写真2  車車間通信実験の様子<BR>クルマ同士が位置を交換することで,見通せない場所にいるクルマを認知する。
写真2 車車間通信実験の様子<BR>クルマ同士が位置を交換することで,見通せない場所にいるクルマを認知する。
[画像のクリックで拡大表示]
図4  参宮橋の社会実験&lt;BR&gt;道路に付けられたセンサーでカーブの先の渋滞や低速車両を検知し,情報板のほか,カーナビ画面に表示する。カーナビには電波ビーコンで伝える。
図4 参宮橋の社会実験<BR>道路に付けられたセンサーでカーブの先の渋滞や低速車両を検知し,情報板のほか,カーナビ画面に表示する。カーナビには電波ビーコンで伝える。
[画像のクリックで拡大表示]

見えない部分を通信で補う

 もう一つのカギを握る通信は,まだ,実用化されていないものの,官公庁と自動車メーカーが一体になって現在,仕様策定などを進めている段階だ。

 クルマにおける通信には,大きくクルマ同士で情報を交換する「車車間」と,道路に設置されたセンサーと通信する「路車間」に分けられる。車車間は,クルマをセンサーノードと見なして,互いに情報を交換するもの。自車から見えない範囲を他のクルマから得た情報で補完する。路車間は交差点や急カーブ,凍結しやすい道路などを道路脇に設置したセンサーで監視し,その結果を電波を介してクルマに配信する。

 車車間通信の取り組みの一つが,国土交通省が2001年4月~2006年3月までの期間で取り組んでいる先進安全自動車の第3期プロジェクト(ASV-3)で開発した「情報交換型運転支援システム」である。2005年10月12,13日にはこのシステムの実地試験が北海道苫小牧市で一般に公開された(写真2[拡大表示])。公開実験には,トヨタ自動車,日産自動車,本田技研工業をはじめとする国内14社がASV-3の仕様に基づいて製作したクルマを持ち込んだ。

 このシステムではクルマ同士が位置や速度,方向を交換することで,お互いの位置を把握する。そして,見通しの悪い交差点などに近づいたときに接近車の存在を通知し,事故を回避することを狙っている。具体的には,(1)右折車両と直進車両,(2)出会い頭,(3)歩行者,(4)正面衝突,(5)追突,(6)左折時の巻き込み,(7)車線変更,という7類型での事故低減を目指している。

 これらのシステムのクルマへの導入は「2010年以降」(トヨタ自動車 車両技術本部統合システム開発部第4開発室の金光寛幸グループ長)と多くのメーカーが考えている。

AHSRAと日産の路車間通信

 路車間通信は,走行支援道路システム開発機構(AHSRA)や日産自動車などが取り組んでいる。

 AHSRAが現在手掛けているのは,首都高速の参宮橋カーブの状況をカー・ナビゲーション・システム(以下カーナビ)に配信する実験。一般に公開した実験を2005年9月21日から始めた(図4[拡大表示])。参宮橋は見通しが悪く,半径80mという急カーブで事故多発地帯として有名。カーブを曲がりきれずにガードレールに衝突したクルマや、カーブの先で起こっている渋滞の最後尾に後続車が追突するという事故が頻繁に起きる。

 今回のシステムでは,赤外線カメラによってカーブの先を監視する。もし,停止中のクルマ(事故車)や多数のクルマ(渋滞)が検知された場合には,VICSの電波ビーコン*1を通じて,カーナビにその状況を通知する*2

 2005年3月1日から5月31日まで先行して実施した実験では,実験前の28日間に10件あった追突事故が,実験中の98日間ではゼロになったという。

 参宮橋以外での設置のメドは立っていないが,「国道への採用を働きかけている」(走行支援道路システム開発機構 研究所実用化推進部の水谷博之部長)。すでに国道の事故多発地点には,監視用のカメラが設置されている。このカメラに渋滞や事故の認識機能を加えれば,安価に実現できるという。

 日産自動車は2006年9月から新交通管理システム協会や警察庁,神奈川県警察本部,NTTドコモ,松下電器産業,ザナヴィ・インフォマティクスと共同で一般道での路車間通信実験などを始める。具体的には交差点での交通標識や信号の状態,接近車両の有無などをVICSの光ビーコンでカーナビに通知する。カーナビではこれらの情報を簡易な画像と音声でドライバに知らせる。横浜市内の青葉インター出口と本牧の付近の2カ所で実施するという。


自動走行は永遠の夢か

 クルマが車内,車外の状況を適切に認識できるのならクルマが全自動で走ってもよさそうだ。しかし,自動車メーカーはその可能性を否定する。

 最大の理由はPL(製造物責任)法。万が一クルマが判断ミスをして事故が起こった場合,自動車メーカーが責任を負わなければならないかもしれない。いくら技術が進んでも,100%大丈夫といえない限り,自動運転は難しい。

 また,研究者の多くは「人間ほど高度には,突発的な状況を判断できない」と考えている。「電車のように走る場所が決まっているものでさえ,突発的な事故に対応するために自動運転に移行できていない。道路状況などあまりにも複雑なクルマの走行環境での自動走行はありえない」(埼玉大学工学部電気電子システム工学科の長谷川孝明助教授)。人,バイク,障害物など道路環境が時々刻々変化する環境では,あまりにも計算することが多すぎるというわけだ。

 とはいえ,「高速道路のようなクルマしか走らない場所なら自動走行が比較的容易」(産業技術総合研究所 知能システム研究部門フィールドシステム研究グループの加藤晋主任研究員)。いずれ,自動車専用道路限定で自動走行は実現するかもしれない。