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 「時田さん、持っていないよな」。富士通が2023年5月24日に開いた中期経営計画説明会をオンライン視聴した際につくづくそう感じた。2025年度までの3年間を対象とするこの中計は、富士通のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展だけでなく人月商売のIT業界の終焉(しゅうえん)すら暗示させる、なかなか刺激的な内容だったにもかかわらず、時田隆仁社長の謝罪のほうに焦点が当たってしまったからだ。

 時田社長が何について謝罪したかというと、子会社の富士通Japanが提供するコンビニ証明書交付サービスで立て続けに発生したトラブルについてだ。プロジェクト情報共有ツール「ProjectWEB」への不正アクセスなど、2021年以降に相次いで発生した情報セキュリティー関連の問題についても併せて謝罪した。そうなると記者の質問は、直近のコンビニ交付サービスでのトラブルを巡る経営責任などに集中する。メディアの記事では中計よりも謝罪のほうが大きな扱いとなった。

 何で中計という重要な発表の直前に、公共サービス関連での失態が露見するのか。そんな印象から「時田さん、持っていないよな」と思ったわけだ。ただ、よくよく考えてみると、別の見方もできる。実は問題が露見した後、時田社長が公の場で謝罪するのはこの中計説明会の場が初めて。記者からすると初めて経営者の生の声を聞く機会だから、関心はそっちに集中してしまう。何でもっと早く、この問題に関する記者会見を自ら開いて謝罪しておかなかったのか。そうしておけば、中計の説明や質疑に集中できたはずなのだが。

 富士通は、時田氏が2019年6月に社長に就任して以降、富士通自身のDXを推進してきた。いわゆる「時田改革」だ。そのココロを極言暴論流に解説すれば、客にべったりと寄り添ったご用聞き商売や、IT業界の多重下請け構造を活用した労働集約型の人月商売からの脱却を図るということだ。で、今回新たに策定した中計では、こうしたビジネスモデルの変革、ビジネス構造の変革としてのDXをさらに加速させる。そういえば、時田社長は「さらなる変革を進め、結果を出す準備は整っている」とたんかを切っていたな。

 中計の内容についてくどくどは解説せず、特に着目した点のみを記しておく。2025年度までにコンサルティングスキルを持つ人材を1万人に増やすなどして、ご用聞きから課題解決型の提案に転換する。個別対応のSI、人月商売から「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」などクラウドベースの共通サービスの提供へとビジネスの主軸を移し、SIも開発プロセスなどの標準化、自動化、オフショア化を推進する。内製化を強化して(2025年度に内製比率を64%に)、下請け依存を改めていくそうだ。

 そんな訳なので、この中計の内容は富士通関係者のみならず客の企業や人月商売のIT業界全体に大きなインパクトがある。だから、時田社長の謝罪で話が紛れてしまったのは極めて残念だ。しかもその影響か、「結果を出す準備は整っている」とたんかを切ったにもかかわらず、時田社長の発言がどうもピリッとしない。特にそれを感じたのは「客にきめ細かく対応するビジネスが手薄になってきているのではないか。そうしたサービスを継続すべきではないか」との質問を受けたときの返答だった。