ビジネスのデジタル化の進展で、ある産業が木っ端微塵に破壊される。これを米国では「ディスラプション」あるいは「デジタル・ディスラプション」と呼ぶ。ディスラプション(Disruption)とは、文字通り「破壊」という意味だ。で、どれだけ木っ端微塵になるかと言うと、場合によっては一つの産業が吹き飛ぶ。最近、日本企業を襲った惨劇は、その格好の先行事例だ。
ディスラプションが話題になる際、必ず登場するのが、自家用車を使った配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズだ。1台のタクシーも保有しないのに、あっという間に“世界最大のタクシー会社”になったと喧伝される。確かに米国だけでなく中国などで成功し、世界中でタクシー業界や規制当局と激しい摩擦を引き起こしながら、世界のタクシー市場を破壊し続けている。まさに「破壊者(ディスラプター)」である。
こうしたウーバーのようなITベンチャーの蠢動を目の当たりにして、米国では様々な既存産業の経営者は、自社のビジネスのデジタル化を叫び始めた。その代表例が重電メーカー最大手のゼネラル・エレクトリック(GE)。彼らが唱える「インダストリアル・インターネット」は、今やIoT(Internet of Things)の事例として無くてはならない存在だ。
新興のディスラプターに市場を奪われるより早く、自らがディスラプターになって市場を創り変えようというのが、GEなど米国のトラディショナルな企業の戦略だ。だが、こうした企業のデジタル戦略を聞くと、バラ色の未来予想図ばかりで、あくびが出るくらい退屈だ。米国企業はコンセプトを語るのが大好きだから、ある程度は仕方が無い面があるのだが、それにしてもぬるい。
おそらく言うほどには、まだ切迫感が無いのだろう。ウーバーが暴れ回っているとはいえ、タクシー業界との本格的な戦いはこれからだ。アマゾン・ドット・コムの長年の攻勢にさらされる小売業界はさすがに厳しいが、まだディスラプションと言うほどの状況ではない。だから米国の産業界は、一つの産業が木っ端微塵になる規模のディスラプションをまだ知らない。だから“夢”を余裕で語っていられるのだ。