、汚職追及の背後にいるイスラーム系団体との仲間割れで揺れるトルコ、エルドアン政権について、英『エコノミスト』誌は示唆に富む論説を載せてくれている。最近のものではこのあたりか。Turkish politics: No longer a shining exampleTurkey’s government disappoints because of allegations of sleaze and its increasingly authoritarian ruleThe Economi...
ブログ・タイトルの由来
- 2014/01/22
- 01:44
このブログの開設を知った人から、「風姿花伝」と銘打っているということは、中東・イスラーム学の名人が極意を教えてくれるということかね?と聞かれました。決してそういうことではありません。むしろ自分自身に対する呼びかけです。なぜこのブログを立ち上げる気になったかというと、1973年9月生まれの私はもう40歳になってしまった、ということを正面から見つめようという気になったからです。何で40歳になったから「風姿花伝...
アンワル・イブラヒム元マレーシア副首相の入国拒否
- 2014/01/21
- 13:44
この件、政策として、まったく意味が分かりません。「マレーシア元副首相、成田で入国拒否される」(AFP=時事 1月20日(月)18時19分配信)「マレーシア元副首相の入国拒否 東京入管」(朝日新聞デジタル版2014年1月20日21時44分)アンワル元副首相は、アジア通貨危機の波及で政治・経済的に動揺した1998年、当時のマハティール首相と袂を分かって解任され、汚職や同性愛の罪を着せられて投獄。嫌疑は濡れ衣というのがほぼ世界...
2014年の注目点:中国は中東政治に関与を深めるか
- 2014/01/21
- 13:12
『フォーサイト』の「中東の部屋」に寄稿した文章の冒頭です。有料ですが、時々一部の記事が無料公開になることもあるので、そうなったらまたお知らせします。2014年の注目点:中国は中東政治に関与を深めるか 2014年の中東情勢での一つの注目点は、2013年に顕著になった米国の覇権の再編と希薄化に対応して、ロシア、そしてついに中国が、安全保障を中心とした政治面で域外大国として中東に深く関与していくかどうかである。 ...
シリアの「中道」勢力はどこに?
- 2014/01/20
- 14:52
ちょっとおもしろいな、と思った記事。「アサド政権元官僚が、置き去りにされた一般シリア人を代弁すると主張(Ex-Official Claims to Speak for Sidelined Syrians)」『ニューヨーク・タイムズ』1月18日(電子版)に出ていました。たしか無料で月何本か読めるのではないかな。より細かなインタビュー記事はここ。ジハード・マクディスィーというのは、シリア問題を追いかけている人にとっては馴染みの名前と顔。元シリア外務省報...
御厨貴『知の格闘』に参加して格闘
- 2014/01/20
- 13:09
出ました。御厨貴『知の格闘──掟破りの政治学講義』(ちくま新書)御厨貴先生が2012年に行った、最終講義シリーズの書籍化です。6回の講義に、それぞれ一人コメンテーターがついて、私は第6講の「映像という飛び道具──メディアと政治」でコメンテーターを務めています。最終講義というとひたすらお説を拝聴するだけで、さらに言えば、古くなった学説や思い出話を延々と聞いてうなずいたりしなければならない堅苦しい儀式とな...
2013年に書いた論文(イスラーム政治思想)
- 2014/01/19
- 16:57
昨年末はイスラエルへ、一月早々にはアメリカへ出張したため、仕事関係へのお年賀のあいさつすら欠かすことになってしまいました。せめて昨年の主要な仕事についてご報告。昨年も中東についての比較政治学的な分析や情勢分析、論壇向けエッセーなどは数多く書きましたが、同時に、メインのテーマとして取り組み続けているのは、イスラーム政治思想。特に現代のジハード論が、近代史上のどのような条件と経緯を背景にいかに展開して...
書物の運命、の運命
- 2014/01/18
- 22:06
考えてみれば、作りかけの「土台と柱だけ」の建物が居並ぶ街並みの風景は、私にとってのアラブ世界の原風景。ブロックを積み重ねて何年もかけて建物を作るのが現地のやり方です。この風景について、ずっと昔、「屋上に立つドア」というエッセーを書いたことがあります(『文藝春秋』2003年4月号)。この雑誌に初めて書かせてもらった時じゃないのかな?まだ20代の、何ら実績も経験もない書き手が、大御所たちと並んでしまう巻頭の...
エルサレムより中継で:テレビ朝日報道ステーションでのコメント(12月23日)
- 2014/01/18
- 22:03
今日はセンター入試の関係で夜になってから研究室に行って作業をしていたのですが、そろそろ帰らないといけません。夜道はいっそう寒いでしょうし。昨年末はエルサレムへ行ってテレビ出演、年初早々に今度は米国ニューオーリンズへ学会発表に行ったため、論文や事務作業が滞っています。圧縮された年末年始の休暇では、到底終わりませんでした。エルサレムに行ったのは、テレビ朝日「報道ステーション」の12月23日の回に出演するた...
『文藝春秋』って・・・
- 2014/01/18
- 20:47
・・・「年配の人が読者層」というイメージがありますが、そして実際そうですが、それでも最近は、けっこう若い世代が将来を考えるのに役立つ情報や論点も載るようになってきていると思います。若い人たちの将来を変えるには、この国を依然として動かしていて、本当は変わりたいんだけど変われなくて今いる場所にしがみついているオジサンたちの頭の中を、なんとかして変えていくのが、遠回りなようで、それでいて最も近道です。20...
20年後の中東はどうなっている?(月刊『文藝春秋』2月号に寄稿しました)
- 2014/01/18
- 20:37
最近出た文章を一つ紹介。メモ代わりに。池内恵「米国なき後の中東に何が起こる」『文藝春秋』2014年2月号(第92巻第3号、1月10日発売)312-314頁。「『20年後の日本』への50の質問」という特集の中の一本として寄稿しました。実際には20年後を予測することなどできないので、これまでの20年ほどを振り返って、その延長線上に今後の20年はどうなるか、について考えてみました。20年ちょっと前に起きた、中東の現在を方向づけた最...
センター入試初日
- 2014/01/18
- 20:00
寒いですね。一年のうち一番寒い時期に行われるのが、大学入試。国立大学の教員にとっても年中行事の、「入試試験監督」の業務が降ってくる時期です。考えてみれば、教員・研究者がほぼ全員、全国一斉に、同日同刻に、入試監督という単純作業に従事するというのは、私の知る限り日本だけです。朝から日が暮れるまで、一心不乱に答案に取り組む受験生さんたちを見守りながら、こちらも「おしゃべりなどもってのほか、本を読んでもい...
【連載】もっと先を知りたい人へ『フォーサイト』
- 2014/01/15
- 17:55
このブログでは、とにかく短く、なるべくなら一日一回、中東やイスラーム世界について気が付いたことを書いてみることにします。ですので、あくまで初心者向け、広く一般向けを目指しています。専門家やメディア関係者、官庁や関連業界関係者など、もっと詳しく読みたい、と思われる方々は、有料ですが、ぜひ『フォーサイト』(新潮社)の中に設置したブログ「中東の部屋」と連載「中東 危機の震源を読む」を読んでみてください。...