気とニセ科学
ふと思った事。
最近の武術関連エントリーとコメントのやり取りは、「ニセ科学(疑似科学)批判者は、”気”と言うだけでそれをニセ科学(疑似科学)だと頭ごなしに決め付けて否定する」的な意見への反論の例になっている気がします。
気という概念をニセ科学や疑似科学と判断するには、それがどのような文脈で、どのような意味を持たされているか、というのを考えなくてはならない訳ですね。
たとえば、それが、自然科学の原理と全く矛盾するもので、かつ自然の様々な現象を合理的に説明し得るものだ、と言うのであれば、それには疑問を差し挟まざるを得ない。あるいは、気の概念は科学的に解明されたと言い、その説明に、たとえば物理学的で無い「波動」を用いたりすると、それは「ニセ科学」などと判断され、批判される事になります。
私自身は、気という概念は、分析的に説明する事が困難な、あるいはまだ分析されていない、ある全体的・相互連関的な現象を整合的に説明するための概念である、と捉えています。従って、現代の科学的な知見をもってすれば、それを対象化し、きちんと分析的に考究する事が可能である、と考えています。
ただ、気をつけなければならないのが、過度に単純化する事。たとえば、気の効果だとされているものを、ある種の電磁波の効果だと短絡してしまう、等。元々ホリスティックな概念であるものを下手に切り取ってしまうと、その言葉によって意味されていたものとは全くの別物を、「気」と定義してしまう虞がある訳ですね。
難しいのが、使う人によっても意味がバラバラである、という所。これが、厳密な概念の定義を重んずる科学的な術語との違いですね。言い方を換えると、誰もが意味を共有出来るように概念を定義したものが科学的な術語である、となるでしょう。だから、歴史的にどう用いられてきたか、とか、どのような論者がどういう風に使っているか、というのを詳しく吟味しつつ、科学というメスで分析していくのが肝要である、と言えるでしょう。
私は、「”気”はニセ科学(疑似科学)だ」、という立場はとりません。何故ならば、それは極めて多義的な概念であり、個別の用いられ方を検討せずに一般的に評価するのが困難なものであるから、です。
余談ですけれど、ニセ科学批判者にして気概念などにも(必ずしも否定的で無く)興味を持っている人、というのは、それほど多く無い気がします。そもそも、ニセ科学論と武術の両方に興味を持っている人が少なそう。complex_catさんや黒猫亭さんや、こちらにコメントを下さる皆さんは、、そういう(多分)数少ない方々なんじゃないかな、という気がします。
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コメント
あるものを包括的に言い表すのに使われる、定義の明確でない言葉、と云うのはありますよね(比喩みたいな、そうではないような)。これは、使う側が「そう云うものだ」と理解して、短絡が起きないように気をつける必要があるのかな、みたいに思ったりします。
じつは例えば分析心理学なんかもそう云う側面があったりするのかな、なんて思ったりして、そう云う意味合いで捉えれば単純に「ニセ科学」ではないはずで。噛み付いた本人が云うのもなんですが、少し前のfinalventさんの批判批判は、じつはそう云う意味合いなのかな、みたいにも思っています。
投稿: pooh | 2008年7月 4日 (金) 08:06
TAKESANさん。
おはようございます。
お久しぶりです
実に忙しい毎日を過ごしていて、自分のブログも書けない日々。
でもTAKESANさんの内功の話、興味深く読ませていただきました。
今日のエントリーも面白い。
以前も書きましたが、公民館で気功体操をしています。
これは単純に健康のためです。
(ラジオ体操のようなのものです)
友人は本格的に気功の勉強をしているのですが、
私にもいろいろ外気功をしてくれます。
気か、どうかわかりませんが、血の巡りは良くなるように思います。
副作用もないし結構、気に入っています。
以前、癒しの音楽と言うことでアルファ波が出るとか言うCDを買ってきて、聞いていたら、なんとその間中、
親子喧嘩をしていました、、、
CDが終わったら喧嘩も終わり、あとから一人で苦笑。
アルファ波ねぇえええ。
癒しねぇえええええ。
尤も親子喧嘩が私のストレス解消だったのでしょうか???
やれやれ。
で、気功もリラクゼーション効果ってあるのでしょうか?
なんだか、とりとめの無い話でごめん。
また、落ちついたら書きます(ほんなら書くな〜〜〜なんて言わないでね)
じゃ、またね!!!
投稿: せとともこ | 2008年7月 4日 (金) 10:12
「気」の難しいところは、民間医療などの伝統的医療の難しい点と共通していますね。
あれこれ書いてたら長くなって「気]から離れちゃったので、エントリを起こしてトラックバックさせていただきました〜。
投稿: 亀@渋研X | 2008年7月 4日 (金) 11:41
poohさん、今日は。
ユング的な説明体系も、どういう風に用いられるか、というのを見る必要があるでしょうね。
ちょうど昨日、亀@渋研Xさんの所に、『鏡の法則』の話を書いたのですが、あれなどは、集合無意識的な概念が科学的に認められた、というのを言ってしまっているので、アウトですね。
精神分析などにも同じような事が言えますね。あれを即科学的であると言ってしまってはいけない訳で、実証途上の未科学、と見るのが妥当でしょうか。尤も、精神分析にしてもユングにしても、現代心理学の観点からは、心理学では無いとは言えるので、その見方で「疑似科学」だと断ずる論者もいるようです。
上にも書いたように、私自身は、「未実証の仮説体系」、即ち未科学である、と考えています。たとえば、サブリミナル研究によって精神分析を実証研究しようと試みもあるようですしね。厳密に反証可能性が無い体系と言えるのか、というのも意見が分かれる所で、なかなか難しいですが(他にも、偽記憶の話を精神分析への反証だと考える事は出来るのか、なんていう論点も)。
finalventさんの視点、確かにそのようなものであったかも知れません。だからこそ、どういう批判者を想定しているのか伺ったのですが、残念ながら答えては頂けなかったみたいで…。
------
せとともこさん、今日は。
私は、外から気を当てて体調を良くしたり治療したり、というのは、概ね、心理効果によって生理的な活動をポジティブな方向に持っていく、という現象であると考えています。これを、人間から出る電磁波で説明しようとする論者もいるようですが、これは疑わしい論だと思います。それ自体に治療効果があるような電磁波等を人間が発する、というのは、ちょっと考えにくいですね。ケータイでポップコーン、に通ずるものがあるように感じます。
▼▼▼引用▼▼▼
聞いていたら、なんとその間中、
親子喧嘩をしていました、、、
▲▲引用終了▲▲
すいません、軽くウケました。
いや、真面目な話、実に示唆的ですよ。
気功によるリラクゼーション効果についての実証研究は、私はあまり追っていないので詳しく無いのですが、私は、ある種の「雰囲気」を作ってリラックスする空間にしていく、という効果によるものではないかと考えます。これも、何を主張しているか、というのがポイントになりますね。間違っても、癌を根治させるとかは言ってはいけない。
------
亀@渋研Xさん、今日は。
難しいですね。
なんだかんだ言って、気という概念を、現代科学に対立するもののように説明したがる、あるいはそれを超えるもののように言いたがる、という人はいるのですよね。で、本文にも書いたように、私は、むしろ工学的と言うか技術的と言うか、そういう概念に近いと思っています。だから、余計な説明原理をあまり出さない「気」の体系に関しては、それは充分科学的研究対象になる、と考えています。
ここら辺、いわゆる大槻教授的な疑似科学批判者とは異なっている所なのかも知れません。なんと言っても、気とかに格別の興味を持ってきた人間なので(笑) 態度としては、健全な懐疑主義を主張する皆さんに近いものを元々持っていたのかな、なんて。
------
何度か書いていますが、私は、ニセ科学の判断は、「主張と実態の乖離」を評価する、というのを含んでいると考えています。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 4日 (金) 12:20
参考資料
▼▼▼引用▼▼▼
B氏「話が飛躍しすぎてますよね。まず理論的なことをじっくり説明してから話せば
いいんでしょうが、それをすると何時間もかかるし、私もそこまでは時間がな
いのです。
なので、結論から話します。理論的には根拠のある話なんで、後で、参考にな
る心理学の本など教えます。
結論から言います。
あなたが大事なお子さんを人から責められて悩んでいるということは、あなた
が、誰か感謝すべき人に感謝せずに、その人を責めて生きているからなんです。」
A子「子どもがいじめられるということと、私の個人的なことが、なぜ関係があるん
ですか?何か宗教じみた話に聞こえます。」
(注:このあたりの理論的・心理学的な背景は、私のブログの他の記事をご参照下さい。
このレポートの最後のページに情報を載せておきます。)
B氏「そう思われるのも、無理もないです。われわれは学校教育で、目に見えるものを
対象にした物質科学ばかりを教えられて育ちましたからね。
今、私が話していることは、心理学ではずいぶん前に発見された法則なんです。
昔から宗教で言われてきたことと同じようなものだと思ってもらったらわかりや
すいと思います。私自身は何の宗教にも入っていませんけどね。」
▲▲引用終了▲▲(PDFファイル)http://www.coaching-m.co.jp/reportaaa.pdf
※そのままコピーして、改行はそのままにしてあります。
ポイントは、心理学的な法則であると言っている事、基本的にこのエピソードが実話に基づいている事、参考文献が心理学の本とはいえない事。これらから、大変問題のある記述であると言えます。明らかに、心理学を誤解させるものでもあります。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 4日 (金) 12:27
読みました。
カウンセリングの成功例であるとは思いますが、偶然の要素が多すぎると思います(ところで幸せ成功力って何ですかね)。
A子さんにとってはハッピーエンドだったとは思いますが、この「法則」が正しいと信じ込んでしまうと、今後何か別の問題が起きた場合に全てを背負い込んじゃいそうで怖いです(本当は、最後のいじめの部分は創作じゃないかと疑っています。カウンセリングと全然関係ないんで)。
いじめは心理学で解決できるとか言いたいのかなあ・・・
投稿: Noe | 2008年7月 4日 (金) 12:56
『鏡の法則』に関しては、A-WINGさんが言及しておられます⇒http://www.infosakyu.ne.jp/~ayame/search.htm?cx=partner-pub-7971539917576809%3Ahg034a-7jw1&cof=FORID%3A10&ie=EUC-JP&q=%B6%C0%A4%CE%CB%A1%C2%A7#1440
やはり問題なのは、「法則」と言って普遍的な原理としている事、それが心理学で確認されたと言っている事。そして、それが事実に基づいている、つまりフィクションでは無いと言っている所、ですね。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 4日 (金) 14:21
あ、挨拶忘れていました。
Noeさん、今日は。
A-WINGさんのブログのこのエントリーが、『鏡の法則』を支持する方とのやり取りもあって、興味深いです⇒http://www.infosakyu.ne.jp/~ayame/logwing.cgi?article=weblog_1152234056
密かに私もコメントしています。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 4日 (金) 14:28
TAKESANさん,気功と気については,多くの人にちゃんとそれらしいものを感じられる方法を提示して,エントリで扱う予定です。勿論,ダークサイドに落ちるわけにはいかないので,同時に偽科学のコアテクノロジー?波動を支える影のボスキャラの披瀝とともに問題提起をしていきたいと思います。
ずっと,文章をいじっているのですが,なかなか面倒な巨大組織(新興宗教じゃないです。医療関係団体?)をまな板に載せるものですから。
投稿: complex_cat | 2008年7月 4日 (金) 21:17
complex_catさん、今晩は。
気の概念と科学の両方について詳しい方の論考は、滅多に読む機会が無いので、それは実に楽しみですね。
ボスキャラが気になりますが、後にとっておきましょう。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 4日 (金) 21:39
発気の導入部まで天の邪鬼なエントリを書き起こしましたが,ボスキャラまではまだたどり着きませんでした。続編でそこまで行けるかな。
投稿: complex_cat | 2008年7月 7日 (月) 23:51
complex_catさん、今晩は。
ちょうど今、言及エントリーを書き上げた所です。
実証科学的にはこういうアプローチが妥当かな、というのを意識して書いてみました。
気に関しては、批判的に言及される場合も、それほど詳細な分析がなされないように感じます。なので、complex_catさんがお書きのエントリーのようなものは、大変意義深い論考であると思っています。
投稿: TAKESAN | 2008年7月 8日 (火) 02:25
黒影さんの新しいエントリーが、ここと何となく関連しそうなので、上げておきます。
http://blackshadow.seesaa.net/article/107049189.html
機能としては、「勘」と「気」には似た所がある訳ですね(同じでは全く無いですが)。
私のこれ関連のエントリーは、ニセ科学批判者はこういう考え方もするんだよ、という例として見てもらいたいところです。
投稿: TAKESAN | 2008年9月24日 (水) 11:36