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2019/07/14
前回に書いた「ルイ16世夫妻の命取りとなったのは、本当に豚足料理だったのか?」で、実際には食べていないはずの豚足料理をルイ16世が食べたことにされたのも、豚の料理を持ち出して国王が愚かだということにしたのでしょう。

ルイ16世にまつわる料理に「Tête de Veau(テット・ド・ヴォー)」というのもあります。


Tête de Veau子牛の頭どいう料理

この料理名は、「子牛の頭」というグロテスクなもの。子牛の頭を使った料理です。

Wikipediaによれば、ヨーロッパ(特にフランス、ベルギー、ドイツ、スイス、イタリア)でクリスマスに食べる料理となっていました。ということは、臓物なのに、ご馳走として食べる料理だということ?

私は2度か3度しか食べたことが無いように思います。


ゲテモノ食い?!: テット・ド・ヴォー 2007/05/16


1月21日に子牛の頭の料理食べる人たちがいる

1792年9月21日に第一共和制が成立してから4カ月後、ルイ16世は処刑されました。1月21日は、1793年にギロチンで死刑にされたルイ16世が処刑された日です。その日には、鎮魂ミサを行う教会がある一方で、子牛の頭を食べる習慣がある人もいます。

ルイ16世の切り落とされた頭を思い描きながら子牛の頭を食べて喜ぶなんて、頭が狂っているのではないかと思ってしまう...。 

L'exécution de Louis XVI d'après une gravure allemande.


フランス革命という資本主義革命

そもそも、フランス革命事態が残虐すぎたと思います。

経済力をつけてきたブルジョワが、貴族を死刑にして抹殺し、彼らに取って代わろうとしたのは自然なこと。でも、各地の教会や修道院を破壊したり、聖職者を修道院から追い出したのは理解に苦しみます。18世紀末の人々は現代よりも遥かに信仰心が強かったはずですから、「そんなことをしたら罰が当たる」みたいには思わなかったのだろうか?

しかも、革命が進む中で、革命家仲間をも死刑にしたりしているのですよね。

考えると、フランス人って、何をするか分からない怖い人たちだと思ってしまう...。


革命前のフランス(アンシャン・レジーム)では、3つの身分がありました。国民の8割を占めるのが平民(第3身分)。その上に聖職者(第1身分)と貴族(第2身分)が特権階級として存在しています。

聖職者の勤めは祈ること。貴族の勤めは戦争で働くこと。平民は農業や商業に携わって収入を得ることができますが、その代わりに税金を納める義務がある。

↓ アンシャンレジームを風刺した画。第三身分者が聖職者と貴族を背負っています。


« caricature des trois ordres : un paysan, un noble et un membre du clergé », caricature anonyme, 1789

フランス革命という資本主義革命を起こした人たちは、社会はこういう風になっていると平民を煽ったわけですね。

7月14日日は革命記念日として、各地で花火大会やダンスパーティーなどがある祭りが開催されますが、フランスにとって革命で失われたものは大きかったと思います。

特に宗教建築物の破壊が行われたことは、観光国フランスにとって痛手でした。そんな革命はなかったイタリアに行くと、芸術や建築物の宝庫であることを痛感します。

ブルゴーニュにあるクリュニー修道院(Abbaye de Cluny)は、ローマにサン・ピエトロ大聖堂が設立されるまではヨーロッパで最大の宗教建築物だったのですが、フランス革命で破壊されて石材供給源になってしまったため、聖堂南側の翼廊の一部だけが当時の姿を残しているだけという哀れな姿になっています。


ルイ16世に付けられたあだ名は「ブタ」だった

マリー・アントワネットを国民の敵にするのは容易だっただろうと思います。派手だし、外国から嫁いで来た女性ですから。

温厚なルイ16世を中傷するのは大変だったかも知れない。

フランス革命が勃発してから3年間、ルイ16世は王権を失っていませんでしたが、「Roi Cochon(ブタ王)」というあだ名を付けられてしまいました。小太りだったから? いずれにしても、日本と同様にフランスでも「豚」は悪いことに対する意味で使われます。

豚を意味する単語には porc もありますが、cochonは特に食肉用に去勢した雄豚を意味します。cochonという方が侮辱度が強いでしょうね。

ルイ16世夫妻の命取りとなったのは、本当に豚足料理だったのか?」で触れた1791年の国外脱出に失敗してパリに連れ戻されたことについては、風刺画が多く出されたようです。


Ah ! le maudit animal ! Il m’a tant péné [sic] pour s’engraisser. Il est si gros et gras qu’il en est ladre. Je reviens du marché, je ne sais plus qu’en faire 




ルイ16世の処刑を祝って、なぜ豚ではなく子牛の頭を食べるのかが気になったので調べてみました。


なぜ、子牛の頭(Tête de Veau)なのか?

初めのうちは、豚の頭を食べていたのでした。

風刺文の書き手が、ルイ16世の処刑の翌年(1794年1月21日)に絶対王政の終焉を祝う共和主義者の饗宴を開くことを提案したのが始まりだと言われます。そのことが書かれた小冊子は「La Tête et l’Oreille(頭と耳)」と題されていて、メインディッシュとして豚の耳と頭を提案していたそうです。

その風習は19世紀半まで毎年行われて、出される料理は「tête de cochon farci(詰め物をした豚の頭)」だったそうです。ところが、第二共和政が始まった1848年頃から、1月21日に開かれる饗宴では、豚の頭ではなくて、子牛の頭を食べるようになったtのこと。

ギュスターヴ・フローベールの長編小説『感情教育(1869年)』では、イギリスの風習がルーツだと記述されています。

1948年の革命(二月革命)に参加した登場人物に、イギリスではイングランド王のチャールズ1世が処刑された日を祝ってRoundheads(円頂党)が1月30日に行っていたセレモニーのパロディー化したと語らせています。

イギリス版は子牛の頭蓋骨をワイングラス代わりにするというもので、饗宴では並々と赤ワインがつがれ、乾杯を繰り返していたのだそう。イギリス人も残酷ですね~。


何が良くて、何が悪いかの判断は下せない

クリュニーIII

結局のところ、革命を起こしたって権力者が入れ替わるだけだと思う。中国は共産主義と言うけれど、貧富の差は大きいのですから、キリスト教的なユートピアを築こうとカール・マルクが考えた共産主義とは無関係だと言いたい。


日本は残酷な革命などはせずに大政奉還(1867年)を行ったのは誇らしいことだと思う。

ルイ16世は、どことなく徳川幕府最後の将軍となった徳川慶喜に似ているような気がします。

静岡で余生を送ることになった慶喜は、政治的野心は全く持たず、潤沢な隠居手当を元手に、写真・狩猟・投網・囲碁・謡曲などの趣味に没頭する生活を送ったと言われます。

ルイ16世も、錠前づくりや狩猟が趣味でした。隠居生活をするように配慮してもらえたら、穏やかに暮らしたのではないかな。むしろ、王様をやっているより幸せな人生だったかも知れない。もともと彼は国王になる順番は3番目だったのに、上の二人が亡くなってしまったので国王にされてしまった人ですから。

フランス革命期に関した書籍で、気に入ったのは翻訳で読んだ次の著作でした:


シュテファン ツヴァイク 『マリー・アントワネット』

ルネ セディヨ
『フランス革命の代償』

フランスの友人にシュテファン・ツヴァイクが書いたマリー・アントワネットの心理描写が感動的だと話したら、この作家の著作『チェスの話』も見事な作品だと言われました。いつか読みたいと思いました。

フランス革命の代償』の方は、フランス革命200年を祝った年に出版された本でした。フランス人たちはフランス革命によって近代国家がつくられたと自負しているようなので、これによってフランスは斜陽の国になったとする主張なので挑発的な作品だろうと思いました。


続き:
ナポレオン1世のイメージに対する、日本とフランスの違い



ブログ内リンク:
ゲテモノ食い?!: テット・ド・ヴォー 2007/05/16
★ 目次: 内臓肉を使った料理
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
クイズ: この枯れた花には何の意味があるのでしょう? 2007/02/22
ルイ16世夫妻の命取りとなったのは、本当に豚足料理だったのか? 2019/07/09
ジャガイモの花 2008/08/05
★ 目次: 戦争、革命、テロ、デモ ⇒ フランス革命
★ 目次: 宗教建築物に関する記事 ⇒ 破壊された宗教建築物
ブルボン朝最後の国王シャルル10世の墓はスロヴェニアにあった 2012/01/13

外部リンク:
☆ Wikipedia: Révolution française » フランス革命
☆ Wikipedia: ルイ16世 (フランス王) » Louis XVI
☆ Wikipédia: Exécution de Louis XVI
Il y a 220 ans, la France guillotinait Louis XVI...
【今日の歴史】1793年1月21日の事【国王として、人として】
フランス革命と産業: フランス革命と産業: 18世紀から19世紀
フランス革命 その14 ルイ16世の人となり
Du "Roi-père" au "Roi-cochon"
☆ Cairn.info: ‪Ah le maudit animal !
Le porc dans la caricature politique (1870-1914); une polysémie contradictoire ?
Pourquoi mange-t-on de la tête de veau pour l’anniversaire de la mort de Louis XVI, le 21 janvier ?
La tête de veau du 21 janvier, une tradition républicaine 
Gastronomie dominicale La tête de veau en l'honneur de Louis
21 janvier c'est tête de veau . Au fait, pourquoi
☆ Greta Garbure: Manger de la tête de veau le 21 janvier : tradition barbare ou patriotique ?
テット・ドゥ・ヴォー(子牛の頭)
武将ジャパン: ルイ16世って素敵な人じゃん!無実の罪で処刑されてなお平和を願った王だった | 人類史で2番目に多くの首を斬り落としたアンリ・サンソン 処刑人の苦悩
ルネ・セディヨ 『フランス革命の代償』
徳川幕府最後の将軍が、意外と余生をエンジョイしていた【教科書に載ってない】


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カテゴリー: 食材: 肉類 | Comment (5) | Top
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2019/07/09
もうすぐ7月14日。日本では映画の題名とされたのが理由で「パリ祭」などと呼ばれてイベントがあったりもしますが、フランスでは単に7月14日を意味する「14 Juillet」と呼ばれる国家の日です。

フランス革命は、当時は火薬庫だったバスティーユ襲撃で勃発したとされています。それが1789年7月14日だったので、7月14日を記念する祭日となっています。



パリでは盛大なイベントがも催されますが、田舎でも村役場が祭りを行います。私の村でも、有志たちが13日と14日に、花火大会、食事&ダンスパーティー、コンクールなど、色々なイベントを計画しています。私もイベントお知らせポスター作りを手伝いました。

それで思い出した。

ここのところ内臓肉について書いていたのですが、フランス国王ルイ16世の名を持ち出す臓物を使った料理が2つあるのです。
 Louis XVI
豚足料理と、子牛の頭の料理。後者の方はブログで軽く書いていたのですが、豚足料理について書いていなかった。ここで書いておきたいと思います。


ルイ16世Louis XVI 1754~93年)は、在位中にフランス革命が勃発し、断頭台の露と消えたブルボン家の国王。妻は、オーストリアのハプスブルク家から迎えたマリー・アントワネット。

ルイ16世は、お人好し過ぎる国王だったと感じます。王家は護衛の軍隊を持っているのですから、ルイ14世だったら、鍬などを持った農民たちがヴェルサイユ宮殿に押し寄せた時などには簡単に弾圧してしまったと思う。


ルイ16世の命取りとなったと言われる豚足料理

シャンパーニュ地方マルヌ県にあるサント=ムヌー町(Sainte-Menehould)は、豚足(pied de porc あるいは pieds de cochon)の料理が名物ということで知られています。

それで近くを通ったときに町に立ち寄ってみました。もう8年も前のことなので、見学した教会についてなどはうろ覚えですが、豚足料理のことだけははっきり覚えています。

もう二度と行くことはない町だと思うので、ここのところ臓物料理について書いてきた続きとして、ブログに書き留めておきたいと思いました。


サント=ムヌー町に入ったら、豚足が名物であることが目立ちました。

「ここで本物のサント=ムヌー風豚足料理を売っています」という宣伝 ↓



ツーリスト・オフィスにも豚足の同業者組合の衣裳が飾られていました ↓



下は愉快な宣伝。

「サント=ムヌーに来たら、足に気を付けてね」ですって! 切られて料理にされちゃうよ、というところでしょう。




フランス革命が勃発して、ルイ16世は家族とともにパリのテュイルリー宮殿にほぼ幽閉状態におかれていましたが、王妃マリー・アントワネットの実家があるオーストリアへの亡命が計画されました。

その逃避行の中で、ルイ16世はサント=ムヌーに立ち寄って名物の豚足料理を食べたために時間がかかってしまい、それから馬車を進めたけれど、少し先のヴァレンヌで捕まってしまった、というのが語られているお話しです。

名物料理ということなので、私も肉屋で保存ができる瓶詰の豚足を買い、店で何処のレストランが一番美味しいか教えてもらって昼食で食べました。

町の人たちにルイ16世の話しをすると、それは伝説と言う感じで、ほとんど話しに乗ってこなかったのを記憶しています。自慢していたのは、ここの豚足料理は格別に美味しいということ。


◆ サント・ムヌー風豚足料理とは?

レストランで出された豚足料理です ↓



庶民料理ですが、サント・ムヌー風は普通の豚足料理とはどこか違って美味しいので、とても気に入りました。

パン粉をまぶした豚足は、焼けば良い状態に下ごしらえして普通の肉屋で売っているのですが、サント・ムヌー風の特徴は長時間煮るので骨が食べられるくらい柔らかいのが特徴です。

食べかけた時の写真 ↓



骨がたくさんあります。少し食べてみましたが、本当に少しコリコリという感じで食べられてしまうのでした。たくさん骨があるし、やはり味があって美味しいというものではないので、骨は少しだけ食べてみた程度です。

ここの名物料理の豚足は、調理見習いの人が煮込む鍋の火を消すのを忘れてしまったことから生まれたと言われています。

この料理は、1730年頃にアルゴンヌ地方(森と池が広がる地域で、ルイ16世が逮捕された舞台)にあったAuberge du Soleil d'orという名のレストランの女主人が考え出したレシピだという言い伝えがありますが、全く確かではありません。15世紀には既に存在していて、フランス国王シャルル7世が町を訪れた時に供されたとも言われます。

ともかく、ルイ16世の時代には存在していたわけですから、王様も噂を聞いていて、いつか食べたいと思っていたかもしれない。


◆ サント・ムヌー風豚足料理の作り方

サント・ムヌーにあるレストラン「Le Cheval Rouge」が名物料理の作り方を見せています。私が昼食をとったのも、このレストランだったはずです。


Sainte-Ménehould, Petite Cité de Caractère - le pied de cochon


もう1つ、町の紹介もしている動画も入れます。私が買い物をした肉屋さんも登場しています。


Ici et pas ailleurs à Sainte-Ménéhould

同じレストランのルポルタージュなのですが、2番目の動画は私が行ったのとほぼ同じ時期に録画されたようです。1番目に入れた動画ではもっと最近で、数年後の録画のようです。シェフも代わっているし、少し現代化した作り方をしているように見えました。

サント・ムヌー風豚足料理は、36時間も煮るから骨まで食べられるほど柔らかいのだ、と町に行ったときに聞いていました。2番目の動画では鍋に入れてから36時間と言っています。でも、1番目の動画では、圧力鍋を使って調理時間を短くしていますね。

でも、両方とも、豚足は肉づきの良い前脚しか使わないと強調していますね。


ネット上にあったレシピ:
材料(4~6人分):
  • 豚足 6本
  • 白ワイン 4 dl
  • ニンジン 4本
  • 玉ねぎ 2個
  • ブーケ・ガルニ(ニンニク、パセリ、タイプ、ゲッケイジュなど)
  • クローブ 2個
  • 卵黄 2個
  • パン粉 150グラム
  • バター
  • 塩、胡椒
 
つくり方
  1. 豚足の皮をこすり取り、熱湯で洗い、爪を取り除いてから、冷水に漬けて冷やす。
  2. 豚足を2本ずつ ruban de fil(注)で固定し、塩を振ってから12時間なじませる。
  3. 水2リットル、白ワイン、野菜、ブーケ・ガルニ、クローブ、塩、胡椒入れた鍋に豚足を入れる。45分ほど煮たててから、沸騰しない程度のごく弱い火で5時間煮る。
  4. だし汁をこし、煮汁の中に豚足を入れて冷ます。
  5. 豚足を縦方向で2つに切り、といた卵黄に絡ませてからパン粉をつける。
  6. ごく弱火で、溶かしバターをかけながら豚足を焼く。



フランス語のレシピに出て来る「ruban de fil(直訳すれば、紐のリボン)が何のことか分かりませんでした。ruban à tabliers(エプロンのリボン?)と呼ばれるものだとか、かつら製造業者が後ろに束ねる髪と同じという説明がありました。

一番目の動画で使っていたネットのこと? 日本では、デリネット、ミートネット、スコットネットなどと呼ばれるものがそれなのではないかと推定したのですが、18世紀に既に存在したかは疑わしい。

「デリネット ミートネット スコットネット」をキーワードにして楽天市場で検索




作り方を見せる動画を2つ入れたのですが、同じレストランです。2番目に入れた動画の方が古いので、こちらのやり方が伝統的な方法なのだろうと思いました。つまり、リボン状のテープというか、包帯のような布で肉を巻いてしばっています。こちらのブログに入っている写真も、同じですね。


ルイ16世は、本当に サント・ムヌーで豚足料理を食べたのか?

サント・ムヌーの旅籠で休憩をとったルイ16世たちは、そこで豚足料理をのんびり食べていたから予定が遅れ、フランス脱出の目的地を目の前にしながら少し先のヴァレンヌ(Varennes-en-Argonne)で捕らえられてしまったと言われます。

用意周到に脱出の準備をして、膨大な資金援助も得ての逃避行でした。夜中に国王一家は出発できましたが、朝が明ければ国王がいないことが分かって兵隊に追いかけられるのは目に見えています。そんなフランス脱出旅行の途中で、サント・ムヌーで呑気に食事をしている時間があったのだろうか? 気になったので、行程を追ってみました。

最も難しかったであろう幽閉先となっていたパリのテュイルリー宮殿を無事に脱出に成功してから、フランスの国境を超えるのが目前だったヴァレンヌで逮捕されるまでの旅行は23時間。


パリから逮捕されたまでの地図

Fluchtroute Varennes.jpg



今の時代なら車を走らせて2時半半で行ってしまうのですが、荷物を積んだ馬車はノロノロ走ったらしいし、途中で馬を替える時間のロスもある。Googleマップで自転車での時間を出させたら、13時間の行程でした。

自転車と比べてロス時間は10時間? 馬車って、そんなに遅いのですか?

調べてみたら、駅馬車は平均時速 6~11 Kmで、1日に112~192 kmほどを走っていたのだそう。自転車のスピードは平均時速18~30Km。馬車の方がずっと遅いのですね。

ルイ16世の馬車は全く休まなかったとしても、全行程を時速10キロで馬車が走ったこととなります。馬を替えるのは必須でしょうから、呑気に食事なんかをしている時間はなかったではないですか?


たった1日だった逃避旅行を時間で追ってみます。

1791年6月21日

午前零時10分
ルイ16世は家族とともに逃亡計画を実行すべく、テュイルリー宮殿を脱出。


午前2時30分
始めの中継地ボンディ(Bondy)で、脱走を手伝ってきたハンス・アクセル・フォン・フェルセン(マリー・アントワネットの愛人だったともいわれるスウェーデン人の貴族)はルイ16世たちと別れます。


午後7時55分
シャンパーニュ地方マルヌ県にあるサント=ムヌー町(Sainte-Menehould)にあるrelais de poste(馬を替える宿駅)に到着。

宿駅の主だったジャン=バプティスト・ドルーエ(Jean-Baptiste Drouet )は王様だと分かったのに、何も行動はしませんでした。


午後8時10分
ルイ16世1行の2台の馬車は、宿駅を出てClermont-en-Argonneの方向に向かいます。


サント=ムヌー町では国王が逃げているという噂が広がり、市当局の要請により、ドルーエは国王一家を逮捕するための追跡することになります。宿駅の主人だったから選ばれたというわけではなく、彼は乗馬の達人で、7年の軍隊経験もあり、周辺の地理に精通していたからでした。

熱狂した村人たちはドルーエと一緒に出掛けたがりましたが、馬が1頭しか残っていない。そこで、手綱さばきが見事なLa Hureと呼ぶ男と共に、王に遅れること1時間で出発します。


午後10時55分
道を知っているドルーエたちは王の一行より1時間遅れて出発していましたが、森の中を突っ切って東部国境に近いヴァレンヌ(Varennes-en-Argonne)に到着し、村の入り口である高台で王が乗っている馬車を発見。町が国王逮捕に協力する体制を整えます。

ヴァレンヌの教会は警鐘を鳴らして兵を結集させ、深夜に国王一家の身柄は拘束されます。

   
Tour de l'Horloge (Varennes-en-Argonne)


L’arrestation du roi et de sa famille à Varennes. Toile de Thomas Falcon Marshall (1854)

翌朝、拉致されたルイ16世の家族はパリに送り返され、6月25日の夕方にパリに到着します。 1792年に王権が停止され、翌年1月にルイ16世は処刑されました。マリー・アントワネットが処刑されたのは1793年10月。


彼らには途中でのんびりするなどはできず、必死で馬車を走らせていたのだろうと私は想像します。

馬車に揺られて乗っているのは、かなりきついのだと聞いたこともあります。恐らくヘトヘトでヴァレンヌに到着して、宿で休みたいと思ったときに逮捕されてしまったわけですね。その夜には、ごく簡単な食事を出してもらったようですが。

ともかく、ルイ16世の家族がサント=ムヌーにいたのは僅か15分。たとえ馬を替えるために立ち寄った宿駅が旅籠のようにレストランもやっていたとしても、豚足料理を賞味している時間などはなかったですよ~! 町にあるレストランで食事したとしたら、宿駅の主人ドルーエはヴァレンヌまで行くまでもなく国王一家に追いついていたでしょう。


革命期のフェイク・ニュース

『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』や『三銃士』で知られる作家アレクサンドル デュマ(Alexandre Dumas)は、美食家でした。

彼の『大料理辞典(1870年執筆)』の中には「Pieds de cochon à la Sainte-Menehould(サント=ムヌー風豚足)」の項目があり、レシピを紹介する前書きとして、この町でルイ16世が豚足料理を食べたために逃亡が遅れたというのはデマだと書いていました。

フランス語版日本語版
Grand Dictionnaire de cuisine
デュマの大料理事典 特装版


1791年にルイ16世が逮捕されたとき、逮捕の原因に関して10ほどのパンフレット(新聞の一種?)が発刊されたのだそう。

Rouillard - Camille Desmoulins.jpgそのうちの1つを書いた革命派ジャーナリストのカミーユ・デムーラン(Camille Desmoulins 1760~94年)は、ルイ16世はサント=ムヌーで豚足料理を食べたい欲求に勝てなかったとほのめかしていました。これは嘘で、大変な誹謗だった、とデュマは書ています。

デムーランはバスティーユ襲撃の際にパレ・ロワイヤルで群衆を扇動したことで知られていますが 、革命勢力の分裂によって1794年に断頭台で死刑にされています。


デムーランの記事と関係があるのかは分かりませんが、ルイ16世がサント・ムヌーで豚足を食べている姿を描いた版画(1791年 パリ発行)がありました ↓


Roi mangeant des pieds à la Sainte Menehould le maitre du poste confronte un assignatet reconnait le roi

いくらルイ16世がサント・ムヌー名物だった豚足料理を食べたかったとしても、一緒に逃亡している妻と2人の子どもを馬車の中で待たせておいて、王様一人がご満悦の顔で食事をしているというのは不自然な図ではないですか?

ルイ16世とは、こんなはしたない人間だ、という革命期に出回ったプロパガンダ以外にあり得ないでしょう。


今の時代だってデマを流すのは簡単なのですから、フランス革命当時は幾らでもデマを流せたはず。そして、単細胞の国民は疑問も持たずに信じさせていまう。

ルイ16世が、バスティーユ襲撃があった1789年7月14日の日記に「Rien(何もなし)」と書いたのは政治に対する無頓着さを現していると言われますが、これは彼の狩猟日記の記述であって、この日には何も獲物がなかったというだけのことでした。

マリー・アントワネットも濡れ衣を着せられましたね。貧乏人がパンを食べられないならブリオッシュを食べれば良い、と言ったとか。

貴族たちは庶民生活からかけ離れていると思われていたわけですから、いかにもありそうに思えてしまうお話し...。

日本情報では、『ベルサイユのばら』がある影響もあってか(私は読んだことがない)、マリー・アントワネットやルイ16世には格別に関心があるらしく、お話しはフランスには無いほどに膨らんでいました。


サント・ムヌーとルイ16世の関係は深かった

ルイ16世がサント・ムヌー町で豚足を食べなかったとしても、この町は国王逮捕劇のクライマックスだったことを、逃亡の1日のスケジュールを追ってみて発見しました。

Jean Baptiste Drouetサント・ムヌーの宿駅の主人だったジャン=バプティスト・ドルーエ(Jean-Baptiste Drouet 1763~1824年)の存在です。

サント=ムヌー町に行ったとき、この宿駅を見学したかったのですが、現在は警察署になっていて中に入ることはできませんでした。この建物がある通りの名前は、ドルーエ通りとなっています。

Ancien relais de poste (gendarmerie actuelle) à Sainte-Ménehould


当時、馬を替えるための宿宿3,000くらいあったそうですが、そのうちの1つの主人だったドルーエは、どうということもない生活をしていた人。ところが、ヴァレンヌでの国王を逮捕したということで有名人になりました。国王をパリに連れ戻したときには英雄として、市民から熱狂に迎え入れられたのだそう。

ドルーエがルイ16世を最後に見たのは、1793年1月17日。彼が議会でルイ16世の死刑に賛成投票をした時でした。

一夜で英雄になったとこを彼は利用しました。国王逮捕の翌年には、彼は地方議員になっています。1807年にはレジオンドヌール勲章が与えられた時、ナポレオンは「ムッシュー・ドルーエ、あなたは世界の様相を変えた」と祝福したのだそう。

それでも政局は変わる!

ナポレオンの死後に復古王政になると、彼の立場は逆転。牢獄に入れられたりされます。

フランスから亡命するのは望まなかったドルーエは、偽名を使ってマコン(ブルゴーニュ地方 ソーヌ・エ・ロワール県の県庁所在地)に伴侶と共に身を潜め、蒸留酒製造と機械工を職業として暮らしました。こういう人がブルゴーニュと関係して欲しくなかったけれど...。

ルイ16世にまつわる臓物料理には、もう1つあるので続きを書きました:
1月21日に子牛の頭を食べる人たち



ブログ内リンク:
★ 目次: 内臓肉を使った料理
★ 目次: ハム・ソーセージ類、豚について
★ 目次: フランスで食べる郷土料理、地方特産食品、外国料理
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
★ シリーズ記事: フランスの食事の歴史 2017/04/02
★ 目次: 戦争、革命、テロ、デモ

外部リンク:
Wikipêdia: Pied de porc à la Sainte-Menehould
Cuisine rebelle !: Pieds de porc à la Sainte-Menehould
Sainte-Menehould entra dans ma mémoire grâce à Louis XVI et son goût pour les pieds de cochon.
Sainte-Menehould, Louis XVI et le pied de cochon fatal
Gastronomie: Le coup de coeur - Le pied!
Les différentes queues
Le Parisien: Révolution française; l’échec au roi du citoyen Jean-Baptiste Drouet
Wikipedia: ヴァレンヌ事件 » Fuite de Varennes
Le Forum de Marie-Antoinette: Varennes  Jean-Baptiste Drouet a-t-il reconnu Louis XVI grâce au profil du roi gravé sur une pièce de monnaie
Mâcon ; La rue où a vécu Drouet, l’homme qui a arrêté Louis XVI
Tombes sépultures dans les cimetières et autres lieux: DROUET Jean-Baptiste
王様が好きなトン足料理
Wikipedia: ルイ16世 (フランス王) » Louis XVI
朝日新聞: バレンヌ事件: マリー・アントワネットとフェルゼン
Révolution française : l’échec au roi du citoyen Jean-Baptiste Drouet
「パンがなければお菓子を…」とは言っていない王妃の真実


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2019/07/05
tripes(トリップ)」とフランスで呼ばれる内臓肉について書いたのですが(反芻動物の胃袋: トリップ、トライプ、トリッパ )、私の疑問は残っています。

Tripe à la mode de Caen

疑問1:
abats(内臓肉、臓物)だけを扱う肉屋をtriperie(トリプリー)と呼び、そこで働く人はtripier(トリピエ)と呼ぶのだが、内臓肉の中で、反芻動物の胃腸(tripes)が最も珍重されるからではないだろうか?

疑問2:
鶏のレバーや砂肝、高級食材のフォアグラはabats(アバ)とは呼ばないような気がするのだが、どうなのだろう?


いつものことながら、何か分からないことがあって調べると、次々と疑問が湧き出てきて収拾がつかなくなります。でも、今回も色々と学んだのでメモしておきます。


フランス語の「tripe(トリップ)」には2つの意味がある

仏和辞典でひいても、簡単に出てくるウェブ情報を見ても、tripeは反芻動物の胃腸を意味するか、それを使った料理だとしか出てきません。

ところが、仏仏辞典の記述では少し違うのでした。

フランス語の「tripes(トリップ)」は、料理の名称とその材料としては胃腸の部分を指すけれど、食材として使われる用語としては意味がもっと広くて、boyau(腸)、entrailles(内臓,腹わた,臓物)に対する呼び名でもあるとされています。

友人に聞いたら、辞書に書いてあったことと同じ返事をしました。この人は料理の専門家ではないのですが、フランス語に拘りがある人なので知っていたのかもしれない。もしかしたら、トリップには2つの意味があることはフランス人にとって常識?

tripesが内臓肉全体を指すのなら、内臓肉専門の肉屋をtriperie(トリプリー)と呼ぶのは自然です。

でも...。

triperieという単語が文献に初めて登場したのは14世紀始め。tripesとabatsを扱う店と定義されています。tripierはtripesとabatsの販売業者とされています。

家畜の胃の部位であるトリップは、今でこそ庶民的な料理ですが、中世では珍重された部位だったそうです。当時は肉は焼かずに、煮込むのが主体だったこともあった。煮汁が出るのでプロテインを吸収できるので好まれた。


トリップ料理を作っている中世の絵
(Planche 17 du Tacuinum Sanitatis、14世紀の『Tacuinum sanitatis(
健康全書)』)

中世の騎士たちにとって、反芻動物の胃であるトリップはご馳走だったそうで、イングランドを征服したノルマンディー公(ウィリアム1世 )も林檎ジュースと共に食していたとのこと。

この時代、ヨーロッパ中でトリップの消費量は多かったために、取引は厳しくコントロールされていたとのこと。パリの税帳簿にある記録によると、トリップを売ることを許可されていたのは tripier(トリピエ)の同業組合(corporation。ギルドのようなもの)だけで、彼らは夜にトリップを煮て、彼らの妻たちが昼間に売ったとのこと。18世紀末、フランス革命の後に同業組合が解体されて近代的な職業組織になった(Décret d'Allarde)。

とすると、今ではご馳走とは言えないtripes(トリップ)だけれど、中世には代表的な臓物だったから、内臓肉専門の肉屋をtriperie(トリプリー)と呼んだのかもしれない。

こちらの方が本当そうな気がしますが、分からない...。フランス人に聞いたら、なぜ「triperie(トリプリー)」と呼ぶのか気にするなんて無意味だと言われてしまいました。


内臓肉だけを扱う肉屋

19世紀末になると、ヨーロッパではトリップの消費は減少したそうです。それでも、フランスは肉食の国なので、販売されている食肉にしても、それを使った料理にしても、日本よりは豊富だと感じます。

ただし、内臓肉を美味しく食べるためには手間がかかる。高度成長期以降のフランス人は時間をかけて家庭料理を作らなくなったので、肉屋さんが内臓肉を色々と作って売っているのですが、安い部位だと手間をかけても高くは売れないので身を引くようです。

というわけで、内臓肉だけを扱う肉屋の数は激減しました。消滅の危機にあると言う人もいます。私自身、ブルゴーニュ地方の中では朝市に入っている1軒だけしか存在を知りません。

さすが人口が多いパリでは、内臓肉専門の肉屋トリプリーは健在らしく、どんな臓物が売られているかを見せる動画があったので入れておきます。


Les amoureux des produits tripiers - Météo à la carte

改めて売られている臓物を見ると、こんなものをどうやって食べるのかと驚きます。でも、閉鎖されてしまった築地の魚河岸に行った時も、見たこともない海産物を見て、同じ思いをした私でした...。


Abatは、臓物、内臓肉とは訳せない

臓物ないし内臓肉は、フランス語ではAbat(アバ)と訳せば良いと思っていたのですが、そうではないことに気が付きました。

上に入れた動画の臓物屋に並んでいる商品も、フランスのネットショップで売っているabatsも、Wikipediaに入っているAbatの項目を見ても、鶏肉のレバーや砂肝はないのです。

フランスには肉を扱う店には専門店の名称があって、abatsを扱う店は上の動画で紹介していたtriperieと呼ぶ肉屋であるのは明白。でも、普通の肉屋でも臓物は扱っています。

フランスにおける肉屋の名称
店の呼び名働く人の呼び名(男女形)
boucherie
(肉屋、食肉業)
boucher / bouchèreboucherieには、食肉処理業者にも使われる。
話し言葉では、殺戮の場、激戦地の意味もある。

Boucherie
charcuterie
(豚肉店、豚肉加工業)
charcutier / charcutièrecharcuterieには、豚肉加工食品(ソーセージ、ベーコン、パテなど)の意味もある。
話し言葉のcharcutier には、下手な外科医の意味もある。
英語のcharcuterieは、肉を専門とする惣菜屋。
boucherie chevaline
hippophagique
(馬肉屋)
boucher / bouchère
triperie
(臓物屋、臓物販売業)
tripier / tripièretripesやabatsを販売する店。
traiteur
(惣菜屋、仕出し屋)
traiteur肉屋が兼ねている場合もある。


日本での「内臓肉」には鳥も入るし、「臓物」には鳥や魚も入るので、フランスの分類とは異なるのでした。

内臓肉の日本での定義
牛や豚、鶏などの精肉以外の可食部分全般を総称して、副生物(ふくせいぶつ)。レバーをはじめとした内臓類のほか、舌や筋、耳、足なども、この副生物に含まれる。

臓物の日本での定義
内臓。特に、牛・豚・鳥・魚などのきもや、はらわた。もつ。 脊椎動物の内臓の諸器官。


和仏辞典にある「臓物」の訳語は、内蔵は entrailles、牛などの胃・腸は tripes、鳥・魚の臓物は vidure、となっていました。

つまり、フランスでは鳥と魚の臓物は別格に扱って、「vidure」という別の単語が使われるのです。でも、和仏辞典を見る限りではabatの訳語は曖昧でした。

Abats
仏和辞典の訳:(食用獣の)臓物,もつ、足、頭
☆ Wikipedia: Abat
abattre(取り壊す、打ち殺す)から来ている単語
abattage: 動物を殺すこと、(特に)畜殺

vidure
仏和辞典の訳:(魚・鳥の)はらわた,臓物
※Wikipediaには項目がない
vider(空にする、臓物を抜く)から来ている単語


ただし、vidureは専門用語なのかも知れません。第1番目の胃(ミノ)をフランス語で何と呼んだかを思いだしたフランス人も、鳥の臓物はabatとは言わないで別の単語があると言ったものの、何だったか浮かんでこないのでした。

abatには鳥の臓物は含めないというのは、一般の人は意識しないのかも知れません。フランス語でレシピを紹介しているサイトでも、材料にしている鶏肉のレバーをabatの分類にしている人もいました。

ただし、高級食材のフォアグラをアバと呼ぶフランス人はいないと思います。


フォアグラは肥大させた肝臓ですから内臓肉には違いはないのですが、ガチョウやカモの肝臓ですから、アバではない!


abats(アバ)の定義

abatについて調べ始めたときには気にしなかったのですが、abatが何であるかを説明しているフランス語の文章は少し奇妙に見えました。

胃の部分の臓物「トリップ」の説明では反芻動物の胃だと書いてあるのに、abat(アバ)はどんな動物の臓物であるかが書いてないのです。

アバとは、「quatre quartiers(4つのブロック)」に対比して「cinquième quartier(5番目のブロック)」に相当する可食部分だ、という説明がよく出てきていたのですが、何のことか分からない。

でも、よく読み直してみて意味がとれました。

quartier(カルエィエ)という単語では、パリのカルティエ・ラタンなど、行政上の区画を思い浮かべてしまうのですが、「4分の1」という意味もあるのでした。

仏和大辞典には、食肉に関する用語としてabatで使われていた用語が入っていました:
  • quatre quartiers: クォータース:食肉用に解体した枝肉の4分体
  • cinquième quartier: 副産物:肉以外の骨、皮、内臓など

こういうことのようです:

肉屋が扱う家畜の精肉には、2つの肩肉と2つの腿肉を成す4つのブロックがある、と捉える。それに対して、アバは食用にできる5番目のブロックに相当する部位である、というわけですか。

5番目の部位などとは言わずに、4つのブロックに分かれる精肉を取り出した後に食べられる残りの部分だと言ってくれれば分かりやすいのに...。

またまたフランス人に「cinquième quartier」という言葉を知っているか、と聞いてみました。色々な意味があり得ると言うので、abatsに関係している言葉だと説明したら、知らないと言う。4つのquartierに分けるというのさえ聞いたことがないと言われました。

つまり、業界用語なのでしょうね。私が知らなくても、どうでも良いのでした。日本と比較してしまうから混乱しただけのこと。


ともかく、アバは、4分体に切り出す家畜ということなのでしょうね。つまり、鳥や魚は4等分はしないので、abatsの中には入らないということ?

abatsを訳すなら、四足動物の臓物(内臓肉)などとすれば正確になるかと思ったのですが、鳥類は前肢は翼に変化として四足動物に入ってしまうのでダメなのだした。

仕方がないので、以降、アバと呼ぶことにします。


Abat(アバ)は赤と白に分ける

abats rouges(赤い内臓肉)の方が貴重な部位と言われ、レバー(肝臓)、腎臓、胸腺などがその中に入ります。胃腸のトリップは、脳、耳などと共にabats blancs(白い内臓肉)のカテゴリーに入っていました。

並べてみると、色の違いがわかります。

abats rouges(赤い内臓)abats blancs(白い内臓)

でも、フランスで内臓肉を赤と白に分類するのは、食材の色で分類しているわけではないのでした。白い肉でも「赤」に分類されている部位があるのです。


好き嫌いはありますが、フランスでは高級食材として扱われるリー・ド・ヴォー(子牛の胸腺)。「赤い内臓肉」とされていましたが、どう見たって白いです!



臓物を赤と白に分けているのは、珍重される部位(赤)と、安い臓物とされる部位(白)で分けているのかな、と思ったのですが、これも間違いでした。

市場に出す前に処理が必要な部位であれば白、そうでないなら赤、という風に分類しているようです。

Abats blancs(白い内臓): 
屠畜場で臓器を摘出してから、ただちに下ごしらえの処理(洗浄、こそぎ落としなど)をする部位

Abats rouges(赤い内臓): 
屠畜場で特別な処理はしない部位


Abats rouges(赤い内臓)
Abats blancs(白い内臓)
肝臓(Foie)
心臓(Cœur)
肺(Mou)
脾臓(Rate)
腎臓(Rognon)
精巣(Animelles ないし rognons blancs)
頬(Joue)
胸腺(Ris)
舌(Langue)
口蓋(Palais)
鼻(Museau)
尾(Queue)
牛の脂肪(Mamelle)
骨髄(Moelle)
アンプ(hampe)
※ 牛の腹と腱(けん)の間にあるステーキ用の肉
スカート(onglet)
※ 牛の横隔膜の筋肉部
頭(Tête)
腸角膜(Fraise)
足(Pied)
耳(Oreille)
脳(Cervelle)
脊髄(Amourettes)
トライプ/胃腸(Tripes)
牛の脂肪(tétines)
※ 出所:AbatLes différents morceaux(Wikipédia)、Les produits tripiers ou abats(La-viande.fr)


日本でも、内臓には「赤もつ」と「白もつ」の分類がありました。
  • 赤もつ: 循環器系(肝臓、心臓など)
  • 白もつ: 消化器系(胃、大腸、小腸など)
日本で「もつ」と言うときには、狭義には腸(特に小腸)で、「ホルモン」とも呼ばれるようです。


フランスのabat(アバ)の一覧表には、gros intestin(大腸)とか intestin grêle(小腸)という部位は入っていませんでした。これらの単語に「レシピ」の文字を入れて検索しても、何もヒットしません。

でも、日本では大腸も小腸も、欲しいとなれば手に簡単に手に入るようです。





フランスでは、腸の部位はソーセージなど色々な加工食品に使って肉屋で売るので、大腸とか小腸のままでは出回らないのかもしれません。

例えば、アンドゥイエットという、加熱して食べるソーセージ ↓
豚の消化器系の部位などを材料にして作って作られます。



アンドゥイエットには仔牛の腸間膜(fraise de veau)を使うのですが、この食材は珍重されるようで、abatの分類に入っているし、そのままで売っているし、レシピも色々ありました。フランスでは、部位を細分して食材にされるのかも知れません。


2回に渡って内臓肉について調べながら書きましたが、私は食品業界で仕事をしているわけではないので、得た知識は何の役にも立たないはず。でも、疑問に思っていたことが少しは晴れるのは気持ちが良いものではあります。

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ブログ内リンク:
★ 目次: 内臓肉を使った料理
★ シリーズ記事: フランスの食事の歴史 2017/04/02
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
☆ Wikipedia: Abat » もつ
☆ Wikipedia: Tripes » トライプ
☆ Larousse: Définitions tripe
Les produits tripiers ou abats
☆ Cnrtl: Etymologie de TRIPERIE
フランス革命の反結社法研究
☆ Wikipédia: Tripes à la provençale
Bouchers et boucheries à travers les siècles
☆ Morceaux du boucher, le cinquième quartier !
☆ コトバンク: 臓物(ゾウモツ)とは | 内臓肉(ないぞうにく)とは | 畜産(ちくさん)とは
モツに紅白の違いあり
牛・豚の基礎知識 - 畜産副産物
Les vérités de Jean-Pierre Coffe - Adieu tripiers !
Les abats oubliés
☆ Wikipedia: ホルモン焼き
☆ ホルモン焼きについてこれだけは知っておきたい【部位と肉質の基礎知識】 
「牛ホルモン」全19種、美味しさと食感を比べてみた


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2019/07/01
前回の記事「オーヴェルニュ料理についての知識が少し増えた」で「トリプー(tripou)」という料理について書きながら、この部位が気になりました。

オーヴェルニュ料理の「トリプー」は、地元の言葉で「小さなトリップ(tripe)」という意味だと判明。反芻動物の胃腸の部分を使った料理「トリップ(tripes)」と呼ばれる料理があるのですが、滞在先の地域では羊の胃腸を使うのが特徴となっている郷土料理でした。

トリップ(日本語でトライプ)と呼ばれるのは、こういう内臓肉 ↓




トリップはB級グルメ?

トリップは安い食材なので、田舎料理とか家庭料理とかいうジャンル。ブルゴーニュ地方では、お客様を招待した食事会などでは全く出さないように思います。

ただし、今では余り食べなくなったので、かえって珍しがられたりするようです。

トリップ料理で思い出があるのは、B&B民宿を経営していた農家の人の話し。ある時、夜も更けて到着したお客さんが、レストランは閉まっているだろうから何か食べさせてくれないかと言われたのだそうです。それで、家族で前日に食べたトリップがあるから、それで良かったら出せると言ったのだそう。

温め直して出してあげたら、パリから来た一家は、美味しい、絶品だ、と大喜びして食べたのだそう。農家のご主人は、トリップ料理を絶賛するなんて呆れた、と笑っていました。

トリップは、フランスの中世では珍重された部位だったそうです。当時は肉は焼かずに、煮込むのが主体だったこともあった。煮汁が出るのでプロテインを吸収できるので好まれた。


カーン風牛胃袋煮込みTripes à la mode de Caen

私が食べたことがあるトリップ料理もそうなので、こんな感じの料理を農家では出したのだろうと思います。

Tripe à la mode de Caen

スープみたいな煮込み料理ですから、旅行で疲れていた夜に出されたら嬉しかっただろうと思いますね。これは冬に作る料理で、体も温まるし、コラーゲンが多いから元気になります。私だって、同じ立場にいたら大喜びしたと思う。

画像を拝借したのは「Tripes à la mode de Caen」と呼ぶ北仏ノルマンディーの郷土料理で、カン(Caen)という町のレシピだそうです。こういうのが最も有名なトリップ料理のようでした。

ノルマンディー料理なので、リンゴで作ったアルコール飲料のシードルかカルバドスで煮込むとのこと。ブルゴーニュで食べるなら、白ワインで煮込んでいたでしょうね。

カン風トリップ料理は、こういう風にして作るのだそう:


Recette : les tripes à la mode de Caen - Météo à la carte

2017年に公開された動画ですが、材料費は1人あたり4ユーロ(約500円)と言っています。

レシピの材料として牛の図が出て、① panse、② bonnet、③ caillette、④ feuilletという部位が示されていたので、どの部位のことなのか調べました。


反芻動物(牛、羊、山羊)が持つ4つの胃袋の呼び名

日本でホルモン焼きの店に連れて行ってもらっても、部位の名前が私にはちっともわかりません。胃の部分の呼び名をメモしておきます。

牛の4つの胃袋、その役割日本での呼び名
()
フランスでの呼び名
反芻動物
第1胃(ルーメン)
発酵タンク
ミノpanse
rumen、
gras-double
第2胃
反芻のためのポンプ
ハチノスbonnet
reseau、
reticulum
第3胃
水分を吸収
センマイfeuillet
omasum
第4胃
食べ物を消化
ギアラ
赤センマイ
caillette
abomasum
ハチノスとセンマイの繋ぎ目ヤン
※ リンクはWikipedia


ウシの消化器官
Système digestif d'un ruminant (vache)
m: 食道(œsophage)

v: 第1胃(rumen、panse)

n: 第2胃(réticulum、réseau)

b: 第3胃(omasum、feuillet)

l: 第4胃(abomasum、caillette)

t: 腸(début des intestins)


フランス人にトリップについて調べてブログに書いていると話し、牛の4つの胃袋の名称を知っているかと得意げに聞いてみたら、知らないとの返事。でも、少ししたら、「第1胃は panse(パンス)ではないか」と言われました。penseではなくて、panseだと、綴りまで知っていた。

第2胃から第4胃まで名称は思い浮かばないとのこと。フランスでは第1胃が最も有名な部位なのかもしれないですね。第1胃は、小柄な人なら入ってしまえるほど大きいのだそうなので、よく使われるのでしょう。


牛の胃袋がチーズに関係していたとは意外な発見!♪

4つの胃の呼び名を調べながら、興味深いことを発見しました!

第4胃(仏語でcaillette。カイエットと発音)では、レンネット(仏語でprésure)と呼ばれる凝乳酵素が分泌されており、チーズ作りではこれを利用してカードを生成するのだそう。年をとった反芻動物のではなく、若い動物の第4胃が適しているそうです。

フランスでチーズ工房を見学すると、チーズ作りで使われる単語を覚えます。caillé(カイエと発音)はカードのことで、ミルクが凝固した状態のことにも使われます。caillage(カイヤージュと発音)は乳の凝固のこと。cailleと入っているからには、関係する第4胃の呼び名から来ているのだろうと思いました。


ヤギ乳のcaillé(凝固した状態)



カードには植物性のものなどもあるそうですが、フランスで作られる高品質のチーズ(AOPやレベル・ルージュの品質保証を持つ)では動物性のカードを使うことが必須のようです。

フランスでは家庭でチーズを作る人も多いらしく、カードは色々な種類が売られていました。

    


豚の胃袋はどうするの?

豚は1つの胃袋しかなく、日本のホルモン焼きで出てくる時には「ガツ」と呼ばれるのだそう。ただし、砂肝、砂嚢。砂ズリと呼ぶ地方もあるとのこと。

Wikipediaの「abat」の項目に、家畜の種類によって、食べられる内臓の部位と、食べない部位を示した表が入っていました。豚の胃袋には食べないという印が入っている。でも、「豚の胃袋(estomac de porc)のレシピ」を検索したら、幾つも出て来ました。日本で食べるのだから、フランスで食べないというのは間違っているとも思うのです。

インターネットで情報を検索すると幾らでも出て来て、何も知らないと「なるほど~!」と感心するのですが、それが正しいかどうかは別問題なのですよね...。


トリップは日本語で何と言う?

フランス語のtripeというのは、ラテン語のtrippaから来ているようです。英語でもtripeでした。

WikipediaのTripesから日本語へのリンクは「トライプ」。でも、日本ではトライプとは余り言わないで、イタリア語で「トリッパ」と呼ぶ方が多いのではないかと感じました。

フランス語のtripeをイタリア語にすればtrippa。イタリア旅行をしていて、フランス語の語尾をイタリア語風に発音して言ってみると、ちゃんと通じてしまうという例です。

ところが、日本で「トリッパ」と言うと、第2胃のハチノスを指すようなのでした。イタリア語情報だと、フランスの呼び名と似た単語でイタリアにも4つの胃の名称があって、全体としてTrippaとなっているのですけれど。



和仏辞典では、料理用語の訳は「トリップ」、動物用語では「胃腸」となっているのですが、インターネットではフランス料理について書いている人が「トリップ」と呼んでいるだけ。

ネットショップで「トリップ」を検索してみても、何も出てきません。日本で臓物の胃腸を手に入れたい人が何と呼ぶのかを知るために、ネットショップの「精肉・肉加工品」のジャンルで検索してみました。

「トライプ」で検索  検索結果の中で該当は1件だけ
「トリッパ」で検索  17件ヒット
☆ 「胃」で検索  540件ヒット(無関係のアイテムが多い)

☆ 第1胃「ミノ」に限定して検索  72件ヒット
☆ 第2胃「ハチノス」で検索  149件ヒット(無関係のアイテムも含む)
☆ 第3胃「センマイ」で検索  650件ヒット(無関係のアイテムも含む)


日本では個々の胃の呼び名を使うことが多いのではないかと思いました。



もう1つ気が付いたのは、トライプは安い肉のはずなのに、国産牛のものだとかなり高価なこと。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

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ミノ、アカセン、白センマイ、白ハチノスが200gずつで、このお値段とは驚き! ふるさと納税というのは利用したことがありませんが、普通より高い値段が付くのかな?... でも、日本では牛肉は高いですものね...。


もう1つ気が付いたのは、ミノ、ハチノス、センマイは牛について使われることが多い。豚の胃を探すなら「ガツ」で検索すべきようです。そして、ヒツジやヤギの胃腸が欲しいなどと思っても、手に入らないのではないかと感じました。


トリップについて調べていて、さらに内臓肉全体に興味が出てきました。レバーや砂肝以外には、私は買って調理することはないので馴染みが薄いのです。

レストランで食事するときは家では食べないものを選ぶ傾向があるので、内臓肉の料理はかなり食べているかもしれません。それから、肉屋が作っているシャルキュトリは豊富で、色々な内臓が使われています。知らないで美味しいと思いながら食べていて、その内臓がどの部分かを知るとギョッとすることもある!

続き:
フランスの内臓肉について調べてみた

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外部リンク:
☆ Wikipedia: Tripes » トライプ
☆ web動物図鑑: ウシの反芻と4つの胃
カンのもつ料理 Tripes a la mode de Caen
牛の持つ4つの胃「ミノ・ハチノス・センマイ・ギアラ」部位によって違うおすすめの食べ方
ヒツジの不思議(4つの胃のしくみ)
内臓系料理の美味しさを知っていますか?Qu'est-ce que la présure et comment l'utiliser



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2019/03/17
日本旅行をした友人たちが、一緒に来たかったけれど来日できなかった夫妻とパリで会い、夕食は日本レストランに行ったと話していました。お気に入りの1つ星レストランに行ったはずですが、日本で食べた料理の方が美味しかったと思ったのかな?... ともかく、日本での楽しかった思い出を語ったのだと思います。誰かに会うと、日本は素晴らしいから是非行くようにと勧めてしまっているらしいので。

シリーズ記事フランスから来た友人たちの日本滞在記目次へ
その14


来日した友人たちとは、1回もフレンチレストランには行きませんでした。第一に、彼らは日本料理を食べたがり、せっかく日本にいるのだからフランス料理を食べる必要はないと言っていたのです。

東京に住んでいる私の友人の家で持ちよりの昼食会をしたときには、彼らはフランスから持ってきたチーズ、ホテルの近くで買ったハムやソーセージ、ケーキ、シャンパンなどを持っていっていましたので、フランスの食品は全く食べなかったわけではありませんけれど。


美味しそうな和食の店がないときには、イタリアン、次に中華だったかな...。

尾道で海を見ながら食事ができたイタリアンで食べたジェラートです。




霜降り肉

最近のフランスは大変な和食ブームなので、海産物を主に食べていました。でも、フランス人は肉食動物。たまには肉も食べないと体力が持たないのではないかと心配して、内陸部の宿に泊まったときには肉料理を注文したこともありました。

でも、滞在が始まって間もなくのときに出してもらった、この料理では失敗!

地元の自慢の和牛がメインになっていたコースです。



こんなにかっちりと切れているのは、異常ではありませんか? 地元の肉だというのに、冷凍肉?...

旅館の夕食のチョイスでは、こんな風に説明してありました:
脂があっさりとしていて食べやすくとろける銘柄和牛『いわて南牛』を陶板焼き。
脂がのっているのに、しつこくなくて、肉の旨みと脂の甘みを楽しめる。

ネットショップの画像をお借りします。岩手県特産の和牛だったので、これかな?... 霜降りの具合は似ていますね。

岩手和牛 サーロイン ステーキ用 150g×5枚 条件付き送料無料 岩手県 東北 復興支援 人気 お肉

赤身が多く、やわらかで風味の良いいわて牛のお肉
脂肪分が少なくヘルシーな味わい 熱を加えると風味が増す極上の牛肉


宣伝文句で、あっさりとか、ヘルシーとか言うのが決まっているらしいですが、本来の肉の風味が感じられないと私は思いました。

私は1切れ食べただけでギブアップ。残りはフランス人にあげましたが、喜んではいない。フランスでステーキを食べるのからいくと量は少ないので、体力をつけるために無理して平らげたようでした。

翌朝、宿にいらした日本人ご夫婦とおしゃべりする機会があったので、夕べ出た牛肉は不味かったと言うと、同感だと返事されました。その後、観光地に行くために乗ったタクシーで、運転手の人に話したら、「岩手の肉を食べると胸が悪くなるから嫌い」とおっしゃる。地元の人でも食べたくない和牛を、なぜ作ったのかな?...

でも、こういうことをブログで書くのは気が咎めます。地元には美味しい牛肉を作っていらっしゃる方は「絶対に」いらっしゃると思うのです。関係者の方、お許しください!


この時以来、フランス人からは日本で牛肉は食べなくて良いと言われてしまいました。フランスに帰ったら、大きくて、美味しいステーキを食べるからと、夢見心地の顔...。

フランスでも神戸肉は知られているので、原価で買って家でステーキにして、1口ずつ味わわせようかと思っていたのですが、その「おもてなし」計画は無しにしました。おかげで節約できた♪

日本の牛肉は脂身がすごいのですよね...。鍋物にして洗い出さないと食べられないと私は感じています。しかも、フランスのように放牧はされた肉の味がないので、なんだか不健康さを感じてしまう。

三重県に住んでいる方から、地元の直売所で買ったという牛肉をプレゼントされたときは、素晴らしく美味しいと思ったのですけれど...。

 


フランス語でも「霜降り」に相当する単語はあるので、そういう肉が存在しないわけではないはずなのです。

でも、Wikipediaのフランス語ページに入っていた画像を見ると、「persillé(霜降り)」というのは、日本の肉のように全体が霜降り状態になっていない肉に対しても使うようでした。

左は、霜降り状態が顕著として入っていたスイスの肉。
右は、軽く霜降り状態の肉の例。

 

日本で「霜降り」と呼ぶ肉とは違うので、この訳語は適切ではないのだろうな...。

フランス人がビーフステーキを食べるときには、外側にある脂身は切り取って残しています。スイスの牛肉は、こんなのをステーキ肉にして欲しくはない品質だと思うけれど、脂身を食べたくなかったらフォークで切って残せます。でも、日本の霜降り肉だと、そうはできない!


フランスのカフェ・レストランなどでシンプルな料理を食べようとすると、もっともポピュラーなのは、フライドポテトが付いたビーフステーキです。




日本の牛肉は食べたくないと言われたけれど、日本語ができない友人たちを預かった私としては、彼らの健康状態にも気を付ける母親役でした。

肉食人種の彼らが、短期間とはいえ、肉を全く食べないのは悪いのではないか、と心配したわけです。

肉屋に連れて行って、どれなら食べたいかと聞いたら、オーストリアの牛肉を選んでいました。フランスでもオーストリアの牛肉は質が良いという評判があるのですって。

日本産の牛肉より安いから、私としては大歓迎。スーパーでかったオーストリアの牛肉を鉄板焼きにしたら、喜ばれました「食べられる」と言って食べてくれました。



改めて画像を見ると、不味そうなビーフステーキでしたね...。

久しく使わないでいた鉄板焼きの道具を取りだして調理したのですが、それが良かったようでした。家庭用の鉄板焼きの道具でも、鉄板が厚いので、非常に優れていると思いました。フランスにpierradeと呼ぶ鉄板焼きの電気器具を持っている友人がいるのですが、あれは高温で焼きあげないので、持つ価値はない道具だと私は思う。

友人たちに外食ばかりさせていてはいけないと思って、家で簡単に作れる料理として鍋物を作っていたのですが、3回続けたら飽きられてしまった。鉄板焼きを喜んでくれるなら、もっと簡単にできてしまいますよ~。


和食はヘルシーで人気を呼んでいるけれど、
 日本での外食では、脂っこい食べ物が出てくる


フランスで和食に人気があるのは、ヘルシーだからという理由が大きいと思います。でも、実際に日本で外食すると、全くヘルシーだとは思えません。

てんぷら、カツを始めとして、どうしてこんなに油で揚げるのだろうかと思ってしまいます。昔の日本の食生活では淡白な食べ物があったので、天ぷらなどは嬉しかったと思います。でも、今はギトギトの洋風料理も多くなったので、脂分をそれほどには必要とはしないのではないかと思うのですけれど...。

和牛が外国で評判を呼んでいる、と日本の情報では言われるのですが、それも不思議。でも、調べてみたら、外国では「wagyu」というのは牛の品質や飼育法であって、日本とは違うような感じがしました。

フランスの報道では、少し冷たい感じがしました。キャビアよりは安いけれど、高級食材のフォアグラよりは高い...。

フランスでも「神戸牛」を飼育している農家があるそうで、動画がありました。


Le bœuf de Kobe, le « caviar » de la viande

グローバリゼーションなのでしょうね。変わったことをすると4倍高く売れるからチャレンジ? グラシック音楽を聞かせたり、マッサージをしたりしているのだそう。でも出来上がった肉は、日本での「霜降り」状態ではありません。動画の中で語られていた「霜降り」という言葉も、「「persillé」ではなくて、大理石からイメージした「marbré」を使っていましたす。

日本政府は和牛の輸出に力を入れているのだそう。和牛が日本人の味覚に合うのなら、外国人に食べさせてあげる必要はないと思うのですけれどね...。

今の政府、なぜ外国人観光客が増えたのを喜んでいるのだろう。私もフランスの友人たちを呼んでしまったので発言する権利はないですが、祖国を旅行しているのに日本語が聞こえてこないという異常な体験しました。

続き:
東京で売られている食品は食欲をそそらない

シリーズ記事【フランスから来た友人たちの日本滞在記目次へ




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☆ Wikipedia: 霜降り肉 » Persillé
いわて牛
☆ Wikipedia: 和牛 »  Wagyu
Le bœuf japonais «wagyu» peut-il séduire la France
“和牛”に立ちはだかる“Wagyu”



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2018/05/23

シリーズ記事 【嫌いな国の人を何に喩えるか目次へ
その3


ローストビーフは、フランスでは珍しくはない料理ですが、それでもご馳走に分類されると思います。でも、非常に美味しいのもあれば、嫌気がするほど不味いのまであり、「ローストビーフは美味しい」とは一概には言えない!


ローストビーフの美味しさは、焼き方によって決まる

まず、大事なのは焼き加減。切ったときに、中はほとんど生肉という感じが美味しいと思います。


表面はしっかり焼けていて、中はほとんど生の状態が好き。日本料理でいえば、鰹のタタキに似ているかな...。

中まで火が通ってしまっていて、食べればパサパサというのは最低だと思います。肉にはしっかり火を通さないと食べない、と言うフランス人もいます。そういう人と一緒の時には、ローストビーフは作ってもらいたくない。

下は、Wikipediaの英語ページに入っていたローストビーフの写真です。肉が赤くないので、私が写真だけ見たらローストビーフとは思わないけど...。

Sunday roast
Sunday roast typically consists of roast beef, roast potatoes, other vegetables and Yorkshire pudding.

ところで、フランスでは、ローストビーフは冷たいものを食べる以外には出会っていませんが、イギリスでは、冷たいのも温かいのも食べるのだそう。


ローストビーフの味は、肉の質によって左右されてしまう

焼き加減も大事なポイントですが、その前に、良い肉でないとローストビーフは不味いのができあがってしまうと経験したことがありました。

非常に美味しいローストビーフを作る友達がいるのですが、その人に招待された食事でメインはローストビーフにしたというので喜んだのに、いつもとは全く違っていたので驚いたのでした。不味いとは言わないけれど、お世辞にも美味しいと褒めるほどではない。

作った本人も、がっかりしている様子でした。聞いてみると、時間がなかったので、スーパーに入っている肉屋で買ったのだそう。スーパーにしては良い肉を売っていると評判があるチェーンだったので、どうして味が悪かったのか、疑問が残りました。

でも、この人は、いつもは食材選びに非常にこだわっている人なのです。つまりは、料理の出来栄えは、食材によるという鉄則でしょうね。


ローストビーフに適した牛肉は、どの部位を選ぶ?

フランスでローストビーフの材料を手に入れるのは簡単です。紐で縛った牛肉の塊があって、ローストビーフであると示されているのです(フランス語ではrosbif)。

こういう風に肉屋さんは作るのだそうです↓


Le bardage et le ficellage d'un rosbif - Les conseils du boucher

紐の閉め方で調節して、肉の厚さが均一になるようにしています。何分くらい焼けば良いかは肉屋さんに聞くことができます。動画では、この肉は15分焼くと言っています。


でも、こうして売っているのははローストビーフ用だというだけで、どこの部位なのかは分からない。

最高のローストビーフを作るには、filet(ヒレ)かrumsteak(ランプ) と呼ばれる部分だと書いてありました。そう書いていたサイトでは、肉屋さんでどの部分を買うか迷う必要はなく、売っている中で一番高い肉を選べば良いのだ、なんて書いてある!

とすると、「rosbif」と書いてあっても、違う部位だった、ということがあり得るわけですね。ちゃんと、肉屋にどこの部位なのか確認する必要があるわけだ。

フランス語の部位に日本語訳をカッコで入れてしまいましたが、日本とフランスでは部位の分け方が異なります(このブログでは、ここに比較図を入れています)。

日本なら、ヒレ、サーロイン、ランイチとして売っている部分でしょうか?

でも、日本の牛肉はそれでなくても脂身が多いので、サーロインだったら美味しくないのではないか、と疑問を持ってしまいます。

日本のショップでローストビーフ用として売っている肉を見てみましょう。



やはり、フランスのローストビーフ用の肉より脂身が多いようですね。

左の肉は、部位は「もも」だと書いてある。どこの部分なのか調べてみたら、牛のもも肉には4つの部位があるのだそう(情報は、こちら)。ランイチという部位も含まれていますね。

希少部位を使ったローストビーフだと明記している商品もありました。



右側の「イチボ」は、私には脂身が多すぎる。
左側の「シャトーブリアン」は、かなり美味しそう。でも、お高~い!

シャトーブリアン(chateaubriand)という部位は、下の図で赤く示しているヒレ肉のうち、中央部の部分だそうです。厚さは2~4センチ。



ヒレ肉自体が小さいのですが(牛1頭から2本しか取れず、牛1頭の目方の2%に過ぎない)、その中で最も美味しい部分がシャトーブリアン。ただし、火の通りが早いので、注意する必要があるとのこと。

フランスでも牛肉のシャトーブリアンは、他の牛肉の部位より飛びぬけてお高いようです。こちらのサイト(写真入り)では、フランス産のものを1キロ 51.39ユーロ(約 7,000円)で売っていました。他のサイトでも、ちゃんとしたフランス産の牛肉は、これと同じか、もう少し高い値段で売っていました。

でも、シャトーブリアンと言っても、どんな牛なのかによるでしょうね。こちらの大手スーパーのサイトでは、ベルギー産のものを1キロ 17.65ユーロ(2,500円弱)で売っています。


フランス風ローストビーフの作り方

ローストビーフは、焼き方に失敗すると台無しなので、私は怖くて作ったことがありません。この際、どうやって作るのかレシピを眺めてみました。幾つもバリエーションがありますが、いたって簡単そうです。

フランスのレシピ―サイトに入っていた、ローストビーフの作り方を見せる動画を入れておきます。


Recette de Rôti de boeuf inratable ! - 750 Grammes

肉に塩をまぶしてから、オリーブオイルをひいたフライパンに入れ、強火で焦げ目を付けます。

グラタン皿に肉を入れ、バターを乗せ、オリーブオイルを少しかけ、ニンニク(皮つきをつぶしたもの)とタイムをまぶし、190度~200度に温めたオーブンで焼いています。肉の厚さに応じて15分~20分焼くのだそう。途中で1回か2回、焼き汁をかける。

コショウは焼きあがってから振るように、と強調していました。

どのくらいの時間をオーブンで焼くのかがポイントですよね。他のフランスのレシピサイトでは、500グラムの肉で15分、それ以上ある場合には100グラムに付き2分追加という目安を出していました。つまり、750グラムの肉で20分の加熱。

この人が作ったローストビーフが一番好きと思っている友人に聞いてみたら、フライパンで焦げ目を付けず、あらかじめ高温で熱したオーブンに入れて焼くと言っていました。途中で焼き汁を何回かかけて、表面に焼き目を付けて、中は生なように加熱しすぎないのがポイント。何分焼くかは勘だそうです。



ローストビーフの作り方について書いたのは、なぜフランス人は、イギリス人のことを「ローストビーフ」と言うのかが気になったので、調べながら書き始めたからです。

これは、前回の記事「ジャガイモの害虫コロラドハムシ = ドイツ人 」で書いたドイツ人に対する蔑称と同様に、イギリス人を貶す呼び名なので、「できそこないのローストビーフ」と言いたいのかなと思ったのですが、そうではなさそう...。

続き:
世界で最も不味いのはイギリス料理?



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外部リンク:
☆ Wikipedia ローストビーフ » Rosbif
Recette de rôti de boeuf au four
Temps de cuisson du roti de boeuf au four



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2017/03/15
日本にいるときは、たまには牛肉も食べる、という程度の私です。牛肉は高いから買えないというだけではなくて、やたらに脂が多くて気持ち悪いというのも理由です。

日本には整形肉があると知ったことと、飛行機の中で退屈しのぎに見たビデオで、日本の乳牛は運動もできなくて四六時中食べているから霜降りになる、というドキュメンタリーの影響かもしれません。私が買える程度のお値段の牛肉だと、脂を食べているみたいで、牛肉本来の味がない...。

だいぶ前に、地元にある直売所で買ったという松坂牛をプレゼントされたときには、なんと美味しいのだろうと感激していたのですけれど...。

右に入れた松坂肉をフランス人に食べさせるために用意するとしたら、材料費は一人あたり2万円近くなってしまう。

フランスでは牛肉は贅沢品ではありません。私がフランスにいるときに食べる肉としては、牛肉が一番多いのは間違いないと思う。庶民的なレストランで簡単な食事をしようとするときも、不味くはないだろうと思える無難な料理は牛肉のステーキだと感じています。

それでも、食材として最も安い肉は、フランスでも豚肉なのかもしれない。安いランチメニューでは豚肉がメイン料理になっていることがよくあるし、B&B民宿での夕飯でも出してくることが多いからです。

豚も健康的に飼育されているとかなり美味しい肉になるのですが、どうしようもなく不味い豚肉もある。しかも、牛肉のようにただ焼いただけの豚のステーキというのは、硬くておいしくないことが多いように思います。


◆ 豚肉のコンフィ

レストランの平日ランチメニューのメイン料理が豚肉だったので、魚料理の方を選ぼうかなと迷ったことがありました。でも、豚にしておいて正解 ♪

こんなに美味しい豚肉料理をフランスで食べたことがない、と思ったものが出てきたのでした。



料理の名前は、こうなっていました:
Poitrine de porc confite, mirabelles rôties, lait de verveine



Poitrine de porcというのは、豚のバラ肉のこと。つまり、豚肉の中でも安い部位だったわけですが、柔らかくて、表面はパリっとしていて、ともかく美味しかった。

そう給仕長さんに言って、どういう風に調理したのか聞いてみたら、長い時間をかけて加熱したのだと答えられました。特別な調理器具があるとのこと。つまり、家では作れないという言い方で、「召し上がりたかったら、また来てください」と言われたのだけれど、このレストランはもうなくなってしまったのです。


ミラベル

豚のバラ肉のコンフィに添えてあったのは、ミラベル(mirabelle)と呼ぶプラムの一種でした。



この料理について書きかけて下書きフォルダに入っていたのを取り出したのですが、もう半年前に行ったレストランでした。秋だったので、そのシーズンの旬の果物が付け合わせになっていたわけです。

ミラベルは、ケーキで使うことがあるし、蒸留酒でも馴染みがあります。


ミラベルを料理でも使うのは思いついたことがありませんでした。フランスでは、豚肉料理にリンゴを付け合わせにすることがよくあるのですが、こういう果実の方がしゃれていますね。


食べた豚肉の柔らかさで、角煮や酢豚を思い出した

レストランで豚バラ肉のコンフィを食べたフランスの友人も美味しいと言っていたので、角煮も気に入ってもらえそうに思いました。いつか作ってみたいと思います。

フランス人のために日本料理を作ろうとするときには、どんな料理なのかを説明をして、食べてみたいかと聞くことにしています。食べてから不味かったとは言われたくないので。

でも、私が説明すると、みんな美味しそうには感じないみたい。オイルで揚げたとか、牛肉を煮たとかいうのは、それだけで不味そうなイメージを与えてしまうようなのです。相手が言うことを無視して作ってしまうと、意外性があって美味しかった、と言われることが多いのですけれど。

質の良いレストランにあるお品書きは、読んだだけで食欲をそそられます。コピーライターを雇っているわけでもないのでしょうが、お上手だなと感心します。

それで、私が日本料理を作るときも、説明を上手にする必要があるのだ、と思うようになりました。

レストランで美味しいと感激した豚肉のコンフィを食べた翌日、あの柔らかさは豚の角煮と同じではないかと思ったのでした。さもなければ、酢豚に入っている豚肉の感じ。


最近のフランスでは日本食ブームなので、豚の角煮などはレシピを紹介している人がいるはず。この料理をどういう風にフランス語で名前を付けているのか調べてみました。

「豚バラ肉のコンフィ、醤油風味」とか言っていたら、美味しそうではないですか?...

コンフィという美味しそうなイメージになるのですが、これは、肉の場合は油脂、果物の場合は砂糖を使って、低温で調理したものを指すようなのでした。

豚の角煮は、誰もが「ブレゼ(braisé)」という言葉を使っていました。フランス料理でブレゼという単語を使うときには、オーブンで時間をかけて加熱するのが一般的だと思いますが、角煮でも使って良いわけなのですね。

「醤油や砂糖を入れた水でコトコト煮た料理だ」というよりは、「豚肉のブレゼ」と言った方が食欲を誘うはず。豚の角煮を作るというときには、「poitrine de porc braisée à la japonaise」と言おうと思いました。

酢豚の方は「Porc sauce-aigre douce」という名前が出てきました。なるほどね。甘いというのを出さなければいけなにのだ。


レストランで出された料理のレシピを探す

レストランで出されたトロトロの豚バラ肉料理は、日本の豚肉料理にある触感がありました。フランス式にすると、どうやって作るのかなと思って、似たような料理のレシピを探してみました。

料理名にはなかったのですが、肉の表面にハチミツで照りを出していると感じたので、豚のバラ肉をハチミツを使って料理していることを条件に選びました。


その: La rien de moins que sublime poitrine de porc confite aux épices

800グラムのバラ肉をマリネするソースは、醤油 5cl、白ワイン 5cl、ハチミツ 大さじ3、生姜5センチの絞り汁、グリーン・カルダモン 小さじ1、ニンニク 2片(おろし汁)、バルサミコ酢 大さじ1で作り、70度で煮てから冷ます。

ソースをバラ肉にからめて、冷蔵庫で12時間寝かせる。

1回目の焼き: 鴨の脂、チキンかヴォーのフォン50cl、ニンニク3片、生姜 5センチ(薄い輪切り)、シトロネル1本(粗く刻む)に肉を入れ、オーブン160度で3時間焼く。30分ごとに、肉にソースをかける。

汁を取り出し、それに醤油 大さじ1、ハチミツ 大さじ1、ゴマ油 小さじ1、ピーナッツバター 大さじ1を加える。それを弱火にかけて煮つめる。肉にからめて、200度のオーブン10分焼く。

醤油や生姜を使って、なんだか日本料理風の味付けですね。


その: Cochon de 8 heures basse température, purée fine aux carottes, thym et orange

大変そうなレシピなので、作ってみようとは思いません。醤油、ハチミツ、ハーブなどを入れたソースに肉を染み込ませ、真空パックにして68度で8時間煮る。あるいは、オーブンを使って70度で8時間焼く(途中で何度もソースをかける)。

出来上がったら輪切りにして、フライパンで焦げ目をつける。


その: Poitrine de porc grillé au four

ソースをバラ肉にからめて、200度のオーブンで1時間焼いていました。

ソースに入れたのは、Viandoxという、私は聞いたことがない商品名。


ヴィアンドックスは、醤油や砂糖が入っているソースだそうです。豚かつソースのようなものなのかな。


その: Poitrine de porcelet confite et laquée au miel pimenté, poivrons grillés et crème fraîche

鴨脂で3時間の低温調理をしています。私が食べた料理と同じように「コンフィ」という料理名。

動画が付いたレシピなので分かりやすい。

ぎこちなく話しているように聞こえるので外国人かと思ったら、カナダのサイトなのでした。カナダのフランス語圏で話されるフランス語は、昔のフランスで使われている言葉が残っているのだそうですが、私にはいつも英語訛りに聞こえてしまう...。

つまり、英語が母国語の人が上手にフランス語を話している感じ。「お上手ですね」なんて言ってしまったら大変な失礼になるのだそうですが、それを私はカナダ人に言ってしまったことがありました。

美味しそうだなと眺めていたのですが、最後にハチミツ入りのソースを作るところで、コカ・コーラを入れているのでびっくり。

フランスのシェフでコーラを使う人がいるだろうか?... やはりカナダのフランス料理らしさがあるな、と感じました..。

そのコカ・コーラを入れたソースのことは「sauce BBQ」と書いてある。バーベキュー・ソースのことなのでした。

WikipediaにはSauce barbecueの項目ができていて、アメリカ南部で生まれて、フランスには1999年に入った、と書いてあります。

記事に書かれているの材料にはコカ・コーラは入っていないのですが、トマトベースで、ハチミツを使っているところでは共通していました。

商品化したものは、Hunt's(ハンツ)のバーベキューソースらしい。

このボトルは、日本の何処かで見たことがあったかもしれないという気もします。

アメリカ産の食品といったら、なんとなく私は食指が伸びませんけど...。

ハチミツを使っているところでレシピを選んだのですが、結局のところ、どのレシピでも醤油などエキゾチックなものをソースに使っていました。

トロりとしていて、甘辛い味にした豚肉。これは日本料理から得た発想ではないのかな?...


◆ 以前にも、驚くほどおいしい豚肉料理を食べていた

こんなに美味しい豚肉料理はフランスでは初めてではないかと思ったのですが、素晴らしい豚肉に出合ったことをブログに書いていたのを思い出しました。思い出してみると、こちらの方がすごかった。


★ イベリコ豚のプルマが、豚肉とは思えないほど美味しかった 2013/10/28

こちらの料理名では、醤油で味付けをしていて、ハチミツで照りを出していることが分かる書き方になっています。付け合わせはやはり果物で、メロンでした。

やはり豚肉は角煮風が美味しいのかな...。

ブログに書いておきながら、このレストランのことをすっかり忘れていました。初めて行った店だったのですが、料理も素晴らしかったうえにコストパフォーマンスも良いので気に入ったのです。

去年はまた近くまで行ったので、どこで食事をしようかとレストランを探したのですが、このレストランがあったのを思い出さなかったのは残念...。

でも、レストランの経営者が変わっておいしくなくなったとか、料金が高くなっていることもありうる。それで、調べてみたら、相変わらずミシュランのお勧めレストランになっているし、平日ランチメニューは私が行ったときより下がっていて、30ユーロになっているのでした。また近くまで行く機会があるかもしれないので、その時は思い出すことにします。




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2016/02/16
パリのベルシーにあったワイン市場(Entrepôt de Bercy)が生んだ料理「アントルコート・ベルシー(Entrecôte Bercy)」について前回書きました。

市場で働く人たちが、修理もできなくなった古い酒樽を燃して、アントルコート(肩ロース肉)をバーベキューして食べていたのがパリの郷土料理となっていたのです。

アントルコートと聞くと牛のステーキ肉を思い浮かべるのですが、彼らが食べていたのは馬肉のステーキだったのを知りました。

パリとワインの関係 (3): ベルシー地区にあった酒蔵
パリの郷土料理: アントルコート・ベルシー

今では売っているのも稀にしか見かけない馬肉。それを彼らが食べていたのには何か理由があったのだろうか?...

3年前には、牛肉を入れているはずだった加工食品に馬肉が混入していたというスキャンダルがあり、盛んに報道されていました。

イギリス人は馬肉は絶対に食べないそうで、大変なスキャンダルになったと言われました。フランスは多少は馬肉を食べるので、このスキャンダルは不法表示が大きな問題だったように思います。おかげで馬肉の存在を思い出したフランス人が食べてみたら美味しいので、馬肉の売り上げが少し上がったとも聞きました。

私はカエルやエスカルゴも好きなのでゲテモノ食いだと思うのですが、馬肉には抵抗を感じます。ペットにする動物を食べてしまうような気分になるからだろうと思います。

でも、フランスで馬肉を食べることについては少し興味もあったのです。

2年前にフランスの戦後の農業史についてブログで書いたとき、馬肉を食べる話しが出てきたからです。戦後のフランスではアメリカからトラクターが入ってきて、それが普及するのに伴って従来は農作業で使っていた作業馬がいらなくなったので食べてしまった、というお話し。

戦後に農業がどのように変わってきたかを見せるドキュメンタリーについて書いたのですが、こんな場面がありました:
  • 戦後、アメリカからトラクターが船で送られてくる
  • 屠畜場におくられた馬は200万頭
  • 町には馬肉専門店ができ、政府も馬肉の消費を奨励する
  • キリスト教の団体が、殺される馬に水をかけて最後の秘跡を授けている


フランスでは、1980年ころから馬肉をあまり食べなくなった

馬肉混入スキャンダルに関する記事に入っていたグラフがありました。過去40年間に馬肉を食べるのは5分の1になったとあります:
☆ Viande chevaline : peu de contrôles et pas de traçabilité 11/02/2013

1980年代に入ってから、目だって馬肉の消費量が減少しているのがグラフに表れていました。現在では、フランス人が食べる肉の中で、馬肉が占める割合は0.4%に過ぎないのだそう。

でも、これは1970年からの馬肉の消費を示しているだけ...。

馬肉の生産に関する報告レポートを農業省関係組織が作っていました。こちらには、1956年から2013年までのフランスにおける馬肉の消費を表したグラフが入っています。


La production de viande chevaline en France des années 1950 à aujourd'hui 


馬肉ステーキのレシピを誕生させたパリのベルシー地区にワイン市場が作られたのは1869年。その役割を終えて消えていこうとし始めたのは1960年に入ってから。1980年ころからベルシー地区の再開発が始まり、今ではワイン市場の一角が公園などとして残っているだけ。

戦前の馬肉の消費はグラフでは分からないのですが、少なくとも戦後、ベルシーのワイン市場で働く人たちが大勢いた時代には、馬肉がかなり消費されていた、というのと一致しますね。

名物料理になったアントルコート・ベルシーは、いらなくなった酒樽を燃したわけですから、酒樽が古くなってから食べるようになったはずですから、このグラフで消費量がピークになっていた時代に料理が生まれたのかもしれません。


馬肉を食べることが禁止されていた

ベルシーのワイン市場ができたのは1869年。それとほとんど同じ時期、1866年に馬肉を食べることが法律で認められたのだそうです。つまり、それまでは、馬肉を食べることは禁止されていた。

フランスで馬肉が食べられる歴史を書いたレポートがあったので、斜めに読んでみました。hippophagie(馬肉食)なんていう単語が存在するのですね。

馬ならchevalですが、競馬場はhipodromeだから「イポ」と馬は結びつきます。hippo-という接頭語は古代ギリシャ語で「馬」のこと。

イポという発音を聞いて思い出すのは、hippopotamus(カバ)。
とすると、カバって馬の種類だったの? という疑問を持ってしまったのですが、hippopotamusは古代ギリシャ語の ἱπποπόταμος(hippopótamos)から来ていて、これは「川の馬」という意味だったのだそう。気がつけば、日本語でも、カバは「河馬」と書くのでした...。


フランスがガリアと呼ばれた時代には、人々は馬を神への生贄にしたり、馬肉を食べていたと言われるのですが、キリスト教文化が入ってからは食べなくなっていました。

Image illustrative de l'article Grégoire III732年、ローマ教皇のグレゴリウス3世は、信者に馬肉を食べることを正式に禁止したそうです。

時代が下っても、宗教上の理由だけではなく、人々が馬肉を食べないことには背景があったようです。馬は、他の他の家畜とは違って、貴族にとっては気高い生き物であったこと。さらに、馬肉には衛生上の問題もあるとされていました。

それも18世紀末には崩れてきたようです。

ナポレオンの軍隊は戦場で馬を食べ、革命期には飢えをしのぐために食べられたりしていました。単に馬肉が好きな人たちもいたようで、闇で仕入れて食べているというルートはあったのでした。

気分的に馬肉は食べたくないとか、衛生上の問題があったという理由の他に、肉屋業界が馬肉を扱う不法な行商人を締め出す手段として利用するという圧力があった、という見方もありました。

政府は馬肉を食べることの禁止令を出していました。


フランスで馬肉を食べることが解禁されたのは1866年

馬肉を食べるのは禁止ですから、他の精肉のように衛生検査がなされない闇の馬肉が出回るという問題がありました。19世紀になると、馬肉を食肉の仲間に入れるようにと運動を起こす人たちが現れました。中でも、次の3人が歴史に残っています:
  • 医師 Alexandre Jean-Baptiste Parent-Duchâtelet (1790-1836)
  • 動物学者 Isidore Geoffroy Saint-Hilaire (1805-1861)
  • 軍の獣医 Émile Decroix (1821-1901)

1832年、食用にできない家畜の解体に関するパリ市の報告書の中では(食べられない家畜は肥料や工業用として利用される)、肉を食べられない貧しい人たちが馬肉を食べることを認めるべきだという言及もありました。馬肉食を認めれば、衛生検査をすることになるので、闇市場で不衛生な馬肉を売ることがなくなる。また、馬肉が商品化されるならば、年老いた馬をぞんざいに扱うことが減るはずだ、という主張。

それに賛同する趣旨で、動物愛護団体のSPA(Société Protectrice des Animaux)が創設されたのだそう(1845年)。 SPAは持ち主がいないペットを引き取って里親を探すなどの活動で知られています。全国的に存在する大きなボランティア団体なのですが、馬肉と関係していたとは全く知りませんでした。

馬肉には医学的にも体に良いのだと主張する医師もいました。それに、普通の食肉を食べられない人たちには、馬肉が栄養源を与える。

馬肉解禁に決定的な働きをしたのはÉmile Decroixだったようです。獣医として行ったアルジェで、彼は兵士たちに馬を食べさせる経験をし、フランスに戻ってから馬肉の有効性を訴えて運動を起こしていました。

1866年、馬肉を食べることがフランスで法的に認められます(Ordonnance le 9 juin 1866)。さっそくナンシー、すぐにパリに馬肉専門の精肉店が誕生しました。

それまでの馬は食べない習慣があったので、すぐに人々が馬肉を食べるようにはなりまんでした。フランスで馬肉を食べる習慣ができたきっかけは、1870年に勃発した普仏戦争。食糧難で食肉が不足したのでした。

その後は徐々に馬肉の消費は増えて、1911年にピークを迎える。

馬肉専門店があったのは都市部。特に、ノール・パ・ド・カレ地方(ベルギー寄りの工業地帯がある)、パリで目立ったとのこと。誰が馬肉を喜んで食べていたかというのには異論があったのですが、労働者、社会の中間層である商人や職人が中心だったようです。

フランスで最も多く馬肉が食べられたのは1900年から1960年にかけてだったそうです。

なるほど、ベルシーのワイン市場の全盛期に一致しますね。それと、戦後の農業の近代化で作業馬がつぶされた時期も入ってる。

その後は売られる馬肉は減っていって、1970年には、フランスで消費される食肉に占める馬肉の割合は2%(現在は0.04%)。


馬肉食は特殊...

肉屋の業界の中でも、伝統的な精肉店と馬肉を扱う店とが歴史的に対立した名残りがあるらしい。普通の食肉を扱う肉屋に馬肉の話しをすると、どこかしら馬肉を扱う肉屋に対する偏見を見せるのだそう。

馬肉をよく食べた時代があったとしても、やはり馬肉を食べることに抵抗を持つフランス人は多いようです。

肉屋で売られるときも、馬肉だということは余り感じさせないように売られている。ひき肉が多いのも、その証拠。

そう言われると確かに、そうですね。肉食の国なので平気らしく、牛の巨大な部分が店に吊り下がっているのが見えることがあるし、家畜の頭の部分がショーウインドーに並んでいたりもするのですが、そういう姿の馬は見たことがありません。

とは言っても、馬肉専門の肉屋には、蹄鉄と馬が付いているのがトレードマークになっているのなんかは、私はグロテスクだと思いますけど...。




devanture d'un magasin dont l'enseigne indique « Boucherie hippophagique »
Boucherie chevaline à Paris

フランスで馬肉を専門に売っている肉屋のことは、普通はchevalineと呼びます。普通の肉屋はboucherie。馬肉専門だとboucherie chevalineとなるので、略してchevaline。馬のchevalから来ている単語です。

上に入れたのはWikipediaでパリの店として入っていた画像なのですが、看板ではboucherie(肉屋)にphippophagique(馬肉食に関する)を付けています。難しそうな単語を使って馬だということを遠まわしに表現しているのかな?...

肉屋を表す単語にはcharcuterieというのもあります。こちらは豚肉と豚肉の加工品を売っている店。なぜboucherieと別の単語を作っているのか気になりますが、調べているときりがないので放棄。


馬肉専門店は減少して、2014年の時点では、フランスには750軒を数えるだけなのだそうです。ブルゴーニュ地方でも、最大都市のディジョンでは、朝市に1軒入っているだけになっているというニュースがありました。


蛇足:

パロコンの画面をスクロールさせながら、フランスで1866年に馬肉を食料とすることが認められるに至った話しを斜め読みにしていたら、Émile Decroixという人が目にとまりました。

この人の名前を見て、あれ?... と思ったのは私だけでしょうか?
私は、あのドラクロワ? と思ってしまったのです。

目にとまったのは、「彼がAlgerに滞在していたとき」、「馬を兵士たちに食べさせた」、「19世紀」 という文字。アルジェリアのアルジェ、馬...。

それで、こういう絵画が頭に浮かんできました。
アルジェの女たち
Les Femmes d'Alger dans leur appartement
(1834)
異端者とハッサンの戦い
Combat de Giaour et Hassan
(1826)

有名な「アルジェの女たち」を描いた画家。彼は騎馬の絵画もたくさん描いているではないですか? ドラクロワが馬肉食を広めたのだとしたら面白いと喜んでしまったのですが、私の完全な早とちり!

よく文字を見ればドラクロワのスペルではない。おまけに、ファーストネームはウジェーヌではなくて、この人はエミールだった...。

出来てきたのは、Émile Decroix(1821~1901年)

画家のドラクロワは、Eugène Delacroix(1798~1863年)。

単語の始まりと終わりだけ見ていて、真ん中は全く無視していたわけですね。

文字の一部を見て、それだと思ってしまう癖が私にはあります。車に乗っているとき、歩いているとき、店の看板や道路の名前を探していると、すぐに間違えます。親しい友達などは、私が「あった!♪」と言ったときには、まず関係がないものを見つけたのだろうと思うようになっています!

私の脳は、どこかに足りない部分があるのでしょうね。だから気をつけなければいけない、と自分に言い聞かせるのですが、この癖は、かなり注意していても早とちりしてしまいます!

ひところ、速読術とかいうのが流行っていました。本をパラパラとめくっただけで分厚い本に書いてあることを把握できる能力がもてはやされていました。あの人たちはどうやていたのだろう? 私などだったら、書いてあることの全く正反対をサマリーとして言ってしまうのではないかな?...

ブログ内リンク:
タルタルステーキ: (1) 馬肉 2013/07/21
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ
総目次: テーマおよび連続記事ピックアップ

外部リンク:
L'hippophagie en France
La production de viande chevaline en France des années 1950 à aujourd'hui 
☆ Wikipédia: Hippophagie
Les boucheries chevalines
イギリス人はいつから馬肉を食べなくなったのか ~ Horsemeat scandal と関連して
フランスの動物保護協会「SPA」


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2016/02/14
つい最近までパリのベルシー地区にあったワイン市場のことについて前回に書きながら、市場がなくなろうとしている時期の映像を見ていたら、「Entrecôte Bercy(アントルコート・ベルシー」という言葉が何度も登場していました。

パリとワインの関係 (3): ベルシー地区にあった酒蔵

アントルコートと聞けば牛肉を連想するので、料理のことだとは想像できます。ベルシーのワイン市場で食べていた料理がパリの郷土料理の1つになっているのだそう。

どんな料理なのか調べてみました。

シリーズ記事 【フランスのワイン産地】 目次へ
その22

ベルシーのワイン市場で生まれた料理

40ヘクタールの広さがあったベルシーのワイン市場では、アルコール飲料をストックしていたのですが、ワインをブレンドして商品化することもしていて、大勢の人たちが働いていました。

修復ができないほど古くなった酒樽があるので、それを燃してバーベキューに使う習慣があり、それが「アントルコート・ベルシー(Entrecôte Bercy)」という名前の料理として広まったのだそうです。

ベルシーのワイン市場があった地域の再開発が始まった1980年の映像を入れます。百年以上の歴史がある市場を文化財として守らなければならないとして、再開発をどのようにすれば良いかの議論が盛んになされた時期でした。

始めのところで、アントルコートをバーベキューしている人が映し出されています。ワインの試飲をした後にステーキを食べる習慣があったのだそう。今でも金曜日にはアントルコートを食べるのだ、と言っていますね。


Reportage Bercy 1980年のニュース


アントルコートは何処にある?

Côtes et entrecôtesこの料理で使うのは「entrecôte(アントルコート)」と呼ぶ、肩ロース肉。

ベルシーにあったワイン市場の名前は「entrepôt de Bercy(アントルポ・ド・ベルシー)」。ベルシーの倉庫という意味です。

肉の方は「entrecôte(アントルコート)」。

「entre(アントル)」が同じだから、洒落てこの肉を食べるというわけでもないでしょうね?

ステーキ肉としては気どりのない部位と言えるかもしれません。カフェ・レストランでオーソドックスな料理として、アントルコートのステーキにフライド・ポテトというのがよくありますから。


肩ロースは、骨付きで切り出すとcôte de bœufと呼ばれる部分。それを肉屋さんでバーベキュー用に1枚切ってもらうと、1.5キロくらいの大きさになります。

entrecôte

Entrecôte charolais
côte de bœuf
côte de bœuf


数人でバーベキューをするなら、私は骨つき肉の方が好きです。でも、焼きあがってから骨を除いて切り分けなければならないので、ワイン市場で働く人たちが仕事の合間に食べるには向かないでしょうね。


本物のアントルコート・ベルシーEntrecôte Bercy)」とは?

ワインツーリズムの専門家が言っていた「本物の」アントルコート・ベルシーの特徴はこうでした。
  1. 馬肉を使う
  2. ソースは、白ワイン、エシャロット、レモンで作る
  3. パセリとクレソンを添える
  4. 修理できなくなった樽でつくる薪で肉を焼く

本来は馬肉のアントルコートだった点に興味をひかれました。今日のフランスでは、食べる食肉に占める馬肉の割合は0.4%程度に過ぎないのですが、ベルシーがワインビジネスで賑わっていたころには、もう少し多く食べていたようなのです。

フランスで馬肉を食べることが許されたのは1866年。最も多く馬肉が食べられた時期は1900年から1960年までだったそうです。しかも、田舎よりパリでの方が食べていた。

馬肉を食べる歴史については長くなるので別の記事にして書きます。


それから、本物というのはバーベキューのやり方にあります。ワイン市場だから使えなくなった古い酒樽があって、それを薪の代わりに燃してバーベキューにしていたわけです。

使い込んだ樽ならワインの香りがしみ込んでいて、その香りがステーキに移るのでしょう。美味しそう...。

剪定のために切り落としたブドウの木でバーベキューをすることもありますが(ボルドーではよくやるらしい)、それほど香りは出ないと思うのですが、ワイン樽だったらいいな...。

ソースのベースは、当然ながらワインですね。赤身の肉なのに白ワインを使うのが面白いと思いました。

昔のフランスで水替わりにワインを飲んでいた時代には、圧倒的に赤ワインを飲んでいたのだそう。とすると、売れ残った白ワインがあったから、それを使ったのではないか、などと思ってしまうのですが、私の当てずっぽうです。


ニュースに登場してアントルコート・ベルシーを懐かしそうに話していた人は、エシャロットの香りがあったのを強調していました。


ワインにエシャロットを入れて肉料理のソースにするものには、ソース・マルシャン・ド・ヴァン(sauce marchand de vin)があります。

こちらは赤ワインで作ります。

このソースの名前になっているマルシャン・ド・ヴァンというのは、普通に訳せばワイン商人なのです。

これもワイン市場と関係があるのではないかと思ってしまうところですが、この名前の由来については調べられませんでした。ボルドーのソースがこれになったということくらいしか出てきませんでした。

ソース・マルシャン・ド・ヴァンの作り方についてはブログですでに書いていました。

sauce marchand de vin
エシャロットを使うソース・マルシャン・ド・ヴァン 2009/03/30


白ワインで作るベルシー・ソースのレシピ

アントルコート・ベルシーと呼ぶ料理はソースにも特徴があるわけで、それはsauce Bercy(ベルシー・ソース)とも呼ばれていました。

日本のサイトにも登場するので、フランス料理のソースの1つとして知られている感じがします。

フランスのサイトではレシピがたくさん出てきたのですが、多少異なっていました。
基本的パターンは2つに分けられるように見えます。
  • フォンドヴォーを入れる
  • 生クリームかモワル(牛の骨髄)を入れてこってりとさせる
とろみがある方が良いのかもしれません。ちょっと邪道ではないかと思いましたが、コーンスターチでとろみをつけているレシピもありました:
☆ Entrecôte Bercy - Recettes - Cuisine française


3種類のレシピをメモしておきます。全てバーベキューではなくて、フライパンで肉を焼いてしまうレシピだったので、肉の焼き方は省略します。


レシピ 1(2人前)
レシピ 2 (4人前)
  • アントルコート2枚
  • 白ワイン 15 cl
  • 濃厚な生クリーム 大さじ3
  • エシャロット 4個
  • レモン 1/2個
  • パセリ 1束
  • クレッソン 1束
  • バター 30 g
  • 塩、コショウ
  • アントルコート2枚(各480 g)
  • 白ワイン 20 cl
  • フォンドヴォー 1O cl
  • バター 40 g
  • エシャロット(大きなサイズ) 5個
  • 刻みパセリ 大さじ1
  • オリーブオイル 大さじ1
  • 塩、コショウ

ソースの作り方:

鍋に白ワインとエシャロットのみじん切りを入れて中火で煮て、3/4にまで煮詰める。

生クリームを加え、塩コショウし、半分にまで煮詰める。

バターをレモンの絞り汁を加える。

軽く泡立て器でかき混ぜ、刻んだパセリを混ぜる。

焼いた肉にクレソンを添え、ソースは別にして好みの量を肉にかける。

ソースの作り方:

20グラムのバターを鍋にいれ、刻んだエシャロットを炒め、白ワインを入れ、半分にまで煮詰めてから塩コショウする。

フォンドヴォーを加えて、さらに10分間煮詰める。

15グラムのバターを加えてゆっくりとかき混ぜ、パセリを加える。

レシピ 3
(6人前)
  • アントルコート2枚(各500 g) 
  • エシャロット 3個
  • 白ワイン 1 dl
  • モワル(牛の骨髄)1個
  • みじん切りのパセリ
  • レモン汁
  • 塩、コショウ
  • バター 100 g



ソースの作り方:

塩を入れた水を沸騰させ、モワルを入れて20分煮る。

白ワインを強火で火にかけ、塩コショウし、エシャロットを煮る。5分たったら、レモン汁、刻んだパセリ、バターを少しずつ入れて強くかき混ぜる。

モワルを引き上げて中の髄を取り出し、ソースに混ぜる。



レシピとして見つかった動画はフォンドヴォーを入れるレシピでした。ニンニク(最後に取り出す)とタイムで香りづけしています。


sauce bercy


牛肉の髄骨でとろみを出すレシピは美味しそう。でも、l'os à moelle(ロス・ア・モワル)というのは店頭には余り並んでいないので入手しにくいと思います。ポトフを作るときには欲しいので、肉屋さんに言うと奥から出してきてくれるので、いつもあるものなのかもしれませんけれど。


牛の髄骨(os à moelle)の料理 2012/02/13


アントルコート専門レストランの秘密のソース

ベルシーのソースを探していたら、パリで話題になっているらしいアントルコートのステーキ専門のビストロについての記事が幾つか出てきました。創業1959年。その門外不出のソースに人気があって、いつもレストランの前には行列ができているのだそう。

1つの新聞記事に入っていたのは、このステーキ:
☆ 10 plats addictifs : L'entrecôte-frites duRelais de l'Entrecôte


その長いこと厳格に守られていた幻のアントルコートの特製ソースをどうやって作るのか分かった!、という新聞記事がありました。

行く価値があるかなと思ったのですが、レストランのコメントを読むと酷評している人もいる。むしろ、貶している人の方が多く見える。パリだから繁盛しているレストランの典型に見えてきたので、行く気はなくなりました。ミシュランのサイトにも入っていましたが、お勧めマークは付いていないし...。

幻のソースの作り方が分かったという記事は10年近く前のものでした。その後、レストランの質が落ちたのかな?...

でも、そのソースの作り方をメモしておきます。私には意外なものを使っているので。

材料
  • 鶏のレバー
  • フレッシュなタイム、タイムの花
  • 液体状の生クリーム
  • ディジョンのマスタード(シンプルなタイプ)
  • バター
  • 塩、コショウ
  1. 鶏のレバーとタイムを弱火にかけて軽く色をつけるうける。
  2. 生クリームとマスタードを鍋に入れて弱火で煮詰め、タイムの花で香りをつける。固くなりすぎてしまった場合は、バターと水を加えてのばすこと。
  3. レバーをミキサーにかけ、シノワに移し、生クリーム加えてこす。
  4. 塩コショウで味を調える。

私でも作れそうなレシピですが、レバーをシノワでこすには力がいりそう...。

今でもビストロの前には行列ができているのでしょうか?

おしゃべりなオーナーの奥様に付き合ってあげなかったらお怒りをかって、もう二度と来るなと追い出されてしまったと長々と報告している人のコメントを読んだら、パリがつまったバターというのを思い出してしまった...。

パリが詰まったバターとは? 2013/05/28


ベルシーのワイン市場がなくなる時期の報道で、ベルシーのソースを語る人たちは懐かしさでいっぱいの表情をしていました。やはり、ベルシーのソースの方が美味しそうに思えてくる...。

これを書きながらフランスの馬肉食についての情報が出てきていたので、それをメモしました:
フランスにおける馬肉食の歴史 2016/02/16


シリーズ記事 【フランスのワイン産地】 その22  目次へ

ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで食べる郷土料理、地方特産食品、外国料理
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
タルタルステーキ: (1) 馬肉 2013/07/21
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
☆ 歴史とレシピ: Entrecote Bercy
☆ レシピ: Entrecôte Bercy
Recette : Entrecôte Bercy de viande chevaline
☆ レシピ: Entrecotes sauce bercy
Recette : Entrecôte sauce Bercy
Recette entrecôte sauce bercy - Cuisine et Vins de France
☆ レシピ: Entrecôte sautée Bercy classique
若潮牛・ロースのポワレ ソース・ベルシー
Bercy, son entrecôte, ses marchands de vin, le « Paris de la Soif » à jamais englouti…. Est-ce là le goût, la couleur qu’il vous faut, ô ! Cher Client !
Spécialités culinaires de Paris
Spécialités régionales de Paris
Le secret de l'Entrecôte enfin dévoilé


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2015/08/12
夏、トマトのシーズンになると食べる惣菜があります。

トマト・ファルシTomates farcies

豚の挽肉とトマトいう安い食材で出来るし、作るのは簡単。

この料理に使う挽肉を売っているのです。大きなトマトの中をくり抜いて、豚の挽肉をぎっしり詰めて、オーブンで焼けば出来上がり。



ただし、人を招待したときのご馳走にはならないし、レストランで注文したくなるという料理でもありません。非常に家庭的な料理なのでしょうね。

トマトからは水分が出るので、それを吸収するために、底に米をいれておくと良いというアドバイスが気に入っています。



米はリゾットのように炊き上がるので、なかなか美味しいです。

たぶん、日本の米だと上手くいかないと思う。日本では外米は不味いと言われますが、料理の仕方が違うのですよね。

フランスでRiz cantonaisというのは、日本人には馴染みのあるチャーハンのことだと思う。それが好きだという友人がいたので、それなら私も作れると言って日本から持って来た米で作ったことがありました。そうしたら、中華料理店で食べるようにサラサラしていなくて、つまりベタベタしていて、全く美味しくないと貶されてしまった...。

トマト・ファルシの作り方をリンクしておきます:


一番目のはフランス人から教えてもらったレシピなのだそう。私が教えてもらったのもこういう簡単レシピでしたが、フランスではハーブなど色々入っているトマト・ファルシ用の豚の挽き肉が売られているので、それだけだと少し物足りないのではないかと思う。肉が固まってしまうのは好きではないので、私も玉ねぎのバター炒めを加えています。


テリーヌにしてしまう

トマト・ファルシは、フランスでは余りにもありふれた料理なのがつまらない。

バリエーションとして、トマトの代わりに、同じく夏の野菜であるズッキーニをくり抜いて作るというレシピもあります。でも、ズッキーニは小さいうちに食べた方が美味しいと思うので、ファルシができるほど大きなズッキーニで料理する気になりません。

それで、ロールキャベツにしてしまおうではないかと思いました。

でも、キャベツを茹でてみたら、うまく丸められない。それで、材料が同じなら同じ味になるのではないかと思って、テリーヌ型に入れて作ってみました。


ロールキャベツを作れないので、テリーヌにしてしまう 2013/07/25

これだと、形を整える必要はないので、挽き肉をサンドイッチのようにして、キャベツの他にズッキーニの薄切り、トマトなども入れることができます。

蓋をして焼くわけなので、オーブンの温度を低くしておけば、焦げてしまうこともないので便利。キャベツが余ったときなどに作るレパートリーになりました。


ブドウの葉を使う

家の外壁にブドウの木がつたっているのですが、実は感激するほどには美味しくないのです。でも、葉の方はとても美しいと思うので飾りによく使っています。どうせ食べきれないので、実がついている枝も惜しげなく切ってしまいます。

 

今年は、ブドウの葉を料理に使ってみようと思いつきました。ギリシャ料理にブドウの葉を使うものがあるので、食べても大丈夫なはずではないですか?

トマト・ファルシのレシピで、トマトの代わりにブドウの葉で包んで、それをグラタン皿にびっしり入れて、オーブンで焼いてみました。



くっついている部分は、ブドウの葉の緑色が残っているので色どりになりました。でも、少しトマトも入れたりした方が食慾がでる色合いになった、と反省。

ブドウの葉は、意外にも美味しく食べられてしまうのだと知りました。緑色が残っている部分はもちろん、焼けてパリパリになっている部分もOK。ほんのりとブドウの葉の風味がついていて、とても美味しく仕上がりました。ギリシャでブドウの葉を使った料理を食べたときには、美味しいとも思わなかったような記憶があるのですが。

なにしろ、ここはブルゴーニュ。ブドウの葉を使うと、なんとなく楽しくなる♪


トマト・ファルシにする挽き肉とは?

肉屋さんで売っている豚肉には2種類あります。


ロールキャベツを作れないので、テリーヌにしてしまう 2013/07/25

chair à saucisses(左)とfarce à tomates(右)。他にも呼び名があったような気がします。

この際、この2つの挽肉の違いは何処にあるのか調べてみました。

右のにトマトという文字があるので、トマト・ファルシにはこれを選ぶべきなのだろうと思っていたのですが、トマト・ファルシのレシピでは左のを使っているのもかなりありました。

左のはソーセージにする材料のはずで、豚肉と調味料でできている。右のは、牛肉やハーブなども入っているようです。トマト・ファルシのレシピで左のを使うときには、自分でハーブなどを色々入れるという形になっていました。

chair à saucisseとfarce à tomatesには厳格な決まりはなく、肉屋さんがオリジナルで作っているようです。

私がいつも買う農家直売ではfarce à tomatesは牛肉ではなくて鶏肉を混ぜているのだと言われました。どうりで、他の店のより軽くて食べやすい。考えてみたら、この農家では牛は飼っていなくて、豚の他に飼っているのは家禽類とヒツジなので、当然なのでした。


◆ レシピの改善を探す

トマトをくりぬいて、そこに山羊のチーズを詰めるというレシピがありました:
Tomates farcies au chèvre simplissimes minutes

ちらっと見て、それも面白いかと思って、小さ目のトマトで実験したら、失敗。

あとでレシピを見直したら、私は勘違いしていたのだと気がつきました。

トマト・ファルシとあるので、ひき肉の代わりに山羊のチーズを入れてオーブンで焼くのかと思ったら、ベビートマトに山羊のチーズを入れるだけという前菜なのでした。

焼いてしまうとトマトもチーズも溶けてしまうので美味しくない。

庭に小さな赤とオレンジ色のトマトがなりだしたので、改めてやり直してみました。

生のままで食べたら、さっぱりしていて美味しかったのです。

レシピでは、山羊のチーズに生クリームとハーブを入れて混ぜてからトマトに詰めるというものでした。私はブルゴーニュ南部のマコネ地域で作るfromage fort(フロマージュ・フォール)をそのまま使いました。これは、古くなった山羊のチーズを利用してブドウ収穫期に作り、春まで食べるという保存食のチーズ。

これはクリーム状のチーズなので、そのままトマトに入れれば良いわけです。いたって簡単にできてしまうのが気に入りました。

フランスではアペリティフにベビートマトを出す人がよくいますが、これにするとしゃれていて良いですね。


ブドウの葉を使ったファルシが気に入ったので、もっと美味しく作りたい。こういうのは他の人もやっているだろうと思って、レシピを探してみました。

フランス語でレシピとブドウの葉をキーワードにして画像検索

ブドウの葉の色が悪くておいしそうに見えないのです。

葉を茹でるか何かするのかなと思ってレシピを覗いてみたら、フランスではエスニックの食材を売っている店でブドウの葉も売っているらしいのでした。

塩漬けとか、オリーブオイル漬けにして保存しているのかな?...

商品を探し出してみたら、塩水に漬け込んでいるようです。

そうやるとブドウの葉が保存できるのかな?...


鴨のマグレをブドウの葉で包んで焼くというレシピが出てきました:
Un magret de canard cuit en feuille de vigne

ちょっと手が込んでいますが、おいしそう。いつかやってみたいな。ブドウの実も使うので、作れるのはもう少し先ですね。



ブログ内リンク:
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
★ 目次: ハム・ソーセージ類、豚について
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外部リンク:
☆ Wikipedia: ファルス (料理) » Farce (cuisine) » Stuffing
Chair à saucisse


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2015/07/25
鴨肉は好きな食材です。朝市に出ている農家の直売で鴨を見たら、北京ダック風に料理してみたくなりました。

フランスにある中華料理店では、めったに北京ダックを作らないのです。

「Canard laqué」という料理は、どの中華レストランにもメニューに入っている感じがしますが、皮を別にして薄く焼いた小麦粉の皮で巻いて食べる北京ダックの料理ではないのです。

「北京(Pékin)」の文字を付けて、Canard laqué pékinoisCanard laqué de Pékinなどと書いてある料理でないと、私たちがイメージする北京ダックは出てきません。


フランスでも鴨肉が少し高級食材ではありますが、ご馳走を食べたいときだけに買うというほどのお値段ではありません。

従って、フランスで北京ダックを食べるのは、それほど贅沢な食事にはなりません。鴨肉の皮を食べて、肉の部分は炒め料理になって、骨はスープになって出てくるという具合。4人で分けて食べられる1羽をオーダーしただけでフルコースになるのですから、安上がりの食事にもなります。

北京ダックをフランスで食べまくってやろうと思った時期があったのですが、パリ市内か、パリに近い地域にあるレストランでないと北京ダックには出会えませんでした。

久しくパリには行っていないので、北京ダックも久しく食べていない。

それで、自分で作ってみたくなったのでした。

といっても、本格的な北京ダックを私が作れるはずはない。それ風の料理を作ってみるイメージを抱いただけのことです。


実験用に、鴨の骨付きもも肉を買う

丸ごとの鴨は大きいので、失敗したらもったいない。それで、家禽類を放し飼いで飼っている直売農家が売っていた骨付きのもも肉を1枚だけ買いました。

マグレの方が骨がないので扱いやすいと思ったのですが、1枚だけしか売れ残っていなくて、何となく色に元気がない。それで、骨付きもも肉にしたのです。

写真は撮っていないのですが、下のような肉です。

私が買ったのは、1枚でもかなり大きかったです。大食漢でなかったら、2人で1枚でも良いくらいの大きさ。


過去に作った北京ダック風

実は、以前にも簡単に北京ダック風に鴨を料理してみたことがありました。

鴨のマグレで北京ダック風を作ってみた
2013/03/18

フライパンで作る、皮パリパリ、北京ダック 」というレシピを参照。

皮をはがして焼きました。カオヤービンという小麦粉の皮まで作ったわりには感激するほど美味しくはなかった。

ブログに書いていたことを読んだら、もう二度とやってきたいとは思わないと書いていました。つまり、完全な失敗作!

ただし、レシピにあったカオヤ−ビンは簡単にできるのに、非常に美味しかったです。
 
蜂蜜を塗った鴨の北京ダック風丸焼
2013/03/19

こちらは、以前に鴨をオーブンで丸焼きにして、蜂蜜を塗ったことがあったということだけを書いた日記。

オーブンで焼いて、最後に蜂蜜で照りをだし、皮をはがしただけ。いたって簡単。これでカオヤービンも作って食べたら十分ではないかと思ったのでした。


鴨の骨付きもも肉で、北京ダック風ロースト

鴨肉を買ったものの、骨付きだとだめかと家に帰ってから気がついたので、北京ダック風は諦めて、普通にオーブンで焼いて食べようかと思いました。

でも、念のためにレシピを探してみたら、出てきたのです。日本人は北京ダックが好きなので、レシピは無限にあるように思いました。

今回、参考にしたレシピは、こちら:
シャラン鴨の北京ダック風ロースト - 鴨肉(カナール)レシピ

材料がフランスの鴨肉を使っているのも惹かれた理由。でも、シャラン鴨となっているので、私が買ったバルバリー鴨とどう違うのかが気になって、前回の日記で書きました:
シャラン鴨って、なに?

調べてみたら、シャランと呼ばれる鴨は謎に満ちていて面白かったです。


このレシピで料理した感想:
フランスで出す鴨肉料理とは少し味が変わっていて、なかなか美味しかったです。皮は北京ダックのようにはがさなかったので、フランス人に「Canard laqué(カナール・ラケ)です」と言って出したら通用してしまうのではないかと思ったほど。

レシピに書いてある材料には手元にないものがあった、次のように変えました。


レシピの材料代用した材料
骨付き鴨モモ肉
(シャラン種 冷凍)
4枚骨付き鴨モモ肉
(バルバリー種 生)

鴨肉をオーブンで焼くソース(180度、1時間)
500万年前の塩適量普通の塩
チキンストック、
またはダックストック   
600ccチキンストック
みかんの絞り汁2個分バルザミコ酢
赤ワイン
玉ねぎ中分の1新玉ねぎのスライス
鴨肉をオーブンで焼くソース(250度、30~40分)
水あめ大さじ2     蜂蜜、水、醤油を混ぜた
小さじ1
荷葉餅(10枚分)なし


チキンストックとして使ったのは、次のブログで書いたマジー社のチキンコンソメ。3つ星シェフが内緒で使っているというスープの素:
調理チームに入ってみないと、レストランの評価はできない 2014/12/05

煮込むにはワインを入れた方が美味しくなるのではないかと思って、飲み残しがあった赤ワインも少しチキンスープに入れました。

みかんの絞り汁というのはない。レモンだと強すぎてしまうのだろうと思って、かなりトロトロ状態で酸っぱくはないバルザミコ酢を使いました。

あらかじめチキンスープを少し入れて1時間も蒸し焼きにして大丈夫なのかと心配したのですが、骨からもスープが出て肉の味が良くなったのかもしれません。それに、食材を調達した直売農家では家禽類を放し飼いで飼っているので、肉そのものが美味しいのです。

蒸し焼きした後は冷蔵庫に寝かせておいて、翌日に強火のオープンで焼き上げました。

鴨肉の皮ははがさずに、肉を切って荷葉餅に巻いて食べるというレシピでした。私は荷葉餅を作らなかったので、レタスに鴨肉と野菜で巻いて食べました。野菜は、エシャロット(スライスして水にさらした)、それから庭に生えているセロリ、チャイブ、シソの葉も用意。

レタスで巻いて食べると脂身が消えし、フランス人にはエキゾチックなので、これでも充分ではないかと思いました。


写真を撮っておけば良かったな。皮はパリっとして、なかなか食慾をそそる出来栄えになったのです。

試食させたフランス人たちも美味しいと言っていたので、合格ではないかな...。

前日に下ごしらえしておけるので、人を招待したときには当日に仕上げをすれば良いだけ、というのも料理の手際が悪い私向きのレシピ。オーブンの中で焦げてしまわないかと注意していなければならないのは、せいぜい20分くらいなのも良い。

私のレパートリーに加えようかと思いました。でも、こういう肉を6枚くらい焼くのは、やはり失敗しないかと緊張してしまうでしょうから、何回か日常の料理として作って練習してみないといけない...。




ブログ内リンク:
★ 目次: レシピ、調理法、テーブルウエアについて書いた記事
★ 目次: フランスで北京ダックの食べ歩き
★ 目次: フランスで食べる鳥肉と卵(鶏、鴨、ウズラ、鳩、卵など)
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ


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2015/07/24
日本にいるとき、食材の種類が少なくてつまらないなと思うのは、肉類。特に寂しいのは家禽類。普通の店では鶏肉しか売っていないのですから。

フランスで普通に買える家禽類としては、ニワトリの他に、鴨(カナール)、ほろほろ鳥、七面鳥があり、これらは丸ごとでも、部位を選んででも買えます。小さいので丸ごとでしか売っていないのは、ウズラ、鳩。冬のジビエのシーズンには、野鳥もありますが。



矢印を入れたのはバルバリーという種類のカモ(Canard de Barbarie)。値段は1キロ9ユーロ弱と表示されていますが、これは2年前に撮影した写真です。

バルバリー種はフランスで食べる鴨の中では最もポピュラーな鴨の品種のようです。フランスで北京ダックを出す中華料理店では、大きな鴨なのでこれが北京ダックにするには最適なのだと言っていました。

先日、この写真を撮った直売農家が売っていた鴨を見たら、北京ダック風に料理をしてみたくなりました。失敗する可能性が大なので、実験用として骨付きもも肉を買いました。

インターネットで探し出したレシピで作ってみました。レシピにある材料で持っていないものは別のもので代用したのですが、なかなか美味しかったのでした。どういう風にしたかをブログにメモしておこうと思って書き始めたのですが、参考にしたレシピの材料にあった「シャラン鴨」というのにひっかかって調べだしてしまいました。

簡単に何なのかが分かると思ったのですが、そうではなかった。日本語情報でも、フランス語情報でも、はっきりしたことが出てこないので、手こずってしまいました。


シャラン鴨って、なに?

ロースト用の鴨肉(canard à rôtir)を食べることに関して、フランスは世界1なのだそう。これは国民1人に対する数の比較で、第2位は中国。フランス国内で食料される鴨は、年に85,000万羽。

家禽類業界の情報サイトでは、フランスで生産されているロースト用とフォアグラ用の鴨(カナール)としては、次の4つに代表させていました:

シャラン鴨というのは、フランスでも質が良いとして知られる「Canard de Challans(シャランの鴨)」で、この4つのカテゴリーでは「半分野生種」というのに入るのだろうと思います。

Challans(シャラン)というのは、ペイ・ド・ラ・ロワール地方ヴァンデ地域にある人口2万人くらいの町の名前です。そこが原産地として名前が付けられているのでしょうね。

この品種のカモ肉は食べたことはない気がします。遠くにある地域なので、ブルゴーニュではめったに売っていないのではないかという気がします。私は近郊の農家の直売を買いますので、いくらシャランの鴨が美味しいと言われても、食べてみたいと思ったことはありませんでした。

このcanard(カナール、鴨)が何なのか、容易に調べられないのです。Wikipediaのフランス語ページには鴨の品種一覧があり(Liste des races de canards)、そこにフランスの鴨として「Challans(シャラン)」が入っているのですが、ページが作られていない。これだけ有名なのに、記載がないのは奇妙ではないですか?

シャランの鴨のことを検索していると、「canard de Challans(シャランの鴨)」という呼び名の他に、「canard challandais(シャラン地域の鴨)」というのも出てきました。この2つの呼び名には区別する基準があるのだろうか?、というのがまず始めのつまずき...。


ビュルゴーのシャラン鴨

日本のサイトでは、「シャラン鴨」を販売している人や、グルメ情報を出しているサイトでさかんに紹介していました。

Canard de Challansとcanard challandaisとの違いを書いている日本語のグルメ情報もあったのですが、スペルを間違っているのは無視しても、なんとなく腑に落ちないことが書いてあるので信じられない...。

日本語の方がななめ読みができるので楽なのですが、仕方なしにフランス語情報に戻りました。

日本で言われる「シャラン鴨」がもてはやされているのは、パリのど真ん中にある3つ星レストランとして名をはせていたトゥール・ダルジャン(現在は1つ星)の名物料理が、番号を付けた鴨料理で、その食材がシャラン鴨だったのが原因なのだろう、と思いました。

トゥール・ダルジャンにシャラン鴨を提供しているのは、Burgaud(ビュルゴー)社なのだそうです。

この会社を紹介していう記事を見たら、全く食慾をそそられない建物の写真しか入っていないので、なに、これ? と思いました。

どういう風に育てているかが食肉の味を決めるのに...。この写真を見たら、ブロイラーの飼育農家かと思ってしまうではないですか?!

雇用者は13人で、業績も上々ということで、施設を拡張したという2012年のニュースでした。

家族経営の小さな会社らしいのに、週に鴨肉を3,000羽を商品化していて、クリスマスから正月にかけてはもっと多い量をさばく、というのも奇妙。

...と思ったら、ビュルゴー社は、契約している数軒の飼育農家の鴨肉を畜殺して販売している会社らしいのでした。特殊技術で鴨を処理する技術があることで知られ、この地域の鴨を世界的に有名にした会社だそう。

イエローページの情報では、シャラン市にある企業で、業種は家禽類とジビエの畜殺場となっています。販売しているのは、家禽類、canards challandais(シャラン地域の鴨)、canards au sang(放血していない鴨)。

つまり、ビュルゴーの鴨というのは、信頼できる原料と処理方法で商品化されるブランド名と受け取れば良いのだろうと思いました。

日本は大きなお得意さんだそうです。私は、鴨は日本ではめったに食べられないと思っていましたのですけど...。

でも、楽天市場で検索してみたら、フランス産の鴨肉はかなりの数がヒットしました。ビュルゴー社に絞ってもかなり残るので、日本にたくさん輸出されているというのは本当らしい。

フランス産 鴨肉を楽天市場で検索

少なくともビュルゴー社が売っている鴨は、日本で「シャラン鴨」としているのは間違いなさそう。でも、2つの点で混乱するのです。


Canard au sangって、なに?

ビュルゴー社が売っている鴨は2種類ありましたが、特別なのはcanards au sang(放血していない鴨)。

「canards au sang」というのは、辞書を引くと料理の名前となっているのですが、それができる鴨を売っているということなのでしょうね。この会社では、首の後ろから針を刺して鴨を仮死状態にさせて、血を抜かないで殺す方法(エトフェ)をしているそうです。

小規模で鶏を飼っている農家の民宿に泊まったとき、変な道具があるので何なのか聞いたら、一瞬に感電死させるような道具でした。ニワトリが苦しまないようにフランスでは義務付けられていて、特別な技術を持つ免許がないと、それ以外の方法を使ってはいけないのだと説明されました。

日本で売っている「シャラン鴨」の説明では、ビュルゴー社が「エトフェ」をしていると書いてあることが多いようです。

鴨肉の種類に関するネットショップ情報

その方法ができる会社であることは確かですが、販売項目としてcanard challandais(シャラン地域の鴨肉)とcanard au sang(放血していない鴨)とに分けているのですから、販売する鴨の全てをエトフェをしていないのではないかと思うのですが、どうなのでしょう?

ウサギ肉もエトフェするのが美味しいとされています。ウサギの生血をボトルに入れて付けてくれる直売農家もあるのですが、血は全く日持ちはしません。血が残っている生肉を日本にまで輸送したら危険ではないですか? ビュルゴー社では冷凍技術もあるそうなので、エトフェの肉は冷凍で輸出するのかな?... 分からない。


canards au sang」という料理では、右のような特別の圧縮機を使って、鴨の血液をソースのつなぎとして煮汁にかけるのだそう。

19世紀半ばにトゥール・ダルジャンで考え出された有名な鴨料理ですが、そこに行かなくても食べられるレストランがあるようです。

ルーアン市(ノルマンディー地方)のレストランで「Canard au sang」のデモンストレーションしている動画がありました。


Miam ! Le canard au sang

こんなに手間をかけて作るとしたら、お料理の値段が高くても納得してしまうかもしれない...。

このレストランで、この料理が出たという詳しい報告もありました:
【とっておきのヨーロッパだより】鴨のちょっぴり美味しい話・・・かも!?

Canard de Rouenルーアン市にあるレストランなので、シャラン鴨(Canard de Challans)ではなくて、地元のルーアン鴨Canard de Rouenを使っているそうです。

Wikipediaの記事「Canard au sang」では、この料理を作るにはルーアン鴨が望ましいと書いてあったのですが、そこに根拠を書くようにという指示が付いていたの面白かった。地元の人が書き込んだのかな...。

日本にはルーアンの鴨は入ってきていないように感じました。食肉の輸入は規制が厳しいからか、ルーアン鴨の生産量が少ないからなのか?...

疑問が多くなると混乱するだけなので、ルーアン鴨の方は飛び去っていただきます。


Canard de ChallansとCanard challandais。両方ともシャラン鴨?

ビュルゴー社が売っている鴨では、もう1つ、「canard challandais(シャラン地域の鴨)」がありました。この呼び名だと、その地域で飼育されている鴨で、品種には関係がないのかもしれないという気もする。

「Canard de Challans(シャランの鴨)」とは違うのだろうか?... 日本で言う「シャラン鴨」とは、どっちのこと?

トゥール・ダルジャンでは、この地方の鴨を仕入れて料理に出し、鴨にナンバーを付けていますが、その番号は2003年に100万に達したのだそう。レストランのサイトでは、出す鴨のことを「canard challandais」と呼んでいました。

Canard de Challansとcanard challandaisは、区別されていないのではないかな、という気がしてきました。政府認定の高品質食材の保証マーク「ラベル・ルージュ」を持った鴨もあるのですが、AOC/AOPほどには厳しい規制がある品質保証ではないので、よく分かりません。


Canard de Challans(シャランの鴨)」は、昔は「canard nantais(ナント地域の鴨)」とも呼ばれていた品種の名前なのは確かなようです。飼育の歴史は17世紀にさかのぼる、というのが有名な話し。

Canard de Challansという品種の鴨は、こういう姿なのだそうです:
CANARD DE CHALLANS


右に写っている頭が緑色のがオス。お隣がメス。野生の鴨と飼育鴨の掛け合わせで生まれた品種だそうで、雄の頭が緑色なのは、フランスでよく見かける野生の鴨「Canard colvert(マガモ)」を思わせます。

「canard de Challans」をキーワードにして画像検索すると、こちらのエコミュージアムのサイト情報でも、こちらのサイトでも、同じ姿の画像を入れているので、確かなことだろうと思います。

メスの方は、さっきのルーアン鴨に似た色をしていますね。

ところが、奇妙...。

このCanard de Challans(シャランの鴨)は、1960年代まではブルターニュ地方やヴァンデ地方で野外で飼育されていた鴨であるが、農業の近代経営によって、ほとんど消えてしまった品種だ、と書いてあるのです。

シャラン鴨は日本にも輸出されているくらい流通しているのですから、変ではないですか?

「Canard de Challansをご存知ですか?」と題したページが出てきました:
☆ Visite Gourmande en Vendée | La Radio du Goût

このページでは、「Canard de Challans」は、1650年ころに作られた品種の鴨。昔は「canard nantais(カナール・ナンテ)」と呼ばれていたのは、この鴨がシャランで飼われていて、ナント地域の業者がパリに運んだから、などと説明しています。なので、同じシャランの鴨の話しだと思えます。

でも、上に写真を入れた「Canard de Challans」とは違う品種ではないように見えます。みんな真っ白ですから!

「Canard de Challans」を飼育している農家の動画があったので眺めました。


Histoires de Vendée : Le canard de Challans

鴨の赤ちゃんが野外に出るまで、暖かい小屋で6週間過ごすと言っています。その後に放し飼いにされた鴨が登場するのですが、やはり黒い帽子をかぶった白い鴨...。


北京ダック?!

別にシャラン鴨を食べたいわけではないので、これがどんな鴨なのかを突き止めようとするのは放棄しようと思ったとき、地元新聞の記事を見つけて謎が解けました。

現在のCanard de Challansは、その名前で呼ばれていた昔の品種とは同じではない。まず、見た目が全く違うと書いてありました。「本物の」という後にcanard challandaisという言葉を使って、それとは違うのだ、と記述されていました。つまり、Canard de Challansとcanard challandaisという2つの呼び名は同じということなのでしょうね。

こんにち市販されている「Canard de Challans(シャランの鴨)」は、Canard de Pékin(北京の鴨)とのハイブリッドになっているのだそう。

なるほど、北京の鴨は白いのでした。

昔の品種を飼育している人は、現在では地元でも数人しかいないとのこと。

そういう希少価値がある鴨なら食べてみたいな...。でも、ブルゴーニュの農家が育てている鴨も充分に美味しいので、それ以上のがあるかと疑うけれど...。


北京ダックでしたか。

どうでも良いことを調べまくってしまったのですが、北京ダックもどきを作ろうと思って書きだしていたのだから奇妙な偶然の結末...。

脱線は終わりにして、もともと書きたかった北京ダックもどきの料理を作ったことを書きました:
鴨の骨付きもも肉で北京ダック風ローストを作ってみた


追記 (2016年1月):

別の記事に対して入れてくださったコメントにあった情報から、日本で使われている「シャラン鴨」という単語は、「canard challandais」に対する訳語らしいと分かりました。


ところで、「canard de Challans(シャランの鴨)」と「canard challandais(シャラン地域の鴨)」の違いとは何かばかりを書いてしまったのですが、書き忘れていたことがあります。

この地域で生産される鴨は、条件が合えば与えられる国家が認めた品質保証マークがあります。

Logo IGP
まず、生産地域を限定して与えられる保護地理的表示のIGP(Indication géographique protégée)。

これはEU連盟の品質保証マーク。

Volailles de Challans(シャランの家禽類)の名で、鶏、鴨、七面鳥、ほろほろ鳥、ウズラなどの家禽類に対して与えられます。

「シャロンの家禽類」としてIGPマークを付けて販売することができるのは、301のコミューン(市町村)で生産された鶏や鴨などの家禽類に限ります。


Label Rougeそれから、シャラン地域の家禽類について認められているラベル・ルージュ(農作物・農産加工食品に与えられる国家品質保証マーク)。

こちらは、家禽類の品種や飼育方法などを規定しています。

ラベル・ルージュを持つCanard de Challans(シャランの鴨)としては、Canard fermier(オス鴨)、canette fermière(メス鴨)があります。

シャランの鴨(カナール、カネット)にラベル・ルージュが与えられたのは1985年。
この認可を得ている生産者数は150ほどあるとのこと。

ラベル・ルージュ付き「シャランの鴨」に対する主な規定
  • 鴨の品種は、白と黒のバルバリー種に限る
  • 伝統的な飼育法をされていること
  • 飼育地域は、ロワール河から流れる水がある数10キロに限定された沼地
  • 主な食べ物は穀物類だが、自然の中で放し飼いにされるので昆虫などでも栄養が補われる
  • 動物性の脂や粉末を与えることは禁止
  • 74日間は水辺で生活させること。飼育期間は最低で雄は84日間、雌は74日間。
  • 飼育地の広さは、鴨1羽あたり2.5m²以上
フランスで最も厳しい品質保証ラベルはAOC/AOPです。それに比べるとラベル・ルージュはかなり緩やかな規制です。例えば、AOC/AOPを持つブレス産の家禽類には気が遠くなるほどたくさんの規制があります。

飼育環境について例を挙げて比較すると、AOC/AOPブレス若鳥の場合は1羽につき10m²以上、ラベル・ルージュの鳥肉では1羽につき2m²以上(放し飼いと表示する場合は4m²以上)と差があります。ちなみに、日本の「地鶏」のJAS規格は、1m²に10羽以下!

シャランにAOC/AOPの鴨肉がない限り、ラベル・ルージュを持つものが最も優れているのではないかと思いますよね。でも、そのラベルを持つためには、鴨はバルバリー種でなければならないことになります。昔から珍重されていたけれど、今では絶滅の危機にさらされていて入手が非常に困難な「本物」のCanard de Challans(シャランの鴨)は、ラベル・ルージュのレッテルを付けて売るわけにはいかないことになります。食通の人たちは、ちゃんと分かっているから問題ないのでしょうね。



ブログ内リンク:
★ 目次: フランスで食べる鳥肉と卵(鶏、鴨、ウズラ、鳩、卵など)
トゥール・ダルジャン名物の鴨料理 2006/02/24
ミシュラン2006年版ガイドブック発売ニュースのトップ記事はトゥール・ダルジャン 2006/02/23
★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
鴨類の呼称について
APVF, association pour la volaille française  volaille-francaise » Savoir reconnaître une volaille française
les races avicoles Vendéennes
Cuisine française: Canard - Produits
France : le Canard de Challans
Keldelice: Le canard de Challans
Ville et Pays de Challans: Le Canard de Challans
Le canard challandais à la conquête du monde
Libération: La Tour d'argent millionnaire en canards
Volailles de Challans » Canard fermier
AOC IGP AOP : Volailles de Challans
Canard de Challans - Exiger ce produit Label Rouge et IGP*, au goût unique du marais


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カテゴリー: 食材: 肉類 | Comment (9) | Top
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2014/01/12
家禽類が私の好物です。フランスで食用にされるトリには色々な種類があるので、日本に帰ってくると、それが一番つまらない...。

ニワトリにしても、性別、育て方、年齢によって色々な種類があります。その他、、鴨(アヒル)、ガチョウ、ホロホロ鳥、ハト、ウズラ、七面鳥。

これらの食材は、普通に手に入ります。それほど普及はしていなけれど、鳥の肉としてはダチョウもあります。それから、狩猟シーズンに登場するジビエの野鳥たちもある...。


七面鳥

とり肉が好きと言っても、好きなのは大きさからいってガチョウどまり。七面鳥を食べたいという気持ちになることは、まずありません。

丸ごと買うのを原則にしているので、やたらに大きい七面鳥を見ると食欲がわいてこないというせいもあるはず。

Wild turkey eastern us Large White turkey female

自分で七面鳥を買うことがないので、出会うのは安い料理のときです。こういうのはコストを安くしている料理なので、当然ながら、美味しくない。 二度と食べたくないと思ってしまう、パサパサのもあります。

七面鳥には安いトリ肉だというイメージが私はできてしまっていまっているために、食指が動かないのだろうと思います。それで、フランスで出会う家禽類の中では、私にとって七面鳥は最も縁が薄いトリ肉の部類に入ります。

ほとんど何も知らない七面鳥について、少し調べてみたくなりました。

日本で七面鳥を売っているのを見かけたことはないのですが、ちゃんとネット販売はされていました。

右に入れたのはアメリカ産の丸焼きで、重量6キロ、焼き上がり4.5~5キロなのだそう。

ショップの説明を見ると、1羽で12~14人分とありました。

これはかなり大きいのでしょうね。フランスのレシピの材料をみたら、3キロの七面鳥をローストにするというのが多かったです。それで8人分。


クリスマスには七面鳥を食べる?

七面鳥が気になったのは、前回の日記「日本の人気クリスマス料理はファーストフード?!」を書きながら出てくる日本語のページを読んでいたら、欧米のクリスマスでは七面鳥を食べるものだ、と断定していたからでした。

日本ではクリスマスにはケンタッキーのフライドチキンに人気があると発見したことを書いたのですが、KFCがクリスマスと結びつけて宣伝するようになった1974年。七面鳥を入手しにくい日本にいる外国人たちがクリスマスに鶏肉を食べているのを見て、アイディアを思いついたのだそうです。

今日のフランスで、クリスマスには七面鳥を食べることにしている家庭は、どのくらいの割合なのだろうか? レシピを探すとたくさん出てくるので、昔の伝統を守っている家が多いらしいとは想像できます。

でも、私がクリスマスの食事に招待されたとき、七面鳥の丸焼きを出されたことがないのです。クリスマスイブというのは家族だけで過ごすのが普通で、他人を呼ぶとしても家族のように親しい人だけ。なので、色々な家庭のクリスマス料理を味わっていないため、一般的な事情については判断できません。



年配の友人たちは、「子どものときにはクリスマスには必ず七面鳥を食べた」と語ります。七面鳥に栗を詰め込んだ丸焼き料理「Dinde (farcie) aux marrons」で、これがフランスの伝統的なクリスマス料理の定番なのだそう。

でも、思い出話をする友人たちは、美味しくて嬉しかったという顔をしては語らないのです。

七面鳥をほおばって、さらに付け合せの栗を食べて、窒息しそうなくらいお腹が膨らんだ、という話し。

つまりは、むしろ恨みの料理みたいな言い方をしています。

Dinde de Noël en Aveyron右に入れたのは、Wikipediaの「クリスマスの七面鳥(Dinde de Noël)」という項目に入っていた写真です。

普通の七面鳥はここまでは大きくはないと思うのですが、ガチョウよりも大きいので、子どもが10人くらいいた昔の家族が集まってご馳走として食べるとなったら、向いている食材です。

大家族では七面鳥1羽でも足りないので、付け合せをお腹が膨らむ栗にする、というお母さんのテクニックではないでしょうか?

こういうお腹が膨れるクリスマス料理はフランス人に定着したイメージのようで、フランスの人気歌手Renaud(ルノー)の歌の中にも、栗詰めの七面鳥のクリスマス料理と窒息を結びつけていました。これが面白かったのですが、書きだすと脱線が長くなってしまうので、次回の日記でご紹介しようと思います。


フランスにおける七面鳥の歴史

クリスマスに七面鳥を食べる風習は、いつできたのか?

クリスマスのご馳走として、家禽類、特にガチョウを食べる風習が昔からあったのだそう。

16世紀後半、スペイン人が新大陸からヨーロッパに七面鳥を持ち込み、珍しい食材ということで、フランスでもご馳走の食材となったそうです。

メソアメリカでは紀元前1300年頃から七面鳥が飼育されていたとのこと。新大陸を発見したコロンブスは第1回目の旅行で七面鳥に出会い「羊毛のような羽を持った大きな雌鶏」と表現していたそうです。

アメリカ大陸から来たと聞くと納得できることがありました。七面鳥はフランス語では「dinde」なのですが、「インド」を連想させる言葉なのです。アメリカ大陸を発見したコロンブスは、始めはインドだと思ったと言われます。だから、原住民がインデァンと呼ばれる。

だから七面鳥も、フランスに入ったときは「インドの鶏(poules d'Inde、coq d’Inde、poule d’Inde)」と呼ばれたのだそう。「インドの」というところだけ残って「ダンド」となったのですか。ただし、学名はgallopavo

でも、不思議なことに、英語では七面鳥はターキー(turkey)ではないですか?  なぜ「トルコ」が登場するかは色々な説があるのでしょうが、フランス情報では英語圏の国々にはトルコ経由で七面鳥が入ったのからと説明されていました。日本のサイト「語源由来辞典」では、そうではないと言っていますが(ターキーの語源・由来)。

フランスに入った七面鳥は直ちに気に入られたようです。フランソワ・ラブレー(François Rabelais)の『ガルガンチュワ物語(1534年)』には、「poulles d'Inde(インドの雌鶏)」として七面鳥が登場しています。

大きいので丸焼きにするのは難しいため、詰め物をする(ファルシー)レシピが普及します。肉そのものには味があまりないので、調理人の腕によるところが多かったのでした。

でも、飼育可能な七面鳥は確保できる食材としての価値は大きかった。数カ月前の日記に書いたように、フランスで肉牛の飼育が本格的になったのは、たかが17世紀でした。
これは「雄牛御殿」と呼べる城? 2013/09/07

野生動物を食べることが多かったわけで、 それでは食糧難の時期があったはず。

始めは珍しい動物だし、肥えさせるためにはコストもかかるので、七面鳥は非常に高価な食材でした。食べられる貴族やブルジョワ階級でないと食べられなかったのですが、時代とともに手頃な値段になっていきます。

1538年には、七面鳥1羽の価格は雌鶏8羽分を上回っていました。1711年には、2羽分までに下がっています。

19世紀になると、クリスマスに食べる詰め物の七面鳥になり、20世紀になると庶民の口にも入るようになる。さらに、集中飼育法が開発されて、さらに丸ごとではなく部分で売るようにもなり、安価な食材になってきたのでした。


七面鳥といっても色々...

七面鳥の飼育はアメリカで最も盛んですが、フランスは世界で2番目の生産量になるのだそう(年間生産量は625,000トン)。

こうなると集中飼育されている七面鳥が多いというでしょうから、不味いのと美味しいのの差が大きいのだと思います。中には、七面鳥って、こんなに美味しかったのかと驚くものに出会うこともあるのです。

クリスマス前の七面鳥市の動画がありました。百年の歴史を持つFoire aux dindesだそうです:


Pour Noël: choisir sa dinde vivante

買いに来たマダムたちが、生産者を知っているから美味しいと分かるのだ、と言っていますね。

最後に食事会の料理を作っている場面が出てきますが、これは美味しそう。キャベツをチキンスープで煮込んで、生クリームもたっぷり入れています。七面鳥は、農家が手塩をかけて飼育したものであることのほかに、いかにパサパサにしないように仕上げるかも腕のみせどころなのです。

栗を詰める伝統的な七面鳥料理でも、美味しそうに見えたレシピは、栗のほかに色々なものを詰めて丸焼きにしていました。3~4キロの七面鳥に、栗1.5キロ。それだけではなくて、レバー、子羊肉、豚肉、ベーコン、さらにトリュフまで入れて詰め物を作っています。かなり手がこんだ料理。

やはり、七面鳥を買って、自分で料理してみようという気にはなりませんでした...。


追記(2018年):

フランス料理の歴史に残るであろうポール・ボキューズが、クリスマス料理として栗詰めの七面鳥料理を作つくったり、クリスマスのテーブルセッティングを見せるドキュメンタリーがあったので入れておきます。

1976年のもの。オイルショックの時期ですね。そのせいか、ボキューズさんは少し節約メニューを提案しています。クリスマスの前菜としては生ガキが定番だけれども、それより安いムール貝を提案。とは言え、ふんだんにトリュフを使い、飲むのはシャンパンですから、やはり1年で最高のご馳走に仕上げていますね。

七面鳥は1羽で4キロのものを使っています。メイン料理の後にはミックス・サラダ、チーズは抜きにして(七面鳥はお腹にたまるので)、デザート。

七面鳥は、メス(dinde)の方がオス(dindon)美味しいのだそう。


Spéciale Noël : la dinde aux marrons sur une jolie table - Archive INA

ローストせずに、ポトフのような作り方なのですね。変わっているし、脂っこくなくて美味しそうだと思いました。

 シリーズ記事: ご馳走料理 vs 日常の食事


ブログ内リンク:
★ 目次: フランスの祭日・年中行事について書いた日記
★ 目次: フランスで食べる鳥肉と卵(鶏、鴨、ウズラ、鳩、卵など)

外部リンク:
Histoire de la dinde
Pas de Noël sans une dinde !
「日本ケンタッキー・フライド・チキン編」クリスマスにはチキン~外食企業が創り出した日本文化~
☆ レシピ: Dinde de noël farcie aux marrons


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2013/10/28
前回の日記に書いたレストランで定日ランチメニューをとったのですが、メイン料理のチョイスとして「La Pluma」というのがありました。

文字を眺めてみだだけでは、肉だか魚だかも分らない。注文をとりにきた人に聞いてみると、豚肉だと言われました。なあんだ、豚肉料理かと思ってしまったので、その他に料理の説明をしてくれたのかも知れないけれど無視してしまいました。

豚肉は安いために庶民的な素材なので、こういうしゃれたレストランで出すことは少ないのです。でも、他に気に入った料理がなかったので、この豚肉料理をとりました。

それに、少し前にテレビで豚の飼育のルポルタージュがあって、集中飼育されている豚が身動きもできないような小屋で飼育されているのを見てショックを受けていたのです。さすがフランスの番組なので、酷い例はイタリアのを出していましたが。最後にフランスの例として、3DKマンション風の贅沢な小屋で暮らす豚の家族とか、完全に外で放し飼いにされている豚たちが出てきたので救われましたけど。

面白いのですよね、どういう生活をしているかによって、豚の表情が全く違うのです。身動きもできないようなところで暮らしていると、本当に卑しい顔をしていました。自由に暮らしている豚の方は、本当に良い顔をしている。

牛の方は、豚のように閉じ込められて育つのは見たことがないので、そちらの方が食べたくなります。思えば、豚の加工食品はよく食べるけれど、豚肉というのは家でもあまり食べていません。


ところが、このLa Plumaという料理を食べてみたら、豚肉とは思えないほど美味しいので驚きました。



ここまでは、前回の日記で書いていました:
新しく見つけたレストランが気に入った 2013/10/27

こんなに美味しい豚肉を食べたのは生まれて初めて!

小屋の中に閉じ込めないで育てた豚は、普通のと比べてダントツに美味しいのはフランスで実感していました。でも、この肉はさらに、その上をいっている。

美味しすぎる。豚肉とは思えない...。

牛肉のサーロインステーキのように柔らかいのだけれど、牛肉の味ではない。普通の豚とも違う...。

出された料理では、表面を少し蜂蜜で甘味をつけていていました。味付けが良いのはもちろんなのだけれど、肉自体が美味しいのだと思う。

La Plumaというのに、何か意味があるのでは? 気になったので調べてみました。


プルマって、なに?

フランス語の検索エンジンにかけると、「イベリアのpluma」を使ったレシピが幾つも出てきました。ようやく、plumaが何であるかを書いているページに到達。

豚といっても、放し飼いで飼育されることで知られるイベリコ豚に限定されるように思いました。その豚の、肩甲骨の先にある部位だと説明されています。

イベリコ豚1頭約160Kgから、180グラムくらいのplumaが2枚とれるだけなのだそう。

plumaというのはスペイン語で、羽か羽ペンのことらしい。
フランス語でも、羽はplumeなので、似ています。

羽のような形をした小さな部分ということのようです。

フランス情報では、スペイン人は賢くて、豚の美味しい部分にplumaなんていう部位名をつけて高価な食材にしている、と書いている人がいました。

フランスで豚を解体するときには、plumaと言う部分を切り分けないので、存在しないのだそう。フランスではonglethampeと呼ぶ部分に似た味と表現されていました。

場所が大事なのだ、と分かりました。

としたら、日本で「豚トロ」と呼ぶ部分なのではないかな?... でも、私が過去に食べた豚トロより遥かに美味しかったです。料理の仕方も影響していたでしょうけど。

イベリコ豚の部位の呼び名を示す図が見つかりました。フランスのサイトに入っていたのですが、これは スペイン語でしょうね。



plumaは、前足の付け根の上にある肩の部分でした。

とすると、豚トロとは違いますね。豚トロは、豚の頬とか、首の部分とか説明されているので。



日本でも売っていた

日本は何でもある国なので、ひょっとしたら売っているかも知れないと思って探してみました。そうしたら、やっぱり、plumaは「プルマ」ないし「プルーマ」と呼んで売っている!

プルマを楽天市場で検索


右に入れた肉の塊は「アイボーン」と書いてあるのですが、イベリコ豚のプルマ角切りなのだそう。左の赤肉の部分がプルマなのではないでしょうか?

日本のネットショップの情報は非常に詳しいです。

プルマというのは「翼」と説明しているところがありました。天使の翼の生え際みたいな部分にあるからプルマ。フランス情報では「羽」だったのですが、翼と言った方が美しいですね。

日本の豚にはない部分だ、と書いてありました。それはフランスでも同じ。つまり、そういう切り分け方をしないから存在しない、ということでしょうね。

プルマが日本でよく知られているとは思わないけれど、豚トロのように珍重されてブームになったら、日本の豚でもプルマを切り出すのでは? 日本ならやりそうな気がする。

日本で売っているならと、フランスでプルマを売っているのかと調べたら、冷凍ものをネットショップでは扱っていました。豚肉にしては高いけれど、牛のヒレ肉よりは安いのだそう。お値段は、日本で買うのと同じくらいの値段をつけているのが多いように見えました。さすがにスペインはお隣りの国なので、少し安いのもあったけれど。

でも、フランスは宅急便が全く発達していないし、ましてやクール宅急便なんてあるのかどうか分らない。冷凍が解けた状態で届く、なんてことも覚悟しなければならないでしょうから、フランスのネットショップで買う気にはなりません。パリの高級食料品なんかだったら、置いていそうな気もするけどな...。


 パリ近郊の旅: 

  新しく見つけたレストランが気に入った旅行記目次 




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★ 目次: 食材と料理に関して書いた日記のピックアップ

外部リンク:
Connaissez-vous la pluma ?
La Pluma Ibérique !!! Vous l’aimez comment : à la plancha bien évidemment!
豚トロってどこの部分?


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2013/09/09

シリーズ記事目次 【美味しい食べ物を探した旅行 2013/8】 目次へ
シャロレー牛肉: その3


シャロレーと呼ぶ品種の肉牛はブルゴーニュが原産地なので、ブルゴーニュにいると最も親しい牛です。牧場でもよく見ますし、食べるときもこの品種が多いのです。

ブルゴーニュ南部にシャロレーという地域があるので、そこが原産地なのだとは知っていました。でも、これだけ親しみがある牛でありながら、知らないことがあったのを最近になって発見しました。


最高のシャロレー牛はブリヨネ地域で育った雄牛

シャロレー(Charolais)という地域は、シャロル町(Charolles)の周辺地域を指します。シャロル町がシャロレー牛の中心地なので、シャロルの町には、シャロレー種牛の飼育に関係している人たちが建てた施設Maison du Charolais(シャロレー館)があり、シャロレー牛の博物館、研究所、レストランが入っています。

ブルゴーニュ南部のソーヌ・エ・ロワール県には、昔からの名前で呼ばれる幾つかの地域があり、その中にシャロレー地域があるのですが、その隣りにブリヨネ地域(Brionnais)があります。

シャロレーの産地と言えばシャロレー地域と連想するのですが、実は、ブリヨネ地域の牧場の方が肉牛の飼育に適しているのだそう。

それを初めて教えてもらったのは、昨年のことでした:
牛を飼っていた農家のご主人は、モミの木とシダが嫌いだった 2011/06/04

シャロレー地域でシャロレー牛を飼育していた農家では、牛に子どもを産ませてブリヨネ地域に売り、ブリヨネ地域の牧場で育てて肉牛となる、と言っていました。自分のところの牛は「プチ・シャロレー牛」と呼んでいました。

シャブリも、一番下のランクはプチ・シャブリと呼ばれるので、それと同じような名前なのでしょうけれど、シャロレー牛に「プチ」なんてつけるのは初めて聞きました。関係者だけが使っている言葉なのでしょう。

牛の赤ちゃんを売るのでは大した儲けがでないのかもしれないな、と思う家でした。それに比べて、今回の旅行で見学したブリヨネ地域の牛飼育農家は大儲けして立派な民家だったのでした。

それを書いた日記:
これは「雄牛御殿」と呼べる城?  2013/09/07

これで、上質のシャロレー牛の産地はブリヨネ地域なんだと再認識したわけです。


サン・クリストフ・アン・ブリヨネ村の牛市

思い出せば、ブリヨネ地域がシャロレー牛の売買で巨額の富を得ていた、という話しは以前にも聞いたことがあったのでした。Saint-Christophe-en-Brionnais(サン・クリストフ・アン・ブリヨネ村)で週に1回行われる牛の市を見学したときのこと。

市がないときに行くと、広い市場だけが目立つ閑散とした農村なのですが、市が開かれる日は大変な賑わい。

Marché aux boeufs (Saint-Christophe-en-Brionnais, France)

Mur d'argent de Saint-Christophe-en-Brionnais1488年から開かれているという、歴史がある牛の市です。

いまでも黒いうわっぱりを着て、木の棒を持った人たちがやっているので、見応えのある市です。ガイドの案内付きでも見学できます(有料)。

売り手と買い手が金のやり取りをするMur d'argent (貨幣の壁)と呼ぶ石壁があって、昔はそれをテーブル代わりに使って、そこに紙幣をのせて巨額の取引きが飛び交ったのだそう。

朝早くから取引が始まって、朝食を食べることの時間になると、みんなが市の近くに何軒かあるカフェ・レストランで食事をします。

もちろん、大きな牛肉のステーキを食べるのが伝統。素朴な料理なのですが、肉の美味しいこと。牛肉にはこだわりがある人たちが集まるのだから、へた肉は出せないのでしょうね。

一度などは、隣りのテーブルにいた常連さんが「ここはポトフがおいしいんですよ」と言うものだから、一緒に行った仲間のうちの元気な2人は、ステーキを食べ終わったら、またまたボリュームのあるポトフを食べていました。

近くの老人ホームに入っているというお爺さん2人と、隣り合わせになったこともありました。市があるときはホームを抜け出してくるのが日課なのだそう。大きなステーキを平らげてから、「医者からいけないと言われているのだけれど」と言いながら、デザートを食べると言います。

何かと思ったら、店の人に言って、食器棚の引き出しから食べかけの板チョコを出してもらっている。毎週来るので、普通ではレストランなんかには置かないチョコエーとを引き出しに入れてもらっているのでした。

嬉しそうに食べている2人。こういうアトラクションがある地域の老人ホームもいいな、と思いました。

久しくサン・クリストフの牛市に行っていなかったので、今回の旅行で市に行きたかったのですが、市が開かれる水曜日には日程があわなくて行けませんでした。


土壌が違う

それでも、ブリヨネ地域に宿泊したので、朝に散歩して牧場を眺めてみました。見慣れた地域とは違うように見える。



何が違うって、土が湿っているのです。牧草がよく育つでしょうね。

泊まった家の庭にも湧水が出るそうで、大きな石のフォンテーヌがありました。アルプスの山の中でよくあるような湧水。ここは山岳地帯でもないのですけれど、地下水がよほど豊富なのでしょうね。

私が住んでいるところや、ブドウ畑が広がる地域は石灰質で、水はけは非常に良いのです。これだけ土地が違うものなのだな... と感心しました。

となると、シャロレーの牛肉を買うときには、ブリヨネ地域で育ったものを買いたいと思うわけですが、簡単にはできません。ブリヨネ地域がどこなのか、地元の人でもない限り、はっきりとは認識していないだろうと思うのです。

しっかりした肉屋で買い物するなら、牛がどこから来ているか聞けます。でも、村の名前で言われてしまう。

例えば、前回の日記「最高のシャロレー牛肉を生産地で買う」で書いたシャロル町の肉屋でお勘定をするときに思いついて聞いてみたら、Ozolles村だと返事されました。シャロル町から10キロくらい南にある村。となると、おそらくシャロレー地域ではないですか。ブリヨネのを買いたいと思ったのに!

でも、地元で評判の肉屋なので、質の良い肉を入れているはず。地域の名前による区分が牧場の質を決めているわけでもないと思う。それに、肉屋では日によって買い付けをしている農家も変わっているはず。

どうしてもブリヨネ地域で育った牛を買いたいとこだわるなら、ブリヨネ地域で牛を生産して直売をしている農家を探すしかないかと思いました。それでインターネットで直売農家を探してみたのですが、住所は確認できるものの、ブリヨネ地域なのかシャロレー地域なのかを特定するには時間がかかりすぎるのでやめました。

情報によると、シャロレー地域とブリヨネ地域は、泥灰岩(粘土と炭酸塩成分からなる)あるいは粘土の地層からできているのだそう。2つの地域の違いを詳しく分析した報告書も見つかったのですが、そんな長い文献を読む気にもならない...。


ややっこしすぎる...

シャロレーの牛は私には馴染みがある牛なのですが、考えてみると、複雑で分らなくなることが色々あります。どなたも興味深いとは思わないでしょうけれど、自分の頭の中を整理するために書いてみます。

牛の品種名

食肉になる白い牛は、日本で通用している呼び名に合わせて「シャロレー牛」と書いているのですが、フランス語での品種名はla charolaise(ラ・シャロレーズ)。女性名詞の冠詞として「ラ」が付きます。

英語の品種名はCharolais cattleで、シャロレーなのですね。日本語で「シャロレー牛」と呼ばれるのは、英語から来ているのかもしれない。

ただし、フランス語でも、シャロレーの雄牛はbœuf charolais(シャロレー雄牛)と呼ばれる。シャロレー牛の食肉なら、 viande Charolaise。でも、フランス語では名詞の性によって冠詞が変わるのだから気にしない。

AOCのシャロレー牛の名称

シャロレーの牛肉の中には、生産地の特定や飼育法など、厳しい規格に従って生産される食品にだけ与えられる品質保障AOC(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)を獲得しているものがあります。

シャロレー牛のAOC名は、
Bœuf de Charollesシャロル牛) 。

bœuf とはオス牛を特定するときに使う単語でもあるのですが、雄牛とイコールとできるわけではないのでした。

AOCシャロル牛として認められるのは、次の3種類でした:
 ・28カ月以内の未経産雌牛(génisse)
 ・8年以内の雌牛(vache)
 ・30カ月以内の雄牛(bœuf)

としたら、名称にbœufという単語を使うのは紛らわしいではないですか? 調べてみる前の私は、AOCのラベルを持つ牛肉とは、肉牛用に飼育されたオス牛だと思っていました。

ちなみに、フランスで消費される牛肉の大半はメスの肉なのだそう。フランスで消費される牛肉は年間160万トンで、そのうちメスの肉が79%で、オスの肉は21%となっていました(2012年)。

Charolles(シャロル)というのは町の名前ですが、その町の中で育てられている牛に特定している名称ではありません。シャロレーやシャロレーズというのは、牛の品種名で、世界各地で飼育されている牛なわけです。それをAOCの名称に使うことはできなかったので、「シャロル」にしたのだろうと思います。

でも、この牛肉はシャロレーないしシャロレーズという名称で知られているのですから、AOCの呼称で「シャロルの」としたら別の牛のことかと思ってしまうではないですか?

AOCの名称にシャロルの文字があるので、シャロル町の周辺が生産地だろうと想像するわけですが、限定されている生産地は、ソーヌ・エ・ロワール県のシャロレー・ブリオネ地域とはされていません。

AOCシャロルの雄牛(Bœuf de Charolles)というラベルを付けることができる生産地は、ソーヌ・エ・ロワール県(Saône-et-Loire)の牧場が広がるたくさんの村々を中心にして、そこに隣接する地域に少し広がっている感じです。

書きながら見た段階でのWikipediaの情報では、シャロレー・ブリヨネ地域には隣接しないブルゴーニュ地方のコート・ドール県とヨーヌ県も入れているのですが、政府のサイトやAOCシャロル牛のサイトの情報の方が正しいはずです(認定産地の一覧は最後にいれる情報を参照)。

ブルゴーニュだけではなくて、ローヌ・アルプ地方のロワール県(Loire)と、1村だけですがローヌ県(Rhône)も認定生産地域に入っていました。シャロレー・ブリヨネ地域の西に隣接するオーヴェルニュ地方のアリエ県(Allier)で飼育されるシャロレー牛にも定評があるのですが、AOCシャロル牛には入っていませんでした。

☆ Wikipedia: フランスの県区分地図

ちなみに、シャロレー牛を飼育している人たちがAOC獲得に動き出したのは1993年で、AOCを獲得したのは2001年。まだ10年くらいの歴史しかないのですから、シャロル牛というのはそれほど知られていない名称だと思います。生産者も、味ににこだわる消費者も、それほどAOCシャロル牛かどうかは気にしていない感じがします。美味しければ良いのですから。

シャロレー地域とブリヨネ地域

シャロレー牛の発祥の地として知られているのは、ブルゴーニュ地方南部にあるソーヌ・エ・ロワール県にあるCharolais(シャロレー地域)。Charolles(シャロル)という名の小さな町(人口3,000人弱)の周辺地域です。

ソーヌ・エ・ロワールの南部、ブルゴーニュといえどもブドウ畑などはない地域には、牧草地が広がるシャロレー地域(Charolais)とブリオネ地域(Brionnais)があるのですが、ブリヨネ地域というのは知名度が低いので、まとめてシャロレー地域と呼んでしまうことが多いのです。

ブリヨネ地域(Brionnais)と呼ばれるのはBriant(ブリアン村)から来ているのですが、これは現在の人口は250人にも満たない、ほとんど知られていない村です。

実際には、ブリヨネ地域は家畜の飼育に適した土壌なので、質の高いシャロレー牛はブリヨネ地域で育てられます。シャロレー地域の畜産農家は産ませた子牛を売り、それをブリヨネ地域で育てることが多いようです。それで最高品質のシャロレー牛肉になる。

それなら、ブリヨネ地域にある農家で育てられたシャロレーの牛肉を入手したいと思うわけですが、シャロレー地域とブリヨネ地域は隣接しているので、境界線がどこにあるのか分からない。歴史的に存在したこれらの地域は、現在ではシャロレー・ブリヨネの里(Pays Charolais Brionnaisとして一緒に地域開発されているので、境界線をはっきりと示す地図を見つけることができませんでした。

ただし、地名に「en Brionnais」と付いている町村の場合は、ブリヨネ地域にあるのだろうと容易に想像できます。例えば、今でも週に1回、生きたシャロレー牛が取引される大きな市が開かれるSaint-Christophe-en-Brionnais(サン・クリストフ・アン・ブリヨネ村)。見事なロマネスク教会があり、フランスの最も美しい村協会に入っているSemur-en-Brionnais(スミュール・アン・ブリヨネ村)など。

売っている牛の品種名を明記している場合は、シャロレーズないしシャロレーで、いくら品質が良くても「ブリヨネの牛肉」として売ることはまずないと思います。だから、ブリヨネ地域はシャロレーという名に負けてしまっている...。

シャロレー地域原産の家畜の名称

牛の品種名がla charolaise(ラ・シャロレーズ)と女性形なら、他のシャロレー地域を原産とする家畜の名前も叙英形なのかと思うと、男性形もあります。さらに、シャロレー地域のと特定する場合、普通はCharolais(女性形ならCharolaise)と綴るのですが、Charollaisと、L(エル)を2つにした綴りも存在します。

羊の品種名は、エルが2つの男性形で、le charollais(mouton charollaisとも呼ぶ) 。

※ 最近の日記で、シャロレー羊を見たので写真を入れています:
  ★ 穀倉地帯にある町で行われた農業祭り 2013/08/30

ニワトリの品種名もエルが二つですが、女性形で、La charollaise(poule charollaiseとも呼ぶ)。

牛以外は全てエルが2つかと思うと、そうでもない。

昔の品種の馬は、エルが1つの男性系で、le charolais

ちなみに、AOCも獲得している山羊のチーズは、エルが1つの男性系で、Le charolais

シャロレーないしシャロレーズを綴るときにL(エル)が1つか2つかというのは、フランス人にとっても曖昧なように感じます。シャロレー牛を売る大手企業の名前をインターネットで検索してみたら、エルの数が1つだったり、2つだったりしてヒットしてきましたので。



シャロレー牛のAOC「シャロルの雄牛」のコマーシャル・ビデオ:





ブログ内リンク:
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外部リンク:
☆ Wikipédia: Charolaise
La Maison du Charolais
☆ フランス官報:
Décret n° 2010-1033 du 31 août 2010 relatif à l'appellation d'origine contrôlée « Bœuf de Charolles »
CAHIER DES CHARGES DE L'APPELLATION D'ORIGINE BOEUF DE CHAROLLES
☆ Wikipédia:
Bœuf de Charolles
☆ alliances.coop:
Le Bœuf de Charolles (démarche AOC)
☆ 仏農水省 :
Le boeuf de Charolles AOC
☆ ソーヌ・エ・ロワール県の地域区分地図:
Sortir Saône-et-Loire
☆ Wikipédia:
Brionnais
☆ Wikipédia:
Briant (Saône-et-Loire)
☆ Définition géologique du terroir :
Exemple de l'AOC "Bœuf de Charolles" et du Brionnais (Sud de la Saône et Loire)
Marché aux bestiaux à Saint-Christophe-en-Brionnais
☆ Institut de l'élevage:
Chiffres clés 2012 des productions bovines
☆ Le Monde:
La viande de bœuf dans votre assiette ? De la vieille vache...
☆ Wikipédia: Brionnais
Le Brionnais de site en site - Histoire et Généalogie


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