ニワンゴが運営する動画投稿/コメント・サイト「ニコニコ動画(RC)」の勢いが止まらない。7月26日時点でID登録者数(ユーザー数)は200万人を突破。8月13日には携帯電話向けである「ニコニコ動画モバイル」のユーザー数も13万人を超えた。ネットレイティングスが7月25日に発表した「『総利用時間』による日本のウェブドメインランキング」では16位にランクインした。
ニコニコ動画の利用にはID登録が必須。「YouTube」のように誰でもすぐに視聴できるサイトではない。さらに,現時点ではサイトの負荷対策のため,ID番号による利用時間の制限も行われている。
にもかかわらず前述の人気である。前身となる「ニコニコ動画(仮)」は2006年12月に,現在のニコニコ動画(RC)につながる「ニコニコ動画(γ)」は2007年3月にスタートしたばかり。短期間でこれほどまでの人気を得た国内サイトはかつてなかったであろう。ちなみに,「mixi」は200万ユーザーに達するまでに1年9カ月かかっている。
ニコニコ動画には多くの興味深い側面があり,技術論,ビジネス論,文化論,コミュニケーション論,メディア論など,さまざまな切り口で“語る”ことができる。技術面を見た場合,大量のアクセスと動画のトラフィックをどのように処理しているのか大変気になるところだ。ビジネスの面で見れば,ニワンゴはニコニコ動画からどのように収益を上げてゆくのか?投稿される動画と「ニコニコ市場」の連動性,そしてプレミアム会員のビジネスの行方(ユーザーにQoSを提供するニコニコプレミアムは,NGNを進めるNTTが大いに参考にすべきサービスだろう)など,今後の動向は要注目だ。
そのような中で筆者が特に注目したいのは,ニコニコ動画に投稿される動画の“進化”のスピードだ。
具体的に説明すると,ニコニコ動画には「盗んでいきましたシリーズ」や「キーボードクラッシャー」「組曲『ニコニコ動画』」,「アイマスMAD」といった人気シリーズがある。これらのシリーズにはそれぞれに様式美と呼べる動画編集のスタイルがあり,基本的にはそれを踏襲する形で新たな動画が生み出され,投稿される。そして驚愕するのは,一つの様式美が出現すると,その様式美を踏まえ,改良し,新たな様式美を生み出してゆくプロセスが,極めて短期間のうちに進行する点である。持続的イノベーションから破壊的イノベーション,あるいは「守破離」のサイクルが,速い場合は数日間のうちに起こるのである。大げさな表現になるかもしれないが,ニコニコ動画で現在発生している文化の進化スピードは人類史上最速であると言ってよいだろう。
YouTubeの成功以降,世界中で無数の動画サイトが登場した。しかし,ニコニコ動画ほどその内容の密度が濃く,成功しているサイトは他にないだろう。少なくとも国内では,新たな文化を生み出す役割やアクセスランキングなどで,ニコニコ動画がYouTubeを超える日もそう遠くはないはずだ。最近は,台湾人や香港人,フランス人のユーザーも参入している。日本発のネット系サービスとして世界展開できる可能性は十分に高い。
それにしても動画にコメントをスクロールさせながら重ね合わせるだけでこれほどまでに面白く,共感を生み出す仕掛けになるとは…。このアイデアを発案し,実装したニコニコ動画には脱帽である。