2019年10月に公開した筆者の記事「人間の耳は約20kHzまでしか聞こえない、『ハイレゾ音源』に意味はあるのか」に、SNSや編集部へのメールなどでたくさんのご意見をいただいた。改めて関心の高いテーマであることを再認識させられた。
そこで、頂戴したご意見を踏まえた上で、再度ハイレゾの存在意義について、前編と後編の2回に分けて改めて考えてみたい。ただ、お読みいただく前にご了解いただきたいことがある。このコラムに関しては「ITジャーナリスト」という立場は横に置いておき、現役の音楽制作者であり、1人のリスナーとしての考えをつづらせていただく。
高い周波数成分に意味はないとする否定派
考察を始める前に、サンプリング周波数とナイキスト周波数の違いについて前説をしたい。というのは、以前の記事で筆者の説明が不十分だったせいか、「ナイキスト周波数とサンプリング周波数を混同しているのではないか」という複数のご意見を目にしたからだ。長らくハイレゾ音楽の制作現場にいる筆者だけに、さすがに後述する「標本化定理」の知識は持ち合わせている。
サンプリング(標本化)周波数というのは、アナログ信号をデジタル信号に変換する際、1秒間に何回標本を採るのか、という回数を示している。サンプリング周波数が44.1kHzだと、1秒間に4万4100回の頻度で値を測定することになる。
ここで重要となるのが「ナイキスト周波数」だ。ナイキスト周波数はサンプリング周波数の約2分の1の周波数のことだが、なぜ約2分の1が重要なのか。これは標本化定理というものに基づいている。アナログ信号をデジタル信号に変換する際、波形の最大周波数の2倍を超えた周波数で標本化すれば、デジタル信号からアナログ信号に再変換する際に元の波形を再現できる、という定理だ。言い換えれば、サンプリング周波数で再現できる周波数がナイキスト周波数という関係になる。ちょっとややこしいので、CDを例に解説しよう。
CDの場合、人間の可聴範囲である約20kHzまでを収録する必要があるので、サンプリング周波数は44.1kHzという規格になっている。これがハイレゾともなると、88.2kHz、96kHz、192kHzといったサンプリング周波数でデジタル化されているので、より高い周波数成分を収録することができる。だが、このような周波数でデジタル化した音源は、可聴範囲を超えた周波数成分を記録しているので、音楽コンテンツとしては意味のない存在である、というのがハイレゾ否定派の意見だ。