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独り暮らしでも寂しくなさそうなのは、抱き合って挨拶する風習があるからなのかな、と思ったことがありました。

それで、農村の一軒家に1人で住んでいる知り合いのお婆さんが、1日に何回くらいハグをしているかと想像してみたことがありました。
まず、心臓にペースメーカーを入れているので、ヘルパーさんや看護婦が頻繁に来ている。近所に住んでいる子どもたちの家族も顔を覗かせているはず。毎日少なくとも10回はハグをしているだろうなと計算しました。会った時と別れる時に抱き合って挨拶をするので、その倍くらいかもしれない。
◆ フランス人男性は女性を口説くことを楽しむ?
仕事の関係で親しくなったフランス人が日本で講演するために来日したとき、私は同行通訳兼アテンドとして世話しました。講演では同時通訳の人たちに任せたので楽な仕事。
講演会をオーガナイズした会社に行くと、彼はフランス式に私にハグの挨拶をする。オフィスにいる日本人たちには奇妙に見えるだろうと思って困りました。日本にいるときにはしないと言ったら、異国にいる彼が寂しさを味わうでしょうから断るのは可哀そうだし。
それで、彼に言いました。
「これがフランス式挨拶だから」と説明するから、オフィスにいる女性たちにも同じようにハグの挨拶をして欲しい。抱き合うのが嫌だったら断るようにとも言うから大丈夫、付け加えました。
フランス人なのにハグの挨拶は嫌いなのだという女性の友人がいました。「どうするの?」と聞いたら、男性の友達が近寄ってきてキスをしそうになったとき、さっと手を出して握手をしているのだそう。このテクニックも教えてあげることにしました。
オフィスにいる女性たちにもフランス式挨拶を勧めた彼は、「やっても良いの~?♪」と嬉しそうに言う。
フランス人は、日本に来る前に、日本では公衆の面前で異性が抱き合ってはいけないと学ぶのではないかな。私の昔のフランス人上司の母親が来日した時に話しをしていたら、日本滞在を終えてパリに帰る彼女を空港まで息子が送ってくれるのだけれど、別れに抱き合っての挨拶させてくれないのだ、と嘆いていました。
私の勧めでフランス式挨拶をされた若い女性たちは、面白がっているように見えました。後で、彼には「吸血鬼」というあだ名を付けたのだ、と教えられましたけれど!
その彼を連れて、オフィスの人たちの招待で東京のバーに行ったことがありました。
寄って来たホステスさんたちから、「お名前は?」と聞かれた彼は「トムです」と答えていました。トムなんていうファーストネームを持っているフランス人はめったにいないのです。そんな答えをしたことから見て、女性たちが寄ってきたのが不愉快なのだろうと感じました。
冗談を言うのが得意で、女性の気をひくようなことを言うのが好きな男性でした。つまり、彼としては、女性の方からチヤホヤされるのは不自然なので、居心地が悪かったのでしょう。
その翌日の彼は、この次に行く京都ではバーに行きたくないと伝えて欲しいと言う。
でも、ね~...。
会社の男性たちは、フランスからVIPが来たことによって、自分たちがホステスさんたちがたくさんいるバーに行く費用を会社で払わせられることを喜んでいるのだから、「フランス人は行きたくないそうです」なんて言うのは礼儀に反する、と答えました。
やはり、京都でも、バーに行く夜がありました。
私としては、ホステスさんたちがイチャついてこないように気を使い、私たち2人で普通の会話をして時間をつぶしました。
でも、フランス人に教えてあげたかったので、日本の男性たちがこういうところに来たら何をするのかを示しました。ホステスさんたちと話しながら膝に手を当てたりしてご満悦なのです。
見て、見て~! 日本の男性は、こういう所に来て高いお金を払わないと、女性に触れないのよ~!
なるほど、という顔をして、私が「バーに行きたくないと言っている」なんて伝えられないのを理解してくれました。
それで思ったのでした。日本の男性は、気軽に女性とスキンシップが持てないので、歪んでしまっているのではないか? 電車に女性専用車両を作らないといけないほど痴漢が多いのも異常だと思います。
フランスの社会では、女性にちょっと触りたかったら、痴漢にならなくても良いようにできています。
例えば、友人たちと食事をしているとき、私の親友の旦那さんは私の肩を抱きながら、食卓にいる他の人たちに「彼女は僕の友達なんだ」とよく言います。頬にキスをしたりもしてくる。
◆ レイプ被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織
最近の日本のニュースで、気になった事件がありました。
日本のニュースはゴシップ報道ばかりで、政治家が失墜する契機になるのは不倫問題だと感じています。世界で不穏な動きがあるのに、それを差し置いてどうでも良いことを話題にするのは、日本人に好まれるからなのかもしれない。
気になったニュースは、少し毛色が異なっていました。
伊藤詩織というジャーナリストが、TBSワシントン支局長だった山口敬之と食事をしているうちに泥酔状態になり、山口がタクシーで宿泊している都内のホテルの彼の部屋に連れて行かれてレイプされた、と訴えていたのです。
事件がおきたのは2015年。警察に被害届を出し、逮捕令状が出たにも関わらず刑事訴訟で不起訴処分になったのは奇妙。民事訴訟で東京地裁で勝訴を勝ちとったのでした。実に4年もかけて戦ったわけですか。
何とも不可解な事件でした...。
日本では電車の中で痴漢呼ばわりされてしまうと、その男性はとりあえずでも留置所に入れられてしまうのに、レイプされたという女性の訴えは、同意してやったとされることが多くて、なかなか犯罪として認めてもらえないらしい。
私は酒に酔わない体質だし、自分の限界に達する前には飲みたくなくなるので、悪酔いした経験が全くありません。酒に弱い人は、突然バッタリと倒れて、意識不明の状態が長く続くものなのでしょうか?
でも、若い伊藤詩織はキャリアの道を開くことを目的にして山口と会ったのですから、泥酔などはしないように緊張していたはず。酒の中に何か薬物を入れられたのではないか、と勘繰ってしまいました。
◆ 事件のドキュメンタリー番組や著書など
イギリスのBBC放送が伊藤詩織事件を扱った「Japan’s Secret Shame(日本の秘められた恥)」というドキュメンタリーを作っていたのを知ったので、インターネットに入っていた1時間の番組を見ました。
映像として出てくるので、記事を読んでいただけでは分からなかったことも見えるので興味深かったです。
日本ではコンビニの片隅にもポルノ関係の雑誌が並んでいるという指摘。確かに、パリのいかがわしい界隈に行ったら変なものが店に並んでいるのかもしれませんが、普通にフランスいる限り、日本で見るようなものは目にしません。自粛があるのか、規制があるのか? ともかく、日本は性に関して変に歪んでいるのだと認識させられました。
少し前の私は「日本の監獄事情を紹介したフランスのドキュメンタリー」を書きながら、刑務官が受刑者を拷問して死亡させた事例もあったのを知って驚いていました(名古屋刑務所事件)。
日本の警察ではしたい放題のことができるのでしょうね。レイプされたと警察に訴えた女性を床に寝そべらせて、等身大の人形を色々な角度で押しつけ、どういう風に強姦されたのかを示せとやるなんていうのは正気の沙汰ではないです。そんなことを検証して、何の役にたつの? 恐ろしかった記憶が戻ってしまいますから、拷問と同じではないですか?!
伊藤詩織は若くて美しい女性なので、トラウマで一生を台無しにされることはないという自信もあったのかなと思いましたが、かなり精神的に強い女性のようです。体験を語るときには泣き顔を見せるけれど、くったくがない笑顔も見せているのです。それを逆手にとられて、散々に誹謗中傷されていたので気の毒。
笑うのは、逆境に耐えるのに役立つのだそう。
心臓関係の病気で後遺症を持ってしまった日本人が、できるだけ笑い飛ばすようにしているのだと言って、こんな変なパンダ人形を見せてくれたことがありました。ぬいぐるみに触ると「ワッハッハ」と笑いだすので、それに誘われて笑えるのだそう。
私が落ち込んでいる時には、パンダに誘われたくらいで笑いだすことはできないですけど...。
伊藤詩織は、笑顔が自然に出てくる人のようでした。とても羨ましいです。BBCのドキュメンタリーに登場していた彼女の母親も妹も明るい人に感じたので、そういう家庭で培われたポジティブ・シンキングの人なのかもしれない。
でも、そういう明るい性格を山口は逆手にとって利用されていました。レイプされたと主張する女性が記者会見で笑顔を見せるなどというのはあり得ないとして、伊藤詩織を嘘つき呼ばわり。
山口敬之はテレビ局の人なので、世論を動かすのは簡単にできたようです。ドキュメンタリーに映し出された日本のテレビ番組やツイッターでの誹謗中傷は驚くべきレベルでした。日本人は温厚な国民だけれど、皆で「村八分」にすれば、幾らでも痛めつけられる伝統がある国なのだという怖さを改めて感じました。
お隣の韓国は日本と伝統文化を共有していますが、もっと極端なのかもしれない。ネットで誹謗中傷されてノイローゼになって自殺した俳優が何人もいますよね。
私がインターネットで見たBBCのドキュメンタリーは、2度目にクリックしたときには動画が存在しないと出てきてしまいました。下のサイトでは、まだ見れるかもしれないのでリンクを入れておきます。
☆ 【#MeTooを考える】伊藤詩織さんBBC放送ドキュメンタリー「Japan’s Secret Shame」
こういう事件は欧米人の興味をひくでしょうね。フランス人から「イスラム圏と同様に、日本での女性の地位は低いのですってね」とよく言われるので、「そういうものでもない」と答えていました。でも、このレイプ事件を追ってみたら、彼らが言うことは正しいかもしれないと思えてきました。
伊藤詩織は『Black Box(2017年10月)』と題したノンフィクションを出版していますが、フランス語訳も2019年に出ていました。
訴えられた山口の方は先を越していました。東京地裁が2016年7月に嫌疑不十分で不起訴とする少し前に『総理(2016年6月)』、その半年後には『暗闘』と題する安倍ヨイショ本も出しています。極右雑誌「Hanada」は、性的暴行が表沙汰になった2017年から山口をサポートする記事を掲載していました。
◆ フランス人女性のセックスアピールはスゴイ
詩織さんも少し軽率だったとは思います。山口から仕事やアドバイスをもらえることを期待して食事の招待を受けたのは分かる。でも、これだけの美人だったら、相手に下心があるかもしれないと考えるべきでした。
関係を持ちたいと思った山口の気持ちは分かる。でも、それなら口説いて射止めるべきだったですよ、と言いたい! フランス人男性たちは、歯が浮くようなお世辞をたくさん言います。
フランスでは、男性から夕食の招待を受けた女性は、その後にベッドを共にすることを承諾したとみられます。そうなのだろうなと感じる経験はありましたが、こちらに意志がないと伝えたら簡単に引き下がります。相手は何の見返りもなしに夕食をご馳走してしまったとか、ナンパしようとしたのに失敗したとか、と苦々しく思ったかも知れないけど。
体を許したから良い仕事を得たのだろうな、と思う若い女優さんや政治家なども見ています。そういうのはギブ&テイクだし、ある意味では女性が男性を利用したのだと通快に思うので、悪いことだとは思いません。
でも、詩織さんはそんなつもりはなかったのだろうと想像します。軽率だったために強姦されたことを後悔したとしても、黙っていたら、その後は山口との特別な関係ができてキャリアを磨く道が開けたはず。それなのに、あえて彼女は相手を告発したわけです。
女性の立場が強いように見えるフランスでも、性犯罪事件はあります。女性へのセクハラ、DV(ドメスティック・バイオレンス)、レイプ。
交際相手か夫に殺された女性は、年間で130人に上るのだそう。知り合いの中でも夫婦間のDVの例を見聞きしていますので、存在することは疑いようがないと見ています。
レイプについては、フランスでは2017年に1万6,400件のレイプ被害届が出されているのだそう。同じ年の日本では15分の1。でも、日本では大半の女性が被害届なんかはしないだろうと思います。日本の専門家が言うには、被害を受けた女性の4%しか被害届を出さないのだそう。フランスの場合は、厚遇してくれると思って身を許したらそうではなかった腹いせに被害届を出すこともあるだろうと思います。
フランス女性はセックスアピールをし過ぎているので、自業自得だとも思ってしまう。日本の場合は、そういう人はごく少数だろうと思うのです。
テレビでニュース解説をしている美しい女性アナウンサーも、胸が大きく開いているシャツを着ているのが目につきます。上半身しか映らない画面では、カメラをもう少し下まで下げたら全部見えてしまうのではないかと思ってしまうほど。
天気予報に出てく女性はもっと派手ですが、あれはセックスアピールすべき仕事なのだからとのこと。めったに当たらない天気予報なので、せめて女性が愛嬌をふるって誤魔化すというところなのでしょう。
私がいる農村では頻繁に食事会が開かれるのですが、来ているのは年寄りばかり。でも、少し若い世代の女性たちは(既婚の40歳代)かなり挑発的な服装で来ています。もっと若い世代だと、普通に見えるのですけど。
例えば、先日の食事会で目についたのは、黒髪だからと黒で統一した服装で来ていた女性。黒いストッキングの上にギリギリに短い黒のショートパンツを履いていました。もちろん顔は厚化粧。細身の人なので似あっていましたけれど、こういうのってね~と思ってしまった。
そばにいた男性に言ったら、「ああいうのは売春婦のいでたちだ」と、ひと言。でも、一緒に来ていた旦那さんは、そういう目立つ服装で人前に出るべきではないとは言わないのだろうと感じました。フランスの夫たちは、自分の妻が他の男性からチヤホヤされるのを嬉しく思うそうなので。
それでも、レイプなどという強硬手段に出るのは、少なくとも山口のように社会的地位がある人はしないだろうと思います。
有名ブランドの香水は全てこの会社が原料を作っているのではないかと思ってしまうフランスの香料会社に勤めた時は、調香師の人に私にはこれが合っていると言われて、私も香りが気に入って使い始めた香水がありました。
私が大学で専攻したのは実存主義だったので、パリの「左岸」という命名も気に入りました。
会社で作くれる香料にアルコールを加えれば良いわけなので、いくらでも作ってくれる。違いは、市販されている香水とは違って、味気ないサンプル用のボトルに入っているだけのこと。
タダでもらえるので、ふんだんに使っていたのですが、困ったことがありました。
通勤するために東京で電車に乗ると、以前にはなかったほど痴漢に触られるのです。
フランス人上司に愚痴をこぼすと、「ほらね。香水には効果があるのですよ♪」と、得々とした顔で言われてしまった!
香水というのは、異性を惹きつけるために使うものなのですか?...
私の上司は男性なので、電車で痴漢に触られるのがどんなに不愉快かが分かるはずはないので、「そんな風には言わないで下さい!」と返事するのは止めましたけど。
ただし、いくらタダでもらえるオーデコロンや香水でも、朝に自宅を出る前につけるのはやめました。
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「輝き」とおっしゃいますが、フランスの高齢女性が厚化粧して異性を惹きつけようとしているのは余計に醜く見える、と私は感じますけどね...。
ブログ内リンク:
★ フランス式の挨拶がしにくい帽子 2009/02/08
★ 目次: フランス式挨拶、親しさの表現
★ フランス女性は誰でも美しい? 2017/05/30
★ 目次: フランスに結婚に関する風習、夫婦・家族関係、生き方
★ 日本の監獄事情を紹介したフランスのドキュメンタリー 2019/12/11
外部リンク:
☆ 「日本の秘められた恥」 伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送 2018/06/29
☆ 【伊藤詩織さん「性暴力裁判」で勝訴】江川紹子が見た判決・会見…今後求められるものとは
☆ 伊藤詩織さんの「勝訴」になぜ世界は騒ぐのか 2019/12/27
☆ フランス人記者が見た伊藤詩織さん勝訴とこれからの戦い 2019/12/23
☆ 広末不倫問題にフランス哲学者「フランスでは不倫は存在しない」15歳で40歳と略奪婚し大統領になったマクロン…
☆ 日本の性暴力はアメリカでどう受け止められているのか——あまりに貧弱な日本の救済制度 2018/03/24
☆ 藤原新也が山口敬之準強姦疑惑の現場に足を運び徹底検証! 2018/01/28
☆ 伊藤詩織事件の三つのキーワード - 人間の尊厳、グロテスク、権力犯罪
☆ Figure de proue de #Metoo au Japon, Shiori Ito gagne son procès civil 18/12/2019
☆ Violée puis reniée: la double peine de Shiori Ito 19/05/2019
☆ 酒に薬物を混ぜるケースも! 飲み会で女を「酔わせる」危険な手口を犯罪ジャーナリストが警告
☆ 元あやまんJAPANメンバーも被害に遭った"レイプドラッグ"の卑劣手口
☆ 急増する「レイプドラッグ」被害女性3人の叫び
☆ 広河隆一氏“性暴力” 被害者の夫が告白「妻に“性被害”を打ち明けられた時、僕は……」
☆ 痴漢大国ニッポン 「社会問題」として考える痴漢
☆ Wikipedia: MeToo » #BalanceTonPorc
☆ goo辞書: 準強姦罪 » 準強制性交等罪
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町から町を結ぶ道路沿いにある駐車スペースです。ここで車を止める人は週に何人いるだろうかというような辺鄙な場所。それなのに、ここの歴史を紹介するパネルがあって、出土された大きな石でテーブルとベンチが作られています。長距離運転はやめて、少し休憩しなさいという配慮でしょうか。
もちろん、ゴミ箱も設置されてあります。日本だったら「ゴミはお持ち帰りください」という張り紙があるでしょうね。
ゴミ捨ての規制が厳しいドイツの人たちが、病院で使った注射針のように自国では簡単に捨てられないとか、廃棄するには費用が高くつく廃棄物をフランスで捨てている、とニュースで騒がれたことがありました。
日本で持ち帰れと言われたって、日本にはヨーロッパのように隣接した国がありません。結局は日本の何処かに捨てるわけです。何とかならないのかと思ってしまいます。
日本でゴミ箱設置が消えていったころ、それなら過剰包装もやめようという機運になるかと思いましたが、そうはならなかったですね。レジ袋に関しては、できるだけ使わないという風潮は出てきた程度。
ケーキを2個買ったときのパッケージです。

保冷材が入っていて、隙間もうまく埋められているので、感心するともに、ここまでしてくれなくても... と思いました。フランスのケーキ屋が普通にやるのは、底に厚紙を1枚おいて、包装紙でうまくパックしてくれる程度です。
◆ ゴミが落ちていない!
来日したフランス人は、だれでも東京の地下鉄の清潔さに驚くはずです。パリの地下鉄が汚いのは有名なので、それと対比すると差が大きすぎるわけです。

来日したばかりの友人は、ゴミが落ちていないことに驚いて、あちこちに行く度に「見て、見て」と言っていました。余りにも頻繁にそう言うので、見えないものを見ることはできないのだし... などと言いたくなりました。
でも注意を喚起されたら、駅やショッピングセンターのエスカレータでは、雑巾を持って手を伸ばしているだけで拭く作業になっていたりするのが分かって面白かったです。
こうやって1日中掃除しているからピカピカなのだ、と友人は感心していました。
彼らには、日本ではゴミを道端に捨ててはいけないこと、ゴミ箱はほとんど設置されていないので持っているようにと教えたら、しっかり守っていました。
ゴミが落ちていないと、捨てないものなのですよね。
あるフランスのテーマパークに行ったとき、ゴミが全く落ちていないことに気がついたときにも、そう感じました。でも、そこにはゴミ箱があちこちにありました。
日本では、捨てるところがないゴミを持ち歩くのだからスゴイ! もしもフランスの町からゴミ箱を撤去したら、みんながゴミをそこら中に捨てるでしょうから、どうしようもない状態になって、ゴミ箱はまたすぐに元に戻るだろうと思います。
日本人はよく掃除をする国民なのですね。
美しい町家街に泊まったとき、早朝に外に出たら、家の前で掃除をしている人たちを見かけました。腰が屈んだままのお年寄りも、家の前を清めていました。若い人も掃除していたかどうかは思い出しません。

庭園などでも、骨身を惜しまずに丁寧に掃除していました。箒で道路を掃いている。また翌日には枯れ葉でいっぱいになってしまいそうなのに...。
苔庭に散ってくる松の葉などの落ち葉も、一つ一つ拾っている...。
ふフランス人は、日本人が掃除している光景に感動するようです。いまは亡きフランスの友人を京都の清水寺に連れて行ったとき、階段を掃いているお婆さんを見て、「なんて可愛いんでしょう!」と繰り返し言っていたのを思い出します。
ドイツ人も掃除をよくする国民で、家の窓が汚れたりしていると通りかかりの人が注意するのだと聞いていました。本当にその通り。フランスからドイツに車で入ったときに見た突然の変化は、家の前で掃除をしている人があちこちにいることでした。でも、掃除をしているドイツ女性を見ても、フランス人は「愛らしい」なんて感じないのではないかな...。
東京にはゴミが落ちていないと感心していた友人は、ある朝、信じられない光景を見てしまいました。
◆ なに、これ?!
「お酒を1杯ください」で、フランス人が「ください」という言葉を覚えた話しを書いたのですが、友人たち全員が覚えた単語には「おいしい」もありました。
◆ おいしい
これは皆さん、すぐに覚えますね。フランスの友人たちと外国旅行すると、食べ物に関する言葉を一番先に覚えているように感じます。つまり食いしん坊なのだ。
フランス人が「美味しい」というときに使う単語は、実に豊富に存在しています。ところが、フランスから来日した友人たちが覚えた日本語は「おいしい」だけ。
料理を作った人から「いかがですか?」と聞かれると、内々でフランス語で会話しながら貶したりしていた後なのに、満面に笑みを浮かべて、皆そろって「oishiï ♪」と答えていました。
日本人は礼儀正しいと知っているから、そうしていたのです。私が作った料理に対しては、フランスの友人たちは何だかんだと文句を付けたりするのに、不公平ですよ~。
日本の友達にそれを話したら、「oishi-kunai」を教えれば良かったのに、と言われました。その言葉がありましたね。「mazui」という言葉も教えたら混乱するだろうと思って、私は教えていませんでした。
◆ 日本語のトレンドについていけない
フランス語に比べて、日本では「美味しい」と表現したい時の単語が少ないと思っています。絶品、至極の味などとも言えますが、会話では使えない。「美味しい」とばかり言うのは芸がないと思うものの、それ以外の言い方を思いつかないので、自分が「美味しい」としか言えないことに抵抗を感じています。
テレビで「もちもち」という言葉を異常なほど頻繁に耳にするからです。
なんでも、かんでも、もちもち ...。
スパゲッティ、フランスパン、ウドンなどに対して「もちもち」と言われると、私はベタベタして不味いのだろうと想像してしまうのですけれど...。
「もちもち」とは、お餅がモチモチしているという感覚ではないですか?
「もちもち」の意味を調べてみました:
- 食物が柔らかく、粘りけのあるさま。例: もちもち(と)した食感
- 肉づきが豊かなさま。肌がふっくらとして張りがあるさま。例: もちもちした肌
やはり、お餅のイメージから来ているみたい。
美味しい料理を出す店を経営していた日本の友人に、「もちもち = 美味しい」には違和感があると話したら、「ジューシー」も「美味しい」の意味で使われていると即答されました。はあ、日本でも「美味しい」という表現にバリエーションができましたか。
でも、私が気になるのは「もちもち」という表現です。
本来の日本人は、歯ごたえを評価していませんでしたか?
噛めば噛むほど味がでるスルメ、ポリポリ食べる煎餅、シャキシャキした野菜、腰のある蕎麦やウドンなど...。
舌の機能を研究した日本の学者が、日本人は欧米人に比べて味覚を探知するポイントの数が多い舌を持っていると発表していました。そうだろう、と私も感じていました。春の山菜などのように、苦みもあるから美味しいというような繊細な味は、欧米人にはキャッチできないだろうと思っていたので。
でも、日本人の食感は変わったのかな?...
「もちもち」という言葉に気付く前には、「柔らかい」という言葉に引っかかっていました。
日本にいる時に料理を作ってあげる高齢者がいたのですが、いつも「柔らかい♪」と言って食べるのでした。
表情から「美味しい」と言いたいのであって、私の料理を褒めてくれているのだろうと推察しましたが、かなりの侮辱だと感じました。怒りたくないほど不愉快。
柔らかければ良いの? それなら、味付けなどは気にしないで、スパゲッティでもウドンでもイモでも、ドロドロに煮てしまえば良いわけではないですか?
「柔らかい」と言われる度に、もう二度と料理を作ってあげたくない! と思いました。
その人は殆ど総入れ歯だったので、柔らかいものしか食べられないからだろうと思っていました。でも、高齢でも、私などより流行語を知っていたから、そう言っていたのかもしれない。「じぇじぇじぇ」という、私が聞いたことがなかった言葉をよく言うので、なんの意味があるのか調べたことがあったのです。
◆ シズルワード(sizzle word)
「sizzle」は英語で、肉が焼けるときなどの「ジュージュー」という音の擬音語。おいしそう、食べたい、飲みたい、つまり飲食の欲求を喚起する単語を「シズルワード」と呼ぶのだそうです。
飲食や広告関係では、何が好まれるかを把握することが大切でしょうね。詳しい調査をしていました。
sizzle word 2018 シズルワードの現在 「おいしいを感じる言葉」調査報告
2018年のアンケート調査結果では、上位のシズルワードは次の通りだったそうです:
1位: もちもち
2位: ジューシー
3位: とろける
4位: もっちり
5位: 濃厚な
6位: 揚げたて
7位: 焼きたて
8位: 新鮮な
9位: ふわとろ
10位: うま味のある
11位: 贅沢な
12位: サクサク
「もちもち」が第1位なのですね。テレビに出て来て何か食べた人たちが、口をそろえて「もちもち」と言っていたのも無理ないのですね。
マーカーは私が付けたのですが、青は柔らかい感じですよね? 歯ごたえがあることを示す「サクサク」は12位に出てくるだけです。
2010年に出版された本があり、2003年から2009年のシズルワードを分析しています。
「おいしい」感覚と言葉 食感の世代 sizzleword
著書の紹介には、こう書かれています:
この書籍はもう絶版になっているそうですが、Googleブックスで全文が読めるようです。時間があるときに読みたいのでリンクを入れておきます:
- 「おいしい」感覚と言葉
- 「美味しさを感じる言葉」の箇所は、こちら。
この本によると、第6位だった「もちもち」が2006年に第2位に躍り出ています。誰かが流行らせたのでしょうか?
「サクサク」は、掲載されている最終年の2009年までトップ5に入っていました。21世紀になってからの日本人は、歯ごたえより柔らかいものが好きになったということかな?...
最近の日本では、若い人でも柔らかいものを好むのではないかと思えてきました。「もちもち」も「柔らかい」も、同じようなものではないですか? 日本人は魚を余り食べなくなり、チーズを食べるわけではないので、カルシウム不足で歯が弱くなったのかな?...
◆ 日本人だって、
「もちもち」を好む人だけではないと思うけれど...
フランスから来た友人たちが東京で宿泊したホテルの近くには、美味しいフランスパンを売っている店があるので、そこでパンを買って、店の中にあるカフェで朝食にするのも良いのではないか、とアドバイスしました。パンにはフランス語の名前もついているから注文しやすい、クロワッサンは「いまいち」なのでヴィエノワズリーがお勧め、とも付け加える。
フランスの朝食はシンプルなので、ホテルのバイキング朝食より、美味しいパンとコーヒーの朝食の方が良いのではないかと思ったからです。その方が、ずっと経済的だし。
メゾンカイザーという店です。でも、アンパンの木村屋が作ったパン屋だし、看板に「パリ」とついているけれど、店の名前はドイツ語だろうと思わせる「カイザー」なので疑いを持っていました。
友人たちを店に連れていったら、店の名前の Maison Kyser(メゾンカイザー)を見て、即座に信頼していました。私は知らなかったけれど、パリでトップクラスのパン屋なのだそう。
カイザーというのは、ドイツ国境にあるアルザス地方の出身者の名前だからなのだろうと言われました(調べてみたら、その通り)。バゲットの名前が「バゲット・モンジュ」なのは、カイザーの本店がパリのモンジュ通りにあるだろうとのこと。

カイザーのバゲットを食べた友人は、フランスでも滅多に出会えない高品質だ、と言うのでした。
近くにあるパン屋のバゲットは食べられたものではないと言ったフランスの友人が、こんな風に貶して笑わせられたことがあったのを思い出しました:
- 買ってすぐはネクタイになり、翌日には棍棒として使えるバゲット!
バゲットが機械的に作ったのではない本物であるかどうかは、ひっくり返した裏面を見ると分かります。メゾンカイザーのは、私はフランスで見たことがないほど綺麗な模様が入っている。少し高いけど、価値はあるのだ、と友人たちから教えられました。
メゾンカイザーの社長について調べたら興味深かったです。フランスパンで事業をしようと思ったとき、「欧米人に比べて日本人はかむ力が弱いから、ハード系のパンは売れません。しかも、そんな皮がパリッとしたバゲットなんて」と皆から言われたのだそう。会社は2000年に設立されていました。
フランス語では「croustillante à l'extérieur et tendre à l'intérieur」と表現するかな?
カイザーのパンが気に入ったフランス人に、バゲットの中には餅に似た食感があると言ったら、そうではないから美味しいのだと言われたと思うのですけど...。お餅のネバネバした触感は、フランス人たちには気に入られないと感じています。いくら表皮がパリパリでも、中がモチモチしていたら本物のバゲットではないと思う。
私にとって、モチモチで美味しいパンと言ったら、気泡などはない日本の伝統的な食パンです。日本の家の近くにお気に入りのパン屋さんがあるのですが、その店のバゲットは外皮がパリっとしていないので買わず、100%モチモチの食パンや菓子パンを買っています。フランスでは出会えないし、子供の時から馴染んでいたパンの食感があるので好きなのです。
メゾンカイザーでは、食パン風のパンも売っています。やはり、日本人にはモチモチでないと受け入れられないのかな?...
「日本のテレビ番組で気になっていることに関するアンケートのお願い」で、フランス人が「美味しい」という意味で使う単語のバリエーションは30くらいはあるだろうと書きました。日本だって語彙が豊富な人は、ただ「美味しい」というだけではなく、何か良い表現をしているのでしょうから知りたいと思っていたのです。
モチモチ関係で美味しさを表す日本語を学んだのですが、これらは食したいもののイメージや食感を表す単語であって、私が知りたいと思っていた「美味しさ」のレベルを示す日本語ではなかったのが残念です。
続き:
★ フランス人を恐怖に陥らせてしまった失敗2つ
目次へブログ内リンク:
★ 目次: パン、パン屋、昔のパン焼き窯など
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
外部リンク:
☆ おいしい、食べたいを感じる言葉
☆ 『 おいしさ 』 を伝える その表現力を磨こう!
☆ JBpress: 日本人はなぜ「もちもち」が好きなのか
☆ コトバンク: もちもち(モチモチ)とは
☆ Yahoo!知恵袋: 日本人には柔らかい=美味しい という観念があるのは何故ですか?
☆ 読売新聞: 「ふわふわ、もちもち」じゃないものが食べたい…
☆ ドイツ人『なぜ日本人は“柔らかい=美味しい”なの?』
☆ フランス人が本音でガブリ!「ここが変だよ日本のパン」
☆ シズルワード SIZZLE WORD 2018
☆ おいしさの感覚を表す言葉“シズルワード“の2018年度のランキングがわかる本『シズルワードの現在sizzle
☆ 全国の男女1800人に調査!もっちり、濃厚、ふわふわ…「シズルワード」でわかる、日本人の味覚の変化とは?2015年
☆ 「食感」を英語で表現する言い方・網羅版
☆ 英語で言いたい「ふわふわ」「もちもち」 日本語のオノマトペを英語で表現!
☆ あんパン木村屋の御曹司が、メゾンカイザー開いたワケ
☆ 天才パン職人、エリック・カイザー氏のプロフィールと経歴。どれくらい凄い人?
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さらに、日本人にはない飲食店選びの条件も課せられます。
まず、地下にある飲食店は避けなければならない! ビルの中にたくさん飲食店が入っているところも嫌われます。「フランス人が日本で居心地の悪さを感じた場面」で書いたように、椅子に座っては食べられない店も避けなければなりません。
働いていて時間がない時でもない限り、ランチでもしっかり食事をしたがるのもネック。ただし、大都会パリでの生活をしている人、20歳前後の若い人は、つまらないものでも食べるのに慣れているので、あまり煩いことは言わないかもしれないとは思います。
フランスで友人の車に乗って旅行する時には、レストラン探しでは苦労することは非常に少ないです。
まず、「3日間連続でランチメニューを食べ比べ: その3」で書いたように、私はミシュランのレストラン探しのための無料アプリを使って、料理の質や料金などを条件にしてレストランを選んでいるからです。
こういう信頼できるレストラン評価を無料アプリで提供してくれるものが日本にないのが残念です。インターネットで口コミから飲食店探しをすることが多いのですが、みんなが「おいしい」と書き込んでいても、私は7割は「不味い」か「大したことはない」店に行ってしまった感じているような気がしています。
ミシュランのアプリは日本版もありますが、有料。フランス人がする日本の飲食店の評価を私は信頼できないので、お金を払ってまで会員になりたくはありません。
旅行した時には、どこで、何を食べるかの問題があります。気にいられなかったり、気に入られた料理や飲食店について書きます。
◆ 日本での外食の定番は?
簡単にランチしようとすると、日本はバラエティーに乏しいのかもしれない、と気がつきました。
そう思ったのは、余り有名ではない東北の名所に行った時のことです。到着して、お昼を食べてから観光しようとしたのですが、飲食店が数軒もないのでした。しかも、麺類やカレーなど、定番の料理ばかり。観光バスで来る人が多いらしい辺鄙な場所だったので、団体さんは別のところで到着する前に行く店があるのだろうと思いました。
観光案内所の人にも「ここは飲食店がないのですよね」と言われてしまったのですが、観光スポットから少し離れたところにイタリアンが1軒あったので入りました。不味いけれど食べられる、というレベル。
フランスでこういう食事をしたら、1日中ご機嫌斜めだったと思いますが、来日してから何度か不味い料理を食べていたので、我慢強くなっていたようです。でも、後々まで、「あそこが出したのはイタリア料理ではない」と何度も言われました。食べ物の恨みは根強い!
それで、日本では料理のバラエティーが少ないという偏見を持ってしまったのかも知れません。
日本での昼食としては、軽く食べるには定番でしょうね。蕎麦、うどん、ラーメンがあります。
この3種類を1回ずつ食べた後には、また食べたいと言われませんでした。私も蕎麦とウドンは好きではないので好都合。最近の私はラーメンもほとんど食べなくなったかもしれない。
そば蕎麦打ちを目の前で見せてもらう機会がありました。全員が、それを見るのをとても喜んで、写真を撮ったりしていたのですけれど...

いざ食べるとなると?...

この後、レストラン選びをしているときに「蕎麦は食べたくないよ~」と駄々をこねる人がいました。旅館の食事に蕎麦が出てくることも多かったので、自分で料理を選べる食事なら避けたいと思ったようです。
なぜそこまで蕎麦を拒絶するのか聞いてみました。温かくないパスタを食べることには非常に抵抗感がある、と答えられました。冷たくなったスパゲッティーを連想してしまうらしい。残り物のイメージになるかな?...
温かい蕎麦やうどんなら、まだ耐えられると言います。
私は、どんぶりに入った暖かい蕎麦やウドンは敬遠します。麺がのびていて、ひどく不味かったのが記憶に焼き付いてしまっているのです。上手にできた手打ち蕎麦なら、冷たいのを汁に付けてシンプルに食べるのが美味しい、と私は感じますけれど。
それと、つゆに付けて食べる蕎麦は、スパゲッティに比べて寂しすぎる料理かもしれない...。
★ イタリアに行ったらオマールを食べる! 2009/12/28
でも、十割蕎麦かどうかなど、フランス人が蕎麦の微妙な美味しさを判別できなくてかまいません。和食は日本人が美味しいと思える基準で作り続けて欲しいです!
ところで、私は蕎麦をすすりながら音を出す食べ方はしません。子どもの時に、音を出して食べるのはお行儀が悪いと躾けられたからです。信州で食事をしたとき、テーブルを囲んでいた人たちが一斉に大きな音を出して、合唱するように食べ始められ、飛び上がりたくなるほど驚いてしまったことがあります。蕎麦の本場だと、オーバーなくらいに音を出すものなのでしょうか?
友人たちと麺を食べたときにも、私たちの周りにいる日本人が音を食べていました。それが通の食べ方だと、友人たちは何かで読んできたらしく、全く驚いてはいませんでした。あるいは、驚かないようにと私が即座に教えたかもしれない。
真似しようとした友人がいました。できないのでした。なぜかな? 私はやったことがないけれど、やろうと思えば出来ると思っていますけれど...。
ワインの試飲では、ワインを口に含んでから、口を少しあけて空気を入れながら音を出して味わいます。
こんな感じで音を出します。その部分から出しますが、一瞬で終わるので、動画はストップしてください。
La dégustation de vin expliquée
麺をすすりながら食べるのも、これと同じ効果を求めているからですが、同じにやることはできないのかな?...
※ 日本人が麺類を食べるときい音を出すことをどう紹介しているのかとフランス語情報を調べたら、「slurper」という単語が出てきました。仏和辞典には入っていない。この単語は、英語の「slurp(音をたてて食べる)」を、フランス語の動詞風にした造語なのでした。
うどん蕎麦よりも嫌われたのはウドンだったかも知れません。
四国を旅行した時、冷たい讃岐うどんが出たことがありました。私はコシがあって美味しいと感じ、蕎麦よりも嫌いだったウドンと仲直りした経験になりました。ところが、一緒にいたフランスの友人は一口食べただけで残していました。そこまで嫌うことはないと思ったのですけれど...。
ラーメン日本人は麺好きなのでしょうね。ラーメンは和食のようになっています。
江の島の花火大会に行ったら雨に降られてしまい、全身びしょ濡れ。体が温まるものが食べたいと言うので、ラーメンを勧めました。ただ凍えそうになったのを何とかするという感じで食べていて、何のコメントもありませんでした。
日本では、パリでラーメンが人気を呼んでいると言われるので、好きなフランス人たちはいるのだろうと思います。でも、本当にブームと言えるくらい流行っているのかな?...
忙しいから早く食べたい、安く食事をしたい、お腹がいっぱいにならない食事をするとスリムでいられる、などの理由でラーメンを好むフランス人が、パリのような大都会にはいるだろうとは想像します。どら焼きを食べたいと言って私を驚かせたパリに住む友人は、「ラーメン」を知っていると言いましたが、日本で食べてみたいとは言い出しませんでした。
カレーライス、ハンバーグ麺類を避けるとなると、日本での外食の定番には、カレーライス、ハンバーグがあります。どこにでもあるのでした。
日本にいる時の私が一人で外出したときの昼食では食べることがないので、友人たちにも勧めませんでした。ちらりと言っても、興味は示されなかったし...。店の前に写真やロウ細工があったりするのですが、食欲をそそってくるような料理ではないですね。
寿司屋来日したフランスの友人たちとは、かなりの頻度で寿司屋に入って食事をしていました。フランスでは滅多に食べられないのは生魚なので、飽きることもなく喜んでいるのです。
寿司屋さんはあちこちにあって、寿司を食べなくても刺身を注文できるので便利。

寿司は好きでないく、生魚を食べるなら刺身を食べたいと言っていた友人が、日本で食べる寿司は美味しいと賞賛していました。ご飯が全く違っているから美味しいのだ、と観察したようです。
私が日本から持っていったコシヒカリで寿司を作って食べさせたことがある友人なのですが、刺身の方が良いと言われていました。酢の入れ方が下手だった、あるいはコシヒカリがいけなかったのか? 寿司の米を入れて冷ます桶までフランスに持って行っていたのに...。
思い出せば、この友人には私がコシヒカリで作ったチャーハンも不味いと言われてしまったので、私が得意料理だと思っていたチャーハンもフランスでは二度と作りませんでした。フランスの中華レストランで出されるチャーハンは、こんなネバネバしていなくて美味しいのだとのだ、と教えられてしまったのです。日本人が貶す「外米」で作った方が美味しいというわけでしょう。
私はネバネバ感がある米が好きで、何となく食べてしまっている米なのですが(子どものときから、おかずがあればご飯は必要ないと思っていた)、品種選びや、料理に合わせた炊き方など、色々とこだわりを持つべきなのでしょうね。
回転寿司まで美味しいと言っていました。

パリには回転寿司があるそうですが、入ったことがない友人に体験させたのです。これは京都の殺風景な大通りを歩いていたときに見つけ、他には飲食店がありそうもないので入ったのでした。
回転寿司にはかなり不味い店もあるので心配でしたが、ここはかなり美味しかったです。京都には食通が多いので、回転寿司までレベルが高いのかなと思いました。
◆ 立ち食いは楽しいのに...
観光地を歩いているときには、つまみ食いのように食べられる店がとても多かったです。


こういうのを色々食べて昼食にしてしまっても良いと思うのですけど、座らないと食べる気にならないという人がいました。
ブログでも書いていただろうと思うのですが、フランスで友人たちと食品のイベントに行くと、仮設レストランで昼食をするのです。いくらでも会場で試食できるのに、そんな所に入って3時間くらいを費やしてしまうのは、もったいないと思っていました。
座らないと食べないというのは、食堂楽のブルゴーニュの人たちではないかという気がします。パリから来た友人たちが彼らだけで観光したときには、あちこちで色々なものを食べて食事にしたと言っていましたので。
なぜスイーツは立ち食いするのに、食べ物の立ち食いはしたがらないのか? 考えてみると、ブルゴーニュの友人たちは、ワインを飲みながらでないと食事にならない、という感覚もあるのではないかと思いました。
◆ 食べながら追加注文できる飲食店が気に入られた
今回の旅行で、食事付きではない宿泊施設に泊まった夜には、居酒屋風にリラックスして和食を食べられる飲食店に行くことが多かったです。

日本の気取らない店では、お腹の膨らみ具合をみながら、食べたくなった料理を追加していけるのが非常に良い、と感心されました。私の注文を見ながら、そういうことができるのかと驚いたようです。
フランスでは、チーズとデザートはメインが終わったときに注文することにできる店もありますが、前菜とメイン料理は先に注文して、追加なんかはできないですね。ボリュームがある料理を出しえくるので、追加したくなることはないですけれど。
料理を1品か2品注文しながら食べると、次の料理は出来立てが出てくるので冷めたものを食べることにはならない。旅館のように次々と出されると、早く食事を終えろと急かされている感じになりますが、そういう風にならないのも良い。
また、「旅館で出される食事に対するフランス人の反応」で書いたように、食べ残すことに非常に抵抗があった友人にも便利な食事の仕方でした。
スペインのタパスに似ていると思いました。
★ スペイン国境に近い美しい小さな町 Collioure 2012/04/02
写真は、スペイン国境に近いフランスの店でタパスだけで食事したときのものです。
タパスだって少し注文して、食べ終わったら別の料理を追加する食べ方ができると思うのですが、一緒に旅行したフランスの友人たちは選んだ皿をいっぺんに注文していましたね。
タパスは本来はオツマミなので、それほどバラエティーに富んでいませんね。日本の小皿料理は、もっと食欲をそそる出し方をしています。
◆ 嬉しいサプライズもあった
旅行の楽しみは、その土地ながらの美味しいものを食べられること。観光地で不味い料理を食べたことが何回かありましたが、全体としてみると運よく美味しいものに遭遇することが多かった旅行になったと思います。
東京では散策が楽しめませんが、こういう町は歩いているだけで楽しいと思って、滞在をのばした鞆の浦。瀬戸内海に面した港町で、鯛が名物らしく、道路の片隅で魚をさばいている人がいました。

養殖ではなくて、天然の鯛だそう。見るからに美味しそうでした。しかも、1匹1,000円で売っているのですって。安い♪
「あそこの階段に座って食べる外人さんもいますよ」と、道路の向こう側にある階段を指さされたのですが、醤油やワサビは何処で手に入れる?
食べたいのは山々でしたが、昼食を食べられる飲食店を探すことにしました。でも、ほとんど店がない。前日に入って気に入った店は定休日だったので、がっかり...。
泊まっている旅館で食べるしかないかと思いながら、余り美味しくなさそうな食堂の前で迷っていたら、通りかかった人が「この店は美味しいですよ♪」と声をかけてくれました。親子どんぶりが絶品なのですって。でも、どんぶりものを私は食べたくない。日本の鶏肉はフランスに比べて自然な味がないと思っているし。
この食堂に隣接して、漁師の人たちが収穫物を搬入するような魚屋がありました。店の名前からして、食堂と同じ人が経営者なのだろうと想像。店の入り口を開けて、刺身が食べられるかと聞いたら、あると返事されたので入ってカウンターに座りました。
親族と近所の人たちしかいないように見えた店でした。天井に取り付けられているエアコンからは、不快としか言えない風が吹いている...。
まず刺身を注文。盛り合わせかと思っていたのですが、鯛だけ。でも、獲れたての魚はこんなだったなと思い出されるほど身が締まっていて、素晴らしく美味しかったです。道端で売っていた鯛は食べられなかったのですが、こういう味だったのだろうなと思って嬉しかったです。
もう一品、なにか無いかと店のご主人に聞いてみると、隣に座っていたお客さんが「海老の踊り食い」を勧めてきました。店の中にいた人たちも賛成している。
海老が出てくると、隣に座っていた女性が食べ方を教えてくれました。殻をむくだけのことですから、デモンストレーションしてくださらなくても出来るのですけど、ご親切には感謝。

素晴らしく美味しかったです! 生きた海老を食べるなんて面白いので、フランス人には忘れられない思い出になったはず。土産話をしたでしょうね。でも、日本の中でも、簡単には出会えないので、それが日本♪ とやってしまったら問題ですけどけど。
◆ 注目された食品
麩(ふ)良い意味ではありません。旅館の夕食などで時々出てきた麩(ふ)が気に入らないと言った友人がいたのです。
左のような可愛らしいものがお澄ましに入っていたのなら、日本らしくて綺麗だと受け入れられただけのはずですが、私たちの旅行中に出てきたのは全部、お椀を満たすような大きな麩だったのでした。
ブロ~っとしているので、奇妙に思ったらしい。
これは何だと聞かれたので、小麦粉でできている「fu」だ、と説明しました。
私も麩は好きではないのですが、まともな日本人は好むから存在しているのだろうと思います。
何回か麩が出てきたとき、「どうして、こういう物を入れる必要があるの?」と聞かれた。返事のしようがない。
汁をいっぱい吸うので、汁のままで飲むのより良いからではないか、といい加減に答えました。でも、良い出汁だったら、そのまま飲めば良いわけですよね。なぜ麩が好まれているのか、私には分からん...。
日本で観光する人たちのために情報を与えているフランス語のサイトはたくさんあるので、お麩のことを、どういう風に説明しているのか調べてみました。でも、何も出てこない。
Wikipediaの「麩」も外国語へのリンクはありませんでした。しつこく調べてみたら、フランス人には「seitan」の一種だと説明すれば良いらしいと分かったのですが、日本語だというその単語を知っているフランス人は皆無に近いのではないですか?...
ただお腹を膨らませるために添えられる食べ物を、フランス人は嫌うらしいと感じています。そのことは「大食漢なのに、ただお腹をいっぱいにする料理は嫌うフランス人」で書いていたので省略。
フランスで日本料理を作るようになった私ですが、お麩は持っていかない方が良いと分かりました。英語の情報では、ダイエットに最適と言っているサイトがたくさんありましたけれど。
湯葉(ゆば)お麩にケチを付けたり、蕎麦は食べたくないと言った人が、やたらに気に入っていたのは、生まれて初めて味わった湯葉でした。
買うのは私の家の近くにある豆腐屋さんで、国産の大豆を使って質の高い豆腐を作る店です。豆腐嫌いの私も、ここの店のは美味しいと思って食べています。特に豆乳入りの大吟醸と呼ぶ豆腐。
友人は毎日でも湯葉を食べたい様子でしたが、小さな店なので、湯葉がある時の方が珍しいのです。
湯葉のレシピを探そうと思ったのですが、忙しくて時間をかけていられない。それで、醤油とワサビだけで出していました。湯葉に風味があるので、変にいじる必要もないと思ったし。
豆腐はフランスでも知っている人が多いと思いますが、湯葉などはフランスでは知られていないだろうと思って検索してみたら、かなりフランス語情報が出てきました。Wikipediaでも「Peau de tofu」として入っています。
フランス人好みなのでしょうかね。
もともと、豆腐や味噌はチーズを思わせるので、フランス人には抵抗なく食べられる食品だとは思っていました。
色々クリックしていたら、フランス人が思っている日本料理は本物のフランス料理ではないのだ、というフランスのテレビ番組の動画が出てきたので入れておきます。
ブログでも書いていましたが、フランスにある和食の店の大半は中国系が経営しているのです。フランスで中華料理といえば安く食べられるレストラン。そのコンセプトで安く食べられる和食レストランがフランスで激増しました。
そういう店を始めに見せてから、フランス(パリでしょうね)で本物を出していると番組制作者が判断した店を見せています。
La vraie cuisine japonaise n'est pas celle que vous croyez ! (2017年)
本物の日本料理と歌うからには、手のこんだ懐石料理を見せて欲しかった。でも、煮ているのに冷めていると高級料理だとフランス人は思わないそうなので仕方ない。
でも、日本人が日常的に食べている庶民的な料理としての紹介では、お好み焼きやタコ焼きなどではなく、煮物や漬物などを紹介して欲しかった。
漬物は、作り方を知らなければシンプルに見えるだけですが、とても美味しいと驚いていた友人がいました。
神社の境内にあった屋台で、お好み焼きを焼いているのを面白がった友人もいましたが、こういう所のお好み焼きは美味しいはずがないのだ、と私がストップをかけてしまっていました。パリにはお好み焼きを出すレストランもあるのですか。フランスでも田舎者の私なので、何も知りません。
続き:
★ お酒を1杯ください
目次へブログ内リンク:
★ 目次; ピクニック、飲食店での軽食
⇒ レストランの簡単な料理・ イベントでの軽食
★ エシャロットを使う、ソース・マルシャン・ド・ヴァン 2009/03/30 ハンバーグ
★ 目次: フランスの日本食ブーム
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
★ 目次: 旅行したときに書いたシリーズ記事のピックアップ
外部リンク:
☆ 最強の寿司飯をつくる。肝はやっぱりお米の品種選びにあった!
☆ “Slurper” ou ne pas “slurper”, telle est la question…
☆ Vivre à Tokyo: IZAKAYA : mode d’emploi | L'izakaya, le bar à la japonaise
☆ Wikipéia: Izakaya
☆ Wikipedia: グルテンミート » Seitan
☆ フランス人の日本食の好き・嫌い
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本格的な精進料理の数々。30皿を超える皿が出てきたように思います。
始めの数皿を食べているときは珍しくて感激したのですが、だんだん飽きてくる。見た目は全て違うし、色々に趣向を凝らしていたのですが、みな同じような味に感じてくるのでした。
精進料理では、鰹節や煮干しで作った出汁も使ってはいけないのだそうです。となると、昆布や干し椎茸から取った出汁だけになる? 私が日本料理を作るときには殆ど昆布出汁だけを使うのですが、魚や肉は使うので単調な味にはなりません。
フランス人たちに気にいられるかは疑問でしたが、日本でしか食べられないであろう精進料理を友人たちに味わわせてあげようと思いました。料理が得意と歌っている宿坊を見つけ、普通の宿泊代に3千円プラスした本格的な精進懐石のコースで予約を入れました。
◆ 御膳での食事
宿坊に泊まった時の夕食で写真を携帯で撮ったのを覚えているのですが、見つかりませんでした。旅行が終わってから写真を整理したときに間違って消してしまったのかも知れません。そもそも、友人たちとの旅行のことをブログで書こうとは思っていなかったので、話題にするような場面の写真は余り撮っていませんでした。
この時の写真を残せなかったのが残念! 私たちは旅行中で最も滑稽な姿をしていたのです。
「フランス人が日本で居心地の悪さを感じた場面」で書いたように、今回利用した宿では床に敷かれた座布団の上に座って食べる形式になっていた所はありませんでした。
でも、私たちが利用した宿坊では、こういうお膳が食事をする部屋にしつらえてあったのでした。

Shimosuwa-shuku, estampe d'Hiroshige de la série Les Soixante-neuf Stations du Kiso Kaidō.
夕食を取る和室に入ると、ぎょっとしました。外国人だからと気を利かせてくださったのでしょう。各人に2段重ねのお膳が設置されており、その前に法事チェアが置いてあったのです。
お膳を重ねるとどうなるか、画像を入れてみます。
画像は3段重ねですが、私たちのは2段重ね。それでもテーブルとしては幾らか高くなっています。
上手く重ねたと感心したのですが、こういうお膳は料理を乗せた膳を持ち運びできるように出来ているのですね。つまり、お盆の役割も果たしている工夫がありましたか。
法事チェアは低いので、足が長い友人たちは座り心地が悪かったようですが、それは我慢する。
2段重ねの膳は便利でもある、と私は思いました。使ったおしぼりや、食べ終わった皿を下の段に置いて片付けることができますので。
2段重ねてもかなり低いテーブルなわけですが、最も居心地が悪いと感じたのは、一人一人の膳がかなり離れて置かれていたことでした。目の前の人とは2メートル近く離れていたように思います。
どうしてそんなに離れて膳を並べたのか理解に苦しむ。上に版画を入れたのは、こういう膳を並べるときには真ん中に空間を持たせるものなのか確かめたかったからです。
そう言えば、畳でする宴会の席でも、前に座る人との距離は置きますね。
フランスでも、19世紀にロシア式サービスが入るまでは、テーブルに向き合って座ってはいなかった。

Banquet au XVe siècle(15世紀のフランス)
前から給仕するから空けておくのか、大勢いる席では目の前に誰も座っていない方が遠くが見えて良いからなのか?...
変に空間を空けてあると、妙に堅苦しい食事に感じてしまうものだと思いました。お座敷での宴会のように大勢の人がいて、お酒をお酌して回ったりする人がいたら違う雰囲気になりますけれど。
◆ 陰気な雰囲気...
ところで、上に入れた3段重ねの膳は明るい色調ですが、私たちのは黒。椅子も灰色ぽかったと思います。
廊下の向こうに見える中庭には小さな明かりが灯っていて、私たちには広すぎるほどの和室は寒々としていました。
ひたすら陰気な雰囲気が漂っている...。
考えてみれば、宿坊で食事をするのは葬儀や法事などで集まった人たちが多いでしょうから、こういう雰囲気のテーブルセッティングで丁度良いのでしょうね。
他に宿泊客がいないので気兼ねはいりません。いつものように明るくおしゃべりしながら食事しようとしても、相手が遠すぎて会話が盛り上がらない。遠くにいる相手を見ながら食事している自分たちが馬鹿みたいに感じました。
一番始めに写真を入れた宿坊での夕食会では、明るい女将さんがいらしておしゃべりもできたので、葬式の後の食事のような雰囲気は全く感じませんでした。ところが、今回に利用した宿坊には女将さんらしき女性の姿は見えず、従業員の方たちも無表情でお給仕をしていたので冷たい雰囲気を感じたのかもしれません。
◆ ところで、こういうお膳は何と呼ぶ?
書きながら言葉が見つかりませんでした。上に入れた商品には「殿様膳、本膳」と書いてあるのですが、他にも色々な呼び名がありました。この際なので、日本語のお勉強。
説明がないのは、辞書には書いていなかったからです。その名称で売られている商品の画像を入れて確認しました。
| 膳: | ① 料理をのせて人に出す台。脚付きのもの、折敷などがある。 ② 調えられた料理。食事。 |
| 宋和膳: | 江戸前期の茶人、金森宋和(宋和流の祖)が好んだ黒または朱塗りの4つ足膳で、 江戸時代は民間で本膳に用いられた。 懐石膳。 |
| 本膳: | |
| 箱膳: | |
| 懐石膳: | 懐石膳(足のない折敷)の上に向付(陶磁器)と、三つ椀(煮物椀,飯椀,汁椀をいう)のうち、飯・汁椀をのせて持ち出す。 |
| 折敷: | おしき。 檜の片木(へぎ)で作る角盆。食器などを載せるのに使った。「足打折敷」「平折敷」「角」「そば折敷」などの種類がある。 |
| 木具膳: | 足付き折敷の別名。木具。 |
| 足付膳: | |
| 殿様膳: | |
| 銘々膳: | 一人一人に出す食膳。 |
「殿様膳」というのは通称のように感じました。そう言ってくれると分かりやすい。私たちに2つずつ与えられたのは、「宋和膳」というのが正式名称なのだろうと思いました。
◆ 精進料理への反応は?
居心地が良くないと、せっかくの食事も楽しめないのではないでしょうか? フランス人たちは珍しい食事を喜んでくれたかもしれませんが、精進料理に対する特別なコメントはありませんでした。なんだか滑稽な食べ方をさせられてしまった、ということの方が印象に残るのではないかな?...
その後、もう一回だけ宿坊で精進料理を食べました。近代的なホテルと変わらない建物だったので利用しようとは思いませんでしたが、比叡山延暦寺の宿坊にあるレストランで出されたランチです。

こちらの方は、とても美味しかったと言われました。精進料理というのは、この程度の分量を食べた方が堪能できると結論しました。
観光地なので、つまらない料理を食べるのを覚悟していたから美味しいと感じたのかもしれません。
それに、観光地ではつまらない食事をする羽目になる率が高いと経験していたせいもあったからだとも思います。よくある蕎麦やうどんは食べたくないと言うし(私も好きではないので好都合)、カレーライスやハンバーグも食べたくない。となると、飲食店選びは難しくなります。
例えば、平泉の中尊寺に行った時はレストランで昼食することにしたのですが、美味しくもないピザを食べてしまっていたのでした。レストランからの眺めは素晴らしく良かったので不満はなかったものの、後に「あの時の食事は酷かった」というリストアップに入っていました。
宿泊施設について書いてきたので、次は日本旅行で魅力の1つになる温泉について書きます。
続き:
★ 温泉に入るのはお好き?
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★ シリーズ記事 【フランスの食事の歴史】 2017年:★ 目次: 旅行したときに書いたシリーズ記事のピックアップ
外部リンク:
☆ お膳の始まり
☆ 膳の始まりは奈良時代
☆ 図録▽日本人の食卓の変遷
☆ 精進だしとはどんなだし?精進だしはどんなお料理に活用できる?
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この町がすっかり気に入ったそうで、日本みたいだった♪ と言うのです。
◆ モンペリエという町
モンペリエ(Montpellier)は地中海に面した南フランスにあるエロー県の県庁所在地。私は1回か2回行ったことがあるだけで、そんなに観光もしていないので、この町のことは余り知りません。
日本に似ているかな?...
友人は続けました。
モンペリエでは青空が広がっていて、ブルゴーニュよりずっと暖かい。
それから、出会う人たちは誰もが愛想が良くて親切。
だから、日本に似ている!
なるほど...。
モンペリエが住みやすい町だとは良く聞いていました。パリに住んでいた友人も、高齢になってからはモンペリエの中心部にある庭付きマンションに引っ越していました。フランスの高齢者は南仏に住むのがお好き。気取ったニースなどもありますが、モンペリエの方が庶民的で居心地が良さそう。
私の大学の仏文科で人気がある先生がモンペリエ大学に留学していて、その関係でモンペリエに留学する生徒が多かったのを思い出しました。私が留学先を選ぶときには、パリはいつでも行けそうなのでパスして、水泳ができないので海沿いの町は避けることにしました。その結果、行ったのは内陸部にあるブルゴーニュ大学にしたのでした。
ブルゴーニュの冬はとても寒いので、モンペリエが気に入った友人の気持ちは分かる。それに、この町には歴史的建築物も多いので観光も楽しめるのだそう。
気候が温暖だと、気持ちが明るくなりますよね。でも、友人が「日本みたい」と言ったのは、町の人たちが親切だったということも大きかったようです。
◆ 日本には交番がある
昨年の秋にフランスから友人たちが東京にやって来たとき、真っ先に、迷子になったら交番に行くようにと教えました。駅前など、人が多そうな所には必ずあるから、と。

始めに到着した友人と都内を散歩したとき、小さな交番があったので、これが交番だと教えました。ついでに、どうやって助けてもらうのかも示そうとして、道を聞いてみました。
あの~、この人、昨日に到着したのですけれど、替えの靴下を持ってくるのを忘れてしまって困っているのです。近くに売っているところがありますか?
言葉ができない外国人を連れて歩いていると、お母さんになったような気分になる。普通なら、そんなことを交番で聞かないのですけれど、聞いてしまった。
そこにいた3人のお巡りさんたちは、とても親切に応対してくれました。どこが一番近い店かと相談し、でも近くにある店は小さくて品数が少ないだろうから、やはりターミナル駅の当りまで行った方が良いだろう、などと教えてくれたのです。
そこまで親切ですかね。フランス人も驚いたけれど、私も驚きました。
フランスのガイドブックでも、ネット情報でも「Kōban」を紹介しています。フランスに交番のような所はないので珍しいからです。フランスの警官は怖くて、道なんかは聞けません。警官の気分を害させるようなことを言ったら、1日は留置できる権利が彼らにはあるのだそう。冗談なんかは絶対に言ってはいけない、と友人から忠告されたことがあります。
◆ 私が頼り気ないから親切にしてくれた?
日本で観光していて、行きたい場所に行く道を聞けるのは交番だけではないのでした。
その辺にいる人たち、誰にでも聞ける!
フランス人たちの中に一人だけいる私なので、日本語をしゃべる私も外国人だと思われたのか、その場所まで連れて行ってくださったことも度々ありました。
大きな駅で、どうやって電車を乗り換えるか迷っていたとき、近くを歩いている家族連れに聞いたら、乗る電車の名前と改札口の方向がよく分からない。ウロウロしていたら、戻って来て改札口まで案内してくれ、さらに駅員さんまで連れて来てくれて、乗る電車の時間とホームまで教えてもらいました。
神社で行われた祭りから帰宅するとき、大通りまでどうやって出れば良いか聞いたら、路地ばかりで複雑だからと、大通りまで一緒に歩いてくださってしまった。
駅ビルでコニャックを買おうとしたとき、入った店にはフランス産のブランデーがない。それで店員さんに別の酒屋もビルに入っているか聞いてみたら、その店まで一緒に連れていってくださった。
みなさんが「私もそこに行くところですから」とおっしゃっていたのだけれど、何度もそういうことがあると、わざわざ案内してくれたのではないかと思ってしまいます。
こういうことが何回あったかな?...
連れて行ってまでくれるのは、日本人独特の親切からかもしれません。
親しくなったフランス人女性が、一人で東京から北海道までヒッチハイクで行くと言いました。東京で親しくなったフランス人たちから、フランスでそんなことは絶対にすべきではないけれど、日本なら大丈夫と太鼓判を押してくされたのだそう。
彼女は日本語を少し話すので大丈夫かもしれない。でも、出発して2週間くらい立つと、心配になってきました。携帯電話などない時代なので、連絡も入らない。
ところが、ちゃんと帰って来たのでした。ヒッチハイクがうまくいったとしても、東京から北海道まで行くのは無理だろうと思っていたのに、北海道まで行って来たと言います。車を止めて行先を告げると、Uターンして連れて行ってもらったこともあったのだそう。彼女は30代の若さではありますが、美人とは程遠いのに...。
でも、昔だったからでしょうね。ガールフレンドを殺してしまうような事件が幾つもある今の日本だったら、若い女性が一人でヒッチハイクしたら危なさそうですよ。
◆ フランスで道を聞くと、どうなるか?
フランスにいる時の私が行き会った人に道を聞くことは稀にしかありません。田舎を旅行しているときは、まず歩いている人がいない! 人がいても、聞く気にならないのです。
正しく教えてくれる人が少ないからです。「あっちだ」と言われて行ったら、そこにいる人に聞くと「あっちだ」と私がさっきまでいた所を示される。そんなことを何回か経験しているうちに、聞くのはやめたのでした。
フランス人は、聞かれたときに「知らない」と答えるのが好きではないので、いい加減なことでも自信ありげに言うのではないかと思っています。
もちろん、道を聞いて良かったと思ったこともあり、このブログでも何回か書いていました。でも、正しい道を教えてもらえる経験が少ないから、わざわざブログに書いていたはずです。
下は「なぜパリっ子は嫌われるのか? (1)」に入れた動画。パリっ子は親切ではないよね、というおふざけのコマーシャルなのですが、何だか好き。フランス人も知っている日本人の真面目さと、パリのいい加減な男性のコントラストが出ていて面白い。
Le Parisien - Touristes
この男性は、意地悪で反対方向にエッフェル塔があると言ったのだろうと思います。そんなことまでする人がいるかな?...
ボルドーはブルゴーニュと並ぶワインの産地だけれど、ボルドーを旅行したときに雰囲気が好きになれなかったという話しを友人にしたことがあります。すると彼はボルドーの町に住んでいた時期があって、あそこの人たちは親切ではないと言うのでした。
何回も間違った方向を教えられるので、意地悪されている以外にはありえないと思ったとのこと。そう話していた友人は生粋のフランス人なのですが、バスク出身の訛りが強い人だから馬鹿にされたのかもしれない。
フランスと言っても、地域によってメンタリティーがありますね。だいたいにおいて大きな町の人たちは感じが悪いのですが、3大都市に入るリヨンの町の人たちは親切だと思いました。それと、北の方の住人たちが親切だと言われますが、旅行したときに実感しました。
◆ 日本人はサービス精神が旺盛
私がどの方向に歩きだせば良いかと迷っていると、フランスから来た友人は「誰かに聞きなよ」と言ってくるようになりました。
方向音痴の私が迷って駅の階段を上ったり下りたりさせるのに懲りたせいもあるけれど、日本人は親切というのに味を占めたせいも大きかったと思います。
日本人は、いつでも手助けしてあげる準備ができている、という風に表現していました。
「手助け」と訳しましたが、「rendre service(役に立つ)」という言葉を使っていました。こういうイメージ:

そうかもしれないな...。
もっとも、彼らは親切にされたときは分かるけれど、私が親切ではないと思ったときは訳して伝えないので、日本人は全員が親切だと結論してしまったのではないかとも思うけれど。
でも、日本人の笑顔は素晴らしいです。
下は、一緒に旅行した男性が撮った写真です。

「日本はこんな国です」というのに使えそうな写真ではないですか? こういうくったくのない笑顔は、フランスを旅行しているときには出会えないかもしれない。
◆ プレゼントもたくさんいただいた
道案内をしてもらっただけではなくて、あちこちでプレゼントをもらったりすることもありました。
小さな町で入った一人しかいない小さな郵便局。地図を出して観光案内までしてくださって、口座を開いたときなどにあげるためにあったのだろうと思うお菓子の包みまでいただいてしまいました。
一番高価なプレゼントは、京都の町屋民宿に泊まっていたときに差し入れてもらったコニャック ↓
到着した午後に、ご近所に住むお茶の家元の方が、とても美味しい和菓子たっぷりとお抹茶を振る舞ってくださったのですが、私たちがいたダイニングルームに残り少なくなっていたコニャックのボトルに目を止めて、「コニャック、お好きなら、美味しいのを持って来ますよ」とおっしゃったのです。
プレゼントしてくださる感じの言い方。断っても引き下がらない。それではと、「買いに行く時間がないので助かるので、お代を払って...」と言うと、代金をもらうつもりはないとおっしゃるのです。困ってしまったのですが、しつこく断ることもできない。
そんな高価なプレゼントはないだろうと思ったのですが、翌日に帰宅すると、ダイニングテーブルにボトルが置いてあったのでした。飲んでみると、私たちが駅ビルで買ったのと同じメーカーなのに、やたらに美味しいのでした。同じVSOPでも味に違いがあるのかな?...
翌日も夕食から帰ってコニャックをいただいていると、一人が言いました。
「どのくらい請求されるのかしらね?」
その少し前に利用した民宿で「どうぞ、どうぞ」と何度も勧められたので、ご馳走してくださるのを断ったら礼儀に反すると思って、飲みたくもない酒をいただいたのでした。飲んでみると非常に不味かったけれど、「おいしい」とお愛想を言いました。
その翌日にお勘定を払うときには、しっかりと料金が加算されていたので、フランス人たちは仰天していたのです。前日までは親切にもてなしてくれるかと感謝と感激でいっぱいだった彼らなので、ショックは大きかった。友人たちの旅行のためにアレンジした宿泊施設の中で、最も高くついた1泊になってしまったので、私も申し訳ない気持ちでいっぱい...。
その時のことからいくと、素泊まりだった京都の宿で、マツタケがたっぷり入った湯豆腐(湯豆腐がこんなに美味しいとは知らなかった、と私は驚いたほどの絶品でした)などの差し入れや、この1万円くらいするはずのお酒なども含めた請求額にされたら、お支払いは幾らになるかと怖くなっても当然...。
愛想良くされて気を良くしていると、しっかり商売される、というのは、トルコなどイスラム文化の国ではよくあることなので、フランス人は日本人も同じなのか、と彼らは思ったようです。
そういう見方をされるのは日本人として嬉しくないので、この宿でも、他の宿でも、色々してくださったプレゼントやサービスに対して超過料金を請求されなかったのは嬉しかったです。
本来の日本人は、そういうものだと思うのです。特に日本の田舎では、何でもくれてしまう。「わぁ、これステキ~!」などとは言わないように気を付けています。
「こんなに丈夫なハエ叩きはフランスにはない」と言ったら、それをくださってしまった。仕事の関係の人と料理屋さんに行ったとき、ガラスの徳利がとても洒落ていると言ったら、接待してくださった人が仲居さんに「この人、フランスから来ているんですよ。同じ徳利をあげてくれない?」とせがんでしまって、いただいてしまったこともあるのです。何も言わなくても「持っていらっしゃいな」とプレゼントしてくださってしまう人もいる...。
でも、コニャックのプレゼントは高価すぎて申し訳なかった。みんなと、代金を請求されないかも知れないから、一度ご夫妻を食事に招待するつもりだったのですが、私が体調を崩してしまっていたので、そんな席を設けると、私が通訳をして大変だからと、友人たちが気遣ってくれたのでした。
フランスから持ってきてもらった大きなチーズの塊がカバンに入れてあったので、それを差し上げただけで済ませてしまいました。
コニャックは半分くらい残したので、プレゼントしてくださった方が飲んでくださると良いけれど...。
◆ 白人だから、やたらに親切にされる?
東京の友達に、フランス人たちと旅行したときに皆からとても親切にされた、と話しました。
すると彼女は、「それは白人だからよ」と返してきました。
そうかも知れないな...。
東京で開かれた座談会で一緒だった韓国人女性と地下鉄に乗ったとき、フランスの生活がどうかという話しをしました。日本人は外国人だと優しくしてくれるけれど、フランスではそんなことは全然ない。
すると韓国の女性が怖い顔をして、きっぱりと言ったのです。
「そんなこと、ありません!」
私がうかつでした。日本に来た韓国人や中国人が、フランスの友人たちのように特別に親切にしてもらうなんていうことはあり得ないでしょうね。
仕事の関係で親しくなった韓国人のビジネスマンも、「世界中の国々を旅行しているけれど、日本が一番居心地が悪い」と言ったことがありました。なぜかと聞いたら、顔が日本人に見えるので日本語で話しかけられてしまうのだと答えました。でも、彼は礼儀正しいからそう言っただけで、もっと何かあったかもしれませんね。
白人は甘やかせすぎでは?
以前にフランスでお世話になっている友人が来日したとき、パチンコ屋に入ったのですが、私は遊び方を知らない。店の人にどうすれば良いのか聞いたら、後ろの杭を動かしてくれたので、ザラザラと玉が出てきたのでした。いつまでも遊んでいたら申し訳ないので、すぐに止めたのですが、お菓子をたくさんもらってしまった。
こういう親切が当たり前のように慣れてしまうと、問題ですよ。今回フランス人たちと旅行して色々と親切にされたので、私自身も厚かましくなったと感じました。何でも聞いてしまうのですから!
松本に行った時、友人の一人が日本らしいお土産を売っている店でたくさん買い物をしました。手持ちの現金がなくなると面倒なので、できるだけクレジットカードを使いたい。
ところが、彼女のカードが拒否されてしまいました。外国のカードが使えないことはよくあるのです。「いいのよ、いいのよ」と言って、彼女は現金を探す。
お店の人はカードが使えない機械なことを何度も謝る。それで「オマケしてくださるとか?...」と私は軽く言ってしまった。これだけ買い物したのだから、売れないハンカチ1枚でもあげてくれたら気分が良いのではないかと思ったのです。
割引を交渉する風習がある国でもない限り、普通の私なら絶対に言わないことなのですけど、2か国語を同時に話していると正常に頭が機能しなくなるのです(言い訳)。
お店の人は、買い物を2割引にしてくれてしまいました。そこまでしてくださるなんて、行き過ぎですよ~!
だいぶ前のことですが、新聞のコラムに在日経験があるアメリカ人の投書が入っていました。
日本に住むと中毒症状になる、と言っていたのです。何を話しても、日本人たちは感心して聞いてくれるので、偉くなったような気分になる。その場に外国人が複数いるとダメ。自分だけが特別扱いしてはもらえないから、外国人同士で険悪な雰囲気になる。みんなからチヤホヤされる日本から自分の国に帰ると、早く日本に戻りたくて仕方がない状態になるものなのだそうです。それは彼が知っている日本滞在の経験があるアメリカ人たちに共通しているとのこと。
あり得るだろうな...。日本人でも、東南アジアの国に駐在すると同じかもしれない。メイドさんを2人も雇えるし、天皇陛下がいらっしゃれば会えてしまうのですから、偉くなった気分になる。帰国したら、ただの人になってしまう。
◆ 「おもてなし」という言葉を私は嫌いなのだけれど...
パリにディズニーランドができてからほどないころ、従業員たちが労働条件に不満を唱えてデモだったかストライキだったか、かなり大きなニュースになったことがありました。ニコニコとして接客しろと強制するのは奴隷扱いだ、と訴えたのです。フランスの友人たちは、それは酷い! と賛同した様子でした。
世界に通用するようになった日本語だと日本人が思っているらしい「おもてなし」という言葉を、私は好きではありません。心から出る親切なら良いけれど、接客業の人たちに強制するのはどうかと思う。
でも、今回フランスの友人たちと旅行しながら、やはり「おもてなし」と表現できるかな... とも思いました。
田舎にある旅館の従業員の人たちが、笑顔で、楽しくて仕方がないという顔で働いているのに友人たちは驚いていました。
2泊した旅館で、いつも私たちの食事の世話をしてくれる年配の女性がいたのですが、友人の一人は女将さんだと思っていました。あんなに熱心に、愛想よく働くのは経営者であって、フランスの従業員はみんな不愛想だから、そう思ったのだそうです。
日本人は、どうせ働かなければならないとなったら、せめて楽しそうにやるのではないかな?... それと、日本ではお客様は神様として扱うことになっているので、みんながそうしているから自分もそうする、というのもあると思う。
個人事業をしている友人から、日本の従業員のように笑顔で働かせるにはどうすれば良いのかと聞かれたのですが、私には分かりません。会社勤めしていたときには、自分が働くのはいくらでもできるけれど、アシスタントを働かせるのは非常に苦手でした。それで、フリーで働くことにしてしまった...。
続きへ:
★ 不思議な方向感覚があった友人たち
シリーズ記事【フランスから来た友人たちの日本滞在記】
目次へブログ内リンク:
★ シリーズ記事 目次: フランス人は簡単には微笑まない 2005年
★ シリーズ記事 目次: なぜパリっ子は嫌われるのか? 2010年
★みんながヴァカンスを楽しんでいるときに働くのは辛い! 2005/07/26
★ 久しぶりにパリらしさを味わう♪ 2007/02/19
★ 目次: 旅行したときに書いたシリーズ記事のピックアップ
★ ちょっと怖いな... 最近の日本礼賛ブーム 2015/03/01
★ 東京五輪「おもてなし制服」を見たら、帽子に目がいってしまった 2015/08/02
外部リンク:
☆ 日本の過剰なおもてなしが、クレーマーを生んでることに気づいてますか
☆ 合掌のポーズ、おもてなし
☆ Kōban, les cages à poulets des villes japonaises
☆ Les japonais sont accueillants – Omotenashi
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世界の僻地も旅行した夫妻は、そんな所に行けるのかという所に行くと告げても、友人たちは「あぁ、そう」程度の反応だったのに、日本に行くと話したら、みんなから羨ましがられたのだそう。
フランス人の日本への憧れはかなり強いようです。でも、そう簡単に日本には行けない。旅行費の問題だけではなく、言葉の問題がある。彼らは団体旅行は嫌い。それで、私が通訳兼ガイドをしたわけなので、友人たちからとても感謝されました。来日した時には、どっさりお土産をくれました。私が紹介すると話していた日本の友人たちの分まで持って来ていました。
このフランス人を受け入れた時のことを書くシリーズの第1回目は、フランス人たちが日本に来たら、これは見逃せないと思っていたらしいことについて。友人たちはそれぞれに興味が違うので、何が見たいかと思っていたことには差があったはずですが、全員が喜んでいたのには共通点があったのでした。
来日した友人たちは熟年世代。若いフランス人だったら、今フランスで流行っているらしいアニメ文化やコスプレなどを本場の東京で見たいと言ったかもしれませんけれど。
◆ 日本に行ったら京都に行かなければ!
パリの気取った人たちは、「日本に行く」とは言わずに「京都に行く」と言うのだそうです。つまり、日本に行ったのに京都に行かないのはあり得ないらしい。
フランスのテレビなどで報道される日本は両極端です。長最先端というか、飛んでもない性文化があるとか、東京にそういう所があったとは私も知らなかった映像が出てくる。その一面、やはり一般的なフランス人には京都文化への強い憧れがあるようです。テレビでも、京都の美しい画面を切りだして繋げた映像が流れるのです。
私も友人たちを京都に連れていかねばと思って、彼らが到着する前にインターネットで情報を検索しました。最近は外国人観光客が増えて混雑しており、交通渋滞はあるし、有名観光スポットでは2時間も行列することが多いし、嵐山のような所でも静かな雰囲気はない、などとばかり書いてある。私は怖気づいてしまいました。
私にとっての京都が残念だと思う点は、フランスの古い街ならどこでも残している「旧市街」がないことです。神社仏閣に行けば広々として異世界が広がっていて美しいのですが、京都市内を歩くだけなら東京と余り代わりがない。フランスで旧市街を散策するように、ふらふらと歩いているだけで昔にさまい込んだ感覚を味わえる場所が京都にはないように感じています。
東京に仕事に来たフランス人が、唯一自由時間があった日曜日に京都日帰り旅行をすると言うので、1泊もしないのは残念すぎると言ったことがありました。彼らは「京都の雰囲気を味わうために散歩するだけで良いのだ」と言うのです。「あの~、京都には旧市街はないのだ」と言ってしまいました。
そう思っていた私なのですが、今回は久しぶりに京都に行ったら、道路が味気ないアスファルトではない石畳になっていて、旧市街の雰囲気を味わえる区画ができていました。でも、観光客だらけ。時代をタイムスリップしたような静かな雰囲気を満喫できるのは夜もふけてからか、早朝でした。私も住みたいと憧れていた京都なのですが、観光客だらけで住みにくくなっただろうと思ったお話しは、機会があったら書きます。
京都で何処に行きたいかというと、フランス人には金閣寺が欠かせないスポットのようです。
インターネット情報では、観光客が行列を作って歩く姿を映した動画などがありました。酷い時には入場できるまでに2時間も並ぶことがあるとか。
フランス人たちに、金閣寺は1950年に放火により全焼し、1955年に再建されただけだと告げました。ユネスコの世界遺産に入っているけれど、再建されたのだから国宝にもなっていないのだ、と言ってしまった私。
焼ける前の姿は現在よりずっと趣があると思います。
もともと私は金閣寺は好きではなくて、京都にはもっと見る価値がある建築物がたくさんあると思っています。
金閣寺には行くのは止めようよと説得するために、銀閣寺の方がフランス人の趣味に合っているとか、中国人は金閣寺が大好きなのですって、などとも言ってしまった。
京都に行ったら、ともかく観光客が多い所は避けたいと思ったので、私は金閣寺には行かなかったのですが、フランス人たちは別行動で金閣寺と銀閣寺に行っていました!
◆ 富士山が見たい!
フランス人にとって、富士山=日本なのでしょうかね?
富士山を見ようと、友人たちは探していました。見えると大喜び!
それなら箱根にでも連れて行こうかと思ったのですが、私は箱根が好きではないし、日程的にも無理だったので行きませんでした。行きたいなら東京から英語ガイド付きの観光バスがあると教えたのですけれど、気乗りしなかったらしく、参加者はなし。
私自身、富士山には特別な思い入れはありませんでした。でも、伊勢神宮に行ったとき、近くにある名所の夫婦岩があるところまで行ってみたら、そこから富士山が見えたのは私も感激しました。

かなりの距離があるのに、富士山が見えたのでした。

追記:
コメントで頂いた情報リンクで、富士山からの距離が分かりました。夫婦岩がある二見浦までは201 Kmだそうです。標高ゼロ地点から見える場所とすれば、最も遠い場所のようです。
ここから富士山が描かれるのは、浮世絵でも描かれていました。
歌川広重画 『冨士三十六景 伊勢二見か浦』
大気汚染がなかった江戸時代にはよく富士山が見えたのかも知れない。でも今の時代に見えたのは感激です。それにしても、広重の絵には小さな岩がたくさんあるのに、こんなにたくさんは見えなかったです。風景は変わったのかな?...
友人たちが東京に到着したとき、富士山が見たいと言われたので、晴天の日に都庁の展望台(標高 202メートル)に行ったのですが、全く見ることができませんでした。そこにいらした英語ボランティアガイドさんから、12月を過ぎた冬には東京からも見える日が多くなると教えてもらったので、12月に入ってからは、天気が良い日には高い所に登ってみました。
そんなに東京から富士山が見えるとは知らなかった!
都内の区役所にある展望ラウンジから見た富士山です ↓

それほど高くなないところにあった展望台なのに(標高105メートル)、富士山が見えたのは私も驚きました。無料で入れる展望台としては新宿にある都庁のを知っていたのですが、各区のビルにもかなり展望台が設けられているのを知りました。
富士山を探したことなどなかった私なのですが、見えるとやはり嬉しいものですね。友人たちがいた間は、こんなに頻繁に富士山を見たことは生まれてからなかった、というほど何度も見てしまいました。彼らが帰った今は、一人で富士山探しをしようとは思いませんが。
◆ 新幹線に乗るのが、そんなに嬉しいの?
そんなに新幹線がフランスで知られているとは思ってもいませんでした。
初めて新幹線に乗ることになった時には、いたく感動していたのです。電車がどちらの方向から入って来るかを聞いてくる。「そんなの知らない」と言うわけにもいかないので、駅員さんに聞いたりして、カメラを抱えて待ちわびている友人たちに教えました。

眺めてみると、新幹線の鼻は伸びていて美しいデザインですね。
フランスには、日本の新幹線と同じ感じで、国鉄のSNCFが運行しているTGVがあります。フランスにいらした日本人がTGVを喜んでいるのは見て、TGVは面白くないのにな... と思っていました。
これと比べたら、フランス人がホームに入って来た新幹線の姿を見て感動するのも分かる気がします。
TGVが最初に考案されたのは1960年代で、日本が1959年に東海道新幹線の工事を始めた直後なのだそう。
最近は美しい姿のTGVが出てきているのでしょうか? フランスの駅には長らく行っていません。ブルゴーニュからパリに出る時にはTGVを使うのが便利なのですが、ひところ乗ろうとすると毎回、デモなどで予定を狂わされるのに懲りてから、乗らないことにしたのでした。最後にフランスの電車に乗ってから10年はたっているはず。
ともかく、TGVの座り心地は新幹線よりずっと落ちる。本数は少ないし、ストは多いし、遅延も多い。これは、今回お世話した友人たちも言っていました。なので、何回も新幹線に乗ることになっても、彼らはその度に喜んでいました。私は、新幹線で行けば短時間で移動できるので良いのですが、トンネルが多くて、ほとんど車窓からの風景は眺められないので好きではなかったのですが、かなり利用しました。
◆ フランス情報では?
友人たちの反応を観察したことだけを書いたので、フランスの旅行情報サイトでは、日本のどんな場所を推薦しているかを書いてみます。
50も挙げると多すぎるので、日本ですること、見ることのトップ18の情報にしておきます。
| 1. | 京都 嵐山の竹林、金閣寺と銀閣寺、清水寺、祇園で芸者に出会う、錦市場が推薦されています。 | |
| 2. | 広島平和記念資料館、広島平和記念公園 | |
| 3. | 宮島 私たちは2泊したのですが、1週間滞在したかったと言っていました。 | |
| 4. | 奈良と東大寺 | |
| 5. | 秋の紅葉を見る これはいたるところで見て感激していました。フランスの木々は赤くなるのが非常に少ないのです。 | |
| 6. | 花見シーズンに日本に行く(桜の花が満開の時期) | |
| 7. | 銭湯か温泉に行く これは後日書こうと思います。 | |
| 8. | 富士山を見る 日本のシンボルと言っていますね。 | |
| 9. | 日光に行く | |
| 10. | 高野山 奥の院 宿坊に泊まるのを勧めています。私は行きたいと思って聞いたら、相手はフランス人レポーターが宿坊に泊まって応対が冷たかったと興ざめする記事を見つけたので、計画はボツになりました。 | |
| 11. | 地獄谷野猿公苑(長野県) あちこちのフランスのサイトで推薦しているのが気になったのですが、行かなかった。猿はフランス人には珍しいからでしょうね。 | |
| 12. | 大阪 | |
| 13. | 東京 | |
| 14. | 食べる 「ラーメン、うどん、たこ焼き、お好み焼き、寿司 等々」と並んでいるのですが、はるばる日本まで来たのですから、もっと本格的な日本料理を挙げて欲しかった。友人たちは寿司は喜んで何回も食べていましたが、うどんは嫌いだと言ったので1回だけ食べさせただけ。後に並んでいるものは喜びそうもないと思って、1回も味わわせませんでした。 | |
| 15. | 上高地 | |
| 16. | 沖縄と南の島々 | |
| 17. | 城を1つは見学する | |
| 18. | 別府 | |
18選んで、こうなりますか?... 他のフランス情報(トップ10)を眺めたら、重なっているのは、京都(金閣寺)、富士山(箱根)、日光、城(松本城)でした。やはり、京都と富士山は欠かせないらしいですね。
日本には各地に素晴らしい所があるのですから、ここで私が挙げた3つに関しては、見落としたってどうということもなかった、と私は思うのですけれど...。
それが来日前にイメージしていた日本で、実際に旅行したら発見ができたということなのでしょうね。そちらの方が私には面白かったので、別の機会にシリーズ記事の続きとして書きます。
シリーズ記事【フランスから来た友人たちの日本滞在記】
目次へ続き:
★ 日本人はみんな親切だ、とフランス人たちは言った
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★ 目次: フランスの美しい村々について書いた記事
★ 目次: 乗り物に関して書いた記事(自動車、自転車、トラクター、船など)
★ 目次: 旅行したときに書いたシリーズ記事のピックアップ
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シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか】
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その9
前回の記事「イギリスとフランスが犬猿の仲だった長い歴史 」を書くために調べていたら、少し気になった書籍に出会いました。
スティーヴン・クラーク(Stephen Clarke) というイギリス人ライターが書いた本です。フランス語の題名は『1000 ans de mésentente cordiale』。
英仏の国旗があって、「千年(1000 ans)」にわたる「不調和(mésentente)」だから、英仏間にあった千年の不仲について書いてあるのだろうと想像できます。でも、「不調和」には文字を大きくした形容詞「CORDIALE」がついている。
cordialとは、真心がこもった、誠実な、という意味があるのですが、ここでは反語的に使っていて、「心の底からの」不協和音という意味なのでしょうか?
彼は英語で書いているので、オリジナルの英語版でタイトルがなんとなっているのか調べてみました。左がフランス語バージョンで、右が英語バージョン。
1000 ans de mésentente cordiale | 1000 Years of Annoying the French |
仏語バージョンの方では、下に「ローストビーフから見た英仏の歴史」と説明がついています。
英語バージョンのタイトルは、俺たちイギリス人がフランス人をイラつかせた千年の歴史、のように私は受け取りましたが、どうなのでしょう?
◆ イギリス人にとって、Merde(糞)はフランスの象徴?
スティーヴン・クラークというライターを知らなかったのですが、フランスやフランス人について、英語と仏語訳でたくさんの本を出しているのでした。
英語版の著書の題名を見ると、そんなことをフランス人に言ってしまって大丈夫なの? と思ってしまうので気になりました。
「Merde(糞)」というフランス語の単語がお気に召しているようで、それを何冊もの英語版のタイトルで使っているのです。
☆ Stephen Clarkeの著書を検索
- A Year in the Merde ⇒ God save la France
- The Merde Factor
- Merde Actually = In the Merde for Love(米国版) ⇒ God save les Françaises
- Dial M For Merde ⇒ God save le Président
- Merde Happens
- Merde in Europe
「結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはクソだらけ」なんていう、有名な啖呵売(タンカバイ)の口上があったけ...。
スティーヴン・クラークが特別に「メルド」という単語を取り上げたわけではなくて、イギリスではフランスらしさを表すものとして、バゲットやベレー帽の他に、このメルドもあるようなのでした。
ともかく、それだけ彼は糞まみれが好きなのに、フランス語の翻訳本では、「メルド」を使ったタイトルの本は一度も出していないですね。
フランス人読者に対しては、メルド=フランスとするのは憚られたからでしょうか? フランス人もよく「メルド」という下品な言葉を使いますが(悔しいときに「くそ~!」と言ったりする)、それがフランスの姿とはしていないわけですから。
◆ イギリス人の忖度(そんたく)?
かなり前のことですが、フランスで友人たちとおしゃべりしていたとき、「フランスの、ここが気に入らない」と話したら、「フランスが気に入らないなら、日本に帰れば良いじゃない」と言われて、少なからずショックを受けたことがありました。考えてみれば当然のことを言われたわけです。
でも、日本には「外国人による日本語弁論大会」というのがあって、外国人たちが日本人のことをこき下ろしていたのです。それで、日本人は外国人から批判されるのが好きなのか、外からの批判を素直に受け止めて成長する国民なのだろうと思っていました。
でも、日本も変わったのですね。
それで書いたのが、この記事:
★ ちょっと怖いな... 最近の日本礼賛ブーム 2015/03/01
日本では、外国人に日本のことを褒めさせるのが流行っていると感じた後、日本人女性と結婚しているイギリス人に出会いました。東京で開かれた会合に参加した後に夕食をして少し話したのですが、何となく彼は変だと思ったのです。
日本語が流暢なそのイギリス人は、口癖のように「日本は素晴らしいです!」と繰り返したのです。その場で私たちが話していることとは全く関係ないし、誰も彼が「素晴らしい」と褒めていることには耳もかしていなかったのに、彼は30分おきくらいにその言葉を繰り返していました。
そう言って日本人をおだて上げていないと、彼は日本では仕事できないからなのだろうと思って、気の毒になりました。
それで、フランスとフランス人についてしか書いていないライターのスティーヴン・クラークは、どういう風に書いているのか気になったのです。
最近のフランス人たちは、昔に比べるとフランスに対する自画自賛の考え方が薄れてきたと感じます。経済は低迷しているし、しばらく優秀な政治家も出てきていないので、このままではフランスは悪くなるばかりだ、と考えるフランスの友人が多くなってきました。
とすると、同じような問題を抱えた日本では、日本礼賛ブームになったのとは逆に、フランスでは外国人に貶されると痛快に感じるようになったのかもしれない。
スティーヴン・クラークが、フランスのことを良く言っているのか、悪く言っているのかを知るには、彼の著書を1冊でも買って読んでみれば良いのですが、イギリス人がフランスのことをどう言っているのかに全く興味がないので、私は読む気にはならない。
それで、インターネットでどう語られているのかを少し見てみました。
◆ フランス語の翻訳版のタイトルが、原作と違いすぎる
スティーヴン・クラークのフランス語版には翻訳者の名前があるので、彼はフランス語では書いていないもよう。翻訳者のアドバイスなのか、彼自身が気をつかっているのか、英語のタイトルとフランス語のタイトルが余りにも違うのが興味深い。
フランス人を怒らせないように気を使っているのではないでしょうか?
| Français, je vous haime | 英語版 Talk to the Snail: Ten Commandments for Understanding the French |
英語のタイトルでは、イギリス人がフランス人をバカにするときの呼び名の「蛙野郎」と出してきているので、フランス人をストレートに貶しているのだろうな、と想像します。
でも、フランス語のタイトルは全く違います。
「フランス人たち」と呼びかけて、そのあとで「私はあなた方を...」と続いています。『Français, je vous haime』をちらりと見たとき、動詞らしき「haimer」は存在しないので、「haïr(憎む)」をもじったのだろうと思って、「あなた方を憎んでいます」なのかと思ってしまいました。
でも、たぶん「aimer(愛する)」の頭に「h」を付けてみたのではないでしょうかね? フランス人はHを発音しないわけですから、耳で聞けば同じになる。だとすると、「あなた方を愛しています」になる。フランス語版の本の紹介でも、イギリス人はフランス人を馬鹿にするけれど、彼らのことを本当に好きなのだ、と書いてありました。
◆ デビュー作のタイトルも...
スティーヴン・クラークが作家としてでデビューしたのは、2005年に自費出版して、イギリスでベストセラーになった下の作品。ノンフィクションかと思ったら、彼がパリにやって来たときの体験をもとにした小説なのだそう。
彼の作品としては唯一、これは日本語訳が出版されていました。3か国語のタイトルを並べてみますが、全く違うのですよね。
日本語版 | 英語版 | 仏語版 |
英語のタイトルをそのまま訳せば、「糞まみれの1年」のような感じでしょう? 日本語の題名は、英語で使っている「MERDE(糞)」を活かして、それがフランスを表すことを出す苦労をしていて、タイトルに「くそったれ」と付けていますね。
糞という単語を使ったのは、パリには犬の糞がたくさんあると作品の中でも書いているそうなので、それから来ているのかもしれない。左足で踏むと縁起が良いなんて言われていたのですけど、最近はパリ市も努力して、犬の糞はかなり見かけなくなりましたけど。
フランス語の題名の方は、糞(メルド)を削除してしまって、イギリス国歌の「God Save the Queen」 をもじって『God save la France』にしている。でも、犬が道路を歩いて、イギリス国旗を付けた運動靴がそれを踏みつけようとしている絵に糞のイメージは残したようです。
読んだフランス人のコメントを読むと、面白いことが書いてあると思ったのに、ちっとも笑わせられなかった、などというのもありました。フランスを痛快に貶して笑わせる、という域にまでは達していないのではないかと感じました。イギリスとフランスのユーモアには、かなり開きがあるのですよね。
『くそったれ、美しきパリの12か月』を読んだ日本人には、ますますフランスが好きになったと書いている人もいたので、貶してばかりいるというわけでもないのでしょう。
誰も聞いていないのに「日本は素晴らしいです!」と繰り返していたイギリス人を見たときにも違和感を感じましたが、スティーヴン・クラークも、正面切ってモノを言わないのがイギリス人なのかな?
前回の記事で、フランス人はイギリス人のことを偽善家だと感じるというのを書きましたけれど、そういう違和感が両国にあるのかもしれない。
『A Year in the Merde』というタイトルだった本を『God save la France』にしてしまったのなんかは、私でも鳥肌がたつけれど...。
それにしても、どうしてこんなに英語と仏語で意味が違う題名を付け、しかも表紙に使う絵も変えているのだろう?
フランスのアマゾンサイトに入っているコメントを見たら、英語版を読んだ人が、こちらも読んでみようと思って注文したら、フランス語への翻訳版だったと初めて分かり、「詐欺だ!」と怒っている人がいました。本屋で立ち読みしなかったら、そうなる可能性はありますね。
◆ 似たような題の本があった...
『A Year in the Merde』というタイトル。どこかで聞いたことがあると思ったら、同じくフランスに住んだイギリス人のピーター・メイル(Peter Mayle 1939~2018年)のベストセラー『南仏プロヴァンスの12か月』でした。このベストセラーの原題は『A Year in Provence 』だったのです。
「プロヴァンス」を「糞(メルド)」というフランス語に置き換えただけではないですか?
ピーター・メイルが著書の題名に「Provence」を何度も使っていたのと同じに、スティーヴン・クラークは「Merde」をトレードマークにしたのかな?...
A Year in Provence |
この『南仏プロヴァンスの12か月』を、ずっとピーター・メイルはフランス語版を出すのを拒否していたけれど、余りにも有名になったので、ついにフランス語版を出版する許可を出しました。そうしたら、それを読んだご近所の人たちから総スカンをくって、彼は引っ越したと聞きました。
彼は文章を書く才能が優れていますが、私が読んだ時は、かなりでっち上げのお話しが入っているだろうと感じたので、そういう結末はありうるだろうと思いました。
日本でもかなり有名だったあのベストセラーが出たのは、もう30年近くも前でしたか。
ピーター・メイルは、今年の1月に亡くなっていたのを知りました。
Comme le temps passe...
続き:
★ どんなものを食べているか言ってみたまえ
シリーズ記事: 嫌いな国の人を何に喩えるか
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★ ちょっと怖いな... 最近の日本礼賛ブーム 2015/03/01
★ フランスでは「13日の金曜日」はラッキーな日 2007/04/13 Merdeについて
★ 海の向こうにある国に憧れるものなのか? 2006/10/12
★ 目次: 文学者・哲学者、映画・ドキュメンタリー
外部リンク:
☆ Wikipedia: メルド (フランス語)
☆ イギリス人は好きだなぁ 『くそったれ、美しきパリの12か月』
☆ 【shithole】「肥溜め(こえだめ)・便所」トランプ大統領人種差別発言de英会話・スラング・略語の意味や使い方
☆ Pourquoi êtes-vous tant à désirer quitter la France ?
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シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか】
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その8
James Gillray, The Plumb-pudding in danger - or - State Epicures taking un Petit Souper (1805)
”the great Globe itself and all which it inherit", is too small to satisfy such insatiable appetites.
Le plum-pudding en danger ou Les Etats épicuriens prenant un petit Souper
"Le monde entier lui-même et tout ce qu'il recèle" n'est pas assez grand pour rassasier de tels appétits.
⇒ 拡大画像は、こちら
イギリスの風刺画家ジェイムズ・ギルレイ(James Gillray 1756~1815年)が、「プラム・プディングの危機」と題して1805年に発表したたカリカチュアです。
左には、イギリス陸軍の赤い制服を着ているウィリアム・ピット首相 (小ピット)。その向かい側に座っているのは、皇帝になったばかりのナポレオンで、彼がつくった大陸軍の青い制服を着ています。
副題にはフランス語を使って「簡単な夕食」とあるけれど、彼らは大きなプラム・プディングを分け合おうとしています。
英仏の勢力圏争いを、美食を探求をする政治家二人として描かれています。
プディングは、実は地球儀。拡大してみると、地名まで読めます。ナポレオンがフォークを突き刺しているのは、ドイツのあたりでハノーファー(イギリスが統治していたハノーヴァー朝の拠点)。ピットは大西洋を付いているので西インド諸島を狙っている?
ナポレオンが奪おうとしている大陸は、ピットが取ろうとしている海よりずっと小さいよ、というわけなのかもしれません。
ピットの方は気取ったイギリス人紳士という感じなのに対して、ナポレオンの方は欲にかられた小僧という感じ。ピットは、食事用のカービングナイフとフォーク(3つ歯)を使っています。対するナポレオンは、サーベルと、突っつくためのフォーク(2つ歯)に見えます。
主にカービングフォークと一緒にローストビーフなどの肉の塊を切り分けるのに使われるナイフ。
ギルレイは、フランスを貶そうというわけで描いたわけでもなさそう。この風刺画の題名の下には、シェークスピアの言葉を引用しながら(『テンペスト』に出てくる?)、こんな食欲旺盛な人たちを満腹させるには地球は小さすぎる、と書かれていますので。
プディングには、湯気がたっています。
この風刺画が描かれるほんの少し前、戦争状態にあったイギリスとフランスは1802年にアミアンの和約を締結しました。でも、翌年には両国の関係は再び悪化。ナポレオンも皇帝に就任。
そして、ナポレオン戦争(1803~1815年)の時代に入ります。
この風刺画が発表されたのは、1805年2月26日。この年の10月には、トラファルガーの海戦にイギリスは勝利して、ナポレオン1世の英本土上陸の野望を粉砕しました。12月には、フランスはアウステルリッツの戦いで、陸軍ではイギリスには負けないことを示しています。でも、10年後にはナポレオンの完敗。
イギリスとフランスの仲が悪かったのは、ナポレオン時代だけではありません。両国が敵対関係であることを止めたのは、19世紀初頭になってからでした。
◆ イギリスとフランスの敵対関係には、千年近い歴史がある
歴史に疎いので、フランスとイギリスの間にあった主な戦争を書きだしてみました。
| フランスの勝利 | イギリスの勝利 |
| 1066年: ノルマン・コンクエスト ノルマンディー公のイングランド征服 15世紀まで、イギリスの宮廷では仏語が使われた 1337~1453年: 百年戦争 イギリス国王がフランス王位の継承権を主張したことに始める、イギリス王家とフランスの王家の戦い。イギリスはフランスに領土を広げたが、ジャンヌ・ダルクに鼓舞されたフランス軍が反撃に転じ、カレーを残してフランス国内のイギリス王領は消滅した。 1775~83年: アメリカ独立戦争 1805年: アウステルリッツの戦い (ナポレオン戦争 1803~1815年) 1806年: ナポレオン1世(在位: 1804年~15年)による大陸封鎖 ⇒ 失敗 | 1415年: アジャンクールの戦い(百年戦争) 1689~1815年: イギリス・フランス植民地戦争 (第2次英仏百年戦争) 1756~63年: 七年戦争 ⇒ パリ条約(1763年) 1805年: トラファルガーの海戦 (ナポレオン戦争 1803~1815年) 1815年: ワーテルローの戦い(ナポレオン戦争) ナポレオン1世が率いるフランス軍の敗北 ⇒ ナポレオンはセントヘレナ島(イギリス領)に幽閉される |
フランス側の情報ですが、イギリス人を嫌うフランス人の割合より、フランス人を嫌うイギリス人の割合の方が多いのだそうです。イギリス人がフランスに対する反感を持つ底には、ノルマンディー公のイングランド征服(11世紀)が根強いのだろうと思います。
これによって、フランス王家とイギリス王家の間に婚姻関係もできたので複雑になります。
14世紀になり、フランスでは、シャルル4世(カペー家)が跡継ぎがないまま世を去ったので、従弟のフィリップ6世(ヴァロア家)が王位を継ぎました。そこで、シャルル4世の甥にあたるイギリス国王のエドワード3世は、王位継承権は自分にあると主張して宣戦布告しました。この百年戦争を始めは有利に展開したイギリスでしたが、結局フランスを領土にすることはできませんでした。
フランスの政治家クレマンソー(Georges Clemenceau 1841~1929年)は、「イギリスは、悪い方向に向かった旧フランス植民地だ」という憎らしい言葉を残しています。- L'Angleterre est une ancienne colonie française qui a mal tourné.
痛快な格言をたくさん残しているクレマンソーですが、これはいつ言ったのでしょうね。
第一次世界大戦が終わって開かれたパリ講和会議(1919年)は、米英仏3国によって主導され、クレマンソーはフランス代表として参加していたので、イギリス人の気持ちを逆なでするようなことを言う立場にはなかったと思うのですけれど...。
◆ 英仏海峡
ヨーロッパ大陸の地図をあらめて眺めてみました。イギリス人が一番行きやすい大陸の部分はフランスですね。英仏海峡は日本海のように波が荒くないので、泳いで渡ってしまった人もいたくらいです。
イギリスがヨーロッパ大陸に上陸したいとき、フランスのカレーは最も上陸しやすい町のようです。1994年に開通した英仏海峡トンネル(ユーロトンネル)も、カレーとイギリスのフォークストンを結んでいます。
英仏海峡トンネルの経路図
このトンネルを通る鉄道を延長せて、イギリスとヨーロッパ大陸を結ぶ電車「ユーロスター(Eurostar)」ができたのですが、少し驚くことがあります。
ロンドンのターミナル駅の名前は、2007年までウォータールー国際駅だったのでした。「ウォータールー」と聞いても何も思い浮かびませんが、英語でWaterloo。ナポレオンを失脚させたワーテルローの戦い(1815年)の「ワーテルロー」なのです。
フランス人を逆なでしたくて、イギリスとフランスを結ぶ電車の発着駅をワーテルローにした訳ではないでしょうが、イギリス側は強気だな、と笑ってしまいます。
Waterloo(ワーテルロー)はベルギーにある地域で、ロンドンとは無関係のはず。ウォータールー国際駅の前身のロンドン・ウォータールー駅ができたのは1848年。30年ほど前にあったイギリス側に勝利をもたらしたワーテルローにちなんで命名したのでしょうね。
ユーロスターのロンドンのターミナル駅は別の駅になりましたが、フランスに対する配慮でワーテルロー駅は止めたというのではありませんでした。
◆ カレーの恨みもあった?
カレーと言っても、ライスカレーではなくて、北フランスの町、カレー(Calais)のことです。
「ローストビーフはイングランド料理で、スコットランドはボイコット? 」に書いた、イギリス人の画家ウィリアム・ホガースの絵画「古きイギリスのローストビーフ(1748年)」に描かれていたのは、英仏海峡に面したカレーの町の入口にあるゲートでした。
William Hogarth, The Gate of Calais (O, the Roast Beef of Old England), 1748
カレーは、2つの世界大戦でも戦場となって破壊されました。観光しに行きたくなるような町ではないので、2回くらいしか行ったことがありません。でも、歴史的にはとても重要な町だったのですね。
カレーの町は、古くからブリテン島を結ぶ中継地として栄えてきました。それだけに、イギリスとフランスの間で奪い合いの戦争も頻繁に起こっていたのでした。
英仏が百年戦争をしていた時代、カレーは、長期間に渡って行われたイギリス軍の包囲に破れ、1347年から翌年まで占領されました。このカレー包囲戦における降参の逸話は、ロダンの有名な彫刻『カレーの市民』の題材となっています。
Auguste Rodin, Les Bourgeois de Calais, 1895
イギリス軍に包囲されて飢餓状態になっていたカレー市。6人の人質を差し出せば市民は助ける、とイギリス王から言われ、名乗り出た勇敢な6人のカレー市民を描いています。市の門をあける鍵を手に、首に縄を巻き、裸足で市を出て行く6人の群像。
※ 「市民」と訳された「Bourgeois(ブルジョワ)」は、市民権を持つ、つまり裕福な者という、当時の都市住民の階級を表しています。
カレ-は、1453年から再びイギリスの手に渡ります。ヨーロッパ大陸に残る唯一のイギリス領となったカレーが、ようやくフランスに戻ったのは1558年。ヴェルサイユ宮殿にある「戦闘の回廊」には、その勝利の絵が掲げられています。

François-Edouard Picot, La Prise de Calais,1558
◆ 違和感を持つ外国人のメンタリティー
日本では「欧米」という範疇で捉えますが、フランスで色々な国の人たちに接すると、それぞれの国民性はかなり違うと感じます。服装やしぐさを見ただけでも、その人の国が判定できることが多いのです。
フランスにいる外国人らしき人たちを見るとき、「あれはイギリス人だ」というのは一目で見分けられると思っています。服装とか物腰が違う。さらに、話してみると、フランス人とはかなり異なったメンタリティーを持っている人たちだと感じます。
やたらに偉そうにしているイギリス人が多い。むかしフランス人たちからイギリス人は好きではないというのを聞いていたとき、私は偏見を全く持っていないと思っていました。ところが、在日フランス系企業で働くようになったら、フランス人たちが言っていることは正しいかな、と思うようになりました。
私の会社では第一言語が英語だったので、有名大学を出たイギリス人スタッフが何人かいたのですが、日本人スタッフに対する態度が半端ではないのでした。こちらを植民地の人間として扱っているのではないか、と感じました。フランス人でも大柄な人たちはいますが、あんな風にこちらの人間性を否定するような態度をされたことは一度もありませんでした。
その頃、兄がロンドンに転勤になり、一家はイギリスに移り住みました。ある時、幼い子どもたちが夏には学校で辛い思いをするのだ、と兄嫁が私に話しました。終戦記念日になると、戦時中に日本軍が酷いことをした、と毎年しつこいくらいに授業でやるのだそうです。「それなら、アヘン戦争についても詳しく学びたいです、と先生に言わせれば良いじゃない?」と、私。姉は何も言わなかっただろうとは思います。
イギリスとフランスは植民地争いをしましたが、植民地支配のやり方でフランスは劣っていたと言われます。フランスは、アレキサンダー大王のやり方を伝承しているのか、現地に溶け込もうとしました。イギリスの方は、徹底的に高圧的にやるので支配できる。植民地を持っていたら問題だと判断したら、イギリスはさっさと手を引くのに、フランスは踏ん切りがつかなくてダラダラやった。
フランスの植民地支配の歴史で、最大の汚点を残したのはアルジェリア(1962年独立)でしょうね。イギリスに強い敵対心を残した旧植民地はあるのでしょうか? 日本人よりは上手くやったのだろうという気がするのですが...。
◆ 一般の人たちの、対フランス、対イギリス感情は?
互いにどんな悪口を言っているのか、典型的なのはこんなのだ、とフランスの雑誌に書いてありました。
イギリス人は... (こういう時はローストビーフと呼ぶ)
偽善家で、みっともない服装をしていて、ビールを飲み過ぎで、どんな料理にもミントソースで味付けをする。
フランス人は...(蛙と呼ぶ)
横柄で、薄汚く、不誠実で、無作法で、四六時中ストをしている。
フランス人が、どういう理由でイギリス人を偽善家だと感じるかという例に、お育ちの良いイギリス人は絶対にNOとは言わない、というのがありました。これは日本人の方がもっと上を行っていますね。日本に少し滞在したフランス人が、基本的な言葉として「はい」と「いいえ」を覚えたのだけれど、滞在した1カ月半の間に「いいえ」というのは一度も耳にしなかった、と言っていました。
思っていること、欲していることをはっきり言わないのは日本人の美徳だ、とフランスの友達に話したとき、そういうのは偽善的な行為だ、と言い切られて、腹がたったことがありました。イギリス人にも、同じように不快感を持ちますか...。日本では、イギリス人は礼儀正しいと思っていますが、フランスでは、彼らには遠慮がないと言われることが多いように感じます。
日本人は、同じ島国の国イギリス人に似ているのかもしれない。「どんな料理も醤油ソースで味付けをする」と言えるでしょうから!
政治的なことに関しては、フランス人たちのイギリス批判はもっと厳しいはずです。
イギリスがEUからの脱退を決定したときに行ったアンケート調査では、Brexitを好ましいことだと答えたフランス人は41%もいたそうです。ドイツ人は13%、スペイン人とポーランド人は7%しかいなかったそうです。
フランスのサイトに見られる人種偏見を分析した調査(OECD 2004年)では、反イギリス感情は第4位にランクされていました。フランス人の15%がイギリス人に警戒心を持っている、と分析した学者もいました。
長い憎しみ合いの歴史があるイギリスとフランス。言葉の上でも喧嘩しているように見えるものがあるので面白いです。
英仏海峡は、イギリスではEnglish Channelと呼んで、イギリスのものだと見せていますが、フランス語では la Mancheと呼ぶだけ。でも、日本も勝手に「日本海」と呼んでいるので、イギリスの呼び名が不自然だは思いません。
さすがに、英仏海峡トンネルの呼び方は、イギリス側はChannel Tunnelとしていました。フランスではTunnel sous la Manche。
面白いのは、パーティーなどで、ご挨拶もせずにいつの間にか帰ってしまうことを何と言うかです。イギリスが先にtake French leaveと呼んだようですが、これはフランスも負けずにfiler à l’anglaise(イギリス式に立ち去る)と言います。
◆ 一概には言えないと思う...
割合からすると、イギリスは嫌いだと思うフランス人より、フランスは嫌いだと思うイギリス人の方が多いのだそうです。
私の個人的な経験からすると、そうかな?... と疑問符を付けます。フランスでは「イギリス人は好きではない」と言うのよく聞くのに、私はフランス人に反感を持っている発言をするイギリス人に出会ったことがないからです。本音を言うほど親しいイギリス人がいないからだろうとも思いますけれど。
イギリスに語学留学したとき、私は言葉が楽に通じるフランス人のクラスメートと一緒に、学校の近くにあるレストランで食事していたのですが(田舎だったせいか、料理が不味いとは全く感じなかった)、私もフランス人だと思っていたレストランのマダムは、「フランス語を学んだことがある」と嬉しそうな顔で私に言ったのです。
その話しをフランスの友人にしたら、イギリスではフランス語を話せることはステータスだからだ、と言われました。11世紀のノルマン・コンクエストの後、イギリスの宮廷では15世紀までフランス語が使われたし、今でもイギリス皇室の方々は流暢にフランス語をお話しになるそうです。それで、フランス語を話すのは上流階級だというという意識がイギリスにはあるようです。
イギリス人がフランス人を好かないとしても、フランス人に親近感を持っているイギリス人は9%いる、という数値もありました。フランスに住んでいるイギリス人が多いので、そのくらいはいるだろうな、と思います。
2004年の情報ですが、60万人のイギリス人がフランスに別荘を持っていて、13.5万人が永住するつもりで住んでいるとありました。
この統計は、フランスに家を買うイギリス人が急増しているので、不動産価格を釣り上げてしまうためにフランス人が困っていると問題にされた始めた時期だったと思います。
辺鄙な田舎でもイギリス人が異常に多くなった、と私も感じ始めていました。2008年に書いた私のブログでは、ここ10年足らずの間に、フランスに住みついたイギリス人の数は7倍になり、今ではフランス在住のイギリス人は50万人いる、とメモしていました。
Au secours, les Anglais nous envahissent ! (2006年)
この後、イギリス・ポンドのユーロ換算率が下がったので、フランスに大挙してやって来るイギリス人の波は下火になった感じがしています。
以前からイギリス人が多く住んでいる地域はありました。例えば、昔にはイギリス領だったアキテーヌ地方(中心部は、ワインで名高いボルドー)。旅行していたら、当然のことのように英語で交通標識が出ているので驚きました。
それから、スキー場があることで有名なシャモニーの町。そこに住んでいる友人が、フランス人お断りのような態度をする飲食店があるのだと話していたのですが、この町もイギリス人に気に入られているようです。この町に年間を通して住んでいる住民は1万人強なのですが、そのうち千人はイギリス人なのだそう。
フランス人の方でも、イギリス(特にロンドン)に住んでいる人はたくさんいます(2004年で25万人)。若者が英語を学ぶためにイギリスに行くのは普通になっています。
私の知人の中にも、イギリスに住んでいる家族がいる人が何人もいます。食べ物が美味しくないという不満を除けば、イギリスをしっている人がこの国を悪くいう話しは聞いたことがありません。ビジネスなどは、フランスよりやりやすいなど、褒める話しもよく聞きます。
実際に付き合ってみれば、偏見は消えるのでしょうね。イギリス人は大嫌いという私の友達も、近くに引っ越してきたイギリス人は、初対面のときから良い人だと好感を持ってしまっていました。
ところで、イギリスとフランスが仲が悪いと言っても、妙にフランスがイギリスを頼りにした歴史もあります。
フランス革命が勃発したとき、断頭台の露にならないために、イギリスに亡命した貴族たちがいました。
彼は「自由フランス」をロンドンに結成し、イギリスの公共放送BBCを通じて、国内外のフランス人に、対独抗戦の継続と、ドイツの傀儡となったフランスのヴィシー政権への抵抗を呼びかけました。
フランス国内の政権にイギリスが反感を持つから、協力してもらえるのかもしれない。でも、例えば、日本の安倍政権に反対する人たちが、海を挟んでお隣りの韓国と協力して、現政権を倒す運動を起こすことは考えつきもしないですよね?
続き:
★ イギリス人がフランスについて書くと...
シリーズ記事: 嫌いな国の人を何に喩えるか
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ブログ内リンク:
★ やっと見ることができた「バイユーのタペストリー」 2009/11/06 (ノルマン・コンクエスト)
★ 海辺のレストランで食事 2012/06/03 (イギリスとの歴史的関係があった町)
★ 海の向こうにある国に憧れるものなのか? 2006/10/12
★ 助けて、イギリス人たちに侵略される! 2008/03/20
★ フランスへの民族大移動が始まったのか? 2006/10/12
★ フランスの歴代大統領の身長 2017/06/26 (ナポレオンの身長は1.68 m)
★ フォークを使って食べることが定着するには、百年以上もかかった 2017/04/07
★ 目次: 戦争、革命、テロ、デモ
外部リンク:
☆ L'Express: Nos meilleurs ennemis 2004
☆ Ça m'intéresse: Les Anglais détestent-ils les Français
☆ Angleterre: du rosbif en tranche
☆ Les rosbifs, nos amis britanniques !
☆ Libération: Chamonix vend (très cher) son âme aux Anglais 2004
☆ Le Parisien: Brexit les Anglais, nos meilleurs ennemis 2016
☆ イギリス文化論 - 英国大衆文化から見るフランスへのまなざし
☆ イギリス人はフランス人をどう思っているのか?15項目でわかったこと
☆ 仲の悪い隣国・イギリスとフランスは、これぐらい悪い。
☆ 趣味の歴史: 百年戦争
☆ 英仏植民地戦争/第2次百年戦争☆ Wikipedia: James Gillray
☆ ジェイムズ・ギルレイのナポレオン
☆ Syphilis, Christophe Colomb n'y est pour rien
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シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか】
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その5
◆ イギリスは、豊かな食文化ができても不思議はない国だった?
イギリスの料理が不味いのは、北の方に位置していて、農業に適さない国土なので、美味しい食材がないからなのだろうと思っていました。
でも、そう農業に悪条件がある国ではないようなのです。
イギリスの土壌は耕作地に適しているのだそうです。
雨がよく降る国ですが、「恵みの雨」とも言われるくらいですから雨量が少ないよりは良いでしょうね。
それに、海に囲まれている国なので、海産物が豊富。イギリス国内には、海から120キロ以上離れている地点はないのだそうです。とすれば、何処に住んでいても海の幸が味わえる好条件があるわけですね。
しかも、古代から外国文化が入っているので、食品加工や料理の技術も発展していたのだそうです。
| 【外国から食文化が入ったイギリスの歴史】 | |
| ● | 紀元前55年: ユリウス・カエサルがグレートブリテン島に侵入。 古代ローマ人は、色々な家畜(ガチョウ、キジ、ウサギなど)や植物(サクランボ、アーモンド、コリアンダー、ブドウなど)をもたらしたし、チーズ製造などの技術なども伝えた。 |
| ● | 5世紀: アングロ・サクソン諸部族がブリタニアに侵入し、養蜂、開放耕地、三圃式輪作などをもたらした。 |
| ● | ヴァイキングの時代(9~12世紀): スカンジナビアにあった魚の乾燥、塩漬け、燻製の技術が伝わった。 |
| ● | 1066年: フランス王の封建臣下であるノルマンディー公がギヨーム2世によって、イングランドは征服され(ノルマン・コンクエスト)、フランス文化が入ってくる。ノルマン朝は1154年まで続く。 ブログにも書いたバイユーのタペストリーは、この戦いを描いているのですが、戦いを前にしたノルマンディー公が豪華な宴会を開いているシーンがあります。 |
| ● | 十字軍の遠征(1196~1270念)により、イスラム諸国の食文化として、スパイス、生姜、アーモンドミルク、砂糖などが入った。 |
| ● | 12世紀: イングランド国王ヘンリー2世はアリエノール・ダキテーヌと結婚する。ボルドーワイン市場が開かれるようになる。 この結婚によって、英仏海峡にまたがる広大な領地のアンジュー帝国が成立する。 1172年頃のアンジュー帝国 |
イギリス王とフランス王の間では、王位継承や領有権での対立が原因だった百年戦争(1339~1453年)もありましたから、イギリスとフランスに区別できない領土になっていた時代はずい分長く続いたのですね...。
近世以降のイギリスは広大な植民地を獲得します。日本が明治維新だった時期には、イギリスは世界の4分の1を領土にしていたのだそう。当然ながら世界各地の食文化がイギリスに入ってきますね。インド発祥のカレーなどは、イギリスが世界に広めたと言われます。
こうして書きだしてみると、イギリスの料理が世界で一番不味いとさえ言われてしまう環境ではなかったように見えます。
もう1つ、イギリス料理は、ピューリタンの影響で食の楽しみが罪悪視されたから美食文化が発展しなかったというのも考えられます。
イギリス人から、食べ物にうつつを抜かすのは罪悪だという文化がある国なので、イギリス料理が不味いと言われても気にならない、と言われたことがあります。なるほどと思ったのですが、よく考えてみると、それは彼らの言い訳ではないかという気もしてきました。
イギリスで宗教改革が起こったのは1534年。それなら、その時期にイギリス料理の発展はストップしたはずなのに、そうでもなかったのです。
ルネサンス期までのヨーロッパでは、どの国も似たり寄ったりの料理を作っていました。17世紀になってから、それぞれの国が独自の料理を模索し始めます。フランスの貴族たちが美食の追及をしたほどではないにしても、イギリスもイギリス料理と呼べるものができてきました。特に、ローストビーフとステーキ。
もしも、ピューリタンの教えに従ったから料理が不味くなったのだと言うなら、そこでイギリスの食文化はストップしていても良かったではないですか?
◆ イギリスには、世界に誇れる料理があった
日本語だと、フランスのものでも英語で呼んだりするし、日本のものなのに外国語風の名前を付けていたりするので、片仮名を見ただけでは、それがどの国から入ったのかを判別するのが難しいです。
その点、フランス語は便利。ローストビーフ(英語でroast beef)はrosbif。フランス語ではスケーキ(英語でsteak)はsteakで、ビフテキ(英語でbeefsteak)はbifteckです。英語から来たのだろうな、と想像がつきます。ということは、この2つの料理はイギリスから入ったのだろうと想像できるわけです。
フランスの文献に「ローストビーフ」という単語が初めて現れたのは17世紀だったそうなので、その頃には既にローストビーフが存在していたということですね。始めは「ros de bif」だったけれど、すぐに「rosbif」になったとのこと。
イギリスでの伝統的なローストビーフの食べ方は、ヨークシャー・プディングを添えて、肉にはグレイビーソースをかけるというもののようです。
イギリスでは、日曜日に食べるご馳走として「サンデーロースト(Sunday Roast)」と呼ばれる料理を食べる習慣があり、ローストするのは牛肉が多く、それがローストビーフということなのだそうです。
日本のサイトでは、イギリス貴族は牛一頭を殺して日曜日にローストビーフにして、次の日曜日までその残りを食べていたから、イギリス料理では残り物料理の域を脱しなかったと書いている人がいましたが、これは私には信じられません。
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大きな牛を丸ごとローストビーフにするはずはないと思うのです。大勢が集まるフランスのパーティーでは、バーベキューで動物の丸焼きにすることがよくあるのですが、丸焼きにできるのは子羊、子豚、イノシシなどです。それでも火の通りが悪いので、長時間焼かなければなりません。
たとえイギリスで日曜日のご馳走としてローストビーフを作ったとしても、牛の一部を使うだけで、残りはステーキにするとか何とか、別の料理にしていたはずだと思うのですけれど...。
イギリスで生まれたローストビーフに、当時のイギリス人たちは非常に誇りにしていたようで、それの証拠が面白かったのですが、それをここで書くと長くなるし、本題から外れてしまうので、別の記事にします。
◆ イギリス料理を不味くしたのはヴィクトリア女王
イギリスでは、1760年代に産業革命が起こり、急速に発展します。16世紀に進行し、19世紀始めに絶頂期を迎えたエンクロージャー(囲い込み)によって、働き場を失った農民が都会に出て賃金労働者となり、労働力を提供したことも発展の大きな要因だったでしょう。
農村から都会に出てきた労働者階級の人々は子どもの時から働き、料理を覚えたりすることもできない。働いていれば料理をしている暇はないし、燃料費を使うような調理をすることもできない。
中流階級は、そうした人々を使用人として雇うので、ろくな料理を作ってもらえない。かくして、それまであったイギリスの食文化は崩れた。
しかし、19世紀始めには、まだイギリスの食文化は破壊されていなかったようです。これについても長くなるので、別に書きたいと思います。
イギリス料理が不味くなったのは、ヴィクトリア女王(在位 1837~1901年)の時代だと言われます。
ヴィクトリア女王(1859年)

ヴィクトリア朝は、世界各地を植民地化して繁栄を極めた大英帝国を象徴する時代でした。しかし、庶民生活は過酷な状況におかれていたようです。
ところが、住民が食べるものがないというのに、アイルランドからイングランドへの食糧輸出は続けられました。
アイルランドでは100万人以上の餓死を出し、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどへの国外脱出者がでて、深刻な人口危機に陥ったそうです。
その60年ほど前におこった飢饉では、当時の政府は港を閉鎖してアイルランド人の食糧を確保していたのに、植民地になったアイルランドにイギリス政府は輸出禁止令を出しませんでした。
ヴィクトリア朝の政治では弱者に救いの手を差し伸べないで、ひたすら大英帝国の拡大ばかりに努めていたらしい。イギリスの食文化などが無くなっても気にしなかったのだろう、という気がしてきます。
ギュスターヴ・ドレ「ロンドンの貧民街(1872年)」

イギリス料理は不味いという印象を与えるイギリスの食べ物は、この時代に考案されていたのでした。
まず、フィッシュ・アンド・チップス。言ってみればファストフードの走りですよね。
それから、ウスターソース(英語 Worcestershire sauce、仏語 Sauce Worcestershire)。インドのレシピですが、それが1835年にイギリスにもたらされて改良されたソースなのだそうです。
これは手抜き料理には非常に便利なソース! 日本の家庭で、これがチューブ入りのマヨネーズと共によく使われているのを見ると、日本の食文化は衰えてきていると思ってしまう...。
フランス人はウスターソースを見ると顔をしかめますが、なぜかタルタルステーキをレストランで出されたときには、肉に混ぜ込むに欠かせない玉ネギのみじん切りやケッパーなどの他に、ウスターソースが出てきます。
このタルタル人のステーキという料理を初めてヨーロッパに伝えたのは、イギリスだったかと思って調べたのですが、17世紀のフランス人だったそうです。この料理になぜウスターソースが必要なのか気になりましたが、そこまで調べているときりがないので止めます。
◆ 現代生活で食事の質が下がったのは、フランスでも同じ?
19世紀後半から、イギリス料理は不味くなった。その原因が産業革命にあったとすると、フランスの産業革命は、幸いなことにイギリスより約百年も遅れていたのですよね。私の独断で「幸いなことに」と書きましたが、フランスが出遅れたことを歴史家はネガティブに捉えるようです。
フランスの産業革命は、1830年代の七月王政の時期に始まり、1860年代のナポレオン3世の第二帝政の時期に完成したと言われます。とはいえ、フランスの農民は都会に働きに行きたがらなかったこともあって、工業化の速度は緩やかでした。産業革命がフランスで本格的になったのは1905年からとみられます。
イギリスの都市人口は、産業革命の時期に50%になり、19世紀半ばには75%にまで増加していました。フランスの農民はなかなか都市に働きに出たがらなかったので、都市人口が農村人口を上回ったのは1931年です。フランスでは古き伝統が破壊されたのは遅かったということになります。
むかしフランスに留学したとき、親しくなったフランス人の家庭によく招待されました。どの家に行っても、何でもない家庭料理が素晴らしく美味しい。フランス料理が優れているのは、底辺が支えるのだ! と私は結論したのでした。
その後には、フランスの農家では手間暇かけて料理していて、都会では食べられない風味豊かな料理を作っているのを知りました。統計を見ると、サラリーマン家庭よりは農家の方が毎日の料理に時間をかけているので、私の感想は裏付けされたと思いました。
でも、家庭料理の質が高いとか、農家の日常的な料理は美味しいというのは、今では70歳を過ぎる人たちが料理を作っていた時代の話しだと思うようになりました。今の私は、フランス人が作る料理は素晴らしく美味しいなどと一般化しては言えません。料理がとても上手な人たちはたくさんいるけれど、本当に(!)下手な料理を出すフランス人たちも多くなったのです。
冷凍食品やレトルト食品を使った手抜き料理も多くなったし...。日本では『フランス人はお菓子づくりを失敗しない。』という本が出版されていましたが、失敗しないのは、今では自分でケーキを焼いて出す人は非常に少ないからだと思ってしまいます!
夫婦共働きになったら、家庭料理が簡略化される道を歩んで当然でしょうね。
フランスの場合、1970年代に女性解放運動がおこり、今では妻も職業を持つのが普通になっています。
戦後の貧しい時代に子ども時代を過ごした60歳くらいの友人たちは、母親は食費を節約しながらも美味しい料理を食べさせてくれた、と思い出話しをします。毎日、潔癖症と言えるくらいに掃除をしまくっていたけれど、母親は長い時間をかけて料理して美味しいものを食べさせてくれていたのだそう。
良き伝統は失われる運命にある...。
フランス人の料理時間について、20年前くらいに見た推移の時間、つまり調理時間が劇的に短くなっているのを見て驚いたことがありました。最近は低下した状態のままだろうと思ったのですが、それでも少しは減少していますね。
食生活に関する1986年と2010年の比較の統計がありました。国勢調査もしている組織のデータです。
この間に家庭で料理をする時間は18分減少していました(2010年には1日に平均53分)。それでも、食事にかける平均時間は逆に13分増加しているそうなので(2010年には1日に2時間22分)、それほどフランス人の食生活は乱れてはいないと言えるのかもしれません。
Les Français passent chaque jour 2h22 à manger 12/10/2012
◆ イギリス料理に新しい風が吹いている?
食べるために生きていると言いたくなるようなフランス人たちですが、フランスの食文化は少しずつ乱れていると感じています。
不味い料理だと貶されていた国の方が努力しているかもしれない。
フランスのチーズ生産が大手企業の大量生産で脅かされているのに、かえってアメリカではフランスの伝統的な製法でチーズを作ろうとしている、という話しをブログで書いたことがありました(フランスの伝統的なチーズを守ることを訴えたドキュメンタリー )。
イギリスでも、21世紀に入ってからは、イギリス料理の不評を奪還しようと頑張っているようです。フランスの有名シェフや美食家たちが優れたイギリス料理が出てきたと認めているくらいですので、本当らしい。まだ全体な動きではなく、ロンドンのレストランなどで見られる現象のようですが。
私が面白いと思ったのは、フランスのテレビで見たイギリス人シェフのジェイミー・オリヴァー(Jamie Oliver)。
彼のテレビ番組がフランス語の吹き替えで放映されるのですから、イギリス料理は不味いとステレオタイプの評価があるフランスなのに見ているフランス人もいるということなのでしょう。彼の書籍までフランスで出版されている!
彼のアメリカ的(?)に叩きこむ話し方は鼻につくけれど、簡単に美味しい料理が作れるのだと楽しく見せています。
JamieOliverジェイミーオリヴァー1
少し前まではハンサムな男の子だったジェイミー君なのに、最近は変に太ってきているのが気になっていました。彼について検索してみたら、たくさんレストランを持っていたのだけれど、経営不振で閉店に追い込まれていると報道されていました。大丈夫なのかな?...
知らなかったのですが、彼は日本にはかなり入り込んでいるようでした。本がたくさん出版されているだけではなくて、彼の名前がついた食品まで、ネットショップにはおびただしいほどの数が入っていたので驚きました。
名前がオリヴァ―だからオリーヴを売りたかったのかな。でも、イギリスでオリーブが生産されるはずはないでしょう? フランスで売ったら、買う人はいないと思いますけどね...。
日本人はイギリス料理を貶すと書いてきたのだけれど、そういうことでもなかったのかな?...
続き:
★ ローストビーフはイングランド料理で、スコットランドはボイコット?
シリーズ記事: 嫌いな国の人を何に喩えるか
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★ やっと見ることができた「バイユーのタペストリー」 2009/11/06
★ シリーズ記事: フランスの食事の歴史 / 2017年
★ シリーズ記事: フランスの専業主婦の実態 2015年
★ シリーズ記事: フランスの外食事情とホームメイド認証 2015年
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
外部リンク:
☆ Pourquoi la cuisine anglaise a mauvaise réputation ?
☆ La cuisine anglaise a une histoire
☆ 文春オンライン: イギリス料理が「まずい」原因は、産業革命だった!
☆ イギリス料理がまずくなった5つの理由
☆ イギリス料理はなぜ「まずい」のか─産業革命と二度の大戦から
☆ 世界史の窓: 囲い込み/エンクロージャ
☆ 世界史の窓: 産業革命
☆ 犬がローストビーフを作っていたって本当?
☆ Wikipedia: ローストビーフ » Rosbif
☆ Wikipedia: サンデーロースト
☆ Wikipedia: イングランド料理 / English cuisine / Cuisine anglaise
☆ ヴィクトリア朝庶民の暮らし
☆ Wikipedia: ジャガイモ飢饉
☆ やっぱり人災だったアイルランドのジャガイモ飢饉
☆ Royaume-Uni: le fish and chips, star incontestable
☆ ピクシブ百科事典: イギリス料理 (いぎりすりょうり)とは
☆ Les Français font moins la cuisine mais passent plus de temps à manger 12/10/2012
☆ INSEE: Le temps de l’alimentation en France 12/10/2012
☆ もうまずいなんて言わせない!日本国内の絶品イギリス料理店5選
☆ 「イギリス料理はマズい」はもう古い! ;英国に20年住むライターが教える「絶対おいしいイギリス料理」5選
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「いゃ~、酷かった! あんな不味い食事は滅多にない!」なんて言う。奥さんはダイエット中だからと食べなかったので、「あなたは食べなくてラッキーだった」などとまで言ったのですって!
そこまで言ってしまったら、料理をした奥さんが気の毒でしょう?!
でも、招待していた家の夫妻には急用ができたために、料理をする時間がなかったので、近所にあるパン屋さんで買って食事にしたのだそうなのです。
パン屋さんで買ったのは、キッシュと、デザートのケーキ。
それが非常にまずかったとのこと。
それに、奥さんが作ったサラダ、チーズだけの簡単なメニューだったので、全体として不味い食事だという印象ができてしまったようです。
フランス人の食べ物に対する恨みは強い。それほど親しくはない人には遠慮して気を遣います。でも、親しい人を相手にしたら、かなりはっきりと「不味い」と言います。お金を取るレストランだったら、もっとシビアだろうな...。
◆ フランス人は、世界一美味しいのはフランス料理だと思っている?
美味しくないと思われている国の料理を出すレストランを、私はフランスで見かけたことがありません。中華料理店やケバブの店はたくさんありますが、あれは安いことを売り物にしているから客が来るのだろうと思っています。
中華料理は世界に誇れるレベルがあると思う。でも、高級な中華料理屋はフランスにはほぼ存在しないので、フランス人たちは驚くほど美味しい中華料理が存在するとは知らないようです。
そもそも、フランス人たちは自国の料理が世界で最も優れていると思っているので、他国の料理を出す飲食店が発達できないのではないかという気もします。例えば、イタリアはお隣の国で、移民も多いために馴染みもあるので、ピザ屋やイタリアン・レストランはフランスに数多く存在するのですが、イタリアで食べるときのように感激するイタリア料理店は非常に少ないです。
フランス人に、どこの国の料理が美味しいと思うかと聞くより、どこの国の料理は不味いと思うかと聞いた方が、返事は簡単に出てくると思います。食べたこともないくせに、あの国の料理はひどいと思っているのも面白い。
いつだったか、フランス人の友人たちとキャンプしながら移動する旅行をしていたとき、オランダ人が経営しているキャンプ場で泊まることにした時がありました。レストランもあるので好都合。ところが、夕食をとろうとして行ったら、出す料理がないと断られたのでした。
周りはオランダ人ばかりでしたが、みんな食べているのだから、何も出せないはずはない。近くにはレストランがなかったし、疲れていたので、何でも良いから食べさせて欲しいと頼みこみました。
すると、オランダ人のご主人は、「ここの料理は不味いですけれど、それでも良いのですか?」とおっしゃる! 仰天しました。そんなこと、普通は言わないではないですか?!
彼は、フランス人に何度も「不味い」と言われたので、もうフランス人客には食べさせないことにしたのだろうと思いました。
このとき出てきたのは、オランダの旧植民地関係で以前に住んでいたらしいベトナムの料理でした。エキゾチックで珍しい料理だったし、不味くはないので、誰も文句は言いませんでした。
フランス人の皆さん、不味くても黙っていないと、相手が料理しくなくなる、ということも考えないといけないですよ~!
日本人は、料理を出した人には「おいしい」としか言わないように感じています。その場の雰囲気が楽しめたり、作った人に好感を持っていたら、不味いとは感じないのではないかな...。
ところが、なぜか、日本人からも「不味い」という定評を与えられている国があるのですよね。フランス人が書いているブログでも、この国の料理は世界で最も不味いとしている人が多くありました。
シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか】
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その4
◆ イギリス料理
Wikipediaの「イギリス料理」の記事には、ご丁寧に「「不味い」というイメージ」という項目まで設けられていました。
日本人が口をそろえて「イギリス料理は不味い」と言うのは、なぜなのか気になります。「イギリス料理 まずい」をキーワードにして検索すると、たくさんの記事がヒットします。
不味いのは確かだけれど、なぜ日本人がそんなにイギリス料理だけを取り上げて貶すのかが不思議。オランダ、北欧、ドイツ、ロシアなども料理は美味しくない、と私は感じているのですけど...。
そういえば、日本でイギリス料理のレストランには行ったことがありません。フランスでは見かけたことがないドイツ料理店やロシア料理店は、東京などにはたくさんあるのに。でも、調べてみたら、やはり日本にはイギリス料理店もありますね。
フランスでよく行く町に「ビック・ベン」と名付けたレストランができたとき、一緒にいた友人が「そんな名前をつけたら誰も来ないのに」と言っていました。予測は当たって、その店は1年もたたないうちに店じまいしていました。
何でも「おいしい」と言う日本人なのに、なぜイギリス料理だけ貶すの? 日本で誰か権威のある人が「イギリス料理は不味い」と言ったので、他の人たちが平気で同じことを言うようになったのかな?... イギリス料理が不味いと日本人に思いこませたって、儲かる人はいないでしょうから、何かの策略だったとは思えません。
私がイギリス料理と言って思い浮かべるのは、フィッシュ・アンド・チップス(Fish and chips)でしょうか。

見るからに美味しそうではないので、何度もイギリスに行きましたが、食べたことはなかったかもしれない。
日本では余り言わないかもしれないけれど、ベルギーの代表的な料理はイギリスと少し似ていて、ムール貝とフライドポテトです。日本人の私にはムール貝は珍しいので、こちらは大好き。でも、フランス人に食べたいと言うと、なんとなく軽蔑されているのを感じます。
◆ ロンドンで食べたローストビーフ
むかし、ロンドンに駐在していた兄に初めて会いに行ったとき、有名なレストランに連れていってあげるからと言って、シンプソンズ(Simpson's in the Strand)というレストランに行ってくれました。ローストビーフが有名な店なのだそう。
食べ終わってから、兄はサインを入れたメニューを私のために調達してくれました。日本から来るVIPの接待のために、兄はよくこのレストランを利用していたのだろうと思います。
Simpson's in the Strand
せっかくご馳走してくれたけれど、ほとんど喜びませんでした。フランスでもっと美味しいローストビーフを食べていたし、高級料理という感じはしない盛り付けだったし、なにしろ気取った雰囲気なのが鼻についてしまったし...。
◆ ローストビーフも、ビーフステーキも、イギリス生まれの料理
日本でもローストビーフと英語で言うし、フランスでもroast beefをフランス語風にしたrosbifが料理の名前なので、英語圏の料理だろうとは想像つきます。
でも、ローストビーフはイギリス料理だというのは、ほとんど意識されないのではないでしょうか?
ロンドンにいた兄がレストランに連れていってくれたとき、なぜイギリスでローストビーフ? と私が思ったのを覚えています。
でも、ローストビーフはイギリスで生まれた料理なのでした。この時の兄は、ローストビーフはイギリス発祥の料理で、それを誇りにするから、こういう高級料理店があるのだ、と私に説明しただろうと思います。
でも、その後もずっと、私は意識していませんでした。フランス人がイギリス人のことを「ローストビーフ」と呼ぶのを不思議に思ったほどでしたから。
昔のイギリスでは、日曜日に食べるご馳走として「サンデーロースト(Sunday Roast)」と呼ばれる料理があり、ローストとしては牛肉が多い。それでローストビーフということのようでした。
ビーフステーキも、イギリス発祥の料理なのだそうです。フランス語ではbifteckなので、英語のbeef steakから来たのだろうと想像はできますけれど、これもイギリスから入った料理だとは思ってもいませんでした。
ビーフステーキに関する情報を探しながら分かったのですが、不味いと定評のあるイギリス料理も、昔は優れた料理だったらしいので驚きました。それを次回から書いていきます:
イギリス料理を不味くしたのはヴィクトリア女王だったシリーズ記事: 嫌いな国の人を何に喩えるか
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ブログ内リンク:
★ 日本のテレビ番組で気になっていることに関するアンケートのお願い 2014/01/04
★ イギリス人がフランスで売っていたフライドポテト 2008/07/15
★ ベルギー料理といったら「ムール・フリット」! 2009/05/21
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
外部リンク:
☆ Wikipedia: イングランド料理 / English cuisine / Cuisine anglaise
☆ Pourquoi la cuisine anglaise a-t-elle mauvaise réputation ?
☆ La cuisine britannique est-elle si mauvaise
☆ D'où vient la mauvaise réputation de la cuisine anglaise
☆ Wikipedia: Simpson's-in-the-Strand
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住んでいた家の外壁にはめ込まれた小さなタイルの手触りは、まだ幼稚園にも入っていなかった頃だったはず。小学生のときに初めて田んぼに足を踏み入れたとき、足の指の間にヌルヌルとした土が入ってきた感覚もあります。
それから、母が持っていたべっ甲の髪飾りを持ったときの触感も鮮明に残っています。
◆ 簪(かんざし)、櫛(くし)
母の髪飾りは、下のアイテムと同じ感で、美味しそうな飴色をしていて、かなり厚みがあるものだったのを覚えています。ただし、彫刻は浮彫で、色はついていなかったような気がします。
実は、こういうのは「簪」と呼ぶと思ったのですが、簪は髪に指すタイプで、こういうのは「櫛」と呼ぶのが正しいというコメントをいただいたので、この記事は書き直したり、書き足したりしています。
簪(かんざし) 櫛(くし)
「かんざし」と聞くと髪飾りをイメージしますけれど、「クシ」という発音を聞いたら髪をとかすときの味気ないクシを思い浮かべてしまう。
上のタイプは、「前櫛(まえくし)」と呼べば良いようです。
ところが、上に入れた商品の説明では、こんな風に書いてありました:
両面上部に螺鈿が入れられたとても希少な逸品です。歯間が狭いので櫛よりも簪(髪留め)仕様かと思われます。
となると、簪なのか櫛なのか分からなくなる...。商品名は、賢く「櫛簪」とされていますね。
混乱してしまいますが、本来「かんざし」と呼ばれる髪飾りは、下のように髪に指す形が正しいのは確かなようです。
「くし」は「苦死」と同じ発音なので、贈り物にするときには「櫛(くし)」を「簪(かんざし)」と呼んだりするのだそう。売る方でも、飾り物の櫛は「かんざし」と呼んでしまうことがあるように感じました。
◆ 前櫛
母が大切そうに持っていた髪飾りは、引っ越ししているうちに無くなってしまいました。それが懐かしかったのか、名古屋に旅行したときに入ったアンティークショップで、同じようにカマボコ型の櫛を売っていたので買ってしまっていました。
これです ↓

美味しそうな飴色はしていません。母が持っていたものは、触ったときのツルツルした感じに温かみがあって、いかにもベッコウという感じがありました。
買った前櫛は、昭和の貧しい時代に作られた安物という感じがしていました。それに私は天性の風来坊なので、必要のない物を持つのは好きではない。でも、これを見たときに思い出話しを店の人にしたら、うまく乗せられてしまったようです。値引きまでしてくれる。連れて行ってくれた人が親しい店だったので、何か買わないと悪いような気もしていました。
それで、大して気に入ったわけでもないのに、買ってしまったのです。
この櫛をフランスに持ってきていたのに、すっかり忘れていました。いつもはめったに入らない部屋に飾ってあったのを見つけて思い出し、その翌日にアンティークショップを開いていたこともある友人が食事に来たので、これを見せて本物の鼈甲かどうか聞いてみようと思いつきました。
気に入られるようだったら、どうせ誰も眺めないままに放置されているだけなので、プレゼントしようという魂胆。
前回の日記「なんでもプレゼントしてくれてしまう友人」で書いた友人なのです。私の方も何かあげたくなるわけなのですが、日本からは古いものをほとんど持ってくることがないのでした。これは、いちおうアンティークショップで買ったのだから、かっこうのお返しになるではないですか?
私の方が頻繁にこの友人夫妻を食事に招待しているだろうし、ワインの買い付けなどに行ったときは彼らの分も買ってお土産にしています。こうなるとプレゼント合戦になってしまって、切りがないのだけど...。
友人は櫛を電灯の光にかざし、歯の切り込みなどをしばらく眺め、「本物のべっ甲だと思う」と言いました。歯の切り込み方が、型で作ったプラスチック製とは違うのですって。
「値打ちものだ」とも言う。
「興味がある?」と聞いたら、「ウイ」と答える。
それで「あなたに、あげる」と言ったら、目がキラキラ。少し遠慮したけれど、あっさりともらってくれました。
彼はやわら友人は立ち上がり、テーブルの向こう側から私の方に歩いてくるので驚く。プレゼントされたらキスのお礼をするものなのですよね。何年たっても習慣が身につかない私...。
◆ おめでたい飾り
櫛を眺めながら、友人は「結婚式の時に付けたのだろう」と言いました。
古いものを集めているので、日本や中国のものも彼らのコレクションに入っているので、ある程度の知識はあるらしい。ご主人の方は、若いときに空手をやっていたし、盆栽の作り方にも知識があるので、私などより日本のことを知っていると感じることがあります。
あらためて眺めてみたら、おめでたいものが飾りのモチーフになっていたのでした。店でも何か説明してくれたと思うのですが、すっかり忘れています。

松竹梅、鶴、亀。全部並んでいる。結婚式に使った髪飾りだというのも本当らしく思えてきました。
縁起担ぎが日本にあるというのは、フランス人の友達は知らなかった様子。それで、鶴は千年、亀は万年生きると言われるのだ、などと言いながら、本当にそうだったけかな?... などと思ったのでした。
松竹梅がおめでたいという理由は知らなかったので、説明しなかったのですが、なぜかとは聞かれませんでした。
これを書きながら調べてみたら、「松竹梅」は中国の「歳寒三友」から来ているのだそう。松と竹は寒中にも色褪せず、梅は寒中に花開く、ということのようです。フランス語では、中国語をそのまま訳して「Les Trois Amis de l'hiver」と呼んでいました。覚えておこうっと。
派手に松竹梅をあしらった簪の画像がWikipediaに入っていました。

画像のタイトルは「一月の舞妓(年少芸者)の松竹梅簪」となっている。結婚式だから松竹梅の飾りにするというわけでもないかな?...
でも、花嫁さんの飾りとして「松竹梅に鶴かんざし」というアイテムが見つかりました。
松竹梅は二人が困難にもめげずに生きていくことを表し、鶴は生涯夫婦で添い遂げる鳥というシンボルだからなのだそう。
私の櫛には亀もあったのだけれど、上の飾りには亀はないようです。亀といったら、海辺で涙を流しながら出産する姿を思い浮かべるので、結婚式に亀は持ち出したくないと私は思う。
母が大切にしまっていて、時々見せてくれていたべっ甲の髪飾りも、結婚式の思い出の品だったからだったのかな?... あるいは18歳で死に別れた母親の形見だったか?... 年がほとんど違わない後妻さんから邪魔者扱いされた母は、実家には遊びに行けなくなっていたので、余計に懐かしい思い出だったのかもしれない。
ともかく、友人にプレゼントした櫛にどんな意味があっても私には関係ないので、結婚式の髪飾りだったと思うことにしました。
◆ 本物のべっ甲なのかな?...
友人は「peigne(クシ)」と呼んでいました。その単語で話していたので、「カンザシ」という呼び名が存在していたのを私が思い出したのは、友人たちが帰った後でした。
インターネットで調べてあげると言って写真を撮ったのをここに入れました。丁寧に写真をとっていると、あげたことを後悔しているように見られてしまうかと思って、いい加減に撮影したのでピントが合っていないのですけど。
裏側は、こうなっています ↓

彫刻にしては凝り過ぎているのですが、この部分は張り付けたのでしょうね。
これと似たようなものがあるかとインターネットで画像検索したのですが、飾りが同じものは見つかりませんでした。
クシの部分を光で照らしたらギザギザが見えるので本物のべっ甲だ、と友人は言っていたのですが、偽物ではないかな?... 子どもの時に触った時のような柔らかい食感がないのです。それに、数年前に買ったときに払ったのは8,000円だったと思う。本物のべっ甲だったら、そんな値段では売らないのでは?
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ところで、偽物のべっ甲を「プラスチック製」と私は呼んだのですが、「セルロイド」と言うべきなようです。
べっ甲が本物と偽物かの判断は、専門家でさえも難しいのだそう:
☆ 鼈甲(べっこう)と鼈甲の偽物(擬甲)の簡易鑑別法(見分け方) その2
この見分け方を読んでも判断できなかったのですが、私が名古屋で買った櫛はべっ甲ではないだろうと結論しました。でも、プレゼントした友人には言わないでおきます。
ブログ内リンク:
★ 目次: アンティーク、蚤の市などについて書いた記事
★ 目次: プレゼントや土産物に関して書いた記事
外部リンク:
☆ 櫛かんざし美術館(Kushikanzashi Museum): 所蔵品
☆ かんざしの種類
☆ Des choses: Kanzashi
☆ Creative-museum
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こういうところが故郷の人だったら、外国から帰ったときに眺めて、帰ってきたな... なんて感慨にひたるのだろうな...。
東京が故郷だと、そういう風景がないからつまらない。日本で地方を旅行したときには、よくそう思うことがあります。
フランスにいるとき、日本が懐かしいと思いながら目に浮かんでくる風景がない私...。東京って、そういうところだと思う。
日本中どこに行っても見れる、とても日本らしい風景もありました。
下のような、ゴッチャゴチャというのも、珍しくない日本の風景。でも、ここは魚を乾したりしているので風情もあるかな...。
スルメって、こんな風に作るの... と感心した装置。
回転させて、遠心力でイカの皮が引っ張られた状態で乾いていく、というシステムなのでしょうね。
おいしそ~ と思ってしまいました。自然に、伝統的に、作ったものが好きです。私が東京で買うスルメなんて、工場の中に並べて乾燥させているもののはず。こんな風につくったスルメは美味しいのだろうな...。誰もいなかったので、これは何処で買えるのかと聞いてみることができませんでした...。
こういう風に食品を作って市販するのは、フランスだったら認可されないのではないかという気もしました。ヨーロッパ連合(EU)ができてからは、やたらに衛生基準がうるさいので、私などは食文化を消滅させようという意図があるのかと反感を持ってしまっています。
フランスの小規模生産チーズは不衛生だから禁止するというのがあったけれど、なんとか生き延びました。その次の槍玉にあがったのは、イタリアで薪を燃してピザを焼くのは不衛生だから禁止するなんていう、とんでもない主張。幸いにも、手作りチーズもピザも禁止にはならなかったけれど...。
◆ 「奴隷のように働く」という言い方
もう2年も前の旅行でした。写真を眺めてみたのは、探し出したい1枚があったからです。あの場面は撮っていなかったらしい。悪いと思って遠慮したのだと思う。
港から少し入ったところにある路地で、開け放った玄関から中が見えたのでした。玄関先に年配の女性がしゃがみこんでいて、魚を干物にする下ごしらえらしき作業をしていたのです。
1月で寒いというのに...。
なんだか、とても日本らしい光景に見えました。写真家だったら、白黒で芸術作品になるような捉え方ができたと思う。
こんな風に、発展途上国にあるような働く姿が経済大国日本にあるなんて、フランス人たちは想像もつかないだろうな、とも思ったのでした。
その場面の写真を探し出したかったのは、「奴隷のように働く」という表現をフランス人たちがよく使うからです。 「奴隷」なんて言葉を持ち出すのはオーバーすぎる、と思ってしまう場面でも使っています。
例えば、ディズニーランドやファーストフード店の従業員の働かせ方。「いらっしゃいませ~♪」なんて笑顔で言わせたりするのは人権を侵害している、と怒って、従業員たちがストをしたりする。
そういうのが嫌いだったら、そういう仕事にはつかなければ良いと思うのだけれど...。それなのに仕事についてしまって、みんなで抗議行動ができるというのはスゴイと思う。
それで、「奴隷のように働かせる」という話しがでると、フランスの友人たちは、みんな、「そうだ、そうだ」と同感しています。
フランスは働く権利が守られている国だと、常々思います。いや、日本が、労働時間とか、労働条件とかにかけては先進国とは言えない状況にあると言うべきでしょうね。日本がこれだけ経済大国になれたのも、文句を言わずに働く人たちがたくさんいるからだ、と私は確信しています。
寒い玄関先で作業をしていた高齢の女性の姿が目に浮かんだのですが、ああいうのは奴隷のような労働条件の例としては相応しくないと思います。
日本での派遣社員の働かせ方とか、「お客様は神様」として働かされる店員とか、会社の中で屈辱的な立場になっているとかいうのに比べたら、ずっと精神衛生上は良い仕事ですから。
外部リンク:
☆ 美しい国 日本の景観 - 景観法 電線類地中化 蜘蛛の巣大賞 などを考える
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シリーズ記事目次【2013年1月: 長野旅行記】
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その5
前回の日記(日本アルプスを望む美しい村)に書いた役場前広場では、郷土資料館を案内してくださる方の到着を待っていました。
北アルプスの山々が屏風のように広がっているので、いつまで待たされても構わない。
こういう見晴らしの良いところだと、フランスでは中世に城が建てられた城が残っていることが多いです。攻めてくる敵があったときには、遠くにいるうちに見えてしまうので。
ここでも、反射的に、どこかに城の廃墟が残っているのではないかと思ってしまいました。
日本では古城を残していないだけで、やはり、ここにも城はあったようです。役場前広場からもう少し上がったところに、 小松尾城という城があったらしい。
◆ すごい名言?
役場前広場に立って風景に見とれていたら、地元の人に話しかけられました。
どこから来たのかと聞きます。フランスに住んでいるなどと言ったら混乱するので、ただ「東京から来ました」と答えました。
「こんな美しい景色を見て暮らしていらっしゃるのですか? いいですね...」、と言ってみる。
場所は違うのですけれど、北アルプスの風景を望む美しい映像があったので入れてみます。
こんな風景を毎日見ながら暮らしていたら、どんな気持ちだろうか、と思いますよね?
すると、この男性から返ってきた言葉に唖然としてしました。
こう答えられたのです。
「山が美しくたって、おかずにはならないからね」
年配の男性なので、日本人的謙遜かなと思いました。
でも、そうでもないみたい...。
「こんな景色を眺めて食事をしたら、どんなに不味いものを食べてもおいしいじゃないですか~!」、と私。
それでも相手は納得しない様子。
美しい山並みを毎日見ていると、どうということはないと思うようになるのでしょうか?
あるいは、よそから来た人たちから美しい景色だとばかり言われるのにうんざりしている? それで、厳しい気候の中で生活するのは大変なのだ、と反発したくなる?…
でも、その場にいたもう一人の男性は、山の風景は天気によって異なるので面白いのだと教えてくれました。
山は、天気が悪いと遠くに見えて、天気が良いと近くに見える。なるほど、その日は後者の例でした。
◆ 山の生活は厳しい...
泊めていただいた家に「姨捨」などという飛んでもない名前がついたお酒の瓶があるので驚いていたら、近くに姨捨山という名の山があるのだと教えられました。
でも、私が見た日本酒は「姨捨」と漢字で書いてありました。
怖くなるような名前の日本酒。
そういう厳しさがあった土地なのでしょうね...。
ところで、この姨捨伝説は、フランス人によく知られているので気になっていました。書きながら調べてみたら、やはり映画があったのですね。古い日本映画が好きなフランス人は多いので、そこから広まったのだと思う。
さらに調べてみたら、その姨捨山が楢山節考の舞台とは言えないような...。少なくとも、その土地の人にとっては、結び付けられるのは嬉しくないでしょうね。
でも、長生きしすぎる人に早く旅立ってもらわなければならないような貧しい土地といったら、山岳地帯を思い浮かべます。
「山はおかずにならない」なんておっしゃるから、そんなことを思ってしまったのですよ~!
あちらは、観光客は山が美しいなんてノンキなことを言っていると思われたのでしょうが、こちらにしてみたら、毎日美しい山に見惚れないで暮らしているなんて... と思ってしまいます。
山に憧れる人は多くて、憑かれたように住みついてしまう人たちもたくさんいるのに...。フランスのアルプスでは、ご主人を捨ててシャモニーに近い山の中の村に引っ越してしまって、元気に一人暮らしをしている高齢の女性にも会っていました!
◆ 生まれ故郷を捨てるバカ
そうこうしているうちに、郷土資料館を案内してくださる先生が到着しました。私が地元の人とどんな話しをしたか分からないはずなのに、自己紹介した後、こんなことをおっしゃいました。
「こんなところで生まれながら、都会に出てしまう馬鹿がいるのですよね」
バカと言う言葉に力を入れて、2度くり返しました。
「本当に!」と、私は笑顔を見せました。
ご自分に言っているのが分かったからです。この先生は都会に出て働いていて、定年になってから故郷に戻ってきた方だと聞いていましたから。
「でも、いつでも帰ってこれるのだから良いではないですか?」と付け加えました。私が帰ってこれるのは東京しかありません...。
景色じゃ飯は食えねえ、と言う人もあったわけですが、長野県の人たちは故郷に対する思い入れが強いのではないかという気もします。
美しい山々がある郷土。自然の厳しさに耐えている故郷だから、よけいに愛おしくなる?...
この長野旅行シリーズを書きながら、そう思うことに東京で出くわしました。
外部リンク:
☆ 小松尾城(長野市(旧大岡村)、大岡城と天宗寺館(長野市大岡)
☆ 千曲市: 姨捨山
☆ 「さらしなの里」に伝わる伝説
☆ La Ballade de Narayama (film, 1983)
☆ Wikipédia: La Ballade de Narayama (film, 1958)
ブログ内リンク:
★ 雲海? 霧の海? 2011/02/04
シリーズ記事目次【2013年1月: 長野旅行記】
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その3
戸隠の自然に詳しい方が、戸隠神社に連れていってくださいました。
朝から素晴らしい快晴の日♪
◆ パワースポット?
戸隠神社の奥社まで続く杉並木の参道は、吉永小百合が立ってパワースポットを浴びるという場面があってから爆発的に有名になったのだそう。この画面のことだろうと思います。
「パワースポット」という言葉を聞いたことがあったかどうかは分からないのですが、何となくその意味は想像できました。
Wikipediaの記述を信じれば、パワースポットという言葉が使われるようになったのは、1990年代初めだそうです。
power spotなんて和製英語。それでも、なんとなく意味が分かるということは、日本人は自然にそういうものがある、と感じているからでしょうね。
パワースポットをそのままフランス語にしても、フランス人には何のことだかわからないはず。そこに立つと、神秘な力がエネルギーと幸運と癒しを与えられる場所、などと説明する以外に方法はないでしょうね。
それでも、意味が通じるだろうか? でも、何か「パワースポット」というのに対応するフランス語があるような気もする...。
そう思うのは、下の日記に書いた出来事があったから:
★ フランス人って...: ドルメンの上で演じられた寸劇 2009/09/17
ともかく、「体に良い食べ物」などと言われると、とたんに不味そうに感じてしまう、へそ曲がりな私。何かの宣伝にのるのが嫌いなのです。戸隠の参道も、パワースポットだと聞いていなかったら、もっと神秘的な気持ちで歩けたと思う...。
◆ 奥社までの長い道のり
戸隠のパワースポット・ブームは少し下火になったそう。しかも雪が積もっている冬なので、参道はそれほど人がいないのが嬉しかったです。
かろうじて歩けるくらいの踏み鳴らした道ができているだけなので、人とすれ違うときには道を譲らなければなりません。ゾロゾロと人が歩いていたら、ちっとも前に進めなかったでしょうね。
木々の説明などをしてもらいながら歩きました。
ひたすら、歩く。かなり長い道のりです。
車で行けるところまで行って降りてから、奥社まで2キロというところでしょうか。雪道は足元がおぼつかないし、滑るのでかなりゆっくり歩きました。
ようやく、奥社に到着!
奥社は地形的にも雪なだれがおきやすい場所にあるそうで、近年に何度も流されているのだそうです。それでコンクリート製になっていました。
なんとも味気ない奥社...。
長々と歩いてきたのに...。
流されていてはどうしようもないからコンクリート製にしたとしても、もう少し風情があるように見えるつくりにできなかったのだろうか? 建物の表面に木を張るとか、立派な入口になる木の扉をつくるとか...。
お賽銭を入れるためにドアが少し開いていますが、まるでアルミサッシの玄関みたい...。
調べてみたら、コンクリートになったのは1979年の再建のときだったそうです。
オイルショックの時期だったから、こんなになった? ここまで車が入れないから、たいそうな建物を建てることができなかった? 建てた人たちは、これが味気ないとは感じなかった?
なんとも不思議です。
◆ 防寒靴って、そんなに効果があるの?
この日、パワースポットの威力よりも驚いたものがありました。
雪道を1時間以上歩くからと、友達が貸してくれたソレルのスノーブーツ。
左が私のブーツ。右は、それを貸してくれた友達のブーツ。
結局、往復2時間くらい歩いたと思います。このブーツを履いていたら、足はポカポカでした。
足が濡れないというだけではなくて、あたたかいのです。すごい防寒ブーツなのですね。
雪道を歩くという機会はめったにないので、買うとは思わないけれど、これだったのだろうというものを記憶しておくために探してみました。
私は足がちっとも寒くないので意識していなかったのですが、ブーツを貸してくれた友達の方はものすごく足が冷たくなってしまったようです。帰り道で急な坂がなくなったとき、彼女は「もう限界!」と言って走り出しました。
ごめん! せっかく、こんな時のためにソレルのブーツを買っていたのに~!
このブーツの欠点は、少し重いこと。それから、やはり雪の上を歩いていると滑ることでした。
普通、山を下りるときは早く歩けるのに、滑りそうなので大変だったのでした。
あのゴム製のカンジキは、どこに行ってしまったのだろう? トルコ旅行のときに思い出したので探してみたのですが、見つかりませんでした。
★ トルコは暖かいと思って行ったのだけれど、寒かった! 2012/03/09
でも、多少滑るのなんてどうということはないので、足が冷たくならない防寒ブーツがあったのは助かりました。
◆ 美しい神社を見て満足
奥社は余りにも味気ない建物だったのですが、降りてきてから立ち寄った中社は神社らしい建物でした。
これの小さいのが奥社にあったら良かったのに...。
この後は、おいしい戸隠蕎麦を食べて、それから温泉にも行って... と、素晴らしく充実した1日のプログラムでした♪
今回は雪が深くて足をのばせなかった鏡池の動画もありました:
緑の季節も、また趣があるでしょうね...。
また行きたいな...。
外部リンク:
☆ オフィシャルサイト: 戸隠神社
☆ 戸隠神社の地図
☆ 戸隠神社7 〜奥社、九頭龍社 雪崩で倒壊 コンクリ製に
☆ パワースポット戸隠神社
☆ Wikipédia: Togakushi-jinja
☆ JR東日本:大人の休日倶楽部|CM情報:長野県「戸隠篇」
☆ 吉永小百合がゆく戸隠古道「JR東日本 旅どきnet」CM動画





