タイトルからして、いい話が始まるとは思えない。ただ、多くの情報システムがプライベートクラウドを目指す今、この課題は見過ごせない。日経コンピュータ2010年3月31日号の特集記事「仮想化レボリューション」を書き終えてそう思った。記事では、仮想化技術の導入からプライベートクラウドへの道筋を探った。
はじめにお断りしておくが、筆者は「プライベートクラウドは“クラウド”なのか」といった議論に大して興味がない。社内のサーバーやストレージ、ネットワークなどをプール化しておけば、利用者にサービスとして自在に分け与えられる。プライベートクラウドとはこうしたコンピュータの使い方を指す。そんなおおらかな理解で読んでほしい。
利用者に使ってもらえるか
筆者が考える課題は二つある。一つは、プライベートクラウドを作ったとして利用者に使ってもらえるかということ。これはプライベートクラウドの利用料金にかかわる。
プライベートクラウドの作り方をかいつまんで説明する。まず、コンピュータリソースをプール化して共有できるようにする。それを実現するために仮想化技術を使うと都合がよい。
ただし、リソースをプール化しただけではプライベートクラウドとは呼べない。ユーザーの求めに応じリソースを「サービス」として提供して初めて、プライベートクラウドの色彩を帯びてくる。筆者はそう考える。
サービス化に必要な機能は以下のようなものだ。利用者からオーダーを取るには「サービスメニュー」が必要だし、承認をスムーズに行う「ワークフロー」も役に立つ。リソースを迅速に割り当てるには「自動化」を進めたい。利用料金を請求する「課金管理」もほしい。
プライベートクラウドの使い方はこうだ。利用者は「CPUを2コア、メモリーは32Mバイト、ストレージは100Gバイト」というように、必要なスペックをメニューから登録する。ワークフロー機能でしかるべき承認が得られれば、所望の仮想マシンとストレージ領域が割り当てられる。仮想マシンにOSやミドルウエアを自動でセットアップするようなことも可能だ。プライベートクラウドの大家はIT部門であり、店子である業務部門が利用料金を支払う。
料金体系はIT部門が決める。例えば、JTBグループのインターネット基盤を運営するi.JTBでは、仮想マシンに割り当てたCPU個数、およびメモリーとストレージの容量を連動させる。一つめの課題は、この利用料金が“高い”と判断され、せっかく作ったプライベートクラウドが利用してもらえないのではないかという危惧だ。
プライベートクラウドの実勢価格はどの程度か。例えばパナソニック電工インフォメーションシステムズでは、サーバーとストレージを組み合わせ、サービスレベルに応じた4段階のメニューを用意する。最も高いメニューが月額10万円程度、最も安いものが同1万円程度である。こうした利用料金は、サーバー台数が多ければ多いほど“規模の経済”が働いて安くなることは記事に書いた。
やっかいなのは、何をもって“高い”と利用者が判断するかだ。プライベートクラウドを作る企業は、仮想化技術を取り入れて段階的に発展させてくることが多い。まず、既存のサーバーを仮想化して統合し、その統合基盤を利用して仮想マシンなどの提供を始める。その企業に閉じて見れば、プライベートクラウドが提供する仮想マシンの料金は、統合前の物理サーバーの調達コストと比べるべきものだ。
ところが、利用者は得てして米アマゾンの「EC2」といったクラウドサービスと比較してしまう。アマゾンのサービスに対して規模で太刀打ちできる企業は無いだろう。そうなると、プライベートクラウドは提供するサービスの付加価値をアピールするしかない。
例えば、データを社内に置けるプライベートクラウドは、セキュリティ面で安心感がある。対抗馬であるクラウドサービスの信頼性に疑問を呈する声も少なくない。
ただし、クラウドサービスが今後、サービスの品質を上げてくることは間違いない。プライベートクラウドは、完成した瞬間から問答無用でクラウドサービスとの競合にさらされる。サービスを商うことを選んだのであれば、これは逃げることのできない競争である。