ノート:心理学研究法(8)
第6章の続き。
§3 相関仮説の検証の例
先に出た「仮説A」、つまり、「現実自己と理想自己のギャップが大きい人ほど、向上心が強い」を例にとって説明。
▼質問紙の作成
青年を対象にし、現実自己と理想自己を測定する質問紙と、向上心の強さを測定するための質問紙を作成。
現実自己と理想自己――「他人のミスに対して寛大である」などの「よい」特性を表す項目20個を、4段階で評定。得点の範囲:20~80点。
- 当てはまらない:1点
- あまり当てはまらない:2点
- やや当てはまる:3点
- よく当てはまる:4点
「よい」特性を表す項目だけだと、「当てはまる」と答える人の得点が極端に高くなる可能性があるので、「悪い」特性(「気が短い」など)も適度に交ぜる。悪い特性は、点数を反転させる(「当てはまる」→1点)。そのような項目を、逆転項目と言う。
向上心――「何か失敗をしたときは、よく反省して次には失敗しないように心がける」などの項目10個。5件法(5段階)で評定。
▼被験者とデータ
被験者:ある大きな大学の新入生からランダムに選んだ100人母集団は、ある大きな大学の新入生全体
上の質問紙3つを被験者に実施する。量的調査のデータは、「被験者×変数」の形式の一覧表にまとめられる。※「×」はクロスって事です。この場合、縦にAさん、Bさん(あるいは割り振った番号)…を取って、横に現実自己・理想自己・ギャップ・向上心の点数を書いて表にする。
▼データの分析と結果の解釈
変数間の相関関係の強さを、相関係数という統計的指標によって表現出来る。
相関係数
- -1から+1までの範囲の値を取る。
- -は負の相関、+は正の相関を示す。
- 絶対値の大きさが、相関関係の強さを表現する。
今見ているのは、ギャップが大きい人ほど向上心が強い、という仮説だから、ギャップの値と向上心の値との相関係数に着目する。ここでは(本書の架空のデータ)、0.52(本書では0が省略されていて、.52となっていますが、ブログでは見にくいのでつけます)という正の値。0を省略して書くか、とかは、論文の投稿の規程とかにもよるらしい。省略しない方がいい、という意見も見ます。
ギャップの値と向上心の得点間の関係を、散布図で図示出来る。参照⇒散布図
点が、右上がりの直線の近くに集中していれば、相関係数が大きくなり、全ての点が直線上に一列に並べば、最大値の1になる。散布図が右下がりであれば、相関係数は負の値になる。ここで解るように、この文脈で言う「相関係数」は、「直線的な関係」を見るもの。それを、「ピアソンの積率相関係数」と言います。ピアソンは人の名前。だから、曲線的な綺麗な関係があっても、この相関係数はあまり高くならなかったりします。
相関係数がいくら以上であれば、仮説が支持されたと考えて良いか?
→仮説自体が、「正の相関関係がある」という大雑把なものなので、問いに明確に答えるのは困難。
→心理学の研究でしばしば用いられる基準――得られた相関係数が統計的に有意か否か。←この基準による判定の手続き:統計的検定(第9章参照)
ちょっと触れます。この場合の統計的検定は、
「母集団において相関関係があるか」となります。
で、仮説は、
「母集団において相関係数は0である」
とします。そして、母集団から標本を採ってきて(ここでは、大きさ100)相関係数を計算して、
「母集団で相関係数0だとしたら、標本でこんな値が出るのはどのくらいの確率よ?」
というのを計算します(確率論によって)。で、その確率が前もって決めていた値(たとえば5%)より小さければ、
「こんなに小さいんだから、母集団でも相関係数は0じゃ無いに違いないぜ!」
として、最初に立てた仮説、つまり「母集団の相関係数は0である」という仮説を棄てます。
ちなみに、上に書いた、「前もって決めていた確率」より小さい場合、それを「統計的に有意」である、と言います。
§4 相関係数および関連する統計的指標
▼共分散
相関係数→共分散という、2変数間の関係を表すより基本的な指標を用いて定義される。
共分散の求め方。
変数xの相加平均を求める。いわゆる平均値です。
変数yの相加平均を求める。
変数間に正の相関関係があるとは――ギャップが(全体のギャップの)平均より大きければ向上心も(全体の向上心の)平均より大きく、ギャップが平均より小さければ向上心も平均より小さい、という関係。
→各被験者について、値と平均値との差を取る:「ギャップの値 - ギャップの平均」と「向上心の値 - 向上心の平均」これを、「(平均からの)偏差」と言います。たとえば、平均60点のテストで85点取れば、偏差は+25。50点だったら、偏差は-10
→正の相関関係があるならば、「ギャップの値 - ギャップの平均」と「向上心の値 - 向上心の平均」を掛け合わせた値は正になる、つまり、「正×正」または「負×負」一方が平均より高いのにもう一方が低ければ、プラス×マイナスで負数になる訳ですね。で、それを足し合わせれば、相関関係がどうなっているか解る。
→全ての被験者について掛け合わせた値を出し、それを足し合わせる。下の公式の分子です。これを、「偏差積和」と言います。偏差 積 和 つまり、xとyの偏差を掛け、それを全部足す(総和)。だから、「偏差積和」そして、それを平均する(被験者の総数で割る)。データ数で割らないと、データ数が増えるほど値が大きくなる。
↓クリックで拡大
Sxy:(変数xとyの)共分散 ※ここでは、xはギャップ、yは向上心
正の値であるから、正の相関関係がある事が判る。
共分散を解釈しやすいように加工した値が相関係数。→その加工のために、標準偏差という別の指標が必要。
▼分散と標準偏差
同一変数の共分散を求めたもの:分散
左辺が分散。
分散は、ばらつきの指標になる。つまり、平均から離れているものが大きければ、分散の値も大きくなる。
共分散では、分子は「偏差積和」でした。分散では、「偏差平方和」と言います。何故かって? 偏差 平方 和 だから。「積」が「平方」になっているだけですね。同じ変数で平均からのずれを掛けるので、それは平方、つまり2乗になります。上の公式に出てますね。偏差積和と同じように書くと(xの平均をmとする)、
(32 - m)(32 - m) + (9 - m )(9 - m )……(30 - m)(30 - m)
となるのですね。だから、「同一変数の”共分散”」が分散になる訳なのであります。
分散の正の平方根:標準偏差
Sx:標準偏差
上に書いてあるように、最初に2乗したから、それを開いてやります。そうで無いと、単位が変わります。何故2乗するか、というと、平均からの偏差(ずれ)をそのまま足し合わせてデータ数で割ると、0になってしまうから。
向上心の標準偏差=4.00
▼相関係数
共分散を、それぞれの変数の標準偏差で割る。
r:相関係数――分子:xとyの共分散 分母:xの標準偏差とyの標準偏差の積
今の例では、
r = 16.73 / ( 8.04 * 4.00 ) = 0.52
従って、ギャップと向上心との相関係数は0.52になる。
なぜ相関係数を用いるか。
- 共分散は、値が単位に依存する。
- 例:身長と胸囲の関係を知りたい→単位をセンチメートルにするかインチにするかで、値が変わる。
- 共分散を標準偏差で割った相関係数は、単位の取り方に依存しない。
- 共分散の取り得る値の範囲は、各変数の標準偏差の大きさに依存する。
- 相関係数の取り得る範囲は、-1 ≦ r ≦ 1 と決まっているので、都合が良い。
▼統計ソフトウェア
色々あるよ。
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
毎回興味深く読ませて頂いています。
しかし、これだけ具体的に書かれている内容のどこが「抽象的」なんだろう…
投稿: lessless | 2008年12月17日 (水) 19:34
lesslessさん、今晩は。
ありがとうございます。私も勉強を兼ねて書いていますので、読んでいる方の参考になれば一石二鳥ですね。
▼▼▼引用▼▼▼
しかし、これだけ具体的に書かれている内容のどこが「抽象的」なんだろう…
▲▲引用終了▲▲
血液型関連は、あの方にとってはそう映るのかも知れませんね。
いや、「抽象的」という言葉を使いたいだけなのかも…。
投稿: TAKESAN | 2008年12月17日 (水) 23:36
I read this article completely concerning the resemblance of most recent and preceding technologies, it's remarkable article.
投稿: smart-mobilepay.com | 2022年1月 8日 (土) 17:29
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