写真1●エリクソンが展示するスマートフォンがネットワークへ与える影響を分析するツール。上段が無線状態の遷移を示し、下段がユーザーデータの送受信状況となる。こちらはAndroid 2.3で動画を視聴する際の状態変化を可視化。実際に動画をダウンロードしているほかに、定期的にキープアライブパケットが発生し、頻繁に無線状態がアクティブ(上段の赤の領域)になっている
写真1●エリクソンが展示するスマートフォンがネットワークへ与える影響を分析するツール。上段が無線状態の遷移を示し、下段がユーザーデータの送受信状況となる。こちらはAndroid 2.3で動画を視聴する際の状態変化を可視化。実際に動画をダウンロードしているほかに、定期的にキープアライブパケットが発生し、頻繁に無線状態がアクティブ(上段の赤の領域)になっている
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写真2●Android 4.0で同じ操作をした場合の状態変化。キープアライブ信号は発生せず、スリープ状態が多くなっている。制御信号の発生も抑えられるほか、端末のバッテリー消費の面でもメリットがある
写真2●Android 4.0で同じ操作をした場合の状態変化。キープアライブ信号は発生せず、スリープ状態が多くなっている。制御信号の発生も抑えられるほか、端末のバッテリー消費の面でもメリットがある
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 スマートフォンの浸透によるネットワークへの負荷の増大は深刻度を増すばかり。NTTドコモが2012年1月25日に起こした制御信号(シグナリング)に起因する大規模障害も、スマートフォンならではの特性によって引き起こされた。

 このようなスマートフォンの浸透によるネットワークへの影響は世界的な課題となっている。携帯電話事業者の業界団体「GSMA」も、スペイン・バルセロナで開催中の「Mobile World Congress 2012」に合わせて、スマホのアプリ開発者向けに、ネットワークに優しいアプリ開発に向けたガイドラインを公開した(ガイドラインのページ)。

 スウェーデンのエリクソンはMWCのブースで、同社のラボが研究しているスマートフォンのネットワークへの影響を可視化する分析ツールを展示している。この分析ツールでは、端末の無線状態の遷移状況と、ユーザーデータの送受信の様子を時間軸に沿ってリアルタイムで確認できる。

 ドコモのトラブルの原因となった「制御信号」(シグナリング)は、端末の無線状態の遷移によって多く発生する。無線通信では、無線リソースの有効活用と端末のバッテリーの持ちをよくするために、一定期間動作していない端末は、その都度無線リソースを開放し待機状態となる。この状態は「Preservation」、もしくは「Idle」と呼ばれ、無線リソースがアクティブ状態(HSPAやCELL_DCHと呼ばれる)などから切り替わる。なお制御信号とは、ネットワークの中に通信路を張る準備をするために、端末や無線基地局装置(RNC)、パケット交換機(SGSN)との間でやり取りされる信号のことであり、実際のユーザーデータを運ぶパケット通信とは別の処理となる。

 特に制御信号が多く発生するのは、待機状態(Preservation、Idle)から無線アクティブ状態(HSPAやCELL_DCH)へ切り替わる際であり、30の制御信号が発生する(詳細は日経コミュニケーション2012年3月号記事にて紹介)。つまりこのような端末の無線状態の遷移状況が確認できれば、制御信号の発生状況や、端末のバッテリーの持ち具合などが可視化できるわけだ。

 エリクソンのデモでは、Android 2.3(GingerBread)とAndroid 4.0(Ice Cream Sandwich)によるネットワークへの影響の違いを見せている。Android 2.3では、一定間隔ごとにキープアライブのパケットが発生し、そのたびに無線がアクティブな状態(HSPA、上段の赤の領域)に頻繁に遷移している(写真1)。それに対してAndroid 4.0では、キープアライブ信号は発生しておらず、ユーザーが操作した時だけ無線状態がアクティブになり(赤の領域)、それ以外は無線がスリープ状態(緑の領域、ここでは「URA_PCH」と呼ばれるIdleとは別に規定された状態)が維持されている(写真2)。つまり制御信号の発生や、端末バッテリー消費の両面で、Android 4.0では改善されていることが分かる。

 エリクソンのラボでは、新たなデバイスやOSが登場するたびにネットワークへの影響を分析し、ノウハウを積み重ねているという。さらに利用するアプリケーションによってもネットワークへ与える特性も変わるため、こちらも地道に調査を進めているという。