サウジの石油価格下落放置の究極の狙いは「需要の維持」とする説
- 2015/04/16
- 07:00
石油価格が低下傾向に入ってから10ヶ月ほど。米国のシェールオイルの生産の落ち込みが始まり、今年1月にはブレント指標で50ドル/1バレルを割り込んだが、サウジのイエメン介入が地政学リスクの認識を高めたせいなのか、4月14日には58ドルまで上がっている。しかし、昨年後半以来の石油価格低下を、サウジが止めようとしなかったこと、特に、OPECでの価格引き上げ策を積極的に拒否して下落を加速させたことについては、...
「イスラーム国」とフセイン政権残党のつながり『ワシントン・ポスト』紙
- 2015/04/15
- 07:00
「イスラーム国」のイラクの指導部にフセイン政権の関係者が入っているという『ワシントン・ポスト』紙の報道。よく言われている話で、『イスラーム国の衝撃』でも言及しておいたが、特に決定的な目新しい情報があるわけでもない。しかしアラビア語紙でもそのまま転載されていることが多い。話題になっているので、参考読み物としてポストしておきます。写真も付いているし。"The hidden hand behind the Islamic State militants?...
ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック』
- 2015/04/14
- 11:36
シリア内戦や「イスラーム国」、ジハード主義の運動についていい記事をよく載せている『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』のブログをたまに見ているが、ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック(Carnets de Homs)』が英訳されることを知った。英語版の序文が転載されている。Jonathan Littell, "What Happened in Homs," The New York Review of Books, March 18, 2015.フランス語版は2012年に出ている。Jonatha...
イエメン情勢を読み解く
- 2015/04/13
- 07:00
イエメンの問題についてここのところ詳細に紹介しているけれども、それはローカルな興味からだけでなく、サウジの動揺と湾岸産油国全体の動揺につながりかねないがゆえに日本にとって重要性を持つからだ。ワシントン・ポスト紙は、サウジの対イエメン空爆は3月26日の開始以来2週間で、見たところはかばかしい成果を上げておらず、人道問題や、過激派の活動する権力の空白が広がっていると、早速警鐘を乱打。"Yemen conflict’s ...
イエメン情勢の「最悪の最悪の」シナリオは
- 2015/04/12
- 08:00
サファー・アハマドのイエメンについてのドキュメンタリーについて昨日紹介したけれども、これを4月7日に放送した米公共放送局PBSは、イエメン情勢についての基礎情報や最新の分析を次々と放送したりウェブに上げている。元FBI捜査員で、9・11事件以前にイエメンでのアル=カーイダの活動を追いかけていたアリー・ソウファーンのコメント。ソウファーン・グループは、アル=カーイダとその関連組織や、「イスラーム国」への義...
イエメンのドキュメンタリーの行方
- 2015/04/11
- 09:01
おはようございます。本日も論文準備のため出勤です。寒いです。平日は大学事務やら、いろいろな依頼に応えたり断ったり引き受けると事務作業とか面会して打ち合わせとかこないだの講演の文字起こしを直せとかものすごい大量の雑務が積もっているのでほとんど仕事にならない。皆さん、何が重要なことか、ちょっと考えてください。それはともかく、先日、イエメン問題についていいドキュメンタリーがある、という紹介をしたところ、...
イエメン情勢を現場から解読するドキュメンタリー
- 2015/03/31
- 07:00
イエメンの情勢を現場から、かつ政治対立の構造を見事に可視化してくれるドキュメンタリーが、BBCのホームページで公開された。The Rise of the Houthisこれはすごい。2014年9月に首都サヌアを制圧してから3ヶ月の間の変化を記録しており、一つ一つの画面や登場人物から目を離せない。取材・構成はサファー・アハマド(Safa Al-Ahmad)。BBCアラビックの記者で、急速に注目される女性である。サファーはその前に作った、サウ...
チュニジアのウクバ旅団の脅威についてのJane's事前の予測
- 2015/03/25
- 07:00
昨日は、チュニジアのテロに関して、関与が疑われる最有力候補としてのウクバ・イブン・ナーフィア旅団について、それが「イスラーム国」の一部と言えるのかどうか、「アンサール・シャリーア」など他の組織との関係はどうかなど、混乱の所在と論点を提示したが、まだまだ議論は尽きない。チュニジアという日本でよく知られていない国であるために、そもそもウクバ旅団について報道で名前さえ触れられないので、議論がしにくい。例...
チュニジアのテロを行った集団は「イスラーム国」に属するか否かーーウクバ旅団について
- 2015/03/24
- 07:00
チュニジアのテロについて、どうも現地の報道と、日本の報道に乖離があって隔靴掻痒である。その中間には、英語圏の国際メディアの報道があるが、こちらは現地報道のうち共通認識と言える部分をかなり吸い上げつつ、「イスラーム国」や「アンサール・シャリーア」「アル=カーイダ」などのグローバルなジハードの展開についての記事へと結びつけている。日本の報道ではある程度以上複雑(に日本の読者に感じられる)ことを捨象して...
リビアを新たな聖域とするグローバル・ジハードの次の目標はチュニジア、エジプト、アルジェリアの不安定化(2月18日エントリの再録)
- 2015/03/21
- 12:18
3月18日のチュニジアでのテロについて、情報を取りまとめております。この事件の直接的な背景が何であったのか、この事件をきっかけにチュニジアや北アフリカに今後何が起こってくるのか、考えています。そもそも、チュニジアを中心とした「アラブの春」によって政治変動が様々に起こった諸国について、現在本を完成させる途中であり、そのためにチュニジアそのものについての情報のとりまとめと発信は後回しになっていました。...
ヨルダン人パイロットの殺害映像公開で分かった、人質交換交渉の内実
- 2015/02/04
- 18:30
2月3日に公開された「イスラーム国」の殺害声明ビデオによってヨルダン空軍パイロットのムアーズ・カサースベ中尉の殺害が明らかになりましたが、ムアーズ中尉は1月3日にすでに殺害されていたことがヨルダン政府によって明らかにされています。 1月27日に公開された脅迫映像では、ムアーズ中尉が今回のビデオで焼殺に使われている檻の中にいる写真を、後藤さんが掲げさせられていることから、以前から殺害されていたこと...
「イスラーム国」は日本の支援が「非軍事的」であることを明確に認識している
- 2015/02/03
- 01:54
「イスラーム国」による日本人人質略取・脅迫事件は、人質二名の殺害という結果に終わった。今回のテロ事件の発生に関して、安倍首相の中東歴訪およびその間の発言が事件を引き起こした、あるいは少なくとも「口実を与えた」とする議論が提起されている。因果関係論であれ、責任論であれ、事実に基づいて行う必要がある。最大の論点であり、また誤った情報が流れているのは次の問題に関してである。すなわち、安倍首相が1月17日...
後藤さん殺害映像から読み取れる人質事件の性質と犯行勢力の目的について
- 2015/02/01
- 15:00
本日朝5時半以降のフェイスブック・アカウント(https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi)での発信を整理してまとめておきます。1.1月20日から2月1日にかけての人質事件の基本性質について 2月1日午前5時すぎ(日本時間)からソーシャル・ネットワーク上で公開された「イスラーム国」による人質殺害声明ビデオにより、人質となっていた後藤健二さんが殺害されたことがほぼ確実となった。 人質がオレンジ色の囚人服...
人質殺害脅迫の犯行グループが期限を24時間に:生じうる交渉の結果を比較する
- 2015/01/28
- 02:24
「イスラーム国」より、24時間以内の後藤さんの殺害を脅迫し、サージダ・リーシャーウィーの釈放を要求する声明が出ました。交渉の内側について私は情報を持ちません。交渉論的に、生じうる結果を場合分けし、それぞれの政治的帰結を考えてみました。1月28日午前2時の段階でフェイスブックに投稿しておいたポスト(https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi/posts/10202573053326596)を再録しておきます。(1)非常に悪い...
今回だけなぜ静止画像なのか?
- 2015/01/25
- 06:45
この記事でも触れられているように、これまではJihadi Johnが出てきた時には、必ず動画で殺害そのものを描く映像があった。しかし今回は静止画像と被せられた音声のみである。http://www.reuters.com/article/2015/01/24/us-mideast-crisis-japan-usa-idUSKBN0KX0MN20150124何よりも、Jihadi Johnが全く出てこない。背景もいつもの荒野と青空ではなくただの白無地である。しかも後藤さんは遺体の写真を掲げていて、実際の遺体は写...
「イスラーム国」による日本人人質殺害と新たな要求について
- 2015/01/25
- 05:49
昨日午後11時過ぎに公開された日本人人質の一名の殺害声明については、まず午前12時30分ごろまでの情報をまとめておきましたが、その後は、取り急ぎ参考情報をフェイスブック(https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi)から発信しました。下記に、ツイート的に断続的に発信したポストを再録しておきます。1月25日午前1時〜4時30分ごろにかけての断続的にメモとして記しておいたものです。(1) 非常に痛ましい情...
「イスラーム国」による人質殺害声明の基礎情報:さらに情報があればフェイスブックで発信します
- 2015/01/25
- 00:40
午後11時過ぎ(日本時間)にツイッター上に公開された映像の中で、シリアで「イスラーム国」によって拘束されていた二人の日本人人質のうち、湯川遥菜さんの殺害が発表されました。私はこの映像の真偽を判断する能力を持ちません。テロリズム調査会社のSiTEが映像を分析して真正と判断している模様です。SiTEはこれまでに、高い精度の分析能力を示してきました。(SiTEのリリースには繋がりにくくなっています)https://news.sit...
「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ
- 2015/01/20
- 20:55
本日、シリアの「イスラーム国」による日本人人質殺害予告に関して、多くのお問い合わせを頂いていますが、国外での学会発表から帰国した翌日でもあり、研究や授業や大学事務で日程が完全に詰まっていることから、多くの場合はお返事もできていません。本日は研究室で、授業の準備や締めくくり、膨大な文部事務作業、そして次の学術書のための最終段階の打ち合わせ等の重要日程をこなしており、その間にかかってきたメディアへの対...
『イスラーム国の衝撃』プレヴュー(1)目次と第1章
- 2015/01/04
- 11:09
文春新書で1月20日に出る『イスラーム国の衝撃』ですが、アマゾンなどの予約注文画面では目次が出ていないので、ここで公開。1 イスラーム国の衝撃2 イスラーム国の来歴3 蘇る「イラクのアル=カーイダ」4 「アラブの春」で開かれた戦線5 イラクとシリアに現れた聖域6 ジハード戦士の結集7 思想とシンボル−−−−メディア戦略8 中東秩序の行方むすびに文献リスト「1 イスラーム国の衝撃」では、2014年6月か...
トルコと米国の当面の妥協──イラクのクルド武装組織をシリアに投入
- 2014/10/23
- 19:07
シリアでの「イスラーム国」への対処について、決定的な鍵となるトルコの姿勢が具体化しつつある。米国のトルコへの強い参戦圧力と、独自の解決策や懸念を擁してそれに抗してきたトルコとの外交的なせめぎ合いに変化がみられた。注目されるのはこの二つの動き。10月19日:米軍がシリア北部コバー二ー(アラブ名アイン・アラブ)のクルド武装勢力YPGに殺傷力を持つ武器を投下。10月20日:トルコがイラクのクルド武装勢力(ペシュ...
トルコのシリア北部に対する政策は1991年のイラク北部に対するものとそっくり
- 2014/10/05
- 23:30
トルコ国会は10月2日(木)にシリアとイラクへ軍の越境攻撃を認める決議を採択した。これによってエルドアン大統領・ダウトウル首相の現政権はシリア・イラク情勢に軍事的に対処するためのフリーハンドを得たことになる。米主導のイラクとシリアでの「対イスラーム国」への空爆にトルコが参加を渋ってきたことはすでに書いた。空爆に参加しないだけでなく、NATOに提供してきたインジルリク空軍基地の使用をこの件に関しては拒...
トルコはシリア北部の安全地帯化を提案、空爆には依然として不参加
- 2014/09/28
- 00:45
米国のシリア空爆には、湾岸産油国が象徴的に参加しているが、実質的な解決には地上での同盟勢力が欠かせず、それが得られないところが最大の制約になっている。空爆自体は、アサド政権の黙認と歓迎の下、空軍・対空防衛能力がほぼ皆無の「イスラーム国」及びイスラーム過激派諸勢力に対して行われており、攻撃する側に、誤爆・事故以外の危険はほとんどない。しかし「イスラーム国」が入り込んでくることを可能にしたシリア北部・...
UAEは女性パイロットを、サウジは王子様パイロットを動員して、米世論と対イスラーム国でイメージ戦略
- 2014/09/26
- 23:59
今日はこの写真から。出典:The National写っているのは、アラブ首長国連邦(UAE)空軍のマリヤム・マンスーリー少佐。戦闘機のパイロットです。なお、Tne National はUAEアブダビの英字紙です。9月23日(現地時間)の米国の対シリア空爆に参加したUAEは、「女性パイロットがミッションを率いた」と欧米メディアに流して、情報戦・イメージ戦略に乗り出している。サウジも同様である。こちらは王子様パイロットを出してき...
シリア空爆への続報と同盟国のホンネ
- 2014/09/24
- 23:59
9月23日に開始された米国のシリア空爆についての続報などを急ぎとりまとめ。時間がたつと忘れてしまうと思うので、タイムカプセルのようにリンクを張っておこう。空爆はすでに二日目に入っているが、それほど特筆すべき事実は出てきていない。むしろ初日に一斉に出てきた各種論評で出てきた論点を消化する必要がある。初日の空爆の詳細についての記事をいくつか挙げておこう。初日の空爆についての米軍や大統領の発表で、(1)湾...
米国のシリア空爆への第一報と論調
- 2014/09/23
- 23:59
9月23日早朝(現地時間朝だいたい5時ごろとみられる)に、アメリカ主導で、湾岸産油国とヨルダンが形式的に加わった多国籍軍が、シリア北部・東部への空爆を開始した。9月10日のオバマ大統領の演説で明らかにされていた、「イスラーム国」への空爆をイラクからシリアに拡大するという決定を実行に移した形だ。空爆が行われた地点は次のようなものと見られている。出典:Syria Direct米国や西欧のテレビや新聞はこの話題で持ちきり...
NHK「深読み」の後記(3)石油の密輸ってどうやるの
- 2014/09/20
- 23:59
本日の「NHK 週刊ニュース深読み」の後記(3)。これでおしまい。「イスラーム国」の資金はどうなっているの?という話で、当初は「サウジアラビアなどの裕福な個人が喜捨をして支援したので資金が潤沢だ」という話が多かった。そうであれば、サウジアラビア政府などがもっと締め付ければ資金は枯渇するとも考えられる。また、サウジ何やってるんだ、という批判にも結び付く。しかしこれはかなり昔の話で、シリアでアサド政権...
NHK「深読み」の後記(2)モースルの総領事館員らトルコの人質が全員解放された
- 2014/09/20
- 23:10
土曜日朝の「NHK 週刊ニュース深読み」で話していたことの続報(2)。対「イスラーム国」で周辺諸国の足並みがそろわない理由として、トルコについては「イスラーム国のモースル制圧の際に、トルコ総領事館員ら49人を人質に取ったままである」点が常岡さんより言及されていましたが、ちょうどこの日、現地トルコの時間で早朝、人質が全員解放されたようです。これはかなり大きなニュースです。"Turkey says hostages held b...
トルコ政治の今後の展開は中東情勢の軸になる
- 2014/09/14
- 23:59
先月のトルコの大統領選挙について、選挙直前にNHKBS1の『国際報道2014』で行った解説の全文おこしがNHKのホームページに掲載されているようです。「世界が注視 トルコ「エルドアン大統領」誕生か」NHKBS1『国際報道2014』2014年8月8日(金)私の校閲は受けていない、つまりテレビでしゃべったところが言い間違いなども含めて全部載っているはずですが、しかし「てにおは」などは実際に喋ったものよりも過剰に口語...
「マキャベリスト・オバマ」の誕生──イラク北部情勢への対応は「帝国」統治を学び始めた米国の今後を指し示すのか
- 2014/08/21
- 23:36
しばらくブログの更新が途絶えていた。北の方の涼しい所に行ってきまして、ウェブ環境があまり良くなく、長期的な読書と思索に専念していました。その間のニュースは活字データで押さえていましたが、主要な話題は、(1)ガザ情勢は、以前に書いた通り、停戦を繰り返しながら収束局面続く。(2)イラク北部情勢への米国の直接介入は、限定空爆を適宜行いつつ、同盟国(勢力)への支援を本格化する形で、長期化する模様。というと...
ガザ紛争で再び72時間停戦──収束に向かう遅々とした歩み
- 2014/08/12
- 23:59
イスラエル・ガザ紛争については、空爆開始から数えて29日目の8月5日朝に発効した一時停戦(72時間)を画期として、一時的な揺り戻しはあれども、収束に向かっているものと考えています。エジプトは8月10日(日)に、この日の夜9時からの再度の一時停戦(72時間)を双方に呼びかけ、イスラエルと、ハマースおよびイスラーム・ジハード団がこれを受け入れ、現在のところ双方の攻撃が止んでいます。8日の一時停戦期限切れの後もカイ...