「ブロックチェーンについてはいろいろ調べていますが、まだ何とも…」

 これまで記者が取材した「いわゆる最先端のテクノロジー」の中でも、技術者の評価がここまで歯切れ悪い技術は珍しい。いつもなら「〇〇はこの点が優れるが、あの点が全然ダメで使い物にならない」など、よどみなく答えてくれるものだが…。

 金融サービスをITで革新する「FinTech」への注目が集まると共に、仮想通貨ビットコインの取引を支えるブロックチェーン技術への注目度もうなぎのぼりだ。上場企業が「ブロックチェーン技術を活用した…」というリリースを公表するたびに株価がストップ高を記録するなど、その期待は非技術者・非専門家にも拡散している。

 記者は2015年12月に公開したITpro特集の中で、ブロックチェーン技術の概要と、その技術に触れた技術者の評価を紹介した(なぜブロックチェーンはIT技術者を惹きつけるのか)。あわせて「『かっこいいから』『資金を調達しやすいから』といった理由でブロックチェーン技術を採用するようでは、その企業は失敗する」という米企業のコメントを紹介した記事を掲載し、「2016年は、ブロックチェーンの真価が問われる年になる」と結んだ。

 とはいえ、ブロックチェーン技術の評価について「真価が問われる」と丸投げするのも、技術を取材する記者として逃げのような気がする。そこで本稿では、ブロックチェーン技術について、記者の現時点での評価を書き留めておきたい。執筆に当たっては複数の専門家に意見を伺ったが、本稿に認識の誤りがあるとすればひとえに記者の責任である。

そもそもブロックチェーンとは

 ブロックチェーン(blockchain)とは、暗号技術とP2P(ピア・ツー・ピア)ネットワーク技術を応用し、データの改ざんを困難にした分散型の記録管理技術のことだ。

 実体としては、以下の要件を満たすプロトコル(ビットコインならBitcoin Protocol)に沿って実装されたソフトウエアと、ソフトが稼働する複数のコンピュータ(ノード)、ノード同士を接続するP2Pネットワークから成る。

(1)あらゆるノードは取引記録を保持し、読み出せる

(2)あらゆるノードは取引記録を作成し、他のノードに放送(broadcast)できる。

(3)あらゆるノードは、取引記録の整合性(二重取引の有無など)を検証した上で、検証済み取引記録の束(=ブロック)を形成できる。

(4)どのノードが作成したブロックを正当な記録と見なすかは、プロトコルが定める合意形成アルゴリズム(ビットコインでは、ノードの計算量を投票権に見立てるProof of Workを採用するが、ほかにコイン保有量などを投票権に見立てるProof of Stakeもある)に従う

 現行のブロックチェーン技術は、その運用形態の違いから、ビットコインのように誰でもP2Pネットワークに参加できる「パブリック型」、複数の限られた主体(コンソーシアムに参加する企業など)がそれぞれノードを保有する「セミプライベート型」と、企業や団体が単体で運用する「プライベート型」がある。

 このうちパブリック型のブロックチェーンについては、既にビットコインやイーサリアム(エセリウム)など、誰でも検証可能な形で運用されている。この記事では、現状では運用実績がほとんどない「プライベート型」「セミプライベート型」の可能性について評価したい。