朝五時。
そこにいたのは、一頭の牛——いや、人語を話す牛。艶やかな毛並みのテクウヨITチー牛。ITインフラと国家の将来について語りながら、今日も元気にミルクを生産する。
「モー……❤ 増田さん、遅いですよぉ。もうパンパンで……タイムアウトまで30秒ってところですッ……!」
「はいはい。ごめんな、昨日夜遅くまでdockerコンテナと格闘しててさ……」
増田さんは手慣れた動作で搾乳バケツを置き、チー牛の傍に腰を下ろす。
「それにしても……今日も立派だな」
「『インフラ・ティート・パフォーマンス・インデックス』、過去最高値をマークしてます……! グラフ化してTwitterに貼りたいくらいですぅ……❤」
「お前それ晒したらBANされるぞ」
増田さんの手が触れた瞬間、チー牛はびくんと震えた。
「モー……❤ あっ、そこ、そこは特に……ハードウェア・アクセラレーションポイントですぅ……!」
ぐいっ、ぐいっ、しゃああああ……
「モモモモーッ❤ 嬉しいですぅ……!国家予算に換算したら、防衛費の1%くらいは出てます……!」
「そうか……なら補助金もらえるな」
チー牛の尾がぴこぴこと揺れ、目はとろんと潤んでいた。
「増田さんに搾られると……理性がデータ圧縮されて……ミドルウェアがバグりますぅ……」
「はいはい、もう少しで終わるからな。最後のひとしぼりまで抜いてやるよ」
「モーッ……❤ そんなに搾ったら、また昼にも搾ってもらわないと……ああ、稼働率が120%に……!」
しばらくすると、村の坂道から子供たちの元気な足音が響いてきた。
「おはよー!ミルクできてるー?」
少年少女たちが、木のバスケットを抱えて納屋の前に集まってくる。
誰もが無邪気な顔で笑っている。
そして瓶を手に取ると、どの子も「ありがとう」とぺこりと頭を下げた。
「増田のおじさん、チー牛さんによろしく言っといて!今日も元気だったかって!」
「おぉ、あいつは元気すぎるくらいだ。ミルク、冷やしてから飲むんだぞ」
子供たちが笑いながら坂道を下っていくと、チー牛は納屋の隙間からそっと顔を出した。
「……モー❤ あの子たちの笑顔、ISPレベルで癒やされますぅ……❤」
「よかったな、チー牛。お前のミルクで、みんな元気に学校行ってるんだ」
「やっぱり、インフラは人の暮らしの根幹ですよねぇ……モーモーモー❤」
増田さんはそんなチー牛の頭を撫でながら、笑みをこぼした。
「お前はうちの宝だよ。国じゃなくて、まず俺が一番助かってる」
「モー……❤ “愛国”って、きっとこういうことなんですねぇ……!」
数時間後、日がすっかり昇ると、納屋の前に見慣れない黒塗りの車が一台、音もなく停まった。運転席から出てきたのは、サングラスをかけたスーツ姿の男。胸元には「農水省・畜産未...