人類の活動を巣に記録する水鳥、W杯やコロナ禍も、研究

オランダ、アムステルダムの「運河のギャング」ことオオバン

2025.05.10
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英国ロンドン、小枝やごみで作られた巣の中にいるオオバン。オオバンはヨーロッパ全土に生息する。大都市に住むオオバンは、手に入る数少ない材料であるプラスチックごみで巣作りをすることがある。(Photograph by Laurent Geslin, Nature Picture Library)
英国ロンドン、小枝やごみで作られた巣の中にいるオオバン。オオバンはヨーロッパ全土に生息する。大都市に住むオオバンは、手に入る数少ない材料であるプラスチックごみで巣作りをすることがある。(Photograph by Laurent Geslin, Nature Picture Library)
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 黒くて丸っこいからだに大きな足を持つ水鳥オオバン(Fulica atra)。水路の主(ぬし)のようには見えない姿だが、なわばり意識が強くて辛抱強く、オランダのアムステルダムでは「運河のギャング」と呼ばれている。このオオバンをはじめとする鳥たちが都市環境にどう適応しているのか、そうした適応はそもそもいいことなのかを調べている研究者らが、オオバンの巣に長年にわたって蓄積されていたプラスチックごみを細かく調べ、都市部での巣作りや繁殖の時期を明らかにした。論文は2025年2月25日付けで学術誌「Ecology」に掲載された。

 中でも特に大きな巣では、歓楽街に生息するオオバンの30年の歴史が記録されていた。最も古いのは1994年のサッカーワールドカップの広告が入ったチョコバーの包み紙で、一番新しいのはプロテインバーの包み紙だった。

 中間の層にはキャンディの包装紙や、マクドナルドのバーガーの包みがあり、コロナ禍の数年を象徴するフェイスマスクもあった。他の巣でも、似たようなフェイスマスクの層が見られた。

 アムステルダムのオオバンは、30年以上前に近隣の農場から移りすみ、密集した都市中心部で、たくましく生きてきた。巣のプラスチックごみの層を細かく調べていくと、鳥の生態だけではなく人間についても学べると研究者らは言う。(参考記事:「海鳥の90%がプラスチックを誤飲、最新研究で判明」

<span style="font-size:15px;font-weight:bold;"><u><a href="/atcl/gallery/083000350/?P=21" target="_blank" target="_blank">「ギャラリー:世界の美しい鳥たち9」</a></u></span><span style="font-size:9pt;">(見出しのクリックで表示)</span>
「ギャラリー:世界の美しい鳥たち9」(見出しのクリックで表示)
アメリカオオバンの足 Leduc, Alberta, Canada(Photograph By Joe Chowaniec, National Geographic Your Shot)

コンクリートジャングルに挑むオオバン

 オランダの首都アムステルダムにはコンクリートで固められた運河がある。大勢の観光客が訪れ、草木も少ない。都市部周辺ののどかな田園地帯や湿地帯とは違い、巣作りをしたいオオバンにとって魅力的な場所とは言いがたい。

 ところが1980年代、オオバンが都市部に飛来するようになった。

「勇敢な少数のオオバンが、巣作りの場所を求めて街の中心部にたどり着いたのでしょう」と、今回の研究を主導したオランダのナチュラリス生物多様性センターの生物学者アウケ・フロリアン・ヒームストラ氏は語る。(参考記事:「「トゲトゲの鳥よけ」で巣を作る賢い鳥カササギ、武装化か、研究」

 都市部に飛来したオオバンは頑張った。手に入る材料で巣作りを始めた。ほとんどはごみで、食品のパッケージやコンドームまでもが使われた。

 ヒームストラ氏によれば、現在、街には少なくとも200羽のオオバンが生息しているという。オオバンの巣は、船着き場や杭(くい)、ボートなど、あちこちに見られ、その場所の所有者を悩ませている。

 アムステルダムのオオバンが作るプラスチックごみの巣は、この鳥の行動だけではなく、人間についても語るものではないかとヒームストラ氏は考えた。

アムステルダムに生息するオオバンの巣から採取した、年代を特定できるプラスチックごみ。(Photographs by Auke-Florian Hiemstra)
アムステルダムに生息するオオバンの巣から採取した、年代を特定できるプラスチックごみ。(Photographs by Auke-Florian Hiemstra)
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