« 米国データプライバシー及び保護法の討議草案 | トップページ | 健康保険証としてのマイナンバーカード »

2023年3月20日 (月)

国際規格ISO/IEC 27701プライバシー情報マネジメントシステムのJIS化

1635471iso27701

プライバシー対策に関わる国際規格であるISO/IEC 27701が、JIS化されて発行されますので紹介します。

日本語対訳書が2020年3月に出版されていましたが、このたび、JIS規格として国内規格になることになりました。

草稿はできあがり最終的な出版の準備が進められています。(2023年3月現在)

ISO/IEC 27701とは

ISO/IEC 27701は、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の要求事項を規定したISO/IEC 27001及びISMSを実施するための規範をまとめたISO/IEC 27002に、プライバシー対策に関する要求事項及び規範を拡張することにより、組織によるPIMS(プライバシー情報マネジメントシステム)の構築を支援することを目的とした国際規格です。

27701の開発経緯は、ブログ「ISO/IEC 27701「プライバシー情報マネジメントのためのISO/IEC 27001及びISO/IEC 27002への拡張」の解説」で紹介しています。

27701と国内規格や個人情報保護法との違いなどは、ブログ「国際規格ISO/IEC 27701プライバシー情報マネジメントシステムと国内規格や個人情報保護法との違い」で紹介しています。

国際規格の27701は、ISO/IEC 27002規格が構成変更になったことを反映するための改訂を終えて、出版の最終準備段階にあります。(2023年3月現在)

そのため、JIS 27701が出版されるときには、国際規格の27701が改訂されていることになりますが、国際規格の改訂は現状の考え方や内容が大きく変わるものではなく、27002の構成変更に対応するための改訂なので実質的な問題はないと言えます。

ISO/IEC 27701の対訳書の課題

話しをJIS 27701に戻すと、もともと対訳書がある国際規格がJIS化される場合には、基本的には対訳書を大きく変えることはありません。

しかし、国際規格の27701は、通常の単語の使われ方とは異なる定義語がいくつかあります。定義した単語なので、定義語だと割り切って、その単語の元の意味にこだわらずに読めばよいのですが、誤解しやすい規格文になっています。

それらを概ね直訳した対訳書をそのままJIS規格にすると、日本語でも同様に、誤解しやすい規格文になってしまいます。

ISO/IEC 27701のJIS化での用語の見直し

そこで、今回のJIS 27701では、定義されている内容に見合うように定義語を書き換えました。

たとえば、国際規格の「customer」を対訳書では「顧客」と訳してありますが、JIS規格では「取引先」と訳すことに変えました。
この単語の訳だけを見ると、「customer」の訳が「取引先」って日本語訳がおかしいと思うかもしれませんが、国際規格での「customer」の定義内容を読むと、それが必ずしも「顧客」だけの意味ではないことがわかります。

たとえば、「customer」の定義の中に委託先が含まれています。
規格として委託先を含むと定義しているので、委託先を「顧客」と呼ぶことは規格として間違えではありません。
しかし、規格文を読むときに頭の中で、「顧客には委託先も含まれている」 と言い聞かせながら読まなければならなくなります。

そこで、JIS規格では「取引先」と訳しました。顧客のことを「取引先」と呼ぶことに違和感があるかもしれませんが、委託先を「顧客」と呼ぶことの違和感よりは、比べればましなのではないかということで、そのようにしました。

他にもあります。対訳書では「partner」を「取引相手」と訳していますが、JIS規格では「相手方」としました。
規格では、取引のある相手のことだけではなく、遵守事項を守らせる契約をしただけの相手のことも「partner」としています

取引があれば「取引相手」で違和感はないのですが、単に守秘義務の誓約書を交わすだけの対象を「取引相手」と呼ぶよりは、単に「相手方」と呼ぶ方が、取引の有無とは関係ないということについて読みやすくなるために書き換えました。

これらは、私が27701規格の対訳書を理解するためのコンサルティングで、「規格文に書いてある顧客を取引先のこと、取引相手を単に相手方と読み替えるとわかりやすくなりますよ。」と説明していたものが採用されました。後から思ったのは、コンサルティングのネタの1つがなくなってしまうので、ちょっと惜しいことをしたかなと後悔していたりもします。(笑)

コンサルティングで説明していることには、他にもあります。 

この規格では、いわゆる個人情報のことをPII(Personally identifiable information)と呼びますが、これに付随した用語で難解とされているものに、PII管理者とPII処理者があります。

用語だけからすると、PIIを管理する人がPII管理者で、PIIを処理する人がPII処理者と思ってしまいそうですが、そうではありません。

定義では、PII管理者はPIIの利用目的を決定する人で、PII処理者はPII管理者の指示に従ってPIIを処理する人となっています。そのため、PII管理者とPII処理者は、両者ともそれぞれの役割にそってPIIを管理し処理もします。

これらの用語を単語の意味合いからの誤解を避けて直感的に読めるようにするには、たとえば、PII利用目的決定者と、PII委託処理者などとすれば、管理と処理という単語にまどわされずに、わかりやすくなるかもしれません。

しかし、PII管理者とPII処理者という用語は、既に出版されているJIS X 9250(ISO/IEC 29100)で定義されているものなので、JIS 277071でも変えずに直訳したままにしました。(決して、コンサルティングのネタが惜しくなって、わかりにくいまま残したのではありません。笑)

 

以上のような背景で、JIS 27701規格の用語のいくつかを、あえて英単語とは異なる日本語にしましたので、規格を読むときの参考にしてください。

3月 20, 2023 |

コメント

コメントを書く