伊藤詩織事件の三つのキーワード - 人間の尊厳、グロテスク、権力犯罪
レイプ事件の民事訴訟で被害者の伊藤詩織が勝利した。流儀を通して敬称は略す。彼女の勇気ある行動に敬意を表したい。真実を訴える純白な精神に感動を受けた。勇気づけられた弱者の一人として感謝したい。2年間、否、4年間、本当によく耐えて頑張ってきた。どれほど多くの日本人が、心を支えられ、救われる思いをして、裁判勝利を祝していることか。彼女の支援者にも拍手を送りたい。この事件は、この国の一人一人が人間の尊厳とは何かを考え、その言葉の意味を探り求める機会だったと思う。人間の尊厳が傷つけられるとはどういうことで、人間の尊厳を取り戻すとはどういうことで、それがどれほど厳しく重い苦難と負担の道かを教えられる進行だった。判決から6日が経ち、ネットでは延々と議論が続き、マスコミの報道も多いけれど、あまたの論評と解説の中に「尊厳」の視点と言葉が見当たらないのを残念に感じる。
辞書で語義を調べると、「とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと」「すべての個人が互いを人間として尊重する法原理をいう」「日本法では最高の価値基準であり、各種基本的人権、中でも平等権を直接根拠づけるものとされる」と記述がある。この説明書きを読みながら、あらためて、この事件の意味と日本社会の深刻な病状に向き合わされる。外国人記者クラブの会見で、どこかの記者が山口敬之への質問で「上級国民」という単語を発したが、まさに平等権が侵害されているという本質的意味が根底にあるはずだ。あの山口敬之のふてぶてしい開き直りの姿は何なのか。自分は法を犯していない、犯罪はやっていない、潔白だと言い張って自己正当化の舌を転がしている。この唾棄すべき最悪な男とその周囲(安倍右翼)は、それを臆面もなく確信しているのである。自分の言い分が正義だと確信し、その根拠として、検察の不起訴を挙げ、刑事訴訟での無実を挙げている。
だが、それは、権力者である安倍晋三が強引に法をねじ曲げ、警察と検察に介入し圧力をかけて生じた結果であり、不当に既成事実化されたものだ。そのことは誰もが分かっている。周知の事実だ。だが、山口敬之とその周辺右翼は、この結果を正当なものだと言い張り、国民と世界に向けて自らの正当性を言い、被害者の伊藤詩織を嘘つきだと貶める中傷を吐く邪悪な幕を演じた。グロテスク。この事件のマスコミ報道とネット言論に欠けている言葉は、山口敬之を語るに当たっての「グロテスク」の形容詞である。この男の姿に、まさに今の日本の退化し劣化した現実が象徴されていて、あまりの異常と惨状に英国や米国のジャーナリストが腰を抜かしている。山口敬之が堂々とマスコミの前で鉄面皮の開き直りを垂れ、それが誰にも制止されずまかり通り、セカンドレイプ発言が電波に乗って素通りしてしまう日本。人の尊厳を傷つけて平然と居直り、権力の庇護と優越の立場を見せつけて逃げられる日本。
辞書の説明では、個人の尊厳は、日本の法体系の最高の価値基準であり、基本的人権を根拠づけるもの、であるはずなのだが、今の日本にその前提がないのだ。マスコミを含めた各自の意識の中に、その倫理観がなく、警察も検察も、最高の価値基準を安倍晋三の権力に置き、安倍晋三への忖度が法の運用の基準になっている。法体系は単なる虚構であり、法制度はタテマエの空文に過ぎず実効力がない。それは単に、官僚たちが安倍晋三が怖いからそうしているというだけでなく、官僚たちや富裕層が前近代的な身分制社会に戻った日本を是とし、今の日本社会を快適に感じていることを意味する。この事件で思い知らされるのは、個人の尊厳という近代市民社会の法的前提となる原理が、日本から失われて消えている真相だ。個人の尊厳という概念が未確立な、それが一般的に通用しない時代に戻った。弱い者はどこまでも強い者に人間の尊厳を奪われ、なぶり者にされ傷つけられる。いじめ自殺が常態化した社会。
強い者は弱い者の人間の尊厳を奪い取り、己れの富の蓄積と快楽の享受の資源にすることができるのである。弱い者は徹底的に食い物にされる。すべてを奪い尽くされる。それが今の日本社会の当然だと山口敬之は言っていて、その「法」に従えと、安倍晋三と特権貴族を代弁して国民にアピールしている。弱者が徹底的に弱くなっている。Amazonに年会費を毟り取られ、預金金利を得るのではなく口座維持手数料を銀行に掠め取られ、アカウントとクレジットカード番号を紐付けられた諸サービス契約の鉄鎖の檻で、身動きできず何やかやと好き勝手に搾取される。安倍晋三と特権階層に消費税を収奪され、かんぽ生命に騙されて金を詐取される。僅かに持っている金を奪われるだけ奪い取られて、何もできず、ただツイッターやLINEでぶつぶつ愚痴を垂れるだけだ。存在するのは、奪う者と奪われる者だけ。個人の尊厳を認め合う関係なんてない。そういう過酷な社会になったんだぞと、山口敬之が言い、竹中平蔵が言い、俯いて聞いている。
マスコミ報道は、この事件を女性の人権の問題としてのみ焦点を当て、刑法改正の話題に纏める論調がもっぱらだったが、この事件が本当に意味が大きいのは、これが重大な権力犯罪だからである。だからこそ、BBCやNYTが注目して追跡した。だが、日本のマスコミは、北村滋や中村格の関与に目を向けず、事件の権力犯罪の側面に光を当てない。安倍晋三が山口敬之をシロにしている事実を語ろうとしない。ネットでも「権力犯罪」というキーワードが出ない。日本人が権力犯罪という語を忘れ、概念と認識が頭の中から消えてしまっている。一昔前はそうではなかった。辞書を引くと、「権力を有する組織や個人が、その権力を乱用して罪を犯すこと。また、その犯した罪」と説明がある。逮捕状の執行を恣意的に止めた中村格の行為は、公務執行妨害罪と刑法の犯人蔵匿罪が適用されてしかるべきだし、それを指示した上司の北村滋は教唆犯である。それによって重大な人権侵害が行われ、この国の正義が失われ、警察の社会的信用が失墜している。
この事件は、安倍政治を象徴する事件で、安倍晋三の独裁権力とはどういうものかを国民と世界の人々によく教える事件だ。山口敬之のグロテスクさは、安倍晋三のグロテスクさそのものである。私は前の記事で、安倍晋三の独裁権力をチャウシェスク政権に擬えて性格づけしたけれど、その指摘が決して誇張ではないことがこの事件でよく了解できるだろう。それと同時に、恐怖し戦慄すべきは、自由な言論と選挙のある民主主義の政治体制の下で、このチャウシェスク的な独裁権力が安泰であることである。日本国民が安倍晋三の(ほとんど無限とも言える)独裁権力を支持している。山口敬之も安倍晋三もグロテスクだが、同じほど日本国民そのものが腐ってグロテスクだということを、われわれは看過してしまっているように見える。右翼だけが劣化して、人間性を喪失してグロテスクな動物になっているのではない。暴力集団のしばき隊を支持している左翼も同じだ。卑劣きわまる山口敬之の開き直りの態度と口上は、しばき隊のそれとそっくり同じではないか。リンチ事件などなかったと嘯き、被害者を嘘つき呼ばわりし、自己正当化の強弁を続ける左翼に、山口敬之と安倍晋三を糾弾する資格があるのか。しばき隊の暴力を正義の行使と崇めて喝采し、野間易通と神原元の権力に忖度する左翼が、どうして山口敬之を批判する足場を持てるのか。自分たちの倫理的劣化と堕落を反省することもなしに、安倍政権を倒す主体性など媒介されるはずもない。とまれ、伊藤詩織は「人間の尊厳」の代名詞だ。「気高く犯しがたい」シンボルだ。この事件は教科書に載るだろう。






by yoniumuhibi
| 2019-12-23 23:30
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Comments(1)
「娘の命と尊厳がまたも踏みにじられた思い。不眠不休で業績を上げてきた社風は根深いものがあり、ひとりの社員が死んだくらいでは変わらないだろうという私の予想通りでした」・・・今朝、12月25日「電通社員自殺4年」と題された『中日新聞』朝刊記事にあった高橋まつりさんの母、高橋幸美さんの手記。
営業利益1300億円という嘗ての国策会社、満州国通信社にとっては、労基法違反での50万円など端金。
被害を訴えた伊藤さんは誹謗中傷を受け(中略)ゆがんだ社会構造に目を向け、性暴力のない社会を―――これは「琉球新報」のコラム「金口木舌」12月21日から。輝くような中村哲先生の寄稿を連載していた「沖縄タイムス」も共同電のまま。米兵によるレイプ事件と最も身近に向き合ってきた沖縄紙。THE TIMES(UK)くらいの見出しで良かったのでは。
グロテスクと真正面から向き合ってこられた貴下、タフなご教授に心より感謝いたします。
営業利益1300億円という嘗ての国策会社、満州国通信社にとっては、労基法違反での50万円など端金。
被害を訴えた伊藤さんは誹謗中傷を受け(中略)ゆがんだ社会構造に目を向け、性暴力のない社会を―――これは「琉球新報」のコラム「金口木舌」12月21日から。輝くような中村哲先生の寄稿を連載していた「沖縄タイムス」も共同電のまま。米兵によるレイプ事件と最も身近に向き合ってきた沖縄紙。THE TIMES(UK)くらいの見出しで良かったのでは。
グロテスクと真正面から向き合ってこられた貴下、タフなご教授に心より感謝いたします。
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