2018年8月 2日 (木)

「人材に投資することの重要性をわかっていない」と叫ぶ愚かさ

人材に投資されないのは、その投資を金銭的に回収できる人達がいないから。人材に投資してくれないと嘆く分野の人達は、金を稼ぐことだけに長けている人達に敬意を払わない傾向がある。自分を卑下してる人達に投資をしようとする人は少ない。

 

アメリカにおいては、苦労が報われて大成するアメリカン・ドリームのヒーローもいるが、結果的に労せずして収益を得る人もヒーローだ。
自分が尊敬しているヒーローから高く評価してもらえることを報償ととらえ、さらにそのヒーローを尊敬するという正帰還を構成する。
その評価の程度は給与額として可視化される。報奨は高評価であって高給ではない。

 

投資する者から投資される者への単方向の関係性でしか考えない分野(昭和の人はこれをクレクレタコラと言う。)では、その投資は正帰還を生まない。
両者が互いに敬意を払い高く評価し合うという双方向の関係性においてのみ、投資の正帰還が作られうる。

 

日本はこれまで、先行するアメリカを追走し、その後それを追い越すことができた分野が多かった。
それは、アメリカが事業の収益化の方策を考え出し、その収益化方策の原形の下で事業効率を高めることが得意だったと言える。国際競争力は、事業効率を高めることだった。
つまり、事業に従事する者達の貢献が重要だった。それは、不眠不休の弛まぬ努力だったかもしれない。
ジェフリー・ムーアの言を借りるなら、ゴリラが作った原形の下で事業をしているうちに、チンパンジーの群れの中から、ゴリラの収益を凌駕する賢いチンパンジーが出てくる機会があった。

しかし、今はその収益化原形を考え出したか否かが競争に求められている。
その原形を作った最初の者に利益は独占される。ただし、そこに競争が必要なため、実際には同じようなことを同時期に考え出した次の者との2者で独占する。
かれらを2頭の竜と呼ぶなら、それ以外の3番手以後の追従者は、地面を這う蛇にしかなれない。
つまり、事業を立案する者の貢献が最重要になった。それは、一瞬のヒラメキでなされるかもしれない。

 

 

 

前者の状況であれば、単方向の関係性でもある程度は回る。しかし、後者の状況では、双方向の関係性が必要であり、むしろ、投資する者に対して払う敬意の方がより重要になる。
必要なのは感謝ではなく、敬意であり、すなわち評価である。

 

 

 

「人材に投資することの重要性をわかっていない」という言葉には、投資する者への敬意がたりない。

8月 2, 2018 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年12月31日 (土)

IT産業分野の失策

事業に関する「運営と運行」を整理して分ける事ができるようになったため、いままで少し思っていた別のことの整理が進んだ。

それは、人材育成についてのことだ。
およそ8年前に事業戦略策定を考えていたときに整理した「2種類の財布」と「2種類の使い方」という、人材育成とは一見関係のない視点の話しから始めることにする。



【2種類の財布:コンシューマとエンタープライズ】

IT市場のお客様には、2種類の財布が存在する。
それは、コンシューマ(消費者)の財布とエンタープライズ(法人)の財布だ。

●コンシューマの財布

WHAT:
この財布には、自分の満足を高めるために一時的に手元に持っているお金が入っている。

WHY:
満足をより高めるためには、財布以外のお金も使うことができる。使おうと思って予め引き出した現金と、足りないときのクレジットカードを想像すると理解しやすい。
逆に、満足を得られないと思えば、使おうと思って引き出していた財布のお金を1円も使わないと決めることができる。

WHEN, WHO:
満足を得るために、「使うかもしれないお金」と言える。
いつ使うかは、本人が使うかどうかを決める。

●エンタープライズの財布

WHAT:
この財布には、決められた目的達成のための手段を実現するために与えられたお金が入っている。

WHY:
与えられたお金以上の金額を使うことは通常できない。
与えられたお金を残すことは通常ない。そのお金は、目的達成のために何らかの使われ方をする。
目的をあきらめた場合に限って、そのお金を使わないということが考えられるが、そのような場合には、目的が変更されて、やはりそのための何かに使われるのが一般的だ。

WHEN, WHO:
目的達成のために、「使うと決まっているお金」と言える。
使うかどうかを組織が決めている。それを任されている人が使いかたを決める。

●SMB(Small & Midium Business)の財布

かれらは、コンシューマのように振る舞ったり、エンタープライズのように振る舞ったりする。
そのときどきに応じて、かれらが、どちらの顔を示すのかを見極めるのは難しい。
ときとして、かれら自身もどちらで振舞うのかについてわかっていないことがある。
SMB においては両方に備えるしかないのだろう。



【2種類の使い方:カスタマとクライアント】

お財布の種類は2種類あるが、その使い方に2種類ある。
それは、カスタマ(顧客)的使い方とクライアント(依頼人)的使い方である。

●カスタマ的使い方

HOW, WHERE:
この使い方は、自分の満足を高めることができる商品を、市場にある商品の中から選択する。

より多くのカスタマに対して、繰り返して売る事ができる商品を用意することがビジネスに役立つ。
この場合、繰り返しとは、異なるカスタマに対する空間的な拡大販売と、同じカスタマに対する時間的な追加販売の両方が含まれる。
商品の一部についてカスタマイズに応じることは有益だが、日々の運行において、まったく異なる個別の要望ごとの商品を1から用意することは、大きなビジネスとしては有益ではない。(※注)
繰り返して売れる部分を商品に多く持たせることが重要である。
新規カスタマを増やすためには、マーケティング戦略などを活用することでマスで対応することができる。

(※注)フルカスタム・メードを期待する需要があるのは事実で、そのようなニッチなビジネス領域はあるが、ニッチであるからこその需要だと思う。

●クライアント的使い方

HOW, WHERE:
この使い方は、自分の手段を実現することができるソリューションを、それを提供できる者に依頼する。

個々のクライアントに対して、個々の期待に沿うソリューションを提供できるようにすることがビジネスに役立つ。
繰り返して売る事ができるソリューションを用意することは、マクロ的に見れば、運行効率を高めることに役立たない。
新規クライアントの開拓に相当のコストを要するため、
ソリューションを購入してくれたクライアントが次に希望するソリューションを、クライアントの要望に応じて用意することの方が、運行効率を高める場合が多い。



【2x2=4つのビジネス象限】

コンシューマとエンタープライズという2種類の財布と、カスタマとクライアントという2種類の使い方を組み合わせて、4つの象限に分けてビジネスの特性を整理することができる。

・ コンシューマ・カスタマ
・ コンシューマ・クライアント
・ エンタープライズ・カスタマ
・ エンタープライズ・クライアント

IT市場においては、コンシューマ・クライアントというのはニッチとなるであろうから、これら4つを大まかには、以下の2つに整理することもできる。

・ カスタマ
・ エンタープライズ・クライアント



【エンタープライズ・クライアント・ビジネスの失策】

エンタープライズ・クライアント・ビジネスについては、個々の期待に応じる能力のある人材が運行に従事しなければならないことになる。既製商品をただ選択させるだけではないビジネスだからである。
人材としては、そのような個々の期待に応じる能力のある人材とそうではない人材を比べた場合、当然前者の方がコストも高く、また調達も比較的困難になる。
だからといって、ビジネスの生産性を高めるために、個々の期待に応じる能力のない人材をエンタープライズ・クライアント・ビジネスの運行に従事させるのは誤りである。
誤った運行というよりは、運営なき運行と言うのが正確である。

このミスリードは、カスタマ向けのビジネス戦略を、エンタープライズ・クライアント向けに誤用したと思われる事例が散見される。
カスタマ・ビジネスにおいては、「繰り返しが金(GOLD)」であるが、エンタープライズ・クライアント・ビジネスでは「繰り返しは禁」とまでは言わないが、必ずしも最良策ではないという認識があまりに低い。
これは、カスタマ・ビジネスだけを習得した MBA 人種による勉強不十分によるミスリードと思われる向きもある。

そのような何らかのミスリードによって、ソリューションを繰り返し売るために、容易に調達できる人材を十分な育成もしないでエンタープライズ・クライアント・ビジネスの運行に採用した。
その結果、個々の期待に沿うことができるソリューションを提供できる人材の数が、エンタープライズ・クライアント・ビジネス市場の成長率と同程度には増えておらず、エンタープライズ・クライアント・ビジネス産業全体に占める割合は、実際には低下した。

その結果、ここにきて、IT産業のエンタープライズ・クライアント・ビジネスにおける品質低下の兆候が見られるようになった。
これは、ビジネス戦略を運営がミスリードしたことで、人材の適材適所を誤った運行が生じた失策として多いに見直さなければならないことであるが、IT業界のエゴは止まらない。




【人材育成】

ここまでの整理をすると、人材育成は、4つのビジネス象限を分けて考えなければならないことが推定できる。
そして、育成によっては人材の調達ができないと考えなければならない象限が存在していることにも気づかされる。
人材育成をすべきではない象限において、育成策を講じることは、百害あって一利なしとなるので注意しなければならない。
これを見誤ると、高品質のソリューションを提供する能力のある人材は、やがてIT産業には訪れなくなる。
その結果、IT産業全体の品質が低下して、さらに優秀な人材の獲得もできないという負のスパイラルが起こってしまう。

たとえ実際にやっていなくとも、やればできる人材がいる間は、その産業は回復できるが、できない人材ばかりとなったときには、その回復はもはや期待できない。
いったんそうなると、できない人材が食えなくなって自主退場するところまで、産業規模が落ち込んでから、適正な人材の規模で回復することになるのだろう。
そうなるくらいなら、適材適所となっていない人材を強制退場させることも考えなければ、正しい運営とはいえない。

12月 31, 2005 | | コメント (0) | トラックバック (0)