ITベンダーも企業も、ITと法律の双方の知識を高めなければならない。あまり耳慣れない言葉だが、キーワードになるのは「IT法務」という言葉である。

 ITに説明は不要だろう。法務は、法令に関連した事務といったところだろうか。法務部がある企業も少なくないだろう。IT法務はITにかかわる法令関連の事務ということになる。

 これだけだとIT法務が何なのか分かりにくい。理由は、ITに法令がどう関係してくるかイメージするのが難しいからである。

 実際には、さまざまな法令にITはかかわっている。一般のシステム開発プロジェクトを、法務の観点から示してみる。一気に身近な存在になるだけでなく、IT法務の重要性が分かるだろう。

ITは法律関連の行為の塊

 まず企業情報システムを開発する際には、システムの開発に伴う契約を結ぶことが多い。契約の内容によって、プロジェクトの進め方は当然、変わってくる。開発そのものだけでなく、ハードやソフトのライセンスを購入する場合に、リース契約を結んだ経験をお持ちの読者もいらっしゃるだろう。

 一般の企業情報システムはソフトを使って動かす。ソフトは著作物なので、当然のことながら、著作権が関係することになる。

 システム開発プロジェクトの過程で、他の企業にソフト開発の協力を依頼することもある。外部の技術者が参加する場合には、派遣法に違反していないかどうかを考えなければならない。

 システムが完成したかどうかを判断する際のよりどころになるのは、契約である。残念ながら、失敗するプロジェクトも存在する。システムが完成しないまま中途で終了するようなトラブルプロジェクトの場合、契約の重みはさらに増す。

 稼働したシステムが障害を起こし、システムを利用する企業の業務に影響が生じれば、損害に対する賠償を求められることもある。場合によっては、訴訟にまで発展するのが現実だ。

 また開発時か運用時かを問わず、顧客の保有する機密情報に接することも少なくない。機密情報を漏らすようなことがあれば問題になるのは当然だ。顧客データベースを管理している企業は多い。個人情報保護法についても気にかける必要がある。

 いかがだろうか。このようにIT、特に企業情報システムは法令と切っても切り離せないものなのである。

企業の体制は不十分

 その一方で、十分な体制でIT法務に取り組めている企業はそれほど多くないのが実情だ。2年半ほど前の記者の眼に「急募!IT法務の専門家」という記事がある。

 IT法務関連の取材を進めていた記者が、逆に取材先から「IT分野に長けている弁護士や法務に詳しい人材がいたら紹介してほしい」と、よく声を掛けられた経験が執筆のきっかけだ。この状況は現在もほとんど変化していない。

 しばらく前に筆者は、ITに詳しい弁護士と話す機会があった。IT法務に通じた企業が少ないために、システムトラブルが増えている面があると、この弁護士は嘆いていた。システムを利用する企業もITベンダーにも共通する話だ。

 外部の専門家の協力を仰ぐのも難しい。上記の弁護士のように、ITと法務の双方に通じた専門家はごく少数である。

 であれば、さまざまな機会を通じて、IT法務についての社内の見識を自ら高め、企業としての取り組みを強化するしかない。

IT法務に有用な記事は多かった

 こう考えていたら、IT法務の理解に役立つ記事が、ITproにいくつもあることが分かった。せっかくなので紹介したい。

 そのものずばり、IT法務という言葉を使った連載もある。「松島淳也のIT法務ライブラリ」である。

 同連載ではこれまでに、著作権やシステム開発契約、ネットオークションに伴う種々の法律問題、最近では個人情報の取り扱いについて取り上げている。

 「判例で理解するIT関連法律」という連載もある。契約や損害賠償、著作権に関する情報以外に、ドメイン名の不正登録やビジネスモデル特許、名誉棄損、パッケージソフトのライセンス契約など、タイトルを見るだけでも興味深い。

 「北岡弘章の「知っておきたいIT法律入門」」という連載も見つけた。この連載には「腕試し! SEのための法律入門」と題したクイズ記事へのリンクも示してある。気軽にIT法務の知識を深めるには格好のものではないだろうか。

 日経ソリューションビジネスが運営に深く協力しているITproの「ソリューション営業」にも「トラブルを回避する契約・法律の基礎知識」という連載記事がある。全体で6回ほどの短めの連載なので、IT法務に対する知識を短時間で吸収したい人には特に有用そうだ。

契約の重要性を再認識しよう

 実はもう一つ有用なものがある。日経ソリューションビジネスでも、3月5日に「ITシステム契約締結のポイントと事例から学ぶトラブルの実態」と題したIT法務セミナーを開催する。タイトルのとおり、このセミナーはIT法務のなかで大きな役割を果たす、契約について重点的に解説するものだ。

 必ずお役に立つ内容になっていると思うので、よろしければぜひ、ご参加ください。お申し込みはこちらです。