2023年7月20日 (木)

健康保険証としてのマイナンバーカード

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マイナンバーカードを身分証明書として取り扱う場合の運用上の課題について「身分証明書としてのマイナンバーカード」という記事で紹介しました。

この記事では、マイナンバーカードを健康保険証として使うことについて紹介します。

マイナンバーカードを健康保険証として使うことには、日本医師会などが永らく反対していましたが、最終的に厚生労働省の「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」で2015年に反対しなかったことにより、現在の健康保険証利用の道筋ができました。

筆者も委員として参加した同研究会の報告書は以下のとおり公開されています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000106604.html

報告書に「医師会として同意する。」という明文があるわけではないですが、マイナンバーカードの健康保険証利用について記載された報告書において、研究会委員として「反対する。」と記載することを求めなかったことで、それ以前のような反対ではなく黙認したということになります。

ただし、具体的な条件として「見えない・預からない」という条件が示され、医療現場で「マイナンバーが見えない」「マイナンバーカードを預からない」ことが報告書の中で繰り返し明記されています。この条件においては、黙認するということになります。

マイナンバーカードに、マイナンバーを目隠しするケースが付属しますが、それの端緒のひとつになっています。(これについては、他の場面でも同じ懸念が示されたため、いくつかあるうちのひとつです。)

 

マイナンバーは、正式名称も個人番号であることから、なんにでも使える国民の識別番号のように思うかもしれませんが、用途は社会保障・税・災害対策に限定された番号です。マイナンバーカードを健康保険証に使うことになりましたが、その言葉通りで、マイナンバーを健康保険に使うことはありません。健康保険に使ってしまうと、マイナンバーの用途から逸脱してしまうからです。マイナンバーカードのIC部分に被保険者であることの資格確認情報を格納するだけで、カードに診療情報が記録されることも、マイナンバーを資格確認に用いることもありません。

簡単に言うと、マイナンバーから、社会保障と税など個人の情報が特定されることはあり得ますが、診療情報など医療に関する情報が特定される経路はないため、特定されることすらないので、万が一にもアクセスされることはないということです。

マイナポータルで自分の医療情報にアクセスできますが、マイナンバーを使ってアクセスしているわけではありません。その意味では、マイナポータルは、マイナンバー・ポータルではなく、マイナンバーカード・ポータルということです。

 

しかし、マイナンバーが診療情報に紐づけられないということは、目に見えるものではありません。

逆に目に見えるものとして、医療現場で医療従事者がマイナンバーカードを取り扱うことになれば、医療機関がマイナンバーを参照したり紐づけたりしているのではないかという疑念を持たれる可能性があります。

マイナンバーカードを取り扱ってしまうと、そこに記載されているマイナンバーについて見たり控えたりしない運用をしっかりしているとしても、見たり控えたりしているのではないかという疑念を持たれてしまった場合に、それらをしていないことを証明することは、悪魔の証明になってしまいます。

それを避けるには「見えない・預からない」ことを条件にする必要がありました。

冒頭に紹介した拙著の「身分証明書としてのマイナンバーカード」で、身分証明書としてマイナンバーカードを受け付けない公立図書館があることについて触れましたが、同じ懸念からくるものです。

 

そのような背景により、医療現場でマイナンバーカードを健康保険証として使う場合は、マイナンバーカードの取扱いは患者本人だけが行ない、医療従事者はカードには触りすらしないということであれば、医師会としては反対しないということになり、条件として明記されました。

 

なお、従来の健康保険証は医療機関の窓口に月初めに一回提出するだけでよいのに、マイナンバーカードだと患者自身が毎回カードリーダで読み取る必要があり、患者にとっての利便性が低下したと思う人がいるかもしれません。

特に混雑している窓口では、従来の健康保険証は診療カードと一緒に窓口に提出すれば、後は診療の順番まで待っていればよく、待ち時間が長ければ、買い物に出かけたりするのを見かけることもあります。

マイナンバーカードでは、少なくとも、カードリーダを通す列に自分で並ぶ必要があります。自分でやることになった背景はここで説明したとおりです。

では、従来の健康保険証の提示は月初めの1回だけなのに、マイナンバーカードの読み取りはなぜ毎回なのでしょうか・・・

これについては、諸事情によりこの記事で具体的に書くことができません。上記報告書の中に、すごくさらっと書かれており、その箇所に関連する議事録などにも目を通していただくと察することができるようになります。ご興味があれば参照してみてください。

 

率直に言うと、マイナンバーカードを健康保険証に使うのは筋がよいとは言えません。

健康保険に使うことが法律上認められていないマイナンバーでありながら、そのマイナンバーのためのカードを使うのは、マイナンバーを使っていることにはならないという建付けで難解です。

さらに、マイナンバーを取り扱っているという疑惑を受けないために、医療現場での患者の利便性が下がってしまうというのは本末転倒でしょう。

マイナンバーカードの発行を任意としながら、それを全国民に発行するための手段として、全国民の加入が義務付けられている健康保険のための従来の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードを健康保険証にするというのもおかしな話しです。

最終的にどう落ち着くのかが、まだ見えていません。「まだ」と言うのは、いったんは従来の健康保険証廃止で決定しましたが、ここにきて廃止の反対意見が出ているので、変わる余地があるのかなと思っています。
しかし、「身分証明書としてのマイナンバーカード」でも書いたとおり、はりぼて式からの脱却をすべきなのではないかと思っています。

7月 20, 2023 | | コメント (0)

2021年2月 2日 (火)

PIA(プライバシー影響評価)という名のエゴ

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個人情報保護の関連用語にPIAというものがある。Privacy Impact Assessmentの略で、直訳するとプライバシー影響評価となる。

PIAについて意見を述べる前に、より身近な環境影響評価というのをまず紹介する。

街の中で大きな施設を建築するときなどに、環境影響評価をすることがある。
たとえば、工事中の騒音が近隣の生活に悪影響を与えないかとか、地面を大きく採掘して地下に構造物を作ることが地下水脈に悪影響を与えないかといったことを調査することで、環境への悪影響がないことを事前に評価して、環境を保護しようとするのである。
それによって、環境破壊が未然に防がれることになる。

そのように保護対象への影響を事前に評価することで、未然に保護違反を防ぐことは意義がある。
事前評価であることから、予測が前提の手法であり、事後の計測とは無関係という印象があるかもしれない。
しかし、過去の類似事例の計測結果と、それが与えた影響という先例を参考にすることで、影響を予測することができるのであるから、どのような計測を想定するかは予測には欠かせないことだ。

そのため、環境影響評価においては、たとえば騒音であれば音量を計測することができ、水脈への影響も水流量を計測することができる。
それによって過去の事例で計測された定量値とそれが与えた影響に基づいて、今回予想される定量値が害のある悪影響をもたらすのか、許容できる範囲内の影響にとどまるのかを評価することができる。

PIAは、環境影響評価が環境保護を目的とする手段であるのに対して、プライバシー保護を目的としているものと考えることができる。
実際には、個人情報を取り扱う仕組みやシステムを構築する際に、それがプライバシーに与える影響を評価するということになろう。

このとき、PIAが保護するプライバシーについて、何を計測すれば、それがプライバシーへの影響を予測できるのだろうか。
そもそもプライバシーとは何か?というお題はあるが、ここではその議論は避けて、ここでは、個人が邪魔をされないことでプライバシーが保護されるという範囲にする。
英語では、Leave me aloneと言われるが、それがプラバシーであるということではなく、本稿ではその範囲でPIAを考えることにするということである。

そうすると、個人が邪魔をされない程度の影響にとどまっているかの評価がPIAということになる。
それができれば、環境破壊を未然に防ぐことができるのと同様に、個人が邪魔をされなくなるはずである。

しかし、個人が邪魔をされたかは、個人それぞれの主観によるところが大きい。
たとえば、企業が商品紹介の広告を電子メールで送る際に、メール受信者がどの程度の頻度なら許せて、どの頻度なら邪魔だと思うかは、人それぞれである。
環境保護の場合の騒音も実は同じはずだが、そちらは、測定値に対して、どれ以上の音量であれば悪影響のある騒音とするかの基準値が定められている。
本来は、その基準値を許容できる人もいれば、むしろ、基準値をもっと下げるべきだと思っている人もいるかもしれないが、ある意味勝手に定められている。
これに相当することを、広告メールの送信頻度が個人を邪魔する影響の予測に適用することは適当なのだろうか?
そうではなく、本人が邪魔だと思うのがどの程度かを、本人に選択してもらうという、選択肢を提供する方が適当なのではないだろうか。
そのような機能の有無を評価するだけなら、影響の評価などという回りくどい言い方をする必要はない。

PIAから得られる語感は、「あなたのプライバシーに与える影響を評価して対策してます。」という印象だ。

しかし、まさかとは思うが、PIAが、本人のプライバシーに与える影響の評価ではなく、誰かのプライバシーを侵害した場合に自社が受ける損害に関する影響の評価になっていたりはしないだろうか。
それでは、実際には自分への影響を評価しているエゴを、あたかも、よそ様への影響を評価してあげているふりをしているだけということになる。
PIAの影響を自社の損害金額に換算しようとしていれば、エゴ型PIAそのものだ。

今年から始まるマイナンバー制度では、PIAに相当していたはずのことを、個人情報保護評価と称した。
個人情報保護評価には、プライバシーという用語も、影響という用語もない。
したがって、個人情報保護評価がPIAに相当しているという文脈には、違和感がある。
PIAはやめて、個人情報保護評価にしたということであれば、違和感はない。

そのように、自社が受ける悪影響を回避するための取り組みを実施することや、その実施内容に異議はない。
それによって、間接的によそ様への悪影響の軽減にも役立つだろうから、実施した方がよいだろう。
しかし、その取り組みを、あたかも、よそ様への影響を直接評価しているかのように呼ぶことには違和感がある。

さて、それでもなお、PIAを実施するという人には問いたい。
保護するプライバシーとは何か?
その影響は誰にとっての何の影響なのか?
影響を予測するために想定する測定は何なのか?と。

それに答えることもできず、特に誰にとっての影響かをあいまいにしたままで、実際にはプライバシーを侵害した場合に自社が受ける影響の評価をPIAと呼んでいるならば・・・
それは、PIAという名のエゴでしかない。

 

(この記事は、IDFコラムとして2015年1月26日に寄稿した記事を再掲したものです。)

 

2月 2, 2021 | | コメント (0)

2020年12月22日 (火)

身分証明書としてのマイナンバーカード

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マイナンバーカードが来年から健康保険証として使われることが決まり、さらに運転免許証にも使われる方向で検討されていることが報道された。

そのようになれば、マイナンバーカードが身分証として使われ始めることになる。
本来は、いまでもマインバーカードは身分証として使うことができる。

しかし、マイナンバーカードが身分証として定着していないのが実情である。
いろいろな原因が考えられるが、ここでは2つの課題を考えてみる。

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もっとも大きな問題は、カードの裏面に記載されたマイナンバーを秘密として取り扱う必要があることだ。

政府は、表面だけを確認することで、身分証として使えるとしている。

しかし、身分確認をする担当者が、万が一にも裏面について不適切な取り扱いをした場合には、問題となる。

情報の管理を適切にリスクマネジメントしている組織であれば、身分確認をする業務において、マイナンバーカードを身分証に加えることにはリスクがあることが明確だ。リスクマネジメントとは、認識したリスクを、軽減するか分散するか移転するか回避するか受容するかを決めて対処することだ。

ここで認識されるべきリスクは、本来は、身分確認作業に不要な、裏面記載のマイナンバーが、不適切に取り扱われてしまうというリスクだ。

担当者に裏面にあるマイナンバーを見ないようにすることを徹底するなどで、リスクを軽減することができるが、そのリスクを残存することになる。しかし、身分証としてマイナンバーカードを取り扱わないとすることで、このリスクを回避することができる。

実際にも、一部の公立図書館などが、利用開始時の身分確認に、マイナンバーカードを身分証として受け付けないことにしているのは、このためだ。

マイナンバーカードを身分証として受け付けなければ、マイナンバーを不適切に取り扱うというリスを回避することができる。

身分証としては、マイナンバーカード以外のものを用いることで足りる。マイナンバーカードを身分証として使いたかったという利用者からは不満が出るが、従来からあった方法でよいだけのことなので、大きな混乱にもなっていないのが現状だ。

 

この問題を見直すには、マイナンバーを特段の秘密として取り扱うという制約を緩和するしかない。

この事例は、マイナンバーを取り扱う業務ではないので、マイナンバーの制約と関係ないと考えるのは愚かだ。実務上は、マイナンバーカードを取り扱うことは、マイナンバーを取り扱うことになる。この場合のマイナンバーの取り扱いとは、「見ないものとして取り扱う」ということだ。

そもそも、マイナンバーは秘密として取り扱わなくてもよいように、マイナンバー情報連携システムが設計され運用されているので、他の個人情報と同程度に取り扱えばよいだけのものであり、特段の秘密とすることは過剰な規制である。その結果、個人情報を直接取り扱うような情報管理がなされている現場においてさえ、上記のような実務上の問題を生じてしまうのである。

 

実は、この問題は、健康保険証としてマイナンバーカードを利用する検討においても問題視された。検討の結果、マイナンバーカードの読み取りを本人が行なうという窓口業務にすることを条件に。医療機関はマイナンバーカードを取り扱わずに受付をするということで取り扱いを合意した。

 

余談になるが、健康保険証については、来年春からマイナンバーカードでの利用が始まるが、この読み取り機の設置などに準備が必要ということで猶予期間を2年間設けた結果、実は、従来の健康保険証も発行される。これだと、医療機関での受付業務では、健康保険証が2種類あって業務は同じということではなく、直接保険証を確認する業務と、本人が読み取り機にかざして確認する業務が混在することになるため、業務を煩雑にしない医療機関は、読み取り機を猶予期間のぎりぎりまで導入しないことも考えられる。まさに、一部の公立図書館がマイナンバーカードを受け付けないのと、理由は異なるが同じような状況になるかもしれない。利用者にとっても、通常は、診療カードと保険証を一緒に保管しており、それらをまとめて医療機関に持って行けばよいので、保険証としては、従来のものを持参してくださいと言われても不満が出ることすらないかもしれない。

 

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2つ目の問題は、カードの表面に控えに使える番号列がないことである。

この問題は受付業務という実務に起因するもので、認識すらされていないことがある。

身分証を確認する場合には、そのID番号などを書き控えるという手順を経験することが多いだろう。

これは何か問題があった場合に、書き控えた番号で、本人確認をするなどの目的に使われるためだろうと思っているかもしれないが、実は、その目的よりも重要な目的で行なわれている。

身分証による身分確認をするという業務は、身分確認が少なからず重要な用途なはずである。先の例にように図書館が図書を貸し出すとか、レンタル店で物品を貸し出すなど、返却されなかったときに支障があるなどがわかりやすい例である。

しかし、保険証や運転免許証、パスポートなどの番号で、本人を特定することは刑事事件として被害届を出して捜査してもらうなどしない限り、民間の事業者で、その番号を直接使えることはない。

もちろん、そのような番号を控えることで、身分の詐称を抑止するという効果はあるが、実はこれが主たる理由ではない。

何のために番号を控えるかというと、身分確認を怠っていないことを担保するためである。

身分確認の業務で、「身分証を確認したか?」というチェック欄を設けて、そこにチェックを書き込むのと、身分証の番号を転記させるのとでは、後者の手順をすることで確認漏れを少なくできるのである。

どういうことかというと、身分証の確認を忘れてしまったのに、チェック欄にはチェックを入れてしまうという過失はあり得るが、忘れてしまったのに、番号記入欄に、デタラメな番号を記入するのは過失としては起こりにくいからである。

そのため、カードの表面に控えに使える番号列がないマイナンバーカードによる身分確認では、身分確認をしたことの記録は、「身分証を確認した」というチェック欄を設けることしかできなくなってしまうのである。

これに代わる手順としては、提示された身分証のコピーを取るということが行なわれているが、その場合には、マイナンバーカードについては、先述の裏面記載のマイナンバー取り扱いのリスクが高まってしまう。

 

身分証として何かを使うという場合に、それの実務を管理している人であれば、控えるべき番号をどれにするかをまず決めるのだが、マイナンバーカードにはそれに使えるものがないのである。

 

この問題を見直すには、ひとつの方策としては、マイナンバーカードの表面に、控えに使える何らかの番号を記載することである。あるいは、表面に記載されている製造番号かセキュリティコードを控えに使うことを明示的に許可するかである。

説明した目的からすると、この番号は必ずしも唯一無二である必要はない。極端に言えば、4桁くらいの乱数番号があるだけでもよい。しかし、券面に何か数字が記載されていれば、それが何かの区別をしているのではないかなどを邪推され不安視されることがあるかも知れない。実際にも製造番号が個人を特定できるのでないかと心配されていることがある。その観点でいえば、たとえば、マイナンバーの下2桁なり4桁だけを裏面ではなく表面に記載するということも考えられる。

マイナンバーを裏面と表面に分散して記載することは、マイナンバーを秘密として保護することにも役立つかもしれないが、本来は、先に述べたように、マイナンバーを秘密として規制することがおかしいことに変わりはない。

 

ここでは、マイナンバーカードを身分証として普及させるための課題について2つくらいの問題を紹介したが、普及の観点の他にも、プラスチックカード表面に金属端子があるカードの耐用年数は10年より短いという問題もある。実際にも、運転免許証やパスポートは金属接点のないものが使われている。

以上のとおり、マイナンバーカードを身分証として定着させるには、いくつもの課題があり、それはマイナンバーの取扱いというソフト面のみならず、カードの券面デザインや構造といったハード面にも影響する。

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現状は、マイナンバーカードの普及の手段としての身分証という印象を受けるが、身分証として使うことについては目的として再確認し、ソフト面とハード面両方の改善を検討してもよい時期だと思う。
ハード面の変更については、マイナンバーカードの更新も視野に入れれば検討の余地はあるはずだ。

マイナンバーカードを普及させる手段として身分証明書や健康保険証にするというのは、目的と手段が本末転倒してしまうのではないかという印象がある。
本来は、身分確認の手段としてのマイナンバーカード、健康保険資格確認の手段としてのマイナンバーカードと考えた設計をするのがよいと思う。

はりぼて式の見直し(retro-fit)ではなく、設計に立脚した見直し(design-centered)による改善がされることを期待している。

 

※この記事はデジタル・フォレンジック研究会第645号コラムとして寄稿したものです。

12月 22, 2020 | | コメント (0)

2015年11月28日 (土)

マイナンバーカードを申請するときに確認すべきこと

我が家にもマインナンバー通知が届いた。
通知が届いたら、まずひとつめのポイントとして、自分の氏名に外字が使われていないことがわかってよかった(笑
そして残るもうひとつのポイントは、マイナンバーカードの申請をするかどうかですが、
ぼくはマイナンバーカードの申請は、とりあえずしないつもり。

実はこれは前から決めていたことで、理由としては、電子証明書が有効な住基カードを持ってるから。

有効な電子証明書がある住基カードを持っている場合には、無人交付機の利用とe-Taxの利用の2点を確認した上で、マイナンバーカードを今申請するのがよいかを考えてもよいと思う。ただ、それに該当する人は、いずれは申請することになるだろうから時期の選択ということになる。

1.無人交付機の利用

世田谷区の場合、住民票とかは住基カードを使って窓口時間以外も出張所のセルフサービスの交付機で交付ができて便利。
ところが、マイナンバーカードを発行してもらうと、その時点で住基カードの証明書が失効(使えなくなる)して、この交付機は使えなくなる。

国(総務省)の説明は、マイナンバーカードでコンビニ交付サービスを始めると広報してるけど、実際には自治体ごとにその導入時期はさまざま。
マインナンバー通知に同封されていたパンフレットには、コンビニ交付があたかもすぐに開始するかのごとく、以下のように書いてある

現在、約100の市区町村がサービスを導入しており、導入市区町村の人口は、約2000万人です。
平成28年度中に、導入市区町村は約300 に増加し、約6000万人が利用できることとなる予定です。
さらに、約500の市区町村が導入を予定しており、1億人を超える人が利用できることとなる見込みです。(※1

つまり、既に住基カードを持っている場合に限っては、マイナンバーカードを発行してもらった場合の住基カードへの影響やマイナンバーカードでのコンビニ交付がいつ始まるかなどについて、国の情報ではなく自分の住んでいる自治体の状況をよく確認してから申請しないと、利便性が低下する場合がある。(逆に、有効な電子証明書のある住基カードを持っていない人は、マイナンバーカードの申請をしない手はないと、個人的には思う)

ということでぼくの場合は、自分のところを見てみると・・・

世田谷区:住民基本台帳カードと電子証明書(公的個人認証)の終了について
http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/101/111/216/217/d00136455.html

世田谷区では、個人番号カードを利用する「証明書のコンビニ交付サービス」の開始を予定しています(開始時期は未定)。」

なので、世田谷区は、コンニビ交付の開始時期は未定と書いてあるわけです。

もちろん、「開始時期は未定」とはいっても、新規の住基カードの交付を今年12月22日で終了するので、開始がそんなに遅くはならないはずだから、もしかしたら、早々にサービスするという非公開の事実があって、留意事項として何も広報してないのかもしれないけど(※2)。

仮に、サービス開始が遅れるとしても、いつ届くかわからないマイナンバーカード(※3)の申請を済ませておくと結局ちょうどよいタイミングになるかもしれないという考えもあるけれど、逆に、さくっと届いちゃったら、上記の理由で不便なことになるかもしれない。

2.e-Taxでの利用

一方で、確定申告でe-Taxを利用するために、住基カードに電子証明書を入れている人も多いのではないかと思う。
これについては、使っているICカードリーダがマイナンバーカードに対応しているかの確認をしておくとよい(※4)。
こちらは、逆に、マイナンバーカードの受領が今年度の確定申告の期限に間に合うかに注意が必要だ。
今回のマイナンバー通知状の配送状況では、国による通知の準備ができてから、自治体による本人への送達と郵便局による実際の配達までの間に時間がかかったようである。
マイナンバーカードが発行されると、住基カードの電子証明書は失効するので、マイナンバーカードが発行されてから受け取るまでは、住基カードではeTaxができなくなる場合がある。
ただし、こちらも通知状は簡易書留であったために時間を要したが、マイナンバーカードの受け取り案内状は普通郵便などより簡易な郵送だと思うので、遅延はないかもしれないが、住基カードの有効な電子証明書がある人は、マイナンバーカードの申請をした場合にも、e-Taxは早めに住基カードで済ませておいた方がよいと思う。

このようにマイナンバーやマイナンバーカードの使用については、自分の住んでいる自治体のサービスを確認しないといけない(※5)。

ということで、あくまでぼくの状況にあてはめて考えてみたところとしては、マイナンバーカードの申請はしないと決めたんですぅ。

※1

    計算すれば簡単に推定できるけど、現在の100の市区町村で2000万人ということは、平均して人口20万人の規模の自治体。平成28年度中も300で6000万人なので同じ。
    実際に導入している自治体の一覧(https://www.lg-waps.jp/img/pages/service_list_20151005.pdf)を見てみると、先進的なことに注力している、いわゆる先進自治体と呼ばれているところ以外は、そんなかんじ。
    先進自治体を除くと、自力で無人交付システムを構築できそうになかったところが、共同システムの利用によって導入できるようになったから先行しているという逆転現象。

    やっかいなのは、比較的人口が多く予算があって共同システムではなく自営の無人交付機を導入できてしまっていた自治体。
    なおかつ、従来のそれとコンビニ交付を併用して二重投資するところまで積極的ではない自治体は、逆にマイナンバーカード対応のコンビニ交付の導入が遅れる場合がある
    古い技術を先に使っていると、新しい技術ができたときに逆に乗り遅れるというパターン。

※2

    なぜ、マイナンバーカードのコンビニ交付時期を明確にしない自治体があるのかという理由は推察するしかないが、これにはその導入費用の国からの補助金額が関係しているようだ。単純には全額が国から補助されるなら、自治体として導入しない理由はない。ところが、この補助金は国による総額が決まっているが、その金額は全自治体の導入費用をすべてまかなうには及ばない額で、導入費用の一部助成になるらしく、自治体への分配方法は、各自治体でのマイナンバーカードの発行枚数の割合に応じて、総額を分配するという方式を取っているらしいという話しがある。そのため、自治体からすると、マイナンバーカードが他の自治体より、多く発行され分配額が大きくなればよいが、少なくて小さくなったらどうしよう?という躊躇があるようだ。この、卵とにわとり状態で、「未定」ととりあえずしておくということが「推察」されるが、実際のところはわからない。

    ただし、住基カードの新規発行や、その電子証明書の更新を打ち切ることを決めている自治体は、マイナンバーカードによるコンビニ交付を導入しないということは考えにくいので、仮に国からの補助金額が小さくても、赤字財政でない限りは導入するのではないかなとは思う。

※3

    マイナンバーカードは当初は有償配布で計画されていたが、途中から無償配布に方針変更された。これのための予算は、平成27年度中に1000万枚、平成28年度として500万枚分が計上されている。現時点では、合わせて1500万枚分しか手当てされていない。個人的に、これを「先着1500万名様問題」と呼んでおり、厚生労働省の研究会でも質問をした経緯(https://twitter.com/4416sato/status/664434539075268608)がある。

※4

    ただし、実際に確認できるのはICカードリーダがマイナンバーカードにハードウェア的に対応しているかだけとなる。ハードウェア的に対応していないならば、当然、利用できないが、住基カードでこれまでe-Taxを利用していたのであれば本来はハードウエア的には対応しているはずである。
    しかし、これをICカードリーダのメーカーに問い合わせると、「お使いのリーダを使ってマイナンバーカードでe-Taxができるかは現時点ではお約束できません」と言われるはずだ。これは、リーダがカードに対応していることと、e-Taxシステムがリーダに対応するかは別のことだからだ。なぜなら、今年度末のe-Taxの確定申告システムが、どのICカードリーダのドライバを提供するかは、メーカーは約束できないからだ。
    常識的にいって、これまで大丈夫なら次回も大丈夫なはずだが、メーカーとしてあらかじめ保証はできないということのようだ。

    ようは、マイナンバーカードに限ったことではなくて、「このリーダは、次回のe-Taxに対応してますか?」と事前に問い合わせられても、同じ回答しかできないようだ。
    メーカーとしては、マイナンバーカードが発行され、e-Taxシステムに自社のICカードリーダがサポート機器として掲載されて始めて、「弊社のリーダで、マイナンバーカードによるe-Taxが利用できます」と言えるようになるのである。

    なので、既に住基カードで利用実績のあるICカードリーダならば、メーカーに「現時点ではわからない」と言われても、マイナンバーカードでも利用できると信じたい(笑

※5

    だからこそ、「マイナンバーとマイナンバーカードについて地方自治体として広報すべきことは何か?」で紹介したように、区がマイナンバーの広報をする際には、国の広報内容を繰り返すだけでなく、区民に対する事務を実施している区として、区の既存のサービスにどう影響するのかなど、区としての注意事項を広報しないとダメですよねと世田谷区個人情報保護審議会で意見し、審議会提言書としても提出されているのだが・・・区は、その広報をしなかったように思う。

    世田谷区情報公開・個人情報保護審議会
    社会保障・税番号(マイナンバー)制度について(提言)(案)
    http://www.city.setagaya.lg.jp/kurashi/107/157/731/d00005489_d/fil/H27_5siryou.pdf

    3 マイナンバー制度に関する区の広報のあり方について
    マイナンバー制度における個人番号の利用が開始された場合において、区民や事業者等がどのようなことに留意すべきか、また個人番号に係る事件・事故等が発生した場合に、どのように対応すべきかなど、区民の目線に立った区の広報のあり方につき、十分に検討した上でこれを実施されたい

11月 28, 2015 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年9月14日 (月)

マイナンバーとマイナンバーカードについて地方自治体として広報すべきことは何か?

マイナンバーと、どうやって付き合っていくのかについて、ひとつめとして「市民として注意すべきことは何か?」について紹介した。
ここでは、ふたつめとして、マイナンバーとマイナンバーカードについて地方自治体として市民に何を広報しなければならないかを考えてみる。

国は、政府広報「あなたにもマイナンバーが通知されます」を作成して平成27年3月に配布し、マイナンバー、個人番号カード(ここでは、以下、マイナンバーカードと言う。)とマイ・ポータルについて広報した。
地方自治体のいくつかも、その後の春から夏にかけて、それぞれ広報誌を作成して配布したところがある。
しかし、地方自治体の広報内容が、国の広報内容と同じだとしたら、もったいない気がする。

 

地方自治体は、実際にマイナンバーやマイナンバーカードを取り扱う窓口業務を実施するのだから、それに関係したことを、実際の業務に沿って具体的に紹介するのがよい。

 

地方自治体は、マイナンバーだけでは窓口手続きをできないことを広報しておくべきだろう。「市民として注意すべきことは何か?」で紹介したとおりマイナンバーは住所・氏名を名乗るのに代わるだけなので、窓口で手続きをしてもらうには自分が本人であることを証明するための本人確認をこれまでと同様に別途してもらう必要がある。
例えば、運転免許証やパスポートに記載されている顔写真が、窓口にいる自分の顔と同じ人物であることを確認してもらうということが必要だ。
窓口では、マイナンバーを申し出ただけでは、手続きをすることはできず、手続きをするためには、何らかの本人確認が必要であることを周知しておく必要がある。

 

マイナンバーが秘密の番号だと誤解してしまった人からすると、自分の氏名とマイナンバーを申し出ると、マイナンバーがあたかも暗証番号のように取り扱われるのではないかと誤解している可能性がある。
つまり、マイナンバーを他人が知らないはずなら、マイナンバーを正しく申し出ることで本人として認めてくれればよいじゃないか。という誤解である。

 

本人確認のために必要なものを持参してもらわないと、手続きをすることはできないので、窓口に来るときには、それを持参することを忘れないようにしてください。というお願いをする。
仮に、本人確認に必要なものを持参してもらえないと、どんなにお急ぎであっても、手続きをすることができない場合があるという注意まですればより丁寧だ。

 

さらに、前回「市民として注意すべきことは何か?」で紹介したように、窓口での本人確認が不十分ではないかということを感じたら、それを申し出るように注意喚起してもよい。たとえば、窓口係員がちゃんとカードの写真と自分の顔写真を見比べていたか。マイナンバーの番号だけに頼らずに、氏名を復唱して番号に間違いがないことを確認したかなどを、手続きをする市民に見届けてもらうことの協力をお願いするのである。それによって、単発的な第三者点検よりも、継続的で網羅性のある点検に市民に参加してもらえるようになる。
ともすると、本人確認を厳格にすることによって「役所は融通がきかない。不親切だ」という誤解を受けるかもしれないが、それの払拭にもつなげることができる。

 

以上のことがちゃんと周知されれば、マイナンバーが他人に知られたからといって、すぐに自分に成りすまされることがないことを理解してもらうことにも役立つ。

 

 

その上で、本人確認の手段として、従来の運転免許証やパスポートなどの他に、マイナンバーカードが増えたことの説明を加えるとよい。

 

そもそも、国の広報では、マイナンバーは「国民一人ひとりがもつ12桁の番号」で「社会保障・税・災害対策の分野で個人の情報を適切かつ効率的に管理するために活用される」としているが、国民としての用途に触れていない。

 

国は、以下のことなどを広報した。
 1.マイナンバー、マイナンバーカード、マイ・ポータルとは何か
 2.国はマイナンバーを何のために使うのか
 3.マイナンバーはどう管理され、どう守られるか

 

逆に言うと、国は次のことについて広報していない。
 4.市民はマイナンバーを行政手続きでどう使うのか
 5.市民はマイナンバーカードを行政手続きでどう使うのか
地方自治体は、上記の1~3について再周知するだけでなく、4と5を新たに周知することで付加価値を示すことができる。

 

4について
マイナンバーは、行政手続きをする際に、住所や氏名を申し出る代わりに、自分が誰かを伝えるために使うものだ。本来は、マイナンバーを申し出るだけで誰だかわかるはずだが、番号の羅列であるため、書き間違えや読み間違えを防ぐために、住所や氏名も引き続き記載することになる。

 

行政手続きをするには、マイナンバーの他に、従来どおり本人確認のための身分証を持参する必要がある。

 

5について
マイナンバーカードは、自分が誰かを証明するために使うもの、つまり身分証だ。マイナンバーカードでは、自分が誰かということが、運転免許証やパスポートと同様に氏名で示されるとともに、マイナンバーも記載してあるので、同姓同名者などと間違われることもなく、より確実に自分が誰かを示すことができる。
したがって、マイナンバーカードは、これまで身分証を持っていなかった人にとっては、国から無料でもらえる写真付きの身分証ということになる。
既に運転免許証やパスポートを持っている人は身分証を持っていることになるが、マイナンバーカードだと、そこにマイナンバーも入っているものになる。

 

つまり、身分証を持っていない人には、身分証を無料であげます。
身分証を持っている人には、マイナンバー付きの身分証を無料であげます。
ということにすれば、身分証を持っている人にも持っていない人にも、カード申請の動機付けを与えることになる。

 

マイナンバーカードは、国から無料で発行される写真付き身分証ということを周知することが基本的に必要だ。それ以外のことは、付加的なことでしかなく、万人にとっての動機付けにすることは難しい。
ましてや、行政手続きでの使い方を上記4や5のように広報していない時点で、マイナンバーの将来の民間利用の話しと混在して説明し始めるのは本末転倒でしかない。利便性を広めたいつもりかもしれないが、不安が先に広まりかねないからである。

 

上記に加えて、既に住基カードを持っている人については、マイナンバーカードの発行を申請することによって、住基カードやカード内に保持している電
子証明書がどうなるか、住基カードを自治体独自のサービスに使用しているなら、それがどうなるかなどを、各自治体の状況に応じて具体的に説明することが親切だと思う。

 

ざっくりと、まとめてしまえば、以下のようなことだ。

 

マイナンバーは、行政手続きの際に、氏名の代わりにお伺いするものです。ただし、番号間違いを防ぐため引き続き氏名と住所などもお伺いいたします。見ず知らずの人に氏名を知られたくないのと、同程度に、マイナンバーを人に知らせないでください。マイナンバーをご存知なだけではご本人であることの確認にはなりません。そのため、マイナンバーをご存知だからといって、ご本人に関する情報を閲覧したり、行政手続きをすることはできません。手続きの際は、従来どおりに身分証が必要なので、必ず持参してください。
マイナンバーを行政からの依頼なく、民間機関がおたずねすることはありません。勤務先等へのマイナンバーの届け出については、行政から勤務先等に依頼しているものです。民間機関からマイナンバーをたずねられた場合には、それが、どのような行政手続きによる依頼かをご確認の上でマイナンバーを伝えるようにしてください。

 

マイナンバーカードは、国が無料で発行してくれる写真付きの身分証です。写真付き身分証をお持ちでない方は是非お申し込みください。既に身分証をお持ちの方もマイナンバー付きですし無料ですから是非お申し込みください。マイナンバーカードをお使いになるときは、取扱者が顔写真とご自身の顔をよく見比べているかを確認してください。もしも、怠っている場合には、遠慮なくご相談ください。
マイナンバーカードは、行政手続き以外での民間機関に対する身分証としてもお使いいただくことができます。ただし、その際に民間企業が確認できるのは、マイナンバーカードの表面に記載された氏名・住所等の事項のみです。裏面に記載されるマイナンバーを見たり控えたりすることは法律で禁止されています。もしも、行政手続き以外でマイナンバーをたずねられた場合には断っていただき、その旨をご報告ください。なお、民間での利用については将来の法改正で検討される予定がありますが現時点では上記のとおり禁止されています。

 

なお、既に住基カードをお持ちの人については、~~(自治体の状況に合わせて記述)~~のようになります。

 

いずれにしても、地方自治体でマイナンバーの広報活動をするなら、国の広報と同じ内容を重複するだけではなく、窓口業務などを直接実施する立場での広報内容についても考えるのがよいと思う。

9月 14, 2015 | | トラックバック (0)

2015年6月 4日 (木)

マイナンバーが導入されたら市民として注意すべきことは何か?

マイナンバーと、どうやって付き合っていくのかについて、いくつかの観点で紹介していこうと思う。
まず、最初は、マイナンバー制度が導入されたら、市民として何に注意しなければならないかを考えてみる。

マイナンバーは当面は、行政手続きだけで利用されるので、まず、そのような利用場面を考えてみる。
現在は、役所の窓口に行って、自分に関する何かの行政手続きをする際に、氏名を申請することがあるだろう。氏名だけでは、同姓同名者がいるかもしれないので、住所や生年月日も合わせて申請することになる。
氏名や住所を記載したり申し出たりすることで、自分がどこの誰かが伝わり、他の人ではない自分に関する手続きを申請することができるわけだ。
そのように、自分がどこの誰かを他人と区別してわかってもらうための情報を、特定用情報と言う。この場合には、氏名や住所が特定用情報となる。
氏名や住所を特定用情報として申し出るのと同じように、今後はマイナンバーを特定用情報として使うことができるようになる。

ただし、現在でもそうだが、氏名と住所を申し出たからと言って、それだけで、その本人に関する情報の閲覧や変更などの重要な手続きはしてもらえない。窓口では、運転免許証などの身分証の提示を求められ、そこに写っている顔写真と、窓口にいる人の顔を見比べた上で、同じ人とわかれば、申し出ている人が、本人であると判断する。そのように、名乗っている特定用情報の本人なのかを確認することを、本人確認と言う。
本人確認がされて、初めて、その本人に関する手続きをしてもらうことができる。

ここで紹介した特定用情報と本人確認という用語を使って、窓口の手続きについて改めて順番に書くと、自分が自分の特定用情報を窓口の人に対して申し出て、窓口の人が本人確認をしてから手続きをすることになる。
このとき、従来の特定用情報である、氏名や住所と同様なものとして、新たにマイナンバーというものが使えるようになる。

ここで踏まえておくべきなのは、自分の特定用情報を知られたからといって、すぐに自分に関する手続きを勝手にされてしまうことはないということだ。なぜなら、それを偽って名乗って、誰かが自分に関する手続きをしようとしても、本人確認がしっかりしていれば、本人ではないことを見抜かれて手続きがされることはないからだ。
これは当たり前で、自分の氏名や住所を知っている人は、多くいるはずで、それを知っているだけで、自分になりすまして、なんでもできてしまうことはない。なりすましが問題になるようなことには、常に、本人確認がされるはずだからである。

それを踏まえて、仮に、自分のマイナンバーが他人に知られてしまったときのことを考えてみる。

自分のマイナンバーを他人に知られてしまうということは、他人に自分の氏名と住所を知られてしまうのと同じことだ。
住所を知られてしまうと、他人に家まで来られてしまうというような危険性があるが、先の例のように窓口で手続きをするということだけに着目すれば、そのような心配は、特定用情報としての心配ごとではないことになる。住所を知られたら家に来られてしまうという問題は、自分に関する情報が勝手に閲覧されたり変更されるというような手続きをされてしまうということとは別問題だ。

もちろん、自分と関係のない他人が、自分の氏名と住所を知っていたら気持ち悪い。本人確認がしっかり行なわれるとしても、そもそも特定用情報が知られていない方がより安全だ。したがって、自分の特定用情報は関係ない人には知られないようにしておく、つまり教えない方がよいし、知っている人には、そのように管理してもらわなければならない。
しかし、仮に特定用情報が、他人に知られてしまった場合に、それが氏名や住所では簡単には変えられない。住所を変えるということは引っ越しをしないといけないから、生活を変えなければならない。一方で、特定用情報にマイナンバーを使っていて、それが他人に知られてしまったら、マイナンバーを変えてもらうことは、氏名と住所を変えるのに比べれば生活への影響はない。

このことは、特定用情報としてマイナンバーを使うことは、氏名と住所のような、それ以外の情報を使うよりも、万が一のことがあった場合の事後対応の生活への影響を少なくできると考えることができる。
これは、本来は、変えられる番号の強みだ。
その点において、政府広報では、
「マイナンバーは一生使うものです。マイナンバーが漏えいして、不正に使われるおそれがある場合を除いて、番号は原則として一生変更されませんので、マイナンバーはぜひ大切にしてください。」
という説明をしているが、むしろ、
「マイナンバーが漏えいして、不正に使われるおそれがある場合は、番号は原則として変更します。そのような場合を除いて、マイナンバーは一生使うものです。マイナンバーはぜひ大切にしてください。」
という説明の方が、安心感を与える表現になるだろう。
また、不正に使われるおそれがある場合にすぐに変更されてしまう番号となれば、それを不正入手して販売などしようとする不正の動機は、ある程度下がるかもしれない。それを買ってみたら、すでに変更されていて使い物にならないということでは、その悪い商売の評判が悪くなるからだ(笑)

重要なことは、特定用情報を知られたら、その特定用情報の本人の情報がすぐに閲覧や変更されないように、本人確認によって情報が守られるようにしておくということだ。
したがって、マイナンバーが特定用情報として使われるようになったら、本人が意識すべきことは、自分がマイナンバーを申し出たときに、相手が本人確認をしっかりしているかをチェックするということだ。
つまり、マイナンバーを申し出たときに、身分証の提示を求められなかったり、その顔写真の突き合わせをしっかりしていないとか、そういうことがないかをチェックすることが重要だ。
それを怠っていたときには、それを便利だとか、融通がきくとか思うのではなく、この人は自分じゃない人のときにも、本人確認を怠るかもしれない。と思って、注意なり、改善要望をすべきだ。
逆にそれをしつこく確実にやろうとしてくれるなら、その場では不便かもしれないが、それはよいことだと思わなければならない。

窓口の人がマイナンバーを漏らさないかということは、これまでの、氏名や住所を窓口の人が漏らさないかということと同じなので、マイナンバーを導入したからといって、その心配を増やすのは取り越し苦労だ。
窓口の人は本人確認をした上で、その本人の情報にアクセスするわけだから、これまでだって、氏名と住所を知っている人の情報にアクセスすることは、やろうとすればできてしまう。
マイナンバーがわかってしまうと、自分の情報がなんでも見られてしまう。というのは、マイナンバーとは無関係で、自分の情報を見ることができる人は、自分の情報を見ることができる。という当たり前のことだけで、その点においては、これまでと何も変わらない。
自分の氏名と住所を知っているだけでは、自分の情報をもともと見れない人は、特定用情報がマイナンバーになったとしても、これまでと変わらず、見れないからだ。

つまり、もともと見たり変更できたりする人が、本人確認を怠って、自分のなりすましをした人を自分だと誤解して対応されないようにすることが、もっとも重要なことである。

ということで、今回の結論はこうなる。

マイナンバー制度が導入されたら、市民として注意しなければならないことは、
自分がマイナンバーを申し出たときに、相手が、本人確認をしっかりしているかをチェックすること。

政府に続いて、自治体なども、マイナンバーの広報活動を始めたが、自治体のように、まさに窓口業務を担う機関は、上記のことの啓発をすることが、マイナンバー制度の安全性のひとつめの基礎を固めることになる。
窓口で、本人確認をちゃんとしているかを、自治体に設置する第三者委員会などが現場視察でできる確認は極めて限定的だ。
それよりも、窓口を利用するすべての市民に、日頃から、確認してもらう方が効果が高いものになるだろう。
そして、このことは、マイナンバーの民間利用が将来開始されたときに、マイナンバーを取り扱う人達に必要な意識付けを醸成することにも実は役立つのである。これについては、また、次回以後に触れることにする。

※筆者注(2015/6/23):当初の投稿で使った「識別情報」という用語を、今後の別の説明につなげるために「特定用情報」に一括置換しました。

6月 4, 2015 | | コメント (0) | トラックバック (0)