サーバーや通信ネットワークの再構築案件。難題はオフィス移転までの6カ月以内に完了させること。入社2年目の女性営業担当者が周囲を巻き込んで、初の大型商談の獲得に奔走する。

 「こんなに大きい商談を経験したことがない。大丈夫だろうか」。リコーテクノシステムズ(以下、リコーテクノ)の首都圏支社ITサービス販売事業部IT サービス第2営業部営業1グループに所属する立神由紀子は、懸命に不安と闘っていた。入社2年目(当時)の若手営業担当者である立神は、責任の重さに押しつぶされそうだった。

 「私が“2年生”であることは、ユーザー側には隠しておいてください」。営業担当者が若手かベテランかどうかなど、ユーザー企業には関係ない。提案の内容で勝負が決まる。そう信じる立神はコンペが本格化する前に、直属の上司である営業1グループリーダーの渡邊克巳に進言した。「営業経験が浅いことを先に伝えてしまうと、ユーザー企業から頼りにならない存在と思われそうでイヤだった」と立神は当時を振り返る。

 今回の案件は大型ながら、サーバーや通信ネットワークなどの移行で、他社との差異化が難しい。さらにRFP(提案依頼書)を受け取ってからプロジェクト完了までの期間が6カ月という短期決戦()。立神は自身の経験・力量不足を潔く認め、社内のSEの力を徹底して活用することにした。

図●リコーテクノシステムズの営業担当者が今回の提案でこだわった点
図●リコーテクノシステムズの営業担当者が今回の提案でこだわった点
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オフィス集約に伴いインフラ刷新

 出版事業を手掛ける新風舎は2005年12月、分散していたオフィスを集約するために移転を決めた。そのオフィス移転を機に、業務システムなどを動かすサーバー群、ネットワーク、電話について見直すことにした。

 従来は、オフィスごとにサーバーやネットワークがバラバラで、運用の手間とコストがかさんでいた。「事業拡大にシステム整備のスピードが追い付かない」。新風舎のコーポレート本部情報システム部リーダーである篠原浩彰は、インフラ標準化の必要性を感じていた。

 篠原と新風舎のシステム部員は2006年1月、RFPを作成した。同社の編集部門は、画像や音声といった大容量データを扱う。そうしたデータの保存期間やシステムを利用する時間帯などの情報をヒアリングし、サーバーのサイジングやネットワーク設計の基となる情報をRFPに盛り込んだ。さらに新風舎は、 IP電話を導入するケースとしない場合で、サーバー/ネットワーク構成がどう変わるのか、2通りの提案書を出すようRFPに明記した。

 篠原は2006年3月、RFPをITベンダー7社に提出。その1社が、リコーテクノを商談に呼び込むことになるリコー販売だった。新風舎はこの商談が始まる以前の2005年10月、全社の複合機をリプレースしており、リコー販売はこのコンペに参加。発注しなかったものの、篠原は「リコー販売の営業担当者の提案力は高い」と一目を置いていた。

 そこでリコー販売の営業担当者に、今回のコンペへの参加を依頼した。サーバーやネットワークの再構築という案件の性格から、リコー販売はSIerであるリコーテクノと共同でコンペに参加。提案実務はリコーテクノが担当したのだった。

 コンペに参加したのは、7社中5社。独立系大手SIerやメーカー系インテグレータ、中堅SIerなどだ。顔ぶれを見ると、これまで付き合いのあるベンダーとそうでないところがあった。「従来の取引にこだわらず、サーバーやネットワークの刷新を一手に引き受けられる体制のとれそうなベンダーにRFPを提出した」と篠原は説明する。