アウトソーシングが当たり前のはずの米国には、有能なCIOの下に膨大な技術者を抱える強力なIT部門を抱える企業が結構ある。付加価値の低い単純な業務システムはパッケージ導入で済ませるが、戦略的なシステムは自前で作っている。だから、欧米ではシステム・インテグレーションというビジネスは大きく育たなかった。一見当たり前のことのようだが、これって不思議だったんだよね・・・。
何年かに一度の基幹系システムの再構築プロジェクトが終わったとしよう。戦略的に重要なシステムの開発プロジェクトはそうそうあるものではないから、彼らの仕事もなくなってしまう。では、どうして強力なIT部門が維持できるのか。大規模なシステム開発が終了して、IT部門の仕事の中心が運用ベースになれば、開発主体のIT部門は一気に弱体化してしまう。
日本のユーザー企業の場合、これでIT部門が衰退した。以前書いたことだが、15年、20年前なら日本企業のIT化のニーズはごろごろあった。会計システムに手を入れたと思ったら、次は販売管理システムの構築、その次は生産管理システムをなんとかしないといけない。おっと、オープン化はどうする。開発の積み残し案件、いわゆる“バックログ”が山積みで、システム部門は四六時中、開発に追われていた。
しかし一通りIT化が終わると、開発案件はガタ減りする。さらにERPの普及で、ますます開発案件は減少した。バックログ問題はめでたく解消したが、運用に忙殺され、経営層や利用部門との接点も希薄になってしまった。IT部門が経営の視点でモノを考えたり、次世代の若手リーダーを育成したりする機会を失った。 技術者のヒアリング力、提案力、開発力の維持も難しくなった。
では、なぜ企業のIT化が一歩先を行っている米国で、強力なIT部門が存続し続けられるのか。不思議だったんだけど、考えてみると当たり前。その答えは、人がやめるからだ。大規模プロジェクトが終われば、それに携わった技術者の仕事も終わり。その企業に自分の技術力が生かせる開発案件がほかになければ、とっとと退職して次の開発案件を探す。
それは最先端の戦略システムであっても、ERP導入プロジェクトであっても同じ。そのプロジェクトでの実績を自分のキャリアの一つとし、そのキャリアを生かせる条件の良い新しい仕事を探す。開発プロジェクトが終わっても、その企業に“居残って”運用業務をやろうという人の話は、あまり聞いたことがない。
で、それがなぜ、米国企業で強力なIT部門の存続につながるかだが、実に単純な話で、どんな開発プロジェクトでも必要な時に必要な人材をすぐに集められるからだ。それなりの条件を出せば、いくつものプロジェクトをこなした優秀な技術者もあっという間に集まる。別に、技術者だけの話ではなく、CIOしかり、運用担当者しかり。つまり強力なIT部門が必要なら、強力なIT部門をすぐに作り出せるのである。
翻って日本企業はというと、今まで終身雇用が原則だったから、開発の仕事がなくなっても技術者はそのまま居続ける。それじゃまずかろうと言うことで、システム子会社を作って他社の仕事も取ろうとするが、いかんせん営業力がないものだから、それも無理。結局、親会社のシステムのお守か、これまでのシステム開発の際に“協力会社”だったITベンダーから下請け仕事をもらう羽目に陥る。
うーん、これってあまりハッピーじゃない。考えてみれば、ユーザー企業におけるシステム開発の仕事って、終身雇用ではうまく回らないのは当たり前。だから日本では、システム・インテグレータというビジネスが肥大化したのだろう。システム・インテグレータに所属する技術者は次から次へ、様々な企業の開発案件に携わることができる。つまり、米国の技術者のジョブ・ホッピングを擬似的に行っているわけだ。
だから日本のシステム・インテグレータが、ユーザー企業のシステム子会社を買収するのは、この意味で理に適っている。でも、他のやり方もありそうだ。例えば、ユーザー企業の技術者に期間限定で出向してもらい、他のユーザー企業の開発案件を担当させる。そうすれば、システム・インテグレータは技術者不足を緩和できるし、出向した技術者はハッピーだし、ユーザー企業のIT部門の強化にもつながる。いかがだろうか。