「仕事時間内のオープンソース活動を認めてもらうには,プロダクトと自分自身の知名度をアップしなければならない」。国産のDI(Dependency Injection)コンテナであるSeasar2のチーフ・コミッタであり,電通国際情報サービスに勤務するひがやすを氏は2006年2月10日,東京・目黒で開催された開発者向けカンファレンス「Developers Summit 2006(デブサミ2006)」の講演でこう語った。同氏は,自分自身が“有名人”になることで「仕事時間の3分の1はオープンソース活動をしていいと認めてもらえるようになった」という。
ひが氏によると,オープンソース・ソフトの開発者に共通した悩みは「開発の時間が取れないこと」。たいていは,休日や仕事が終わったあとにオープンソース開発を行うことになる。一方,ソフトウエアをユーザー企業に安心して使ってもらうためには,そのソフトウエアがデイ・ワークで開発されている必要がある。ユーザー企業は,24時間サポートなどによる安心感を求めるからだ。
ところが「(開発者が所属する)企業がオープンソース活動を仕事として認めてくれることは基本的にない」(ひが氏)。オープンソースの世界でどんなに有名になっても,企業は興味ないからだ。この問題を解決するには,プロダクトと自分自身の知名度をアップさせる必要がある。要するに自分が「有名人になる」(同氏)のである。そうすれば,企業側にとっても“広告塔”としての意味が生まれ,中途/新入社員が採りやすくなるというメリットが生じる。ただし,「有名人を目指すことはあくまで手段であり,目的ではない」と同氏は釘を刺す。
ひが氏は,プロダクトの知名度を上げるのに一番重要なのは,「コミュニティを大切にすること」だと語る。同氏は,Seasar2のメーリングリストはもちろん,はてなキーワードやmixiでも毎日Seasar関連のキーワードをチェックしている。加えて,Googleでも1週間に1回は検索している。こうして吸い上げた声に基づいて,バグは即座に修正するようにしているという。「プロダクトを有名にするには,プロダクト自体の競争力を高める必要がある。自分が作りたいものではなく,ユーザーが使いやすいものを提供する必要がある。自分の技術志向で考えないほうがいい」(同氏)。
同時に,メディアに意図的に露出するよう努力することも忘れてはならない。このためには「コネを利用して雑誌やWebの記事に取り上げてもらう」「有名でないうちは,自らイベントを開催する」といった手段が考えられるという。
一方,自分を有名にするのに必要なのは「最初にプロダクトを有名にすること」だという。「個人が先に有名になることはありえない」(ひが氏)。雑誌やWebの記事を進んで書いたり,ブログで自分の考えを世間に伝えることも重要だという。
プロダクトや個人の知名度が上がれば,ひが氏の例のように,企業も仕事時間の何割かをオープンソースに費やすことを認めてくれる。ただし,そこには“落とし穴”があると同氏は指摘する。「オープンソースに費やした時間は業績とみなされない」のである。オープンソース活動以外の短い時間で効率よく業績を上げなければならない。そのうえ企業は,開発者に業務以外のことを自由にやらせているので,これまで以上の成果を期待する。「これはかなり辛い」(同氏)。
この状況を改善するには,オープンソース活動が企業の売り上げや利益に結びつく必要がある。ひが氏が勤務する電通国際情報サービスでいえば,システムの発注側がSeasar2やひが氏を名指ししてくる案件を取得できるようにならなければならない。そのためにも「Seasar2の魅力を一層向上させる必要がある」と同氏は気を引き締める。最後に同氏は,こうした苦労を「これが僕と企業とオープンソースの生きる道」と有名なドラマのタイトルをもじって締めくくった。