2,700年前のアッシリア帝国時代、現在のイラクにあたる位置に存在した古代都市、ドゥル・シャルルキンの神殿の壁には、特定の複数のシンボルが描かれていた。しかもその並びにはたいてい同じで規則性があるようにみえるのだ。
これはいったい何を表したものなのか?1世紀以上にわたり専門家を困惑させてきたシンボルの謎がついに解明したかもしれない。
このシンボルは古代王、サルゴン2世の名前と星座を示しているのではないかという、説得力のある説が登場したのだ。
サルゴン2世統治時代に作られた謎のシンボル
メソポタミアの北部に起こったアッシリアは紀元前663年までに、メソポタミア・エジプトにまたがるオリエント全域を最初に統一した世界帝国となった。
帝国期にはニネヴェやニムルドが都として機能し、楔形文字などの高度な文明を築いていった。
古代都市、ドゥル・シャルルキン(現在のイラク北部、コルサバードにあたる)ができたときはサルゴン2世(在位:前722年~前705年)が統治していた。
サルゴン2世はサルゴン朝を建国し、その崩壊までのおよそ1世紀、アッシリア帝国を統治した。芸術の後援者であるだけでなく、記念碑をたくさん建造したことでも知られる。
サルゴン2世の統治している時代、様々な寺院に特定のシンボルが描かれていた。これはいったい何を表しているのか?長年考古学者を悩ませていた。
シンボルは王の名前を表していたとする説
シンボルは、ライオン、ワシ、雄牛、イチジクの木、鋤(すき:農工具の一種)からなる同じ並びで描かれていることが多く、19世紀末にこの地を訪れたフランス人によって初めて記録、紹介された。
発見以来、多くの研究者がシンボルの意味を解釈しようとしてきた。
エジプトの象形文字と同じようなもので、帝国の権力を表すもの、王の名前を記したものではないかといろいろな説が浮上した。
だがこのたび、アイルランド、ダブリンにあるトリニティ・カレッジのアッシリア学者、マーティン・ワーシントン博士が、この5つのシンボルを表すアッシリア語にはサルゴン王の名前(šargīnu)をアッシリア語で綴る音が正しい順序で並んでいる可能性があるという説を打ち出した。
シンボル3つだけでサルゴンの名を表している場合もあるという。
「古代の言語や文化の研究はさまざまな謎に満ちていますが、神殿の壁に描かれた謎のシンボルに直面することは古代近東ではあまりありません」博士は語る。
特定の星座としても解釈できる
さらに、博士によればそれぞれのシンボルは特定の星座としても解釈できるという。例えば、ライオンは獅子座、ワシは鷲座だ。
現在知られている星座の多くはギリシャ人から受け継がれ、ギリシャ人はメソポタミアからその知識を受け継いだ。現在でも私たちはその知識をもとに星座を識別している。
この5つのシンボルの役目はサルゴンの名を永遠に天上に奉り、王の名を不滅にすることで、なかなか賢いやり方といえます。
もちろん、自分の名を大々的に神殿の壁に描くという考えは古代アッシリアに特有のものではありませんが(マーティン・ワーシントン博士)
さらにワーシントン博士はこう続ける。
この説を証明することはできませんから、もちろんこれが最終的な正解ということではないのはわかっています。
しかし、私の説は5つのシンボルの並び、3つのシンボルの並び両方に当てはまり、シンボルが文化的に適切な星座としても解釈できるという事実は非常に意味のあることと思われます。
これがすべて偶然の産物である確率はいわば天文学的な数字になるでしょう
アッシリアは紀元前3400年には文字言語も生まれ、人類史にとって非常に重要な場所だ。
そのため、描かれているシンボルの意味を解釈し、メソポタミア研究全体を推し進めるのは、ここに住んでいた古代人のことを深く知るだけでなく、人間社会の複雑さと多様性を理解する上でも助けになるかもしれない。
この研究は『 Bulletin of the American Society of Overseas Research』(2024年4月26日付)に掲載された。
追記:(2024/05/19)本文を一部訂正して再送します。
References:It’s written in the stars – Trinity Assyriologist solves archaeological mystery from 700 BC – News & Events | Trinity College Dublin / written by konohazuku / edited by / parumo
イチジクの木と鋤は形状的にアルゴ座の一部とかじゃないかな
こういう古代の謎を探求するの、ロマンがあっていいなあ
色使いとデザインがかわいい!
日本で言うところの和歌の掛け言葉みたいなもんか。