勘定系システムの開発失敗を巡り、スルガ銀行が日本IBMに111億円超の支払いを求めた裁判の口頭弁論が7月4日、東京地方裁判所で開かれた。同裁判では非公開の「弁論準備手続」が続いていたため、公開形式の口頭弁論は1年4カ月ぶりだ。
口頭弁論で争点となったのは、要件定義の成果物についてである。具体的には、中止したプロジェクトで作成した要件定義書が、当初導入を予定していたのとは別の勘定系パッケージを使う際にも使えるかだ。スルガ銀と日本IBMの双方が、証人を一人ずつ出廷させて、それぞれの主張を述べた(図)。
スルガ銀の主張は「使えない」というものだ。出廷したスルガ銀の米山明広プロジェクト担当部長は次のように証言した。「現在、新たな勘定系刷新プロジェクトを進めているが、そこでは、日本IBMと共に作成した要件定義書は一切、再利用できなかった」。新たなプロジェクトとは、日本ユニシスのオープン勘定系パッケージ「BankVision」を導入して勘定系システムを刷新する案件のことである。
この主張に対して、日本IBMは「要件定義書の内容の多くは、Corebank以外の勘定系パッケージを採用したプロジェクトでも利用できるはずだ」と反論した。Corebankとは、スルガ銀が当初導入を目指していたパッケージである。
日本IBMからは証人として、イノベーションマネジメントでコンサルタントを務める芝尾芳昭氏が出廷した。芝尾氏は旧IBMビジネスコンサルティングサービス(現・日本IBM)に在籍していた人物だ。
日本IBMの反論の根拠はこうだ。「勘定系刷新プロジェクトでは、その時点で使っているシステムの処理フローを詳細に調べるのが常識だ。使用中のシステムの処理フローについては、どんな勘定系パッケージを導入するかにかかわらず役立つはずだ」。
裁判開始から3年半、今回の口頭弁論では、初めて「和解」という言葉が出た。双方の弁護士が、和解案を検討する場合の進め方について、裁判長に質問したのである。さらに、互いに「要件定義書が再利用可能か」という視点で明確に主張を展開した。両者はこれまで、口頭弁論において正面から主張をぶつけ合うことを避けてきたきらいがあった。
これらの変化を踏まえると、裁判はいよいよ終盤戦に差し掛かっているようだ。