ザ・談会
口を開けば「不作だ不漁だ」という話を聞く。
二三年前から顕著になった事情だが、何となく年々度を増してきている様子…地球どうした。
魚市場の食堂で午前六時にビールを飲みながら漁師さんと雑談していた時の事。
魚市場内が閑散としているのは魚が獲れないからであり、なんでそうなっているのかといえば、海の中が濁って見えないからだという。 この現象は一定の地域のみならず、九州各地で見られる前代未聞の光景だそうで。 「先が見えない」と暗く肩を落とすのだった。
そこに勢いよく入ってきた海賊みたいなイカつい出で立ちをした「ザ・漁師」と言わんばかりな白髭の男はすでに出来上がっている模様。
雑にイスを引き、デンと腰を下ろすやいなやビールの大瓶を二本注文した。
先の漁師とは顔なじみらしく「ガバッ!」と海賊が右手を上げたら「コクリ」と糸の切れた操り人形みたいに首だけを前に落とす漁師だった。
「どうしたい、暗い顔をしてさ!」
魚が獲れない旨を話せば、
「それは誰だって一緒だろうがい、何世間の不幸を一手に引き受けました、みたいなシミったれた顔をしてんだいまったく、元気出せぃ!」とビールを一気飲みした。
続けて海賊はこう言った。
来年はきっと豊漁になる。
その根拠を聞いたらこうである。
あンたは知らないだろうがね、去年は去年で「魚が消えた」って皆騒いでたんだ。 漁に出ても石油代だけかさんでまったく獲れないってな。
ところがあくる日どうだい。
過去に例が無いような、たった一日で何日分にもあたる何トンもの水揚げがあったじゃねえか。 魚はいなくなったワケじゃねえんだ。 キチンと種を残そうと、今年はひっそり岩陰に隠れているのさ。
それを聞いた漁師さんは、ようやく顔を元の位置に戻した。
そこに何気なく入ってきたのが、まるで太公望のような小柄の老人だ。
行儀よく腰掛け、無料のお茶を店員にお願いした(この店ではセルフサービスにも関わらず)。
届いたお茶をススりながらニコニコしている。
海賊とは顔なじみのようで、彼はとっさに不漁の話を仙人に持ちかけた。
ねえ、旦那。 来年はきっと豊漁になる!って俺は言ってんだよコイツらに。
老人は「ホホホ」とカン高い声で笑いながら一言こう云った。
「大丈夫。 海の水が塩辛い限り、魚はいなくならんから安心せい」