筆者は1990年代後半のケータイバブルの真っただ中、青春を過ごした、いわば“ケータイ世代”である。高校生のときに初めてケータイを持ち、自分で着メロを作り、着うたの提供が始まれば、すぐに好きな曲をダウンロードした。
ケータイ向けSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が始まる前から、ケータイ向けの掲示板などで物を売ったり買ったりもしていた。それがきっかけで知り合い、いまだに関係が続いている友達もいる。
そんなケータイ中心の学生生活を送っていた筆者だが、2年前に「Windows Mobile」搭載のスマートフォンを手にしてからスマートフォンのみを使用している。現在は「iPhone」が愛用機。しばらく、一般のケータイ端末からは遠ざかっていた。
それが今回、久しぶりにケータイ端末を使うことになった。日経ネットマーケティング12月号で「売れるケータイサイトの作り方」という特集を書くためである。ケータイを活用して、どう販促、集客するかをテーマにした記事だ。
iPhoneではケータイサイトが見られず、話にならない。急きょ、会社のケータイ端末を利用した。久しぶりに使う端末に懐かしさを覚えながら、当時を思い出した。
レスポンスの早さが魅力
学生のころ、個人的に最も感じていたケータイの魅力は、レスポンスの早さである。掲示板に「○○を売ります」と投稿すれば、それが手に入りにくい物であれば、ひっきりなしにメールが届いた。
筆者を含め周囲の人間はみな、ケータイを肌身離さず持ち歩いていた。返事をすれば、またすぐにメールが返ってくる。私のiPhoneは今は閑古鳥が鳴いているが、学生のころは昼夜問わず、メールが届いていた。
この傾向は一段と強まっているようだ。ベネッセコーポレーションが2009年4月に発表した「子どものICT利用実態調査」によれば、中学生で71.3%、高校生で62.3%が「メールが来たらすぐに返事を出す」と回答している。
つまり、ケータイユーザーの行動特性はパソコンユーザーとは明らかに異なる。ケータイによるマーケティングで企業が顧客獲得を目指す場合、こうした点を十分理解しておく必要がある。
特に若年層の場合、反応の早さが際だつ。ネット販売のサイトであれば、セール開始直後にアクセスが集中して、すぐさま完売することもまれではない。
人気コンテンツにアクセスが集中、サーバーダウン
今回取材した中でも、ケータイならではの反応の早さを表すエピソードを聞いた。ジーンズメイトのケータイを使った販促事例である。
ジーンズメイトは2009年初めに、ゲームに勝った人だけがクーポンをもらえるケータイ向けオセロゲームを提供した。会員にメルマガで告知したところ、。たちまちアクセスが殺到。想定以上のアクセスに、ゲームに勝ってもクーポンが表示できないといった不具合が発生し、ユーザーからは苦情が相次いだという。ユーザーに楽しんで商品を買ってもらおうという企画だったが、これでは本末転倒だ。
同社は当初、ゲームの利用時間帯は分散すると考えていた。ゲームなので、メールが届いてしばらくしてから楽しむ人も多いだろうと予測していたのである。
実際には、メール配信直後にアクセスが集中した。ケータイユーザーのレスポンスがいかに早いかを示した出来事だ。同社はこの反省から、サーバーの増強などを行った後に再度展開したいと話す。
メールの件名や書き出しがポイント
ケータイユーザーとパソコンユーザーの違いはほかにもある。ケータイ向けのメールはパソコン向けに比べて、開封率がはるかに高い。一方で、必要なメールかそうでないかを判断するまでの時間は短い。メールが届いてすぐに開いたそのときに、そのメールが有益であることを一目で印象付けなければならない。そうしないと、すぐに削除の憂き目に遭う。
企業がケータイ向けにメールマガジンを配信する場合、件名やメールの冒頭の書き方が大きなポイントになる。そのメールをどこから配信しているのか、何が載っているのか、自分にどういう利益を提供してくれるのかを一目で分かるようにしておくと、最後まで閲覧してくれる可能性は飛躍的に高まる。
要するに、ケータイユーザーは熱しやすく、冷めやすいのだ。ケータイマーケティングを成功に導くために、こうした認識を持つことが必要になる。
ケータイ活用を目指す企業にとって、今後の注目は「ケータイとiPhoneなどスマートフォンのどちらが主流になるのか」かもしれない。現状では、サイトの閲覧という側面を見ると、直感的に操作できるiPhoneに軍配が上がるだろう。
しかし、「おサイフケータイ」や「デコメール」といった日本ならではの便利な機能をiPhoneは搭載していない。今回の特集取材では、その行方を見通すことまでできなかったのが残念だ。今後にご期待いただきたい。