おかずの交渉術
家族で遠足に出かけた。 弁当の作り手は珍しく家内であり、 前日からおかずのリクエストを受け付け、早起きしてせわしく仕込んでいた。 重箱に詰めると楽だが、 個別に弁当を広げて食べたい子供たちなので、六人分となれば結構手間取る作業になる。
とにかく子供たちは弁当を待ちわびており、朝ごはんをしっかり食べてきたのに、 目的地に着けば、即弁当を食べることになる。
弁当を広げ、勢い余って好物であるエビマヨを真っ先に食べつくしてしまった次男。 彼は、キョウダイたちに「おねだり」をはじめた。
次男:「ねえ、そのエビマヨ食べると?」
長男:「うん」
次男:「一個だけちょうだい」
長男:「だめ。 まだカボチャの煮ものがそこに残ってるじゃないか。 それを残したらママに怒られるぞ、ちゃんとそれをおかずにしてご飯を食べてしまうんだ」
至極真っ当な事を言われ押し黙る次男。
間をおいて今度は長女のおかずを狙った。
次男:「ねえ、このエビマヨ残しとると?」
長女:「残してなくて、あとで食べる用」
次男:「一個ちょうだい」」
長女:「いいよ。 じゃあアタシにそのウズラの卵をちょうだいよ。 エビマヨと交換ということで」
ウズラも次男の好物なのを知っての返しである。 とてもじゃないが、ウズラは人にはあげられないのが次男た。
次男:「お茶注いであげるからエビマヨ一個だけちょうだい」
長女:「ウズラと交換」
次男:「・・・」
次男は最後に次女へ目を向けた。
交渉前に、口の汚れをふいてあげたり、お茶を注いであげたり、 小皿を取ってあげたりと、目一杯のサービスをした後、
次男:「エビマヨ、一個ちょうだい?」
次女:「いいよー」
次男:「やったーッ!」
小鼻を膨らませながら、次女の弁当箱に箸を突っ込み、 エビマヨを取り上げ、口に放り込んだ。
モグモグと、至福を味わう次男。
ところが次女はそれを見て、猛烈に怒りはじめた。 「次男がエビマヨを取った!」と。
「だっていいよっていったじゃないか」と反論するも聞くわけない。 こうなったら次女は手におえない。
本格的にギャーギャー言い出したところで、次男は自分の弁当箱からエビマヨをひとつつまみあげ、 次女の弁当箱にサッと戻した。
何事もなかったかのように次女は収まり、平穏な弁当タイムに戻った。
ていうか、次男はエビマヨを一個隠し持っていながら、人のをねだっていたわけである。