デスフルランとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 学問 > 化学物質辞書 > デスフルランの意味・解説 

デスフルラン

分子式C3H2F6O
その他の名称デスフルラン、Desflurane、デスフルレン、1,1,1,2-Tetrafluoro-2-(difluoromethoxy)ethane、Difluoromethyl(1,2,2,2-tetrafluoroethyl) ether、Difluoromethyl 1,2,2,2-tetrafluoroethyl ether、(Difluoromethyl)(1,2,2,2-tetrafluoroethyl) ether、2-(Difluoromethoxy)-1,1,1,2-tetrafluoroethane
体系名:1-(ジフルオロメトキシ)-1,2,2,2-テトラフルオロエタン、(1,2,2,2-テトラフルオロエチル)ジフルオロメチルエーテル、1,2,2,2-テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル、ジフルオロメチル(1,2,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-(ジフルオロメトキシ)エタン、ジフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、(ジフルオロメチル)(1,2,2,2-テトラフルオロエチル)エーテル、2-(ジフルオロメトキシ)-1,1,1,2-テトラフルオロエタン


(+)‐デスフルラン

分子式C3H2F6O
その他の名称(+)-デスフルラン、(+)-Desflurane、(S)-1,1,1,2-Tetrafluoro-2-(difluoromethoxy)ethane、(S)-デスフルラン、(S)-Desflurane
体系名:(S)-1,1,1,2-テトラフルオロ-2-(ジフルオロメトキシ)エタン


(−)‐デスフルラン

分子式C3H2F6O
その他の名称(R)-デスフルラン、(R)-Desflurane、(-)-デスフルラン、(-)-Desflurane、[(R)-1,2,2,2-Tetrafluoroethyl]difluoromethyl ether(R)-1,1,1,2-Tetrafluoro-2-(difluoromethoxy)ethane
体系名:(R)-1,1,1,2-テトラフルオロ-2-(ジフルオロメトキシ)エタン、[(R)-1,2,2,2-テトラフルオロエチル]ジフルオロメチルエーテル


デスフルラン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/15 14:19 UTC 版)

デスフルランのボトル。誤注入を避けるためにボトル先端は専用気化器のみ嵌合する(フールプルーフの一種)。
デスフルラン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
発音 des-FLOO-rane
販売名 Suprane
Drugs.com
ライセンス US Daily Med:リンク
胎児危険度分類
法的規制
薬物動態データ
代謝Not metabolized
半減期分時換気量に依存する
データベースID
CAS番号
57041-67-5 
ATCコード N01AB07 (WHO)
PubChem CID: 42113
IUPHAR/BPS 7156
DrugBank DB01189 
ChemSpider 38403 
UNII CRS35BZ94Q 
KEGG D00546  
ChEBI CHEBI:4445 
ChEMBL CHEMBL1200733 
化学的データ
化学式C3H2F6O
分子量168.04 g·mol−1
テンプレートを表示

デスフルラン(1,2,2,2-テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)は、全身麻酔の維持に使用されるハロゲン化エーテル英語版の一種である。ハロタンエンフルランイソフルランと同様に、(R)と(S)の光学異性体(エナンチオマー)のラセミ混合物である。人体への使用に関しては、セボフルランと同様、イソフルランに徐々にとって代わりつつある。発展途上国においては高価なために普及が遅れている。血液への溶解度が低いため、全身麻酔に使用される揮発性麻酔薬の中では最も効果の発現と消失が迅速である。商品名はスープレン。吸入麻酔薬としてのカラーコードは青。製品容器や専用気化器には青い色帯がある。

デスフルランのいくつかの欠点は、力価が低いこと、刺激性があること、およびコストが高いことである(ただし、新鮮ガスの流量が少ない場合、デスフルランとイソフルランのコストの差はほとんどないように思われる[1])。10%を超える濃度で投与すると、頻脈および気道過敏症を引き起こす可能性がある。この気道過敏性のため、デスフルランは、緩徐導入に使用されることはほとんどない。

気化しやすいが、常温では液体である。麻酔器には、液体のデスフルランを一定の温度に加熱する特殊な麻酔気化器英語版ユニットが取り付けられている。これにより、一定の蒸気圧で薬剤を利用できるようになり、周囲温度の変動が麻酔器の新鮮ガス流量に与える薬剤の濃度に及ぼす影響を打ち消すことができる。

デスフルランは、エンフルランおよびより少ない程度のイソフルランとともに、麻酔回路内の二酸化炭素吸収剤と反応して、麻酔薬の分解を通じて検出可能なレベルの一酸化炭素を生成することが示されている。CO2吸収剤バラライム英語版は、乾燥すると、デスフルランの分解による一酸化炭素の生成に最も影響を与えるが、吸収剤ソーダライムでも見られる。二酸化炭素吸収剤の乾燥状態は、大量の新鮮ガス流量に起因するものなど、この現象を助長する[2]。吸入麻酔薬の中では最も、地球温暖化への悪影響が強い。

薬理学

デスフルランは、GABAAおよびグリシン受容体の陽性アロステリックモジュレーター[3][4][5]およびニコチン性アセチルコリン受容体陰性アロステリックモジュレーター[6][7]として作用し、他のリガンド依存性イオンチャネル[8][9]に影響を及ぼすことが知られている。

立体化学

デスフルランは、2つのエナンチオマーのラセミ体である[10]

デスフルランの鏡像異性体




(R)-エナンチオマー



(S)-エナンチオマー

物理的特性

沸点 : 23.5℃または74.3°F (1気圧時)
密度 : 1.465g/cm³ (20℃)
分子量 : 168
蒸気圧: 88.5kPa 672mmHg (20℃)
107kPa 804mmHg (24℃)
血液:ガス分配係数: 0.42
石油:ガス分配係数 : 19
MAC : 6体積%

地球温暖化の可能性

デスフルランは温室効果ガスである。デスフルランの20年間の地球温暖化係数、GWP(20)は3714であり[11]、これは、排出される1トンのデスフルランが大気中の3714トンの二酸化炭素に相当し、セボフルランイソフルランよりもはるかに高いことを意味する。麻酔ガス間の有意義な比較のためには、地球温暖化係数に加えて、薬剤の効力と新鮮ガス流量を考慮する必要がある。セボフルランは2リットル/分(LPM)、デスフルランとイソフルランは1LPMで最小肺胞濃度(MAC)1回に必要な定常時の麻酔薬の量をGWPで重み付けすると、それぞれの麻酔薬の臨床的な量を比較することができるようになる。MAC時間当たりで見ると、デスフルランのライフサイクル全体のGHG影響は、イソフルランとセボフルラン(1最小肺胞濃度時間)よりも20倍以上高い[12]。世界で使用されている麻酔ガスは、100万台の自動車に相当する量が地球温暖化に寄与しているという説もある[13]。この推定は、麻酔科医が公害防止を軽視している理由としてよく挙げられるが、これには問題がある。この推定値は、米国の1つの施設の麻酔慣行のみから推定されたものであり、この施設は実質的にはデスフルランを使用していない。研究者は亜酸化窒素を計算に入れなかったため、1回の麻酔につき17kgのCO2という誤った平均値を報告している。ただし、一部デスフルランを使用し、亜酸化窒素を使用している施設は、麻酔1回あたり平均175~220kgCO2を報告している。したがって、吸入麻酔薬の地球温暖化への寄与は過小評価されている可能性が高く、Sulbaek-Andersonのグループは依然、吸入麻酔薬の排出防止を提唱している[14]

参考文献

  1. ^ John Varkey (2012年). “Cost Analysis of Desflurane and Sevoflurane: An Integrative Review and Implementation Project Introducing the Volatile Anesthetic Cost Calculator”. 2022年10月23日閲覧。
  2. ^ Fang (1995年). “Carbon Monoxide Production from Degradation of Desflurane”. Anesthesia and Analgesia. 2022年10月23日閲覧。
  3. ^ Hugh C. Hemmings; Philip M. Hopkins (2006). Foundations of Anesthesia: Basic Sciences for Clinical Practice. Elsevier Health Sciences. pp. 290–291. ISBN 0-323-03707-0. https://books.google.com/books?id=xaXu1wHmENoC&pg=PA290 
  4. ^ Ronald D. Miller; Lars I. Eriksson; Lee A Fleisher; Jeanine P. Wiener-Kronish; Neal H Cohen; William L. Young (20 October 2014). Miller's Anesthesia. Elsevier Health Sciences. pp. 624–. ISBN 978-0-323-28011-2. https://books.google.com/books?id=L2ckBQAAQBAJ&pg=PA624 
  5. ^ Koichi Nishikawa & Neil L. Harrison (2003). “The actions of sevoflurane and desflurane on the gamma-aminobutyric acid receptor type A: effects of TM2 mutations in the alpha and beta subunits”. Anesthesiology 99 (3): 678–684. doi:10.1097/00000542-200309000-00024. PMID 12960553. 
  6. ^ Allan P. Reed; Francine S. Yudkowitz (2 December 2013). Clinical Cases in Anesthesia. Elsevier Health Sciences. pp. 101–. ISBN 978-0-323-18654-4. https://books.google.com/books?id=9VVJAgAAQBAJ&pg=PA101 
  7. ^ Paul Barash; Bruce F. Cullen; Robert K. Stoelting; Michael Cahalan; Christine M. Stock; Rafael Ortega (7 February 2013). Clinical Anesthesia, 7e: Print + Ebook with Multimedia. Lippincott Williams & Wilkins. pp. 470–. ISBN 978-1-4698-3027-8. https://books.google.com/books?id=exygUxEuxnIC&pg=PA470 
  8. ^ Charles J. Coté; Jerrold Lerman; Brian J. Anderson (2013). A Practice of Anesthesia for Infants and Children: Expert Consult – Online and Print. Elsevier Health Sciences. pp. 499–. ISBN 978-1-4377-2792-0. https://books.google.com/books?id=MAXTnQStL0cC&pg=PA499 
  9. ^ Linda S. Aglio; Robert W. Lekowski; Richard D. Urman (8 January 2015). Essential Clinical Anesthesia Review: Keywords, Questions and Answers for the Boards. Cambridge University Press. pp. 128–. ISBN 978-1-107-68130-9. https://books.google.com/books?id=VJzWBQAAQBAJ&pg=PA128 
  10. ^ Rote Liste Service GmbH (Hrsg.): Rote Liste 2017 - Arzneimittelverzeichnis für Deutschland (einschließlich EU-Zulassungen und bestimmter Medizinprodukte). Rote Liste Service GmbH, Frankfurt/Main, 2017, Aufl. 57, ISBN 978-3-946057-10-9, S. 175.
  11. ^ Ryan, Susan M.; Nielsen, Claus J. (July 2010). “Global Warming Potential of Inhaled Anesthetics: Application to Clinical Use”. Anesthesia & Analgesia (San Francisco, CA: International Anesthesia Research Society) 111 (1): 92–98. doi:10.1213/ane.0b013e3181e058d7. http://www.anesthesia-analgesia.org/content/111/1/92.long 9 September 2011閲覧。. 
  12. ^ “Life Cycle Greenhouse Gas Emissions of Anesthetic Drugs”. Anesthesia and Analgesia 114 (5): 1086–1090. (May 2012). doi:10.1213/ANE.0b013e31824f6940. 
  13. ^ “Inhalation anaesthetics and climate change”. British Journal of Anaesthesia 105 (6): 760–766. (July 2010). doi:10.1093/bja/aeq259. PMID 20935004. http://bja.oxfordjournals.org/content/105/6/760.abstract. 
  14. ^ Sherman. “Estimate of Carbon Dioxide Equivalents of Inhaled Anesthetics in the United States”. American Society of Anesthesiologists. American Society of Anesthesiologists. June 3, 2015閲覧。

参考資料

  • Eger, Eisenkraft, Weiskopf. The Pharmacology of Inhaled Anesthetics. 2003.
  • Rang, Dale, Ritter, Moore. Pharmacology 5th Edition. 2003.
  • Martin Bellgardt: Evaluation der Sedierungstiefe und der Aufwachzeiten frisch operierter Patienten mit neurophysiologischem Monitoring im Rahmen der Studie: Desfluran versus Propofol zur Sedierung beatmeter Patienten. Bochum, Dissertation, 2005 (pdf)
  • Susanne Lohmann: Verträglichkeit, Nebenwirkungen und Hämodynamik der inhalativen Sedierung mit Desfluran im Rahmen der Studie: Desfluran versus Propofol zur Sedierung beatmeter Patienten. Bochum, Dissertation, 2006 (pdf)
  • Patel SS, Goa KL (1995). “Desflurane. A review of its pharmacodynamic and pharmacokinetic properties and its efficacy in general anaesthesia”. Drugs 50 (4): 742–67. doi:10.2165/00003495-199550040-00010. PMID 8536556. 

外部リンク

  • Desflurane”. Drug Information Portal. U.S. National Library of Medicine. 2020年7月19日閲覧。

デスフルラン(スープレン)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 03:59 UTC 版)

吸入麻酔薬」の記事における「デスフルラン(スープレン)」の解説

欧米遅れて2011年より日本でも使用可能となった吸入麻酔薬である。血液/ガス分配係数は0.42で亜酸化窒素よりも低い。沸点が23.5度。セボフルランより時間にすると数分だが覚醒速い3時間以上継続使用しても、覚醒遅くなることはない(長時間麻酔に有利)。覚醒後喉頭咽頭反射回復速いソーダライムとの反応ほとんどない気道刺激強く麻酔導入には使えない半減期14年環境負荷大きい。閉鎖麻酔流量麻酔により環境負荷減らして使用することが望ましい。

※この「デスフルラン(スープレン)」の解説は、「吸入麻酔薬」の解説の一部です。
「デスフルラン(スープレン)」を含む「吸入麻酔薬」の記事については、「吸入麻酔薬」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「デスフルラン」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  
  •  デスフルランのページへのリンク

辞書ショートカット

','','','','','','','','','','','','','','','','','',''];function getDictCodeItems(a){return dictCodeList[a]};

すべての辞書の索引

「デスフルラン」の関連用語










デスフルランのお隣キーワード
検索ランキング
';function getSideRankTable(){return sideRankTable};

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



デスフルランのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
独立行政法人科学技術振興機構独立行政法人科学技術振興機構
All Rights Reserved, Copyright © Japan Science and Technology Agency
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのデスフルラン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの吸入麻酔薬 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS