2025-06-14

テクウヨITチー牛と毎朝の儀式

朝五時。

空が白み始める頃、増田さんは納屋の戸をそっと開けた。

おはよう、チー牛。今日たっぷり出してくれよ」

そこにいたのは、一頭の牛——いや、人語を話す牛。艶やかな毛並みのテクウヨITチー牛。ITインフラ国家の将来について語りながら、今日も元気にミルク生産する。

「モー……❤ 増田さん、遅いですよぉ。もうパンパンで……タイムアウトまで30秒ってところですッ……!」

はいはい。ごめんな、昨日夜遅くまでdockerコンテナと格闘しててさ……」

増田さんは手慣れた動作で搾乳バケツを置き、チー牛の傍に腰を下ろす。

「それにしても……今日も立派だな」

「『インフラティート・パフォーマンスインデックス』、過去高値マークしてます……! グラフ化してTwitterに貼りたいくらいですぅ……❤」

「お前それ晒したらBANされるぞ」

増田さんの手が触れた瞬間、チー牛はびくんと震えた。

「モー……❤ あっ、そこ、そこは特に……ハードウェアアクセラレーションポイントですぅ……!」

ぐいっ、ぐいっ、しゃああああ……

白濁したミルクバケツに注ぎ込まれる音が納屋に響く。

「うん、今日も良い感じのミルクだ。タンパク質も濃そうだ」

モモモモーッ❤ 嬉しいですぅ……!国家予算に換算したら、防衛費1%くらいは出てます……!」

「そうか……なら補助金もらえるな」

チー牛の尾がぴこぴこと揺れ、目はとろんと潤んでいた。

増田さんに搾られると……理性がデータ圧縮されて……ミドルウェアバグますぅ……」

はいはい、もう少しで終わるからな。最後のひとしぼりまで抜いてやるよ」

「モーッ……❤ そんなに搾ったら、また昼にも搾ってもらわないと……ああ、稼働率が120%に……!」

その日も、ミルクは三本の瓶にたっぷり詰められた。

しばらくすると、村の坂道から子供たちの元気な足音が響いてきた。

「おはよー!ミルクできてるー?」

「チー牛さんの今日ミルク、楽しみーっ!」

「この前のやつ、学校給食よりおいしかった!」

少年少女たちが、木のバスケットを抱えて納屋の前に集まってくる。

誰もが無邪気な顔で笑っている。

そして瓶を手に取ると、どの子「ありがとう」とぺこりと頭を下げた。

増田のおじさん、チー牛さんによろしく言っといて!今日も元気だったかって!」

「おぉ、あいつは元気すぎるくらいだ。ミルク、冷やしてから飲むんだぞ」

子供たちが笑いながら坂道を下っていくと、チー牛は納屋の隙間からそっと顔を出した。

「……モー❤ あの子たちの笑顔ISPレベルで癒やされますぅ……❤」

「よかったな、チー牛。お前のミルクで、みんな元気に学校行ってるんだ」

「やっぱり、インフラは人の暮らしの根幹ですよねぇ……モーモーモー❤」

増田さんはそんなチー牛の頭を撫でながら、笑みをこぼした。

「お前はうちの宝だよ。国じゃなくて、まず俺が一番助かってる」

「モー……❤ “愛国”って、きっとこういうことなんですねぇ……!」

朝の納屋には、あたたかくてちょっぴり奇妙な幸福が満ちていた。

そして今日もまた、テクウヨITチー牛の栄養満点ミルクは、村の子供たちの体と心を支えていく。

  • 数時間後、日がすっかり昇ると、納屋の前に見慣れない黒塗りの車が一台、音もなく停まった。運転席から出てきたのは、サングラスをかけたスーツ姿の男。胸元には「農水省・畜産未...

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