生活保護は蜜の味。
一度生活保護に頼ってしまうと、容易にそこから抜け出せなくなってしまう。それが現代社会に於ける生活保護の現状であり、その意味から言って生活保護は覚せい剤や麻薬と大差ないのである。
一部の週刊誌の記事がきっかけになり、人気お笑いコンビ(次長課長)の河本準一氏が先日、母親の生活保護受給について数十分に及ぶ謝罪会見を行った。
苦渋に満ちた沈痛な表情を浮かべながら辿々しい口調で言葉を確かめるように、母親の受給に至る経緯などを説明。
浮き沈みの激しい芸人は一般サラリーマンと違って、安定した収入は保障されない厳しい世界である。お笑い芸人ともなれば下積み時代が長く河本氏自身もその辺りについて弁明しているが、芸人として成功を収めた後も尚、母親の受給が続いていた事が不正受給にあたるのではないかという点が問題にになり、国会にもこの件が取り上げられるなど、現在の生活保護の在り方に大きく影響を及ぼすのは必至であろう。
生活保護受給者が急増し、その費用が年間3兆円を超すと言う異常ぶりを招いた背景には、現代社会が抱える深い闇が存在している。
華々しい経済成長に浮かれ、札束が舞い散る時代はバブル崩壊とともに弾け散り、相次ぐ企業の倒産や社員切り捨てのリストラ時代に突入し、巷には失業者や家を失い帰る場所のないホームレスで溢れかえり、企業の雇用形態も派遣、契約社員などへと大きく変化した。
景気回復の兆しが一向に見えない中で企業の雇用率は低迷の一途を辿り、将来に希望を見出せない若者の引きこもりや自殺が急増。
働く意欲を失った者たちが生活保護に群がり、そしてまたそれに拍車をかけたのが低賃金である。弱者救済と貧困層の為のセイフティーネットである筈の生活保護がいつしか、ある者にとって安住の地へと生まれ変わってしまい、更なる労働意欲を低下させる要因となっているのも事実である。
わたしは子どもの頃に生活保護を受けていた時代がある。父親がアルコール依存で一定の職に就く事もなく、遊び人でやくざ者だった事から家庭環境は荒れ放題。
唯一の収入は間借りしていたカメラ店からの家賃3千円のみ。昭和30年代の事だからそれでも3千円あれば親子二人なんとか生活は出来たが、その貴重な金を父は全て酒に変えてしまった。わたしの胃袋はいつも空っぽで、栄養失調寸前にまで至った事もあった。
生活保護を親から申し出た訳ではなく、福祉事務所の役人が見るに見かねて声を掛けて来たのである。孤児院へ入れると言う話まであったが、それはわたし自身が断った。何故ならわたしは父と離れたくなかったからである。
然しながらその生活保護費も父の酒代になってしまい、結局わたしの空腹を満たす糧にはならなかった。心臓病になってしまったのも父のせいであると言ってよいだろう。
学校から『心臓弁膜症』との通知が来たにも関わらず、その通知を父はごみ箱に捨て去ったのである。漸く医者に掛かれたのは病気発症の2年後、小学6年の時で、鼻血が大量に出て止まらず救急車を呼んだのがきっかけであった。
わたしは入院生活がすっかり気に入ってしまい、退院を拒んだものである。一日3回食事が出来、看護婦さんたちは皆とても優しく、わたしはそこで初めて女性の愛情というものを味わったのである。
生活保護が本来の機能を取り戻すには社会全体の意識改革が必要となるであろう。『生活保護は蜜の味』となってしまわぬよう健全な社会生活が望まれる事だけは確かである。
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