カテゴリー「メディア論」の記事

2011年9月23日 (金)

茂木健一郎氏の世論調査観

このようなものを見かけました⇒茂木健一郎さん kenichiromogi 「サンプリングは、もしやるとしたら、まじめにやった方がいい。」 - Togetter ※アットマークを外した

これは、twitterにおいて茂木健一郎氏が世論調査についてつぶやいたのをまとめたものです。その意見を見ていて、ちょっと首を傾げた所がいくつかあったので、検討してみます。

さま(1)そもそも、統計には限界がある。「5年後に生存している確率が30%」と言ったって、自分が実際に5年後に生きているかどうかは0%か100%のどちらかだ。それでも統計的真理を追うのはある程度は仕方がない。問題は、サンプリングをちゃんとやること。

統計的なデータが、個人に起こる出来事を完全に予測出来るものでは無い、というのはその通りです。起こってしまったらその人にとっては100である、みたいな言い方もしばしば見られます。しかし、その事が、なぜ「サンプリングをちゃんとやること」と繋がってくるのかよく解りません。それは、○○年生存率などの概念とはまた別の文脈だと思うのですが。

ちなみに、そういう統計的指標というのは、個人に振りかかる出来事を精密に予測するものでは無いけれども、保険等の資料にしたり、医療において治療の指針にしたり、個人の生活設計などに役立てたり、という役割がある訳です。そもそもが集団に関するデータなので、それを認識して使えば良い。たとえば、重篤な病気に罹って○○年生存率は……などという情報が与えられる事で、今後の余生をどう過ごすかの参考にする場合もあるでしょう。見通しとして用いるという事です。

さま(2)統計学を人間に当てはめるときには特に注意しなければならない。世の中には多種多様な人々がいる。その中から、きちんと「サンプリング」をしなければ、結果が偏ってしまう。「民意」が実は「文句モンスター」の平均に過ぎないということは、しばしば起こる。

きちんとサンプリングしなければ偏る、というのは一般論としてはその通りです。少し補足すると、サンプリングというのは、まず、何か興味を持って調べたい対象があるとして、その全部が調べられない場合に一部を調べるというやり方を考え、その一部を全体から採り出す、という事です。調べたい対象全体を「母集団」と言い、実際に調べる対象を「標本」と言います。その用語を踏まえると、サンプリングとは、母集団から標本を「採る(抽出)」事を意味します。

たとえば、日本人全体の何らかの考えを知りたいとします。ここでは、日本人の内どれくらいの人がカツカレーを好きか、というのを調べたいとしましょう。この場合、「母集団」は「日本人(本当を言えば、これは抽象的過ぎますが。実際には、○○歳から△△歳の有権者、のように限定される事が普通でしょう)」、そして、実際に調べる人々が「標本」です。その考え方からすると、標本は、母集団を「代表」するような選ばれ方をされなければなりません。日本人全体の傾向を調べたいのに、○○県の人々だけを対象にしたのでは、調べたい全体の実際の値から大きく外れる可能性があります。その意味では、茂木氏の言っている事はご尤もです。あくまで書かれた文章をそのまま読めば。

さま(3)花火が中止になったり、送り火がダメになったり、震災関係で心が痛むニュースが多かった。このような時に、役所や主催者に抗議の電話をかけてくるような人は、サンプル的に偏っている可能性が高い。「本当に統計的に意味があるのか」と自省するリテラシーが必要である。

ここは、積極的に意見を言う人の意見内容が、イベントについて感想を持つ人全体の意見を「代表」するとは限らない、というのが言いたいのでしょう。ただ、このような状況、つまり、あるイベントを中止するに至ったきっかけとなった「意見」について、それを「サンプル」と表現する事には少々違和感があります。普通は、ある目的をもって意図的に抽出する集団の事を「標本」と言う訳ですから。まあこれは、それくらいは良いではないか、と言われそうですが。

さま(4)新聞などの「世論調査」においても、昼間に固定電話を受ける人、という時点でサンプルとして偏っている可能性が高い。そのような偏りを排除できないから、そもそも「支持率」などという幻にあまり一喜一憂しない方がいいし、新聞社も伝家の宝刀のように振り回さない方がいい。

「昼間に固定電話を受ける人」という文がある事から、茂木氏が想定しているのは、「RDD」と呼ばれる手法だと思われます。RDDとは「Random Digit Dialing」の略で、コンピュータで確率的に番号を生成し、その生成された番号へ電話をかけアンケートを採る、という方式です。この方式は、電話をかける時に在宅している人がアンケートに答えるとか、最初に電話を受けた人が答える事になるとか、あるいは、固定電話を持っている層しか答えないので回答が偏る、などの批判があります(標本に属する人々は、数学的に処理出来るように、偏らないように採られなければなりません。この偏りの事を、「バイアス」と言います)。茂木氏もそれを考えているのでしょう。

しかしながら、このような方式も、色々と洗練・工夫され、よりバイアスがかからないようなやり方が編み出されています。たとえば朝日新聞では、朝日RDDという方式で調査が行われているようです⇒asahi.com(朝日新聞社):世論調査 - ニュース特集

これを見ると、バイアスを小さくするために様々な工夫が凝らされているのが窺えます。特に、「集計方法にも工夫」の所が重要でしょう。茂木氏は、昼間に電話が、と言っていますが、当然、プロはその事は考慮している訳です。もちろん、調査によってはよく設計されていないものもあるでしょうが、茂木氏のように、新聞の調査があたかもことごとくそういうものであるかのごとく評するのは、いささか新聞社の調査法を甘く見ていると言えるでしょう。

ちなみに、調査の方式というのは、色々なものがありますが、それぞれ一長一短で、偏りが全く無く正確な結果が出る、というのは無いと考えておくべきでしょう。コストの兼ね合いもあります。回収の割合は高いが結果は正確さを欠く、とか、逆に、回収の割合はそれほど大きくはならないが、詳細に訊く事が出来る、というものもあります。電話で訊かれる、封書が送付される、家に訪問される、自分でアンケートを読んで書く、質問者が質問を読み上げてそれに答える、などの色々なパターンを考え、それぞれのシチュエーションでどれが答えやすいかとか、正確な回答が得られるか、などを考えてみるのも良いでしょう。

結果をパッと見てそれに一喜一憂しないのが良い、というのはそうだと思います。当のマスメディアの説明にもあります(この事については後ほども触れます)⇒テレビの街頭アンケート調査、信頼できる? : COME ON ギモン:その他 : Biz活 : ジョブサーチ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

さま(5)「婚活」という言葉は好きではないが、もしやるとしたら、サンプリングに留意した方がいい。結婚紹介サービスや、合コンに来る人たちは、サンプル的に特定の傾向があるかもしれない。良い悪いではない。社会の人々の多様性を十分に反映していない可能性があるのである。

さま(6)もし出会いを求めているのならば、特定の目的のために集められた集団よりも、社会の中でランダムに出会うプロセスの方がサンプリングとして信頼できる。出会ってすぐに人間として打ち解ける技術を磨いた方が、結婚紹介サービスに登録するよりも統計的には良質である。

ここも用語の使い方が気になります。結婚紹介系のサービスに参加する人や合コンに参加する人を、「サンプル」と表現する所に違和感を覚えます。参加者に社会の多様性というものが反映されていないのはおそらくそうでしょうが、そもそもそれは、ある全体(母集団)を知りたいと思い、そこから一部を採って調べる、という目的は無いのですから、当たり前の話だろうと思います。そういうのに参加する人は、社会全体の多様さが参加者にも反映されているのだろう、と期待しているのでしょうか? 疑問です。趣味嗜好が共有出来る人とか、ある年齢層の人とか職業の人とか、そういうのを任意に選べるようなサービスを利用する、と思っていたのですが。

それから、「社会の中で」出会う人が「ランダム」なのかよく解りませんし(そもそも人間は、色々な社会的関係を築いて行動の範囲を限定し、コミュニケーションをとるものでしょう)、「統計的には良質」という言葉も不明瞭です。尤も、漠然と考えている人がこういうのを見て、なるほどそうなのか、と(漠然と)思う場合はあるでしょうけれども。

さま(7)時には、統計的な集団から外れた「outlier」こそが興味深いこともある。高校の時に出会った和仁陽、大学で出会った塩谷賢などはまさにそうだった。ぼくの親友は、みなoutlierばかりだ。ぼくが、世論調査で支持率が何パーセントとかいう数字を一向に尊敬しない理由である。

前段と後段が全然別の話なのに、後段の内容の理由を前段に帰しています。平均的な所から外れた人が魅力的だと感ずるのはそれこそ個人の考えなのでとやかく言う事ではありませんが、なぜそれが「世論調査」を「尊敬しない」となるのか不明です。それ以前に、数字を尊敬しない、というのは意味がよく解りませんが(適当に補うと、支持率が高いからといってその人を尊敬出来るとは限らない、という事でしょうか。しかし、単に統計の結果を信用しない、という説明なのかも知れない)。

支持率というのはそもそも、確かめたい全体(たとえば「有権者」)の内、どの程度の割合が支持しているか、を調べようとして出てきた結果です。そういう「目的」をもって出てきたデータなのだから、尊敬も何も無い、と思う訳であります。まして、それを、「外れ値(変なメタファーですが)」の人を好むという心理と対応させるのはどういう事でしょうか。

さま(8)サンプル数最大の選挙でさえ、あの程度のもの、統計なんて、しょせんそんなものである。ましてや、ネットにしろ、電話にしろ、向こうから能動的に何か意見を言ってくる時には、サンプルは偏っているというのが当然の前提なのだから、主催者はこれからびびらないで欲しい。

まず、「サンプル数」は誤り。正確には「サンプルサイズ」です。あるいは「標本の大きさ」。標本というのは集合を表すので。尤も、これは教科書的な本ですらよくある誤りなので、仕方無い面があります(後で紹介するサイトもほぼそうなっている)。

さて、「サンプル数最大の選挙」とはどういう意味でしょうか。「あの程度のもの」とは? 選挙というのは一般に標本調査では無く、有権者全体を対象とするものですから、「サンプル数最大」というのは不可解です。もしかすると、対象全体を調べる事をそう表現しているのでしょうか。もしそうだとすれば、コメント欄でかとうさんも言っているように、敢えて統計の言葉で表現すると、「全数調査」もしくは「悉皆(しっかい)調査」となるでしょう。それをサンプルとは言わないと思います。たとえば、有名な全数調査としては国勢調査があります。

後段は、文脈を補うならば、先ほどあったような、「声の大きい人」の意見は全体の意見を必ずしも反映しない、というのを示しているのでしょうか(その意見自体は尤もでしょう)。それをサンプルと表現する事に違和感があるのというのも先に書いた通りです。

さま(9)何よりも世界に「私」は一人しかいない。私たちは、世論調査を構成する原子などではない。個性こそが輝き。新聞が世論調査をやたらと持ち出してくるのは、自分たちの凋落を自覚してのことだろう。首相が取材に応じないといってもぶら下がっているのが記者クラブじゃ語るに落ちる。

上で書いたように、そもそも世論調査というのは、対象とする人々の平均的な意見を調べるものです。それが「目的」。ですから、その目的を認識して、実際にどう調べたかを確かめながら検討すれば良い話なのであって。それを、「個性」というものの尊さを訴えるために引き合いに出すというのは、的外れと言うしか無いと思います。※支持率という指標を前面に押し出して色々アピールするのに違和感を持つ事自体は理解出来ますが、それはまた違う話でしょう。指標は指標としての役割をきっちりと認識する、というのを理解するのが先決です。

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茂木氏の言う「サンプリングは、もしやるとしたら、まじめにやった方がいい。」という事そのものは、一般論として正しいです。河豚を食べるとしたら毒部分は取り除いた方がいい、というくらい一般的に妥当(なんか違う)。しかし、マスメディアの調査を見ると、かなり「まじめ」にやられているようです。ここでいくつか、調査方式の情報を掲載しているマスメディア各社の世論調査に関する記事を紹介しましょう。※サンプルサイズは、有効回答者数(こちらが実際得られたサンプルサイズ)では無く調査対象者数を示す

▼NHK⇒世論調査の手順 - 調査相手の抽出 | NHK放送文化研究所

標本抽出――層化二段抽出法。サンプルサイズ:3600

調査方式――面接法・配布回収法・郵送法・RDD

▼FNN⇒FNN世論調査

電話調査とあるので、おそらくRDD サンプルサイズ:1000

※「2011年9月3日(土)~4日(日)分」を参照

▼テレビ朝日(『報道ステーション』)⇒世論調査|報道ステーション|テレビ朝日

標本抽出――層化二段抽出。サンプルサイズ:1000

調査方式――不明

※2011年9月調査を参照

▼日本テレビ⇒日本テレビ世論調査

RDD サンプルサイズ:2032

※2011年9月調査を参照

▼時事通信⇒時事通信社 時事世論調査特報

標本抽出――層化二段抽出。サンプルサイズ:2000

調査方式――個別面接法

▼産経⇒【世論調査】質問と回答全文+(7/7ページ) - MSN産経ニュース

RDD サンプルサイズ:1000

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こういった具合です。これらを参照すると、さすがにマスメディア、つまり新聞やテレビの「世論調査」というものは、標本抽出の仕方くらいはしっかりしている、と見えます。ですから、茂木氏の言うような意味でサンプリングをしっかり行うべきだというのは、既に「行われている」と考えて良いでしょう。もちろん、ニュース番組やバラエティで簡易に行われているアンケートなどはまた別に考える必要があるでしょうが、今はいわゆる世論調査というものを対象に考えています。

当然、マスメディアが行うものの中にも、ひどいとしか言えないものもあります。たとえば、産経の「eアンケート」(検索するとすぐ出てきます)。これなどは、質問も全く練られておらず(中には誘導的なものすらある)、回答は、見ている人が任意に答えられるという形式で、偏りを小さくする工夫など全く見えません。WEBアンケートの悪い所を凝縮したようなやり方です。

新聞やテレビが行う「世論調査」に関しては、それなりにしっかりと行われています。ですから、サンプリングをちゃんとしよう、という事を求めるよりは、「記事中に情報を正確に記述する」のを求めるのが重要と思います。つまり、調査をしたと称する記事のことごとくに、標本抽出の方法や調査方式について概要を書くのをユーザーが求めるのが大切、という事です。たとえば、次のような情報くらいは漏らさず掲載する、といった具合に。

  • 対象とする全体(母集団)
  • 標本の抽出の仕方
  • 標本の大きさ
  • 調査の方式

上で紹介したように、さすがに世論調査ではこれらの情報は書いてあります。しかし、これもメディアによって違いがありますね。NHKのサイトは特に詳しい。朝日の場合、問題があると指摘される事がよくあるRDD方式に加えた工夫を詳らかに解説している。他の所は見つけられず。その部分についても、各社が解りやすい所に詳細に書くのが望ましいでしょう。

これ以外の調査報道に関しては、更にバラバラです。調査したという事以外に全く情報が無いものもあれば、きちんとサンプルサイズや調査方式が書かれているものもある。私は、調査をしたと言う以上、どんな記事でも、基本的にその情報を同時に示すべきである、と思う訳です。それくらいに大事で基本的な情報なのです。

そして、先ほど紹介した読売のページのように、標本調査というのは参考程度に留めておくべき(正確に言えば、実際に行われた具体的なやり方を確かめ信頼の程度を決めていく。読者や視聴者がそれを出来るためにも上に書いたような情報提供が重要)、というのをマスメディア自ら発信すべきでしょう。どういうやり方が望ましく、どういうやり方に偏りが出やすいか、などを示すべきです。バラエティなどでひどい「調査」が紹介されているのがしばしば見られるので、テレビ番組などで積極的に正確な情報を出していくというのは考えにくいのでは、と言われそうですが、それでも、そういう動きを求めていくのが重要でしょう。以前、NHKの番組で大変良い特集もありました⇒数字トリック見破り術 : ためしてガッテン - NHK

また、そういうのを求めるばかりでは無く、自分で本を探して読んで勉強してみる、というのも重要だと思います。そこで仕入れた知識を周りに教えていくのも大切。世論調査なども含んだ、社会に関する調査を行う事を、「社会調査」と呼びますが、その分野を説明したものとして、たとえばこの本をお勧めします。

社会調査法入門 (有斐閣ブックス) Book 社会調査法入門 (有斐閣ブックス)

著者:盛山 和夫
販売元:有斐閣
Amazon.co.jpで詳細を確認する

敢えて、普及書・啓蒙書の類では無く、ごりごりに専門的な本を選んでみました。非常に手堅い本ですが、本質的な所から詳しく説明されているので、むつかしい本を読み慣れている人には興味深く読めると思います。時折見かける、「無味乾燥な教科書」とは一味違うし、サンプリングやワーディング(質問を行う際の言葉の選び方)についても大変詳細に書いてあるので、この本を推したいです。もちろん、統計学一般の入門書で、標本調査の理論を勉強するのも良いでしょう。

間違っても、マスメディアによる世論調査は大体信用出来る、などと言っているのでは無いので誤解無きよう。RDDの欠点がどこでも解消された、と言っているのでもありません。これだけ色々書いても誤解する人はいるだろうから、予め釘を刺しておきます。

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2009年4月22日 (水)

よく出てくる

私は毎週、アニメ関連のWEBラジオをいくつか聴いているのですが、ほぼ確実と言っていいくらい、血液型の話をしているのを、週に一度以上耳にします。ちょっとびっくりする頻度です。

いわゆる「コミュニケーションの潤滑油」的な捉えられ方なのでしょうね。もう、「当たり前」な感じになっているようです。極めてライトで、かなり信じている、という。

インターネットラジオ・TVの番組表

↑ここから面白そうなのをチョイスして聴いているのですが、せいぜい週に10本前後かな。それでも、結構血液型性格判断の話を耳にします。少なくない人達に聞かれるものだから、その影響力は、馬鹿に出来ないでしょうね。

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2009年4月11日 (土)

暴挙

対局中の羽生名人に記者がサイン求める 厳重注意(産経新聞) - Yahoo!ニュース

想像に過ぎませんが、羽生さんは、

  • 下らない事にその場で腹を立てるより、下らない事に一瞬だけ付き合い、後は忘れ去って、集中力を乱さないようにした。小さい波は、その内消える。
  • 全く気にならなかった。この程度の事では集中力は乱されず、気軽に応じた。
  • ほとんど自動的に手が動き、思考の大部分は将棋の展開に割かれていた。
  • 実ははらわたが煮えくり返るほど怒ったが、書きつつ心を鎮めた。
  • はらわたが煮えくり返るほど怒りながら勝った。

の内のどれかだったと思われます。

 休憩時間に担当者が、問題の記者に「対局中に声をかけるような行動は慎んでほしい」と注意したところ「郷田さんの手番だと思っていた。うかつだった」と釈明したという。

一見何もしていないかのように思える時にも思考がフル回転しており超絶パフォーマンスが発揮されている、というのは、将棋をほとんど知らない(指す事は出来る程度)私ですら認識出来るのですが。いや、それ以前の話な気もしますけど。色々状況を把握する事が出来ていなかったのでしょうね。

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2009年3月21日 (土)

ねじれている可能性

メモ

最近ちょっと話題になった、淡路恵子さんがドラクエに苦言、という記事⇒73歳女優が開発遅れのドラクエに「私はいつまでも生きているわけではない」と苦言 - ロケットニュース24(β)

はてブで、この事を採り上げた別記事を知ったのですが⇒淡路恵子さん(73歳)、開発遅れのドラクエに「私はいつまでも生きているわけではない」と苦言:ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd

ここにあった画像を見て、なんとなく、あれ、と思っていました。

で、さっき、自分のブログの記事を見返してたら、これが⇒Interdisciplinary: ゲームと芸能人

そこでリンクしたのがこちら⇒女優 淡路恵子 「ドラクエ」をおおいに語る - BLUE VENUS'S BED

画像が載っていますね。そして、この画像、「ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd」に貼ってあるものと同じ、と言うか、直リン。

その画像を見ると、淡路さんの年齢は73歳となっています。エントリーが上がったのが2006年。今淡路さんは75歳だそうですから、明らかに、数年前の新潮の記事(Wikipediaによれば、2007年1/4・11新年特大号の記事との事ですが、週刊新潮のオフィシャルサイトにて確認出来ないので、詳細不明)。

しかし、「ロケットニュース24(β)」の記事を見ると、最近の話のように書かれている。まるで、先日のドラクエ9の延期発表を受けて、のように。と言うか、私は全くそうだと読みました。最近新潮で淡路さんが何か書かれたのだろうな、と。でもよく見れば、リンク先に、週刊新潮のどの号に掲載されたかは載っていないのですね。最近の新潮にも載った(つまり、新潮の記事で二度淡路さんがドラクエについて語った)可能性も考えたのですが、確認出来ませんでした。

いや、お前が思い込んだだけだろう、と言われればそれまでですが、上記リンクに対する反応を見ると、私と同じような読み方をしているだろうと思われるものが散見されます。

もし、リンク先の話が数年前の新潮の記事の事を指しているのだとすれば、

女優の淡路恵子さん(73歳)が、発売を延期した『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(以下、ドラクエIX)や、『ドラクエ』シリーズについて語っている。

この書き方は紛らわしい。ドラクエ9が発売延期したのは事実だけれども、この書き方だと、淡路さんが、発売延期の話を受けて何か仰った、と読めるので。しかし、そもそも、ドラクエ9のDSでの開発が発表されたのは、2006年末の事(参照⇒ITmedia +D Games:「ドラゴンクエストIX」ニンテンドーDSで登場 新潮の記事とほぼ同じ時期)だから、発売延期の話など関係あるはずが無い訳ですね(最初の発売延期発表は、2007年8月。参照:スクエニのリリース⇒http://www.square-enix.com/jp/company/j/news/2007/download/20070827_40.pdf (PDF) )。少なくとも、

73歳女優が開発遅れのドラクエに

これはおかしい。なぜならば、淡路さんが73歳の当時、ドラクエ9が開発遅れ、というのはあり得ないから。過去の発売延期の事も含んでいる(つまり、ドラクエは、開発遅れによる発売延期が多い、という事実を含む)、という読解は出来なくも無いけれど、それは非常に無理があります。新潮の記事を読むと、淡路さんの仰り方は、「開発が遅れる」と言うより、「続編の発売までの期間がドラクエは長い」事について、もっと短ければ楽しめるという希望を言っている、というものだからです。別に苦言では無い(語感にもよるけれど、私はあれを苦言などとは表現出来ないです)。

これらを鑑みると、元記事の記述は、間違いとは言えないかも知れないけれど、非常に紛らわしい。と言うか、なぜあのような書き方をしているのか解らない。だって、ドラクエ9の発売延期を受けての発言だと誤解しませんか、あれじゃ。記者はどういう意図で、また、どのような過程で、あの記事をあのような書き方をするに至った、のかな。

尤も、もし、

  • 淡路さんの記事が週刊新潮に最近載った
  • そこで、以前の記事とほぼ同一の内容が書かれていた

という事実があれば、書き方の問題と言うより、私の読解の問題な訳ですけれども。そうで無いとするならば、明らかに書き方がおかしい。

情報求む。※自分は「ロケットニュース24(β)」の記事をこう読んだ。実は淡路さんの、別所での同じような記事がある。等々。

普通、記事の見出しに年齢を書く場合、現在の年齢を出すものだと思います。過去の話なら、「当時」などの記述が入るはず。ここら辺も、紛らわしいのではないでしょうか。

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2009年3月18日 (水)

1割?

<早大>学生の1割「周囲に大麻所持者」半数以上が入手可能(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

タイトルに、「学生の1割」とありますね。でも、記事を見てみると、

 調査は昨年12月~今年1月、全学部生と大学院生(計約5万3000人)を対象に実施。約4700人(8.8%)から回答を得た。周囲に違法薬物の所持・使用者が「いる」と答えたのは9.9%で、

こうあります。全学部生と大学院生を対象、となっているので、全数調査ですね。それで、回答割合が約9%と(相当低いですな)。その中で約10%が、「いる」と答えたのだから、結局、約470人程度が「いる」と答えた、という事です。それをもって、「学生の1割」とするのは、どう考えてもおかしいと思います。実際に「いる」と回答したのは、全学生中1%未満なのですし。全数調査を企図したので、結果的に集まった4700人の回答をそのままランダムサンプルと看做す訳にもいかないから、推定も単純には出来ない。

可能性としては、約470人が、特定の数十人程度の事を言っている、というのも考えられますよね。クスリなんかやってる人間は噂になるだろうし、「周囲」というのが友人関係を指すとも限らないから(これは、質問文を見ないと何とも言えませんけれど)、情報があれば「いる」と答える、というのは、考えられないでは無い。

と、こういう事を鑑みれば、やはり書き方に疑問が残る訳であります。

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2009年2月19日 (木)

新聞

私、紙の新聞を読む習慣(ラテ欄だけ見るのを「新聞を読む」とは、普通は言わないと思うので)を、一度も持った事無いんですよね。これはさすがに珍しいかも。

もちろん、今はWEBを通じて記事を読むようになった訳ですが、それもたかだか7・8年(ネット始めて10年も経っていないのです)。

WEBだと、同じ出来事について書かれた複数の記事の参照がやりやすいので、良いですな。

10代の頃から、マスメディアの情報の曖昧さが気になってたんだよなあ……何でなんだろ。何となくの心当たりはあるけれども。

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このエントリーを書くきっかけ:どらねこさんのブクマ

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2009年2月14日 (土)

蜜の味?

最近、このニュースがにわかに注目を集めておるようであります⇒妬みや他人の不幸を喜ぶ感情に関する脳内のメカニズムが明らかに:プレス発表:お知らせ:独立行政法人 放射線医学総合研究所

私としては、ある実証研究の一成果を紹介する際に、安易に喩え、つまり、ことわざや慣用句などを用いて「注目」させる、という書き方は、好ましく無いと考えます。特に、プレスリリースにおいてこのような書き方をするのは、よろしく無いでしょう。先日も、赤ちゃんの顔認知の話がありましたが・・。

さて、このような研究成果が発表された際には、そこから何が言えるか、また、何が「言えないか」、というのを丁寧に見ていくのが肝要でありましょう。

本来、原典を参照して検討していく、というのが適切でしょうけれども、それは専門の神経科学者や心理学者に任せるとして、ここでは、メディアに向けたプレスリリースである、という所に注目して、記事の書かれ方も含めて見る事にしましょう。

まずタイトル。※引用にあたり、文字修飾や改行を、適宜直します。部分的には追加。誤字脱字衍字は原文ママ

妬みや他人の不幸を喜ぶ感情に関する脳内のメカニズムが明らかに
―妬みに関する脳活動が強い人ほど“他人の不幸は蜜の味”と感じやすいことが脳科学的に証明された―

ここで、「メカニズムが明らかに」、「脳科学的に証明された」と強調されています。メカニズム云々はともかく、「証明された」という言い回しは、慎重な実証科学者は使うのに躊躇いそうなものに思います。

「概要」部分。

ここでは、通常、人間は、他人の不幸に同情するものであるが、それだけでは無く、それを喜ぶような場合、つまり、「他人の不幸は蜜の味」という言い回しで表されるような現象があり、その脳機能との関係がそれまで明らかで無かった事、そして、その論理の一端が著者らの神経科学的研究によって明らかにされた事、が紹介されています。

今回の研究では、高橋らが考案した心理課題を被験者に与え、その時の脳内の活動をfMRI により解析しました。その結果、第1に妬みの感情には前部帯状回*3と呼ばれる葛藤や身体的な痛みを処理する脳内部位が関連していることがわかりました。次に、妬みの対象の人物に不幸が起こると、線条体*4と呼ばれる報酬に関連する部位が活動することがわかりました。さらに妬みに関連する前部帯状回の活動が高い人ほど、他人の不幸に対して線条体が強く反応することが明らかとなりました。

ポイント

  1. 著者らが心理測定尺度を考案。
  2. fMRIにより画像解析。
  3. →妬みの感情に前部帯状回が関連。
  4. 妬みの対象に不幸が起こる→線条体が活動。
  5. 前部帯状回の活動と線条体の活動に正の相関関係。

が見出された。

最後の段落では、本研究が各分野に今後与えるであろう影響を仄めかしています。心理測定法・教育への応用・カウンセリングへの応用 等々。

「背景」部分。

まず、妬みという感情について説明し、神経科学的にその感情については未だ明らかにされてこなかった事を紹介し、その研究の意義を説明しています。

このような私達が普通に感じる感情について脳内のどの部位が関係し、また感情と感情の関係についてはこれまでほとんどわかっていませんでした。また他人の不幸を喜んだり切望したりする感情は、しばしば非道徳的な行為や犯罪にも結びつきます。このように妬みは個人の生活の満足度や自己の評価にも関係し、この感情をマネジメントすることは個人や集団の心理的安定に重要です。本研究ではまず、自己と他者との関連性の強弱が妬みとそれに関連する脳活動にどのように影響するかを検討しました。次に妬みの対象者に不幸が起きた時の“他人の不幸は蜜の味”という感情を誘発する脳活動部位を同定し、さらに妬みに関連する脳活動との関連を調べました。

ここでは、他人の不幸に快感情を覚える事の問題点、それが反社会的行為に繋がる可能性、また、個人の心理的な安定に及ぼす影響について示唆しています。

「研究手法と結果」部分。

ポイントを箇条書き ※鉤括弧で括った部分は引用部

  1. n = 19 (健康な大学生)
  2. 被験者本人が主人公である物語を、被験者自身に読ませる。登場人物↓※この部分、主人公との違いや共通点がが解りやすいように、強調で示す
    • 主人公:「主人公は大学生で、学業成績や経済状況などにおいて平均的な物や特性を有している。」
    • 学生A :「被験者と同性で、進路や人生の目標や趣味が共通で、かつ被験者より上級であったり優れたな物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を多く所有している。」
    • 学生B:「被験者と異性で、進路や人生の目標や趣味は全く異なるが、被験者より上級であったり優れた物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を多く所有している。」
    • 学生C:「被験者と異性で、進路や人生の目標や趣味は全く異なり被験者と同様に平均的な物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を所有している。」
  3. ここで便宜的に、
    • 主人公:平凡な男
    • A:出来る男
    • B:出来る女
    • C:平凡な女
    • とする ※「学生○の~」とすると、被験者の事と混同するので紛らわしいため
  4. 実験1:被験者がシナリオを読んだ後、各登場人物に対する……引用部が不明確なので、そのまま引用する。
    • 「学生A, B およびC に対する脳活動をfMRI にて計測した。」 ※「対する脳活動」というのは、変な表現。文脈から補うと、シナリオを読んだ直後に画像診断している、という事だろう
    • 各登場人物に対する「妬み」の強さを測定。6件法による。
  5. 結果1
    • 出来る男>出来る女>平凡な女 の順に妬みの評定は高かった。
    • 出来る男・出来る女のエピソード後には前部帯状回に活動。活動の強さは、出来る男>出来る女 だった。
    • 妬み尺度の成績と前部帯状回の活動に正の相関関係が見られた。
  6. 実験2:出来る男と平凡な女に不幸が起こる、というシナリオを被験者が読み、fMRIで測定。→出来る男と平凡な女に起こった不幸についての「うれしい気持ち」を6件法で評定。
  7. 結果2
    • 出来る男の不幸に対して→中程度のうれしい気持ち・線条体活動あり
    • 平凡な女の不幸に対して→うれしい気持ちは報告されず・線条体活動無し
    • うれしさ尺度の結果と線条体活動に正の相関関係が見られた。
  8. 前部帯状回の活動と線条体の活動とに正の相関関係が見られた。

以下、ここは考察する余地がある、という部分。青字で示す。 ※あくまで、記事を見る限りでは、という観点。詳しい所は、原典に載っているはずなので

  1. n = 19 (健康な大学生) n の大きさは充分か。標本抽出はどうか。母集団は何で、どのように抽出したか。神経科学的には、この n の大きさと標本の採り方で、どこまで一般化出来るか。
  2. 被験者本人が主人公である物語を、被験者自身に読ませる。登場人物↓※この部分、主人公との違いや共通点がが解りやすいように、強調で示す
    • 主人公:「主人公は大学生で、学業成績や経済状況などにおいて平均的な物や特性を有している。」
    • 学生A :「被験者と同性で、進路や人生の目標や趣味が共通で、かつ被験者より上級であったり優れたな物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を多く所有している。」
    • 学生B:「被験者と異性で、進路や人生の目標や趣味は全く異なるが、被験者より上級であったり優れた物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を多く所有している。」
    • 学生C:「被験者と異性で、進路や人生の目標や趣味は全く異なり被験者と同様に平均的な物や特性 (学業成績、所有する自動車、異性からの人気など) を所有している。」
  3. ここで便宜的に、
    • 主人公:平凡な男
    • A:出来る男
    • B:出来る女
    • C:平凡な女
    • とする ※「学生○の~」とすると、被験者の事と混同するので紛らわしいため
  4. 実験1:被験者がシナリオを読んだ後、各登場人物に対する……引用部が不明確なので、そのまま引用する。
    • 「学生A, B およびC に対する脳活動をfMRI にて計測した。」 ※「対する脳活動」というのは、変な表現。文脈から補うと、シナリオを読んだ直後に画像診断している、という事だろう 読むのと計測との間に、どの程度の時間的な開きがあったか。言語的教示はどうだったか。
    • 各登場人物に対する「妬み」の強さを測定。6件法による。 この尺度は標準化されたものか。妥当性・信頼性は充分か。単に一つの質問を尺度として用いたのか、それとも他の質問も含んだ尺度として構成されていたか。そもそも、対象に対して妬みを感じるか、という質問をストレートに行うのが適切か。
  5. 結果1
    • 出来る男>出来る女>平凡な女 の順に妬みの評定は高かった。 この評定を、シンプルに間隔尺度のように扱って良いか。平均(なのか?)を出して比較して良いか。この差をどの程度実質的に意味あるものと見るか。検定などは行ったか。行ったとすればどの手法だったか。 ※ポイントは恐らく、平凡な女に対する評定の低さ(グラフ上では0に近い)にあるのでしょう
    • 出来る男・出来る女のエピソード後には前部帯状回に活動。活動の強さは、出来る男>出来る女 だった。 帯状回の活動をどのように測り、強さをどう評価するか、というのを詳しく知らないので、保留
    • 妬み尺度の成績と前部帯状回の活動に正の相関関係が見られた。 そもそも、横軸を「妬みの強さ」として本当に良いのか。上にも書いたが、その尺度はきちんと作成されたか。「妬み」という構成概念をきちんと測るものなのか。縦軸の(%)って、どういう意味なんでしょう。脳画像全体に占める割合? ピクセルとかボクセルとかの。縦軸をああいうスケールで取って見るくらい、1%と2%の差というのは大きいって事なのかな。分解能の高さと領域の大きさによる、か。
  6. 実験2:出来る男と平凡な女に不幸が起こる、というシナリオを被験者が読み、fMRIで測定。→出来る男と平凡な女に起こった不幸についての「うれしい気持ち」を6件法で評定。 「妬み」の所と同様。下も大体同じ。
  7. 結果2
    • 出来る男の不幸に対して→中程度のうれしい気持ち・線条体活動あり
    • 平凡な女の不幸に対して→うれしい気持ちは報告されず・線条体活動無し
    • うれしさ尺度の結果と線条体活動に正の相関関係が見られた。
  8. 前部帯状回の活動と線条体の活動とに正の相関関係が見られた。 図を見る限り、そんなには高く無さそうだけれども…。どのくらいかな。ところで、原点が0で無いのは何故?

「本研究の成果と今後の展望」部分。

について書こうと思ったけど、力尽きた…。コメント書いてねっ。

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図4の散布図ですが…。

もしかして、相関係数(ピアソン)、0.4ちょっとじゃないですか? 0.43くらいと見た。で、帰無仮説: ρ = 0 を棄却出来ないような。と言うか、いずれにしても、n = 19 だと、かなり(95%)信頼区間が広くなりますかね。

全然違うかもですけど。

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2009年2月 5日 (木)

対照的。そして「蛇足」

片や⇒ママまっすぐこっち向いて…横顔わからぬ5か月児(読売新聞) - Yahoo!ニュース

片や⇒赤ちゃん、8カ月までに横顔認識-中大・生理学研が確認:日刊工業新聞

同じトピックを紹介した記事なのに、味付けによってこれほど印象が変わるのだ、という一例。

研究は、脳画像診断によって、(8ヶ月児に対して)5ヶ月児はどうやら横顔を顔として認知はしないようだというのを生理学的に実証したもの。発達心理学的には、注視時間等を尺度として、乳児の認知を研究しますが、それの生理学的な部分が脳画像的に明らかになった、という事で、大変興味深いものです。

ここで、タイトルの比較。まず読売。

ママまっすぐこっち向いて…横顔わからぬ5か月児

いかにも情緒に訴えかけるような書き方。記事内容とも併せて、5ヶ月時では横顔は顔として認知されないから子育ての際には正面から見た方が良い、という印象を強く与えるようなものとなっています。

工業新聞。

赤ちゃん、8カ月までに横顔認識-中大・生理学研が確認

読売と全然違いますね。こちらは、5ヶ月児と8ヶ月児を比較して研究したのを踏まえて、5ヶ月から8ヶ月の間に横顔の顔認知が形成されるようだ、というのを説明しています。

次に、論文著者のコメントを紹介。読売から。

 実験を行った同大の仲渡江美研究員らは「特に月齢の低い赤ちゃんとは、目と目を合わせて接することが大事だ」と話している。

工業新聞。

親子間でコミュニケーションを取る際「月齢の低い赤ちゃんには、正面を見て話すことが大事と示唆される」(中央大の仲渡江美研究員)という。

明らかに印象が違いますね。ちょっと詳しく解らないのですが、これって、各社の取材に答えたのでしょうか。

工業新聞の方は、科学者として、とても慎重な言い方ですよね。「大事と示唆される」という表現。当然、月齢の低い赤ちゃんが横顔を顔として認知しない可能性が生理学的に確認された、という事なので、それは愛着(attachment)の面から言っても、とても重要な現象である、というのは言えます。正面から向き合う頻度が発達に何らかの影響を及ぼす、というのは、理論的にも的外れなものでは無いでしょう。ですが、それはまた別の実証の文脈なので、「大事と示唆される」という言い方に留まる。従って、工業新聞の方の仲渡氏の発言は、うん、確かにそうですね、と科学的にも納得のいくものです。

で、読売の方。これは、タイトルとの相乗効果があるかも知れません。つまり、タイトルで、いかにも赤ん坊が「訴えかける」ような書き方をしていて、その印象のまま読めば、「え、この研究だけからそんな事が言えるの?」と感じてしまうかも知れません。また、冒頭で、

 赤ちゃんを抱きながら、携帯電話などに夢中のパパやママはご用心--。

このような書き方をしていますからね。記事を面白くしようとしたのでしょうが、余計な部分とも言えるでしょう。

もちろん、実際に仲渡氏がどういう発言をしたか、というのも考えるべき所ですね。実際には慎重な物言いをしていたとしても、不本意な要約をされる、という可能性はあると思います。工業新聞の慎重な感じからすると、読売は若干不用意にも取れるので(タイトルなどでバイアスが掛かった、という可能性もあるけれど)。※プレスリリースのようなものが出た、というのも考えられますけれど、それにしては、内容が違い過ぎると思うので

それにしても、読売新聞の記事の書き方の微妙な事よ。せっかくの興味深い研究結果なので、あまり余計な味付けはしちゃいかんですよ。

参考資料

山口真美 研究室 -中央大学文学部 心理学研究室・科学技術振興機構 さきがけ

Wiley InterScience :: JOURNALS :: Human Brain Mapping

日本心理学会 第72回大会

新学術領域研究学際的研究による顔認知メカニズムの解明

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2008年11月12日 (水)

今はもう大丈夫だろう的な雰囲気

『AERA』11/19:血液型性格判断を肯定|ほたるいかの書きつけ

雑誌の意見としては中立……と言えば聞こえはいいけれど、要するに、これまでの知見を無視している、という話。

これは、はてブ経由で⇒Business Media 誠:血液型で見る、歯ブラシ1本の交換期間 (1/2)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース⇒プレスリリース | ジョンソン・エンド・ジョンソン

血液型別の歯ブラシの交換時期を調べたそうです。何じゃそりゃ。

なんか、今はもう、強い関連があると断言しなければ適当な事言っていい、と思ってるんじゃないですかね。かなりひどいんですが。後者は別に、性格云々と直接言っている訳ではありませんけれど、医療に関わる企業が、

歯ブラシの交換時期の目安と言われている1ヶ月以内に歯ブラシを変えているのはB型が一番で29.9%。

◆歯ブラシの交換時期は?
  1ヵ月以内に交換している割合が多いのは、B型、A型、AB型、O型の順。
  1週間以内に交換している割合が多いのは、AB型。

◆もてるためには、「白い歯」が重要?
  「重要」と感じているのは、O型女性(重要度71.0%)。
  「重要でない」と感じているのは、A型男性(重要度49.6%)。

こんなものをプレスリリースに載せてどうするんですか。誰も何も言わなかったのかな。少なからず、株を下げるでしょう。医療従事者はどう思うでしょうね。

サンプルは信頼出来るのか、というのは、いつもの通りです。

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2008年11月11日 (火)

詳しく調べる事を勧めます2

Interdisciplinary: 詳しく調べる事を勧めますの続きです。

(本) ゲーム脳の恐怖 - Dr ミカのメモ帳: 脳・栄養・心 (発達障害) - Yahoo!ブログにて、anomyさんや私へ返答がありました。ご自身の主張に反する意見を冷静に受け止めて頂いて、ありがたいです。

さて、森昭雄氏の論は、端的に言って、破綻しています。あらゆるレベルで矛盾や自分勝手な解釈をした部分があり、科学と呼べる代物ではありません。

コメント欄からいくつか引用します。

森昭雄教授は本の中で「ゲーム脳」の定義を説明していますが、
あなたの「ゲーム脳」の定義とは違うのでは?と感じました。

anomyさんのエントリーへの返答です。

森氏の本を読むと、ゲーム脳の明確な、定量的な定義は見出せないはずです。グラフのパターンの分類のように見えるかも知れませんが、同じようなグラフに別の解釈をしている所もあります。

「前頭前野の活動が低下」という部分、生理学的に賦活していないという意味なら、そういう研究結果はあります(ある種のゲームのプレイ時において)。しかしそれは、認知機能等の低下を即示す訳では全くありません。参照⇒テレビゲームが脳に与える影響

そして、この学生たちの80%が、自分はすぐキレる、
すぐ忘れ、忘れ物が多いなどをコメントしているとのこと。

このような、単なる自己申告では、科学的に充分とは全く言えません。仮に、忘れ物が多いというのが合っているとして、それを「脳の機能低下」に即結び付けてはなりません。

この本に対する受け止め方が、貴方と私で違うようですね。
この本を、貴方は読みましたか?

受け止め方の違い、と相対化してはいけません。森氏の論は「間違っている」のですから。

私は、森氏の本について、当ブログで詳しく検討しました。大部ですが、ご覧頂ければ幸いです⇒Interdisciplinary: 『ゲーム脳の恐怖』を読む

また、ゲーム脳論の問題点を平易にまとめたQ&Aもあります。よろしければご覧下さい⇒ゲーム脳Q&A

ゲーム脳は、まともな概念の定義も無く、科学としての方法や手続きも踏んでいないにも拘らず科学的に実証されていると謳っている説として、多数の科学者・専門家から批判を受けている説です。恐らく、批判がある事自体はご承知と思います。上に出した私のテキスト等の批判的言説も吟味して、冷静にご判断頂きたいと思います。

子ども達の健康について考えるならば、森氏の論を受け容れるというのは、良策であるとは言えないのです。

森氏の専門が「脳神経科学」であるというのは、最近森氏のプロフィールにも載っているので、あながち間違いとは言えないようです。ただ、ゲームのような文化が認知や行動にどう影響を与えるか、というのは、実験科学的な論点だけでは無く、広く文化や社会を射程にした方法を用いる必要がある訳です。その意味で言えば、全く不充分であると考えられます。もちろん、実験的な手続き自体が全く不足しているという部分は押さえておくべきで、それは、このブログの一連のエントリーで指摘しています。

ゲームによる認知や行動への影響という面を研究している科学者として、坂元章氏(お茶の水女子大学教授。社会心理学)が挙げられます。冷静で客観的にゲームの影響について研究しておられる第一人者ですので、もしゲームの影響に関心がおありでしたら、坂元氏の著作を参照するのをお勧めします。

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