日本情報システム・ユーザー協会 IT匠フォーラム

「システム構築は、なぜ難航するのか」、「成否の分かれ目はどこにあったのか」。成功、失敗を含め数多くのプロジェクトに参加してきたシステム部門OBたちが、システム構築の暗黙知を小説仕立てで紹介する。



 「うちの会社はいつまでレガシー・システムを使い続けるのだろうか?」。梅雨の合い間のある日の午後、中堅機械メーカーJUAS産業のシステム企画部に勤務する角川千秋はパソコンに向かって、ため息をついた。

 本来、仕事は充実しているはずだった。理工系大学を卒業後13年、角川はシステム部門一筋でやってきた。2年前には課長補佐となり、現在は全社のシステム戦略を立案したり、各システムに割り当てる予算を配分する立場にある。

 これがなかなか思うようにいかない。今日の午前中の会議でも、来年度予算を巡って課長の永山雅人とやり合ってしまった。そのことを思い出すと、角川のイライラはいっそう募った。

イラスト:今竹 智

政治的に動けよ

 「それでは、各チームの来年度予算は、一律5%カットでお願いします。浮いた分を営業部から強い要望がきている『特注部品発注システム』の開発に当てます」。永山の言葉に、角川は思わず反応した。

 「ちょっと待ってください。一律5%削減は、あまりにも乱暴ではないでしょうか。各チームにコスト削減の余地がどれだけ残っているか、チーム・リーダーにヒアリングぐらいしていただけませんか。そもそも当社のIT投資は場当たり的で、方針がまったくみえません。これでは…」。

 「それは駄目だ」。途中で永山は発言をさえぎった。「角川君は知らないだろうけど、昔、似たようなヒアリングをやって大騒ぎになったんだ。どのチームもゆずらず、最後は社長裁定にもつれこんだんだぞ。あんなことは繰り返せないよ」。

 「でも、一律5%カットでは、現状維持で何もできません。今の基幹系をいつまで使い続けるのですか。オープンだったら、リース料は今のメインフレームの半分以下になるはずです。そのためにも、『特注部品発注システム』はちょっと待ってもらって、システム刷新の調査費にまわしましょうよ」。

 「何を言っているんだ、角川君。基幹系の刷新は時期尚早だよ。今のシステムで、だれも困っていないじゃないか。それに、システム子会社の『JUASシステムズ』にオープン系がわかる人間がいないのは、君も知っているだろう」。

 「しかし…」。角川の抵抗もここまでだった。「金山部長も『ここしばらくはメインフレームでいく』とおっしゃっている。君も課長補佐なんだから、もう少し政治的に動けよ!」。

 上司にここまで言われては、これ以上の反論はできない。