笑えるバーテン
「どんなに優秀なバーテンでも、いつも必ず最上のカクテルが作れるわけではないだよ。」「デキるバーテンというのは、カクテルの出来上がりばな、一瞬ペロリと味見をして、もしも自分の納得がいかないような出来だと、躊躇なく捨てて、もう一度作り直す。 これがマジメなバーテンなんだよね。」「ダメなバーテンというのは、その味見があくまでも形だけで、味なんてどうでもよく、とにかくよくできようが、できまいが、なんでもお客に出す。 これ最悪。」
なんていうウザい話を横で聞きながら、ズブロッカをあおる。 ここは、ごく普通のバー。 BARである。 バーテンはまだ若いがキビキビとした動作が見ていて心地よい。 がしかし、あまりにもカッコつけすぎているせいか、会話してもニコリともせずに、表情が変わらないために口もあまり開かず、声が小さい。 なんて言っているのかわからない。 そりゃ、その店のスタイルってのもあるんだろうけれども、少し感じわるい。 店変えるか 。
「あのーですよ。 この近辺に、バーテンさんオススメの、雰囲気イイバーなんかありますか?」なんて尋ねてみる。 「あります。」とバーテン。 「いま地図を書きますので少々お待ちください。」とのこと。 なんだ親切ではないか。
地図をお願いしてから、5分が経ち、10分が経ち、20分が過ぎた。 やけに遅いな。 一体このバーテンにとって、「近く」とはどの程度の距離のことを指すんだろう?とか、妹尾河童さん並の、俯瞰図を描いて説明しようとしているのではないか彼は?とか不安がよぎる。
しばらくして、バーテンがようやく戻ってきた。 「これです。」なんて、手書きの地図を差し出しながら、説明を始める。 そこでその地図が問題なわけである。 まず、字が超キタナイ。 君は小学生かね?といような、ヘタな字で、紙切れに、説明書きを加えているわけだ。 そして地図本体はというと、それはおよそ地図とは呼べそうもない、出発点と、到着点が一本の直線で結ばれた、というか、紙切れに線を一本引いただけというシンプルな地図なわけである。 一直線で到着できる場所ならば、そもそも地図なんて書かずに口頭で教えてもらえばわかるものだし、そんな地図で小さい声でヘタな字で、カッチョつけながら説明するものだから、わかりにくいのなんのってさ。 とにかく、店の名前と電話番号だけを聞きだして、一刻も早くこの店を出たいという衝動にかられる。
さらにその一直線だった地図は、我々の見ている前でみるみると線が加えられていき、判別しがたい文字が書き加えられていき、ゴチャゴチャになり、説明されているのかバカにされているのか、とにかくわからなくなり、どっちかっていうと、そのバーテンよりも、オイのほうが、その地図に書かれた場所を、把握できはじめたわけだ。 「だからココローソンでしょ。 その隣ってわけでしょう?」 バーテン:「そ、そうです。」
さて。 カッチョブリのバーテンに教えてもらったバーに到着。 近かった。 店内はやけに暗い。 内装やオブジェが、HRギーガ風のデザインであり、あまり好みではない。 バーテンはDr.スランプのマシリト博士風であり、どこかで平井堅にも似ているような気がしないでもない。 オイはまたしてもズブロッカをもらう。 相方は、ナントカっていうカクテルを注文する。 5時間近く飲みつづけているので、すこしまったりとしてきた。
そのマシリトが、カクテルを作る。 シェイカーに氷と共に材料を入れて、振る。 振りに振る。 手先だけで振る。 高橋名人の16連射並みのスピードでシェイカーを振りまくるのであるが、出来上がり間近の、そん時の、顔が、キモい。 完成直前にあきらかに2秒ほど白目をむいてこちらを見るのだか、あまりのキモさに、暗すぎる店内で凝視しつづけた。
もう一回見たいので、相方にカクテルを早く飲むようにせかし、また振らせる。 ホラ、やっぱり白目をむいてこっちを見る。 ハハハ。 この店は 、内装だけではなく、バーテンもギーガばりなのである。 あーおもしろかった。