大人の科学マガジン 30号 鬼才 テオ・ヤンセンの世界
元日、皆が寝静まった夜中、熱燗を飲みながら撮りためておいた番組をイロイロ眺めていた。 すると思わず、口から酒を噴出しそうになるほど衝撃的な映像に出くわした。
テオ・ヤンセンのストランド・ビースト。 番組名は「風を食べる生物~生命を創る男 テオ・ヤンセンの挑戦~」。
「竹細工のジャングルジム」みたいなのが、ワシャワシャ無数の足をせわしく動かしながら、砂浜を歩いている。 「何だあこりゃ」
ほろ酔い加減は一気にさめて、食い入るように見続けた。
ビーストの作者は物理学者、コラムニスト、画家などさまざまな顔を持つテオ・ヤンセン氏。
ストランド・ビーストの動くエネルギーは「風のみ」である。 体は配水管などに使われるプラスチックチューブで作られていて、風におされて、簡単に動く。 その秘密は足の形状にあり、わずかな力を受けただけでスムーズに動き、歩き出す。
番組を見終わり眠りについたが、ワシャワシャが頭から離れない。
「自作してみたいなあ、でもまずムリだろうなあ、もしかするとミニチュアやレプリカが売られているのかもしれない。 でもあのサイズゆえ、風を受けただけで歩くんだろうから無いか。」
とか考えているうちにいつの間にか寝てしまった。
しばらくして、ビーストのことなぞ忘れかけていた頃、とある雑誌で「付録:テオ・ヤンセンのミニビースト」という記事を見つけてしまった。
学研が出している『大人の科学マガジン』という雑誌で、テオ・ヤンセン特集をするとある。 その付録が、ミニ・ビーストだ。 すぐさまアマゾンに注文し、雑誌発売日当日に到着した。
ミニ・ビーストは組み立て式である。 本物のビーストのような黄色いパーツがいくつも入っていた。 雑誌本体にある組み立て方を見てみると、作り上げるまでの所要時間は1.5時間とある。 早速作り始めた。
こうした作業を行うのは久しぶりだ。 ビーストには足が12本もある。 ひとつひとつ組み上げるのは地味で面白みの無い作業だ。 しかし、ようやく足を組み終えて、フレームに足を取り付けるところにきて、急に面白くなった。 それは、ビーストのあの独特な動きを目で確認できるようになったからである。 一対の足をフレームに組み込み、手動で回してみる。
滑らかに動き出した。 ここからは時間の立つのを忘れるほど集中して組み上げることができた。 まさに1.5時間程度でミニ・ビーストは完成した。
前方のプロペラへ、息を吹きかけただけで歩き出す。 ぶっちゃけ、本当に実物のような動きをしてくれるのかを疑っていたのだが、これはよくできている。 まさにストランド・ビーストの動きだった。
プロペラを取り外し、手で押してみると、いかにわずかな力で動くのかがよくわかる。 緩やかな斜面に置くだけで、すべるように歩き出す。 プロペラで風を受けて歩く様は、ゆっくりよろよろしていて、歩き始めたばかりの幼児を見ているようであり、プロペラをはずして早歩きさせると、まるでナウシカのオームの突進ようにも見える。
子供たちに見せると「おー!」と歓声。
歩かせてよし、ただディスプレイしておいてもよし、電池も何も要らないミニ・ビーストは、愛すべき存在である。 おもちゃは大体子供たちに取られてしまうが、これだけは、大事に書斎に飾っておくことにする。
こんなにステキなおもちゃなのに、雑誌まで付属しているというのだから大満足である(本来逆で付録がビースト)。 まだ読んではいないが、ストランドビーストについてかなり深く語られている様子。 とにかく、よくやった大人の科学、万歳!
もっといろんなところが、ビーストを発売してくれたらいいのになあ。 風を当てると、その場を周回し続けるビーストとかあれば楽しいと思う。
ストランド・ビーストの足
ストランド・ビーストには動力を伝える軸があり、円形の動きをする。 この回転運動が足に伝わると、複雑な動きに変えられていく。 そして足が地面につくと、水平な動きをする。 普通、足があると上下する動きになるが、この足では高さが変わらない。
理由は足を構成する13本のチューブの長さにある。 テオ氏は、理想的な水平の足の動きを作り出すために、さまざまな長さの組み合わせを試した。 コンピュータで全てのパターンを計算すると、およそ10万年かかることがわかった。 なので、1500パターンをランダムに選び出して、数ヶ月かけ、コンピュータで計算した。 そして、最終的に残った長さの組み合わせが、この形だった。 この割合で足を作れば、どんな素材でも、テオさんの歩くメカニズムを再現できるのだという。
メモ
- 現在、日本科学未来館でテオ・ヤンセン展が開催されている(2011年2月14日迄)。
- テオ氏は20年前からストランド・ビーストを生み出してきた。 ビースト自体よりも、その製作過程(進化の過程)こそが重要(作品)だと考えている。
- テオ氏が最初に作り出したのは、コンピューター上の生物「アニマリス・リニアメンタム」。 一本の胴体にとげを持った生物で、トゲを刺しあうことで淘汰されていき、そのうち体の曲がったものが出現した。 刺される可能性が減るように、進化したのだ。
- コンピューター上の生物「アニマリス・クアドラプス」は、歩く生物。 よりすばやいものが繁殖できるようプログラムすると、最後には走り出すようになった。
- やがてコンピュータの中から現実世界にビーストを連れ出すことにした。 そして1990年、ストランド・ビーストが生まれた。
- クランクシャフトをビーストの背骨と呼ぶ。
- テオ氏は、ビーストの体を構成する「黄色いチューブ」を「たんぱく質」だと考えている。 最初は単純に安いから使うことにした。 倉庫にはさまざまな太さのチューブが12000本以上保管されている。 近い将来、チューブの色が灰色に変更されるらしいが、テオ氏は「オランダのチーズ色をしたチューブ」が好きだという。 灰色なんて愛せないという。
- テオ氏は、他にも絵描きマシーンとかイロイロ発明している。
ビーストの種類
- アニマリス・カレンス・ヴァルガリス
- アニマリス・カレンス・ヴェントーサ
- アニマリス・ジェネティクス
- アニマリス・ペルシピエーレ・セカンダス
- アニマリス・ペルシピエーレ・プリマス
- アニマリス・ペルシピエーレ・レクタス
- アニマリス・ルゴサス・ペリストハルティス
- アニマリス・ヴェルミキュラス
- アニマリス・カレンス・ヴァポリス
- アニマリス・ユメラス
- アニマリス・シアメシス
- アニマリス・ロンガス
- アニマリス・リノセロス・トランスポルト
こんばんは
ピェンロー作る度、ページ見させていただいてます
(わたしのmixiの日記にピェンローのページのリンク貼らせてもらってるのですが、いいですか?勝手に貼ってすみません)
ビーストって、ハウルの動く城みたいに見えます
テオ・ヤンセン展、時間があったら行きたいです
youtubeのミニビーストと頭足人間のBGMいいですね♪
こんにちは、ピェンロー参考にしていただいてうれしいです。 リンクはご自由にどうぞ。
>ビーストって、ハウルの動く城みたいに見えます
なるほどたしかにそうも見えますね。 見ていて飽きないものです。 テオ・ヤンセン展、近くに住んでいたら絶対行くんですけどねー。 「長崎でも開催してくれたらいいのに」と思うことがとてもよくあります。